軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モブエスケープからのモブリベンジ

シドがいなくなった。

クレアは弟を探して夜の無法都市を疾走する。

「シドのバカッ!! 大人しく待ってなさいって言ったのに!」

シドが一人で拠点を出たと聞いたとき、クレアは頭の中が真っ白になった。

今ごろ奴隷にされて売られているだろうさ、と嘲る魔剣士を殴り倒し、クレアは拠点を飛び出した。

夜の無法都市は危険だ。無法都市は、ただのスラムではない。魔剣士学園の生徒なんてここの住人には獲物でしかないのだ。

「黒髪黒目で15歳くらいの男の子を見ませんでしたか!?」

クレアは道行く人に訊ねながら必死に探す。クレアに襲いかかってくる住人は返り討ちにする。

目撃情報を頼りに探し回り、クレアはついに黒髪を見つけた。

しかし。

彼は、路地裏でグールに咀嚼されている最中だった。

「や、止めてッ!!」

クレアは一瞬の間に剣を抜き、グールを細切れに切り刻んだ。

そして、グチャグチャになった黒髪の男性の死体の前に跪く。

「ぃや……そんな……」

血に濡れた黒髪。シドの髪もちょうどこれくらいの長さだった。

身体はグチャグチャで判別もできない。

だが、有力な目撃情報はこれしかないのだ。

「ごめんねシド……私が無法都市なんかに連れてきたせいで……」

まだシドだと決まった訳ではない。

しかし、クレアは血濡れの黒髪を抱きしめて涙する。

途方もない後悔と謝罪の心に押しつぶされそうだった。

そんな彼女の後ろに、一人の影が近付いてきた。

「……何の用?」

黒髪を抱きしめたまま、クレアは問う。

「黒髪黒目の少年を探しているのはあなた……?」

「……え?」

藁にもすがる思いで振り返ると、そこに赤い髪の美しい女剣士がいた。

「あなたは……?」

「私はミリア。ヴァンパイアハンターだ。黒髪黒目の少年に二人ほど心当たりがある」

「ッ!? 教えてッ!」

「一人目は少し前に見た。暴走したグールの前で「ふふふ……」と微笑んでいた」

クレアはその姿を想像し、すぐ否定する。

「違う。私の弟はそんな気持ち悪い笑い方しないから」

「そう。二人目は魔剣士の少年だった。『血の女王』の配下に襲われて連れ去られた……」

「ッ! どんな顔でした!?」

「地味で目立たない感じだった……」

間違いない、シドだ。

「あぁ、そんな……シド……」

「ごめんなさい、助けようとしたけど間に合わなくて……」

「……で、でも連れ去られたということはまだ生きているのよね!?」

「おそらく……彼は……」

ミリアは言うべきか迷っているようだった。

「何か知っているの!?」

「彼は……贄にされる。もう直ぐ『赤き月』が始まる。それまでに助け出さなければ……」

「教えてッ! シドはどこにいるの!? どうすれば助けられるの!?」

ミリア少し考えるように視線を彷徨わせ、細切れになったグールの死体を見た。

「これはあなたがやったの?」

「え? ええ。私がやったわ」

「あなたが協力してくれるなら……もしかしたら……。私の目的は『血の女王』エリザベート。そしてあなたの目的は弟の救出。我々は協力できるかもしれない」

そして、ミリアはクレアに手を差し出した。

「協力してくれるなら、全てを話す」

クレアは迷わずその手を取った。

「協力する。シドが助かるなら、私は何だってする」

「ついてきて」

ミリアは路地の奥に進んでいく。

クレアは立ち上がり、血濡れの黒髪をポイッと捨てた。よく見たらシドの髪とは全然違う。

「待っててシド。お姉ちゃんが必ず助けにいくから……」

そして、クレアも路地の闇の奥へ消えた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

僕が拠点に戻ると姉さんはいなかった。

どうやら入れ違いで散歩に出たみたいだ。

僕は与えられた部屋の窓辺に腰かけて、無法都市の通りを見下ろした。スラム特有の臭いが鼻を刺激する。

都市に入ってこの臭いをかいだ瞬間、僕は「これ鼻毛が伸びるやつだ」と確信した。

これは実際に経験のある人しか分からないことだが、空気の汚いところで生活すると人は鼻毛が早く伸びるのだ。

そして鼻毛が早く伸びるということはつまり……。

ほじほじ。

「あ、でかいのとれた」

鼻糞も大量にとれるのだ。

僕は通りを見下ろしてターゲットを確認する。

当然のことだが、何の意味もなく鼻くそをほじっていたわけじゃない。僕には大いなる志があるのだ。

ターゲットは通りを歩くチンピラ。僕はさっき彼にカツアゲされかけたのだ。モブエスケープで逃亡したが、モブの執念を甘く見てはいけない。

いくぜ、モブリベンジ。

僕はデコピンスタイルで構えて、ターゲットを狙う。

「ふふふ……くらえ鼻糞ボンバー」

そして鼻糞を発射、それは狙い違わずターゲットの顔面に付着した。

モブリベンジ達成だ。

夜空には真っ赤な月が浮かんでいる。早く遊びに行きたいんだけど、姉さんが帰ってきて寝るまでは出歩けないし。

「姉さん遅いな……」