軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人生は長い。生き急ぐな若者よ

武神祭の予選は来週から始まる。僕はシドの姿に戻ると闘技場を下見して多様な演出パターンを妄想し、それから『まぐろなるど』でサンドを2つ買って食べながら寮へと戻る。

夕日の下を歩きながら、そういえばアルファにまぐろなるどで奢る約束したっけな、と思い出した。

アルファはいつも忙しそうだし、それっきりだ。まあいいや、そのうち奢ろう。アルファはエルフだから余裕で300年とか生きるし、僕も魔力パワーで200年は生きるつもりだ。死ぬまでに奢ればいいのだ。気長にいこう。

学園に近づくと蝉の声が大きくなる。夏の夕方は蝉の時間だ。僕の勝手なイメージだけど。

夕日に染まった学園は、火事の復旧工事がだいぶ進んでいた。この調子だと予定通り夏休みが終わる頃には完成しそうだ。以前ヒョロが「全部燃えとけよ」と悪態をついていたが、僕も同感だ。夏休みの延長を希望する全生徒がそう思っているはずだ。

僕は校舎の脇を通って、寮への道を歩く。

人は少ない。

ほとんどの生徒が家に戻っているのだ。そういえば姉さんが「一緒に帰省しなさい」とか言ってキレてた。無視して聖地に行ったけど、その後どうなったんだろう。武神祭の本戦が始まる頃には戻ってくるかな。

そんなことを考えながら、1つ目のサンドの最後の一口を頬張る。

と、その時。

「油断大敵ですよ」

僕の肩に練習用の細剣の鞘が触れている。殺気はまるで感じなかったから、僕は反応すらしなかった。

鞘の主はクスッと微笑んで剣を納めた。彼女は蜂蜜色の髪に柔らかな顔立ちの美人さん。ローズだ。

「やあ、練習かい?」

「ええ。少し時間ができたので剣を振りに。シド君はまぐろなるどに行ったのですか?」

「あそこの店長さんと知り合いなんだ。最近知ったんだけどね」

「私も先日、3人で行ったんです。とてもおいしかったですよ」

「3人で?」

「はい。私と、ナツメ先生と、アレクシアさんです」

3人の繋がりがいまいちわからないが、そういえば聖地で一緒だったっけ。

「仲良かったっけ?」

「ナツメ先生とはとっても仲良しになりました。アレクシアさんもとてもいい子ですので、すぐに仲良くできますよ」

アレクシアがいい子だと思っているうちは、どうやっても仲良くなれないだろう。

「ただ、アレクシアさんとナツメ先生が少しギクシャクしているのです」

ローズは少し悲しそうに言った。

ベータとアレクシアの組み合わせは、どうなんだろう。似た者同士だと思うけど。

「そのうち何とかなるでしょ」

「だといいのですが……。もし、私がいなくなったら2人で仲良くできるのか不安で。これからみんなで協力するんです。私たちで何ができるかはわからないですが、少しでも世界がいい方に向かうように」

「世界平和は大事だよね」

「はい」

ローズは気持ちいい笑顔で言った。

「ごめんなさい。そろそろ時間ですので失礼します」

辺りがだんだんと薄暗くなってきた。

「うん、またね」

「……あの」

失礼すると言ったのに、ローズは何か言いたそうだった。

「どうかした?」

ローズは少し迷ってから口を開く。

「これからお父様と会います。そこで婚約者が紹介されるのです」

「そうなんだ」

「はい」

「おめでとう、は言わないでおくよ」

ローズの顔は、それを望んでいなかった。

「私はオリアナ王国の王女です。王女として多くの期待を背負い生きてきました。ですが私は、私のわがままでそれを裏切りました」

「うん」

「もしかしたら私は、また多くの人の期待を裏切るのかもしれません」

ローズは悲しそうな顔で微笑んだ。

「でも、今度はわがままではありません。私の杞憂ならいいのです。ですが……もし……何かあったら私を信じてくれますか?」

「うん、わかった」

「シド君に信じてもらえるなら、私はそれ以上望みません。また、こうやって話せることを願っています」

ローズは顔を隠すように俯いて、そのまま立ち去ろうとする。

「ねえ」

僕はローズを呼び止めて、もう1つのまぐろなるどのサンドを投げた。

「あげるよ。少し肩の力を抜いたほうがいい」

「ありがとう」

ローズは柔らかく微笑んだ。

次の日、僕はヒョロの絶叫で叩き起こされた。

「ローズ生徒会長が婚約者を刺して逃亡したってよ!!」

僕はベッドの中で、何が彼女をそうさせたのだろうと首を傾げた。