軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

困ったら切り開け!

まだ、動くべきではなかったはずだ。

背後に追手の気配を感じながら、ローズは収容所の廊下を駆ける。

ローズの任務は王都の外で準備をしている国王派の軍勢と、国王派の旗となるクララとの渡りをつけることだった。

本当ならローズこそ旗となるべき存在だった。

しかし、オリアナ王国においてローズの信望は地に落ちている。

国王を殺し、国を割った元凶。それがローズの評価だった。

彼女に国民をまとめる力はない。

表に立つことも二度とない。

彼女はもう、決して戻れないのだ。

彼女にできるのは陰ながらオリアナ王国のために尽くすことだ。

己を犠牲にし、命を懸けて償う。

彼女はそのために、この任務に志願したのだ。

しかし、そんな彼女の前に彼が現れた。

シド・カゲノー。

かつて、彼女が添い遂げようとした想い人。

その彼が、ローズを心配してオリアナ王国まで駆け付けたのだ。それを知った瞬間、彼女の心は様々な想いではちきれそうになった。

彼が駆けつけてくれた喜び。

彼に迷惑をかけた後悔。

そして――もう、彼の想いに応えられない悲しみ。

どれだけ愛し合っていても、彼女はもう彼と添い遂げることはできない。彼女が大罪人では、どう足掻いても彼を傷つける結果にしかならない。

だから、諦めたはずだったのに――。

再び彼と会うことができて、ローズは己の気持ちを抑えることに必死だった。

全てを忘れて、彼の胸に飛び込んでしまいたかった。

だけど、そんなことはできない。

それはほんのひと時の逃避でしかなく、後に待つのは残酷な現実なのだから。

だから、ローズは心をズタズタに引き裂かれそうになりながらも別れを切り出した。

これで、本当に終わりだと思っていたはずなのに――。

だが、マクシミリアンに彼が連れ去られて、ローズは頭の中が真っ白になった。

マクシミリアンは危険な男だ。

ディアボロス教団のネームドチルドレン『冷徹』の二つ名を持つ男だ。反国王派をまとめているドエムの同僚だ。

立場上、ドエムとは上司部下の関係にあるが教団での実績は同等で、彼らは出世争いをする間柄でもある。

オリアナ王国の顛末次第で、彼らのうちどちらかが次のラウンズになると噂されているのだ。

しかし、彼らも所詮はまだ若手の一人でしかない。

オリアナ王国の争乱にはラウンズの間でも名前が轟いているあの男――モードレッド卿が裏にいる。

シャドウガーデンでもモードレッド卿を探っているが一向に足取りがつかめずにいる。

しかし、モードレッド卿が教団において極めて重要なポジションにいることはまず間違いないのだ。

シャドウガーデンの目的はモードレッド卿を引きずり出し始末すること。

そのためには、ドエム派を追い込み国王派を勝利に導かなければいけない。

そしてそれは、オリアナ王国を守ることに繋がるのだ。

ローズは己が今何をすべきか、頭ではちゃんと理解していた。

しかし、気づいたときにはもう彼女はマクシミリアンに斬りかかっていた。

――違う。

――まだ動くべきじゃない。

――機会を窺い確実にクララと渡りをつけるべきだ。

どれだけ理屈を立てても、正論を述べても、彼女の想いはその全てを吹き飛ばした。

彼を助けなきゃ!!

そして今に至る。

フクロウの存在は収容所中に知れ渡るだろう。

これ以上、逃げ隠れすることに意味は無い。もう強引にクララを攫う勢いで話を付けるしかないのだ。

気がかりなのは、果たして妹のクララがローズの話を聞いてくれるかどうか。

そして、クララの周囲にいるはずの裏切り者の存在。できれば、接触する前に裏切り者を排除しておきたかったが……もうそんな時間はない。

「いたぞ!!」

「こっちだ!!」

ローズの背をドエム派の囚人が追い、そして前方では武装した看守が道を塞ぐ。

ローズは駆けながら黒い剣を構え――。

「ハァァァァァアアアア!!」

己の道を切り開いた。