軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

武神祭の常連戦士クイントンによるスパルタ新人教育!

「アナタ素人でしょ。見ればわかるよ」

アンネローゼは僕の方に歩いてきて、手の届く距離で止まった。

気の強そうな瞳は水色で、同色の髪を肩の上で切りそろえている。

「安物の剣に、ひ弱な身体」

アンネローゼは僕の剣と身体を人差し指で軽く叩いた。

「大会は刃を潰した剣だけど、なめてると死ぬよ」

そしてまたキッと僕を睨む。

僕は彼女の瞳を見据えて、少しだけ考えた。ここでとるべき僕のリアクションは……。

「人を見かけで判断するのはやめておけ」

僕はそう言って、アンネローゼから視線を外す。

そう、僕は見た目は弱いけど実は強者の設定なのだ。だからここで弱気な対応は下策。

こいつ弱そうなくせに生意気だ、ぐらいに思われるのがベストだ。

「ちょっと、何よその態度。人がせっかく心配して……」

「オレには必要ない」

一人称も強気なオレを選択する。

「アナタいい加減にッ……」

「おい兄ちゃん、忠告は素直に聞いとくもんだぜ」

突然、僕らの会話に男が割り込んできた。

彼は例えるならガラの悪いプロレスラーみたいな外見だ。しかし腰の大剣は使い込まれ、顔に刻まれた傷痕が歴戦の猛者っぽい雰囲気を出している。

事実、この付近にいる人の中では僕とアンネローゼの次くらいに強そうだ。

「俺はクイントン。武神祭に何度も出場しているが、毎回お前みてぇな弱え奴が場を白けさせるんだよ。頼むから、家でママのおっぱい吸っててくれねぇか?」

クイントンの露骨な嘲りに、周囲からも賛同の声と、下品な笑い声が響く。

だが僕は横目でクイントンの顔を見て、唇の端で笑った。

「少なくとも、お前よりは強いさ」

クイントンの顔が紅潮した。

「ぎゃはは! クイントン、舐められてるぞ!」

「クイントン、雑魚に言われっぱなしでいいのかぁ!?」

周囲のヤジにクイントンは眉をしかめ、僕の胸ぐらを掴み上げた。

「おい、口には気をつけろよ。誰が、俺より強いって?」

僕は答えなかった。

ただ、唇の端で嗤った。

「躾が必要みてぇだ……なッ!!」

声と同時に、クイントンは僕を投げ飛ばした。

僕は人にぶつかり、地面に転がった。

「いいぞ、やっちまえ!!」

「ぎゃはは、手加減してやれよ!!」

僕とクイントンを中心に人の輪ができる。流石は荒くれ者たち、実に慣れた対応である。

「謝るなら今のうちだぜ」

首をコキコキ鳴らしながらクイントンが言う。

「本当に程度が低いな」

僕はやれやれと首を振った。

「ぶっ殺す!」

クイントンが拳を振りかぶり突貫してくる。

その姿はまさにど素人。

正直言ってこの世界、武器無しの戦いがまるで発展していない。というか武器を使った方が人は強いから、よほど余裕があるか逆に切羽詰まった事情がない限り、素手での戦いはあまり発展しないのだ。

素手の人間トーナメントがあったら間違いなく僕が優勝だ。それぐらい自信がある。

この状況でとるべき選択肢が僕の頭の中に幾通りも思い浮かぶ。

右ストレートか左フックでカウンターをとるのがシンプルに強い、ジャブか前蹴りで止めて様子見が安全策、さらに安全策は手を出さずに様子見、他にも膝や肘を合わせるのも強い、タックルからのパウンドでもいい。

もしこれが強敵との本気の戦いだったら、僕はジャブを合わせるだろう。ただし、拳は握らずにパーで、リーチを伸ばし5本の指で眼を狙う。

でも彼相手にそこまでする必要は無いし、そもそも僕は……まだ戦う気がない。

「オラァッ!!」

クイントンの拳が僕の頬にめり込んだ。

そして派手に吹っ飛び、ギャラリーの人壁に当たる。

「まだまだ行くぜぇ!!」

クイントンの拳が僕を襲う。

左、右、左、右、右、右。

僕は一度も手を出さず普通に殴られ続け、ちょうどいいところで崩れ落ちた。

「こいつ、弱えぞ! 弱すぎだ!」

「ぎゃはは、クソ雑魚じゃねえか!」

ギャラリーの嘲笑が心地いい。

「ビビッて手も出せねえのかよ、根性なしが」

クイントンが僕を見下ろし嗤う。

「オレの拳はこんなところで振るほど安くないんでね」

僕はクイントンを見上げて笑った。

「まだ足りねえみてぇだなッ!」

「もう止めなさい!!」

クイントンが振り上げた拳を、アンネローゼの声が止めた。

「やりすぎよ。これ以上は、私が相手になる」

アンネローゼがクイントンを睨み上げた。

「おいおい、姉ちゃんが相手してくれるってよ!!」

「ぎゃはは、俺の相手もしてくれよぉ!!」

周囲のヤジとは裏腹に、クイントンの顔は険しかった。彼はチッと舌打ちして踵を返す。

「なんだよクイントン、しょんべんか?」

「つまんねぇ、もう終わりかよ!」

クイントンが去ると、人の輪も崩れていった。

「ごめんなさい、まさかこんなことになるなんて」

アンネローゼが手を差し出す。

僕はその手を無視して立ち上がった。

「止めようと思えば、いつでも止められたはずだ。違うか?」

僕の問いかけにアンネローゼが怯んだ。

「武神祭で取り返しのつかないことになるぐらいなら、ここで少し痛い目にあった方がアナタのためだと思ったの。でも、これはやりすぎよ。怪我は大丈夫?」

アンネローゼが僕に手を伸ばすが、僕は片手で遮った。

「問題ない」

「ちょっと……え?」

アンネローゼは気づいたようだ。あれだけ殴られたのに、目立ったダメージがないことに。

あるとすれば、口を少し切ったぐらいか。

僕は口の端に滲んだ血を親指で拭って踵を返す。

「血の味は……久しぶりだな……」

アンネローゼに聞こえるぐらいの声で呟く。

「……ッ! 待って! アナタの名前は!?」

アンネローゼの強い視線を背中に感じた。

「……ジミナ」

僕はそのまま人ごみの中に姿を消した。

そしてガッツポーズ。

よっしゃあ!

僕は成し遂げた。

『誰もが侮る雑魚、しかし一部の人間は彼の異常さに感づいた!?』

僕の大好きなパターンだ。

僕から言わせれば大会前に実力を見せつけるなんて三流だ。

全く楽しめない。というか一番面白くない場所で実力をバラしてどうするのだ。

大会前はほとんどの人間から侮られるぐらいでちょうどいい。そして大会が始まってからアイツ強いんじゃね? と思われ出して、一番盛り上がるところでアイツめちゃくちゃ強いじゃん!? となるのが一流だ。

来るべきその瞬間まで観客の認識をコントロールし続けることが、武神祭で僕に課された使命である。

僕はしばらく一人で反省会を開きながら物陰に潜んだ。

そしてアンネローゼたちが立ち去るのを見てから、こっそり列に並び武神祭の登録を済ませたのだった。