軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝ったな!(確信)

試合開始と同時に、アンネローゼはジミナの間合いに飛び込んだ。

彼女はジミナの実力を既に見切っていた。そう、彼の強さの秘密は圧倒的な速さだ。

元ベガルタ七武剣のアンネローゼですら追いきれないほどの凄まじい速さで相手をねじ伏せる。それがジミナの強さであり戦い方なのだ。

しかし、その速さに反してジミナの剣の技量は低いとアンネローゼは見抜いていた。

これまで、ジミナはほとんど剣を交えずに勝利してきた。

それはなぜか?

相手がジミナの速度についていけなかった。それもあるだろう。

しかし、ジミナの姿勢は素人に近いのだ。ほかならぬジミナ自身が剣を交えることを嫌ったとしたら?

拙い剣が露見することを恐れたのだとしたら?

つまりジミナは拙い技量を隠すため、剣を交えずに勝利したのだ。

ならば速さに惑わされなければ勝てる。それがアンネローゼの結論だ。

一つ憂いがあるとすれば……ジミナが外した重りだ。

枷を外したジミナがアンネローゼの反応を超える速度を出せるのだとしたら……彼女ですら敗北し得る。

その、ほんの僅かな憂いを、アンネローゼは試合開始と同時に潰しにいった。

速度で勝る相手ならば、その脚を止めればいい。

それで、負けは無くなる。

「ハアアアァァァァァァッ!!」

一瞬で間合いに入ったアンネローゼは、気合と共にジミナに斬りかかった。

完全に不意を突いた一撃。

しかし、アンネローゼの剣はジミナに防がれた。

やはり、速い。

普通では防御すら間に合わないタイミングの剣撃を、ジミナは防御してみせたのだ。

しかし、彼の脚は剣を防いだせいで完全に止まっている。

これこそが、アンネローゼの狙い。

「シィィィッ!!」

脚を止めたジミナを、再度アンネローゼの剣が襲う。

ジミナはまたも防いでみせるが、アンネローゼの怒涛の連撃に速度を活かす暇がない。

さらに3度、4度、5度、アンネローゼの剣がジミナの防御を叩き、ついにジミナの体勢が乱れた。

勝った!

アンネローゼは確信し、ジミナの胸を突いた。

確かに突いた……はずだった。

「え……?」

彼女の剣に、手応えはない。

それどころか、ジミナの姿が視界から忽然と消えていた。

「……残像だ」

背後から、彼の声が聞こえる。

アンネローゼの肩が震えた。

落ち着け。

彼女は、あえてゆっくりと振り返る。

動揺している。動揺を悟られるな。自分にそう言い聞かせながら。

「思ったより速いのね……」

その声は普段通りだった。少なくとも彼女はそう思った。

そして、ジミナを視界に収め考える。

どうすればいい?

彼の速度はアンネローゼの反応を遥かに超えている。

この速度差を覆すにはどうすればいい?

考えろ。

考えろ……!

考えろ…………!!

「えッ……!?」

気づけば、ジミナの姿が消えていた。

アンネローゼは考える前に動いた。

その時、僅かな空気の揺れに反応できたのは、技術でも経験でもなく、ただの幸運だった。

ガキィッッ!!

と、凄まじい衝撃と共に、アンネローゼは吹き飛ばされた。

暗転しそうになる意識と、転げ落ちそうになる剣を、必死に繋ぎ止め彼女は立ち上がった。

「くぅッ……!」

苦痛の喘ぎが漏れる。

ジミナは視線の先で、剣をだらりと下げてただ立っていた。

構えもせず、追撃もない。

アンネローゼはそれを、傲慢だとは思わなかった。

彼にはそれだけの実力がある。

「認めましょう。アナタは強い」

アンネローゼは乱れた息を整えて、覚悟を決める。

ジミナはただ純粋に、圧倒的なまでに、速い。

アンネローゼはそれを理不尽だとは思わなかった。それも、一つの強さだ。

そして、彼女は自分が勝てないとも思わなかった。

勝算は低い。しかし、まだゼロではない。

相手がただ速いのであれば……彼女はそれに合わせればいい。

カウンター。

ジミナが攻撃する瞬間こそが、彼女に残された最後の勝機だ。

問題は、果たしてジミナの速度に反応できるのかだ。

先の一撃を防いだのは幸運以外の何物でもない。

もう一度、同じことができるとは思えない。

ならば幸運ではなく実力でもぎ取ろう。

反応できないのであれば経験で。

経験で及ばないなら勘で。

手段は何だっていい。

ただタイミングさえ合えば……後は今まで積み上げてきた技術で斬り伏せるのみ。

アンネローゼは静かに、しかし極限の集中で、時が来るのを待った。

そして。

前触れは、一切なかった。

ジミナの姿が忽然と消えた、その瞬間……いや、その直前にアンネローゼは剣を振った。

そこには、まだ誰もいない。

しかし、次の瞬間。

勝った!

ジミナが現れた。

アンネローゼは勝利を確信した。

彼女の剣は、ジミナの動線上に置いてある。

この速度で避ける術は無い。そう思われた。

「え……?」

アンネローゼは呆然と、彼の動きを眺めた。

彼は止まったのだ。

予めそう決めていたかのように、アンネローゼの間合いの寸前で止まった。

アンネローゼの剣が、彼の鼻筋を掠めて空を斬る。

偶然ではない。

それは、極限の間合い管理。

凄まじいほどの見切り。

アンネローゼは彼の攻撃に合わせたと思った。だが実際は違う。逆に合わせられたのは、アンネローゼだった。

「そっか……」

彼女はこの瞬間理解した。

一瞬の攻防で、すべてが確信に変わった。

彼は、ジミナ・セーネンは……その技量も遥か高みにあったのだ。

そして、死に体のアンネローゼにジミナの剣が迫る。

その剣は、今日一番遅かった。

しかし、その剣は……技を極め芸術にまで昇華されていた。

「ぁぁ……」

なんて美しいのだろう。

その記憶を最後に、アンネローゼの意識は暗転した。