軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スパイアクション

僕はそのまま地下倉庫へと連れていかれた。

肩をロックされたまま椅子に座らされる。周囲をドエム派の囚人が取り囲み、僕の前にマクシミリアンが立った。

「さて……」

彼は冷たい視線で僕を見下ろす。

「今朝ここで胸に穴が開いた五人の死体が見つかった。何か知っているか?」

床にはまだ血の染みが残っている。

「ぼ、僕は何も知りません……本当です!」

「では昨夜君は何をしていた。王女に薬を盛るはずではなかったのか?」

あ、その辺の話も知ってるのか。

「確かに攫ってこいと命令されました。でも……僕にはそんなことできない……」

「つまり、怖気づいて逃げたわけだな」

マクシミリアンの視線が鋭くなった。

「そんな人間が、よく堂々と収容所の中を歩けたな。普通は逃げ隠れするはずだが……?」

「ん……?」

た、確かに!

脅されてクララを攫えなかったモブが堂々と中庭を歩いてるのっておかしい。

マクシミリアン、君は頭がいいな。

「そ、そんな、違います! 僕は怖くて……」

「怖がっているようには見えなかった。少なくとも、俺たちが現れるまではな。知っていることをすべて話せ」

マクシミリアンがナイフを抜いた。鋭い刃にランプの光が反射し輝く。

なるほど、どうやら僕は破綻したようだ。

よろしい、ならば死んでもらおう。

スライムを準備してシャドウモードに入ろうとしたその瞬間――彼女が倉庫に入ってくる気配を感じた。

その直後、ランプの火が消える。

「誰だッ!」

そして彼女が舞い降りた。

漆黒のボディスーツに身を包んだ彼女は、そのスライムソードでマクシミリアンを強襲する。

「クッ……!」

マクシミリアンの反応も速かった。

彼は素早く振り返ると斬撃を回避し距離を取る。

しかし完全には回避できなかったようだ。彼の肩から血が滲み出ていた。

「貴様は、まさか……フクロウか。女だったとはな」

マクシミリアンの問いに、彼女は答えなかった。

彼女の足元には、既にドエム派の囚人が倒れている。随分と腕を上げたみたいだ。

「ふん、手間が省けたな……」

マクシミリアンは木箱から剣を取り出し抜いた。

そして彼は軽く構えて彼女を見据える。うん、やっぱり彼もそこそこできる感じだ。

「……囲め」

続々と剣を抜いた囚人たちが彼女を取り囲む。

これが銃だったら、まるでスパイ映画のワンシーンみたいだ。

さぁ、どうなる。

僕は固唾をのんで見守る。

そして、マクシミリアンが動いた。

彼は素早く間合いを詰めると、鋭く剣を薙ぎ払う。

だがその剣は、彼女の身体に届かなかった。彼女は半歩後退し剣を避け、横から襲い掛かってきた別の囚人を切り裂いた。

その隙を、マクシミリアンが攻める。

彼の剣は鋭く、正確だった。

リスクを回避し、余計なことはしない、理詰めの剣。まさかオリアナ王国でこんな剣が見られるとは思っていなかった僕は驚いた。

オリアナ王国では魔剣士が蔑まれている。国内の魔剣士はほとんどが身分の低い者か外人の傭兵だ。

では、身分の高い者は何をやっているかというと舞剣士をやっている。

舞剣士とはなんぞや。

それは読んで字のごとく剣を振りながら舞うのだ。

剣を持ったフィギュアスケートを想像してもらえばわかりやすいだろう。芸術の国オリアナ王国では舞剣士が舞い踊りその美しさで勝敗を決するのだ。

もちろん、実戦では弱い。

しかし彼らの理念では美しさと強さは両立するらしい。

分かる気もするが、美しさの方向性が違う気もする。

ま、いいけど。

だからマクシミリアンの剣には少し驚いた。とても合理的で、少なくともオリアナ王国の剣ではない。むしろこの時代の最先端と言ってもいいかもしれない。

彼はその剣で、彼女を攻め立てる。

薄闇の中で剣が光り、彼女のボディスーツを掠めていく。

マクシミリアンは周囲の囚人たちを利用し、有利な立ち回りを徹底していた。

「諦めろ、貴様に勝ち筋はない」

うーむ、少し分が悪いか。イケメンだし。

そう思った次の瞬間、彼女の剣が突いた。

だがマクシミリアンは余裕をもって避けられる場所に立っている。立つ位置もよく考えているのだ。

それは、到底届かない斬撃だったのだ。

しかし、突然――彼女の剣が伸びた。

「――ッ!?」

咄嗟にマクシミリアンが首を傾げなかったら、彼の顔は串刺しになっていただろう。

スライムソードが彼の頬を掠め、赤い血が舞う。

辛うじて回避したマクシミリアンだったが、無理な体勢で避けたためバランスを崩し大きく後退した。

その隙に、彼女は周囲の囚人を一掃し、そのまま地下倉庫の扉を切り裂いて駆けた。

「逃がすなッ! 追え!!」

マクシミリアンが咆え、生き残った囚人たちが彼女の後を追う。

「ボス、こいつはどうします?」

囚人の一人が僕を見て言った。

「フクロウが先だ。フクロウを捕まえればこいつなどどうでもいい。絶対に逃がすなッ」

そして、マクシミリアンも彼女を追って出ていった。

僕は突然静かになった地下倉庫でたった一人取り残された。

「さて……どうしようか」

上の階が、何やら慌ただしくなっていた。