軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 勇者レーディ、現る(勇者side)

当代の勇者、名をレーディという。

先代勇者の引退によって急きょ抜擢された。

先代勇者アランツィルは誉れ高い豪の者であったが、巡り合わせがいいのか悪いのか、魔族側の先代四天王も過去最強というべき精鋭揃いだった。

最強と最強がぶつかり合い、後世の語り草となる名勝負の末に双方深手を負い、引退を余儀なくされた。

あとを託されたのがレーディである。

弱冠二十歳という若年ながら、先代に劣らぬ偉才を持ち、歴代最強を更新するであろうという呼び声も高い。

既に敵幹部である四天王と二度交戦し、二度とも撃退している。

人間族の悲願、魔王討伐を今代でこそ果たせると期待が高まっていた。

「やりましたね! 勇者様!」

これは四天王『華風』ゼビアンテスを撃退した直後のことである。

パーティは勝利の興奮に沸き返っていた。

「水の四天王に続いて風の四天王も! めっちゃいいペースですよ!」

もっとも浮かれているのは勇者パーティの一人、サトメという名の少女である。

勇者レーディよりさらに年下で若輩者だが、それでも天性のガード(守)適性をもってパーティの壁役を務める。

また年相応の天真爛漫な女の子で、パーティのムードを明るくする役割も持っている。

「運がよかったわ」

勇者レーディが言った。

当代随一の強者でありながら、同時に美貌も備える彼女。

勇者の力がなくとも微笑むだけで結婚の申し出が殺到するだろう。

「この戦いの直前にセッシャさんを仲間にできたから。セッシャさんの槍は、風魔法に対して圧倒的なアドバンテージがある」

「恐縮でござる」

パーティ三人目のメンバーが頭を下げた。

レーディ、サトメの女性陣より一世代ほど上、少々やつれた印象のある痩身の男だった。

「加入して早々お役に立てて拙者も嬉しく思います。本当にあの風使い、よいタイミングで攻め込んできてくれました……!」

「あっちにとっては最悪でしょうけどねー?」

セッシャは、一番新しく勇者パーティに加入した。

つい最近のことだ。

スラッシュ(斬)とスティング(突)のオーラ特性に秀でたゼネラリストタイプ。

一性質に突出していない、二性質以上に適性がある冒険者は、それら複雑な組み合わせに適応した武器を選択するのが強くなる近道と言われていた。

スラッシュ(斬)とスティング(突)を組み合わせて活用する。

それにもっとも適した武器が槍。

セッシャは、その道に成熟してA級冒険者の称号を得ている。

勇者パーティに迎えられるに充分な名声と実力だった。

「槍の、弓矢よりも重厚な突出は、風の中を突き抜けます。槍使いは風使いにとって天敵なのです」

「その前に戦った水使いには、勇者様の剣が効きましたもんねー。今のところ相性が上手くかみ合わさってますよね!」

「サトメ殿の盾も大したものでした。若いのに、もう熟練ディフェンダーの貫禄を帯びつつある」

「いやいや、ワタシなんてまだまだぁ~」

勝利の余韻がまだ濃いのか、勇者パーティのテンションは高い。

「でもだからこそ、私たちは運がいいだけ」

その中で勇者は沈着冷静だった。

「前回の水使い、今回の風使いも、それに対応できる武器があった。頼りになる盾役も。でもこれから先も同じとは限らない」

魔族の使う魔法と、人間族の使う武器。

双方には奇妙な相性関係があった。その関係次第で有利にもなれば不利にもなる。

互いの関係性を網羅し、有効活用できる者が人間族と魔族との戦いに勝利してきた。

「特に今、土使いに来られたら大変だわ。私たちのパーティには土属性の強力な防御魔法を破れるメンバーがいない」

「スラッシュ(斬)やスティング(突)では頑強な岩石に弾かれてしまいますからな。勇者パーティ、いまだ不完全ですか……」

現在、勇者パーティは三人。

ギルドが定めたパーティ定員は四人である。

つまりあと一人分の空きがある。

「勇者殿、気になっていたのですが……?」

「何です?」

「何故パーティを定員いっぱいまで入れないのです? 勇者パーティに参加できるとなれば、世界中のA級冒険者が我先にと押し寄せてくるでしょうに」

しかし勇者レーディは、無闇に仲間を増やすようなことをしなかった。

セッシャが加入したのすらつい最近で、それまではサトメとずっと二人旅だった。

勇者の旅としては似つかわしくない寂しさだった。

「先代からの教えです」

「先代? 歴代最強と呼ばれた豪勇者アランツィル様ですか?」

「そうです。私が勇者として旅立つ際、先代は様々なアドバイスをくださいました。激しい戦いで再起不能の怪我をしたというのに。新しい世代のために」

その先代からのアドバイスの一つ。

仲間は能力よりも信頼を重んじよ。

「戦場で背中を合せる仲間には、絶対の信頼がなければならない。どんなに能力があっても、ここぞという時に命を預けられないなら何の頼りにもならないって」

「勇者殿はそれを守ってらっしゃるんですな」

「先代も、心から信じあえる仲間でパーティを固めたから、魔族の四天王と戦い抜くことができたそうです。私も同じようなパーティを作りたい」

勇者レーディにとって、盾使いサトメは幼い頃からの古馴染。

槍使いセッシャは実力もさることながら実直な性格で、けして裏切らないことで評判の人物だった。

それが勇者パーティに迎えられた最大の理由だった。

「四人目のメンバーはたしかに急務ですが、セッシャさんみたいな人がそう簡単にまた現れるとは思えません。どうかもう少し待ってください」

「勇者殿……、何ともったいないお言葉……!」

セッシャは元々感じ入りやすい性格なのか、肩を震わせ涙ぐむ。

「拙者、勇者殿の信頼に応えるべく粉骨砕身いたす所存。我が身命、勇者様の戦いに捧げましょうぞ」

「セッシャさんは言うことがいちいち大仰なんだからー」

サトメに冷やかされるのだった。

「…………」

勇者レーディは暖かく微笑んでいたが、やがて表情を変えて……。

「……もう一つ」

「?」

「先代からいただいたアドバイスで、特に重要なことがあります」

神妙な表情でレーディは告げた。

「四天王補佐に気をつけろと」

あまりにも深刻そうな声色なので、聞く方も息苦しくなるほど。

「四天王……、補佐?」

「四天王そのものではなくて、ですか?」

レーディは頷いた。

「いい機会なので話させてください。先代アランツィル様と死闘を演じた先代四天王も、過去並ぶ者なき剛勇だったそうです」

しかし先代勇者が特に不気味に感じたのは、正面切って戦う最前線の向こう側に隠れている者だったという。

「四天王補佐は、魔王軍を指揮する四天王を様々な形でフォローする役職だと言います。ですが先代に付き従った補佐は、ただの補佐を超えるほどの働きぶりだったと……」

無論補佐役は、陰で支えるもので表には出てこない。

観察する側にも一定の眼力がなければ見抜くこともできなかったろう。

先代勇者は、宿敵先代四天王との激戦の最中で、その存在を見出した。

「先代様が立てた綿密な作戦が見抜かれ、破られた時、常にその存在を感じたそうです。縦横無尽に策を張って敵の力を削ぎ、逆に味方の能力を最大限に引き出す……」

そういうことをする者が、敵の影に潜んでいるのだと。

「裏方に徹するので姿を現すことはないですが、それでも直に見たことは何度かあるって。傷ついた四天王を救出するために戦場に出てきて、主を背負って去っていったと……」

知恵が回るだけでなく忠義心と実行力もある、敵ながらあっぱれだと先代勇者は評価した。

「先代四天王は無力化されました。でも、代替わりした新四天王に同じ補佐役がついているなら、お前たちの戦いは苦しいものになるだろうって……!」

勇者パーティに水を打ったような沈黙が広がる。

勝利の余韻など消し飛んでしまった。

「……勇者殿の言いたいことはわかりました」

セッシャも神妙に応える。

「一度や二度の勝利で浮かれるなと言うことですな? 拙者、肝に銘じましたぞ!」

「大丈夫です! 敵がどんなに強力でも、勇者様にはワタシたちがついてますから!」

サトメの根拠のない自信に、勇者レーディも励まされた。

勝利に驕り油断することがない。

それ一つとっても当代の勇者パーティは強力というべきだった。

「私たちにはまだ色々なものが足りない。それを補いながら進まなければならない」

これまで多くの勇者が挑み、一人として制覇することのできなかった魔王討伐の旅。

それが平坦で容易なはずがない。

それでも必ずや魔王を倒して見せる。

決意を新たにするレーディだった。

そのためにまずすべきは……。

「四人目の仲間、一刻も早く見つけないと」

無闇に増やさぬとは言っても、やはり新メンバーを迎えパーティを完璧にすることは急務だった。

どこかにいるだろう新たな仲間へ向けるかのように、勇者レーディは遠い視線を投げかけた。