軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大公のことと、これからのこと。

王都でも類を見ないほどの大豪邸、アウグスト大公邸。

今ここで開かれているのは未来の国の重鎮たちのお披露目会。

純粋にお披露目といかず。

ある種いくつもの思惑のようなものが飛び交うのは否定できない。

即席のお見合い会のような集まりができるのもお披露目会の恒例でもある。

位が下の貴族からすればうまく上の貴族と懇意にできることもある。

…婚約を出汁に取引なんてことも見慣れた光景となった。

「これはこれはご無沙汰しておりますローガス閣下」

「おぉ久しいなリカルド、順調に出世しているようでなによりだ」

アウグスト大公は、ドロドロした親の欲と思惑に巻き込まれている子達を少し不憫に思いながらも、それを咎めることはしない。

意味がないとわかっているからだ。

とはいえたまには素直にお披露目会がしたいものだと、そう考えるほどには人情じみた感情は捨てきれていなかった。

「話に来たのはリカルド…リカルド・ランス子爵。聞いた話によればラウンドハート伯爵が面倒を見ていたと。弟子の成長か、それはよいことだろうな」

自分の近くで話している二人の声を聞きながら、アウグスト大公は酒を飲む。

齢60歳をすぎた今も、その眼光は衰えるどころか更に強さを増しているアウグスト大公。

そんな彼にも目下の悩みが一つだけある。

それは目に入れても痛くないほど可愛いばかりか、その子のためなら町一つあげてもよいと考えるほど溺愛している孫娘のことだ。

今年九つになったばかりではあるが、貴族としては縁談を纏めるのに決して早い年齢ではない。

少しばかり前の話だったが…ハイム王国の第三王子ティグルから婚約をしたいということを匂わせられている。

孫娘のクローネにそれを伝えた時、彼女は好みじゃないとバッサリ切ってしまった。

幸いにも正式に婚約を申し込まれた訳ではないため大事にはなっていないが、それでも断っているという事実を王子は聞いているだろう。

「いくつになっても悩みは尽きぬものだな、爺」

「はっはっは、旦那様のような傑物でもやはり人間なのだとそう感じてしまいますな」

そばに控える爺と呼ばれた執事…名をアルフレッドと言う。

アウグスト大公より10と少し年上の彼は、その年になってなお筆頭執事の現役として奉公している。

大公にとって最も信頼している部下が彼であり、家族に話していないような案件ですら彼は知っている。

「ほらリバイン、ご挨拶をしなさい。お前が軍部で仕えることともなろうお方がこちらのグリント様だ」

「初めましてグリント様っ!リバインと申します!」

「俺はグリント、初めましてリバイン」

「おぉリカルドの子か…うむ、元気ないい子ではないか」

やはり子供たちのあいさつを見ていると微笑ましくなる、多少上下関係がすでにあるのは仕方がないことだと割り切っている。

「…ん?」

「どうなさいました旦那様」

ふと、違和感というには小さすぎるが何か違う気がして大公は考える。

「あぁ…なるほど。アルフレッド」

「どうなさいましたか?」

「ラウンドハートが連れてくるのは茶髪の子と聞いていたが」

「えぇそのことで実は」

「失礼いたしますアウグスト大公、アルフレッド様にご相談事が」

「…少し失礼します大公」

「よい、ここで話せ」

アウグスト大公は珍しいこの状況を見て、自分も耳に入れておくべきだろうと考えた。

「はっ…ラウンドハート家の奥様オリビア様とご子息のアイン様が庭園に行ってもよいかと」

「何を言っているのだ?此度は大公が主催するパーティだというのに、そのようなことをオリビア殿が申したのか?」

「い、いえご子息のアイン様が」

「…いや待ておかしいな。アインはたしか長男だったはず、それがなぜ会場にいない?それどころか奥方のオリビア殿もだ…アルフレッド」

「大公が本日は子を一人までとお決めになりました、そしてラウンドハート家では次期当主と決めた弟を出席させるとのことでした」

「ほう?ではなぜ会場に奥方が居て、会場に入れないのがわかっていて長男がいる」

鋭い眼光でアルフレッドに視線を送るアウグスト大公、何か不手際?失礼があったのか?それとも向こうの失礼なのか?そういったことを考えた。

だが大公の知るオリビアと言う女性は、そのような無礼をする女性ではないのをわかっていた。

「それは私もあずかり知らぬことでして…説明を続けてもらえますか?」

「はっ!…招待状を、いえ…案内の部署のほうで不手際があったようでございます」

「続けろ」

大公の視線と気配が一層厳しいものとなる、王国で最も不正に厳しく厳格だと言われるアウグスト大公。

その人となりはもちろん自分にもとても厳しい。

とはいえ孫娘には強く出れない部分があるのは理解しており、あまり触れてほしくない。

「…招待状は届いたようなのですが、今回はお披露目に連れてくる子を一人という旨を記載したものを添付しわすれたようです。そのためラウンドハート伯爵は、予定通り二人のお子様をお連れになりました」

「…ではなぜ長男が出ておらぬのだ?」

「アルフレッド様。会話をそのままお伝えしても構わないでしょうか?」

「そのほうがよいでしょう。大公閣下のご命令です」

「では続きを…受付にてその事実を知ったラウンドハート伯爵は悩んでいたのですが、第二夫人の次期当主を優先するのが当然だという言葉を聞き…次男であり次期当主に指名されたグリント様を入場、とのことになりました」

それを聞いてアウグスト大公は理解した。

「長男の母として…オリビア殿は共に入場することを拒否したのだろう」

ラウンドハート家の第一夫人であるオリビアは天使のように優しく、港町の聖女ともいわれるほどの女性だ、それはクローネの憧れになるのが当然なほどに。

「なるほど。それでオリビアご夫人が大公の庭園を観覧したいと申してきたのですか?」

「そのようなことがあったのであればもちろん許可するに決まっている。案内の者を厳罰に処した後、しっかりとした謝罪を伝えなければならない…さてそれでは案内をつけねばならんが」

大公の筆頭執事であるアルフレッドであるならば、何よりも完璧な案内ができるし立場としても失礼に当たらない。

大公がそう考え案内にアルフレッドをつけると決定したところだった。

「いえそうではありません…ラウンドハート家のご長男…アイン様はなんとも傑物になります」

「ほう?」

大公は少し興味を抱いた、次男に自らの席を取られた長男がどのようなことをしたのか聞いてみたくなったのだ。

「アイン様はこう仰いました。

『大公殿にお伺いを、お庭が見事な物で興味が絶えません。どうかパーティの時間帯だけでよいので観覧させていただけないかと…いいですか?』

…と」

「はっはっは!なるほどのう」

「貴族としての、いえ…人間としての格ではご長男は決して負けていないわけですね」

「であるなアルフレッド」

不貞腐れたかとでも思えば一切そんなことはない、ホストである大公を立てながらも下手に出て依頼をする。

立場を弁え、相手を不快にさせぬ物言いが大公は気に入った。

「ですがその後に言った言葉が何と言いましょうか…。人の機微に優れるというか、女殺しとでもいいましょうか」

「続けよ」

「彼は続けてこう言いました。

『お母様のように美しい花があんなにも咲いているんです、申し訳ありません…大切なお披露目なんかよりも花を求めてしまい。こんな息子ではありますが幻滅しないでくださるとうれしいです』

これを聞いてこの私は、アイン様の器の大きさに驚きを隠し切れませんでした」

「くはは…女殺しか、よくも言ったものだ」

「大公?そのような紳士相手ではこの私が案内に出向くべきでしょうな」

「その通りだアルフレッド」

「ア…アルフレッド様がご案内を?!」

「それが礼儀というものだろう、ではアルフレッド庭の案内は」

「お爺様?」

と、大公ならばどこにいても聞き取れる声がすぐそばで聞こえる。

ライトブルーの美しいロングヘアーを靡かせながら登場した彼女は、大公家長女のクローネ。

ホストである大公家の者として挨拶をしてくれていた彼女がそばによる。

「何やら楽しそうなお話だったのでつい」

「聞いておったかクローネ」

「えぇ。アルフレッド?」

「はいなんでございましょうか」

何一つ悪びれる様子もなくクローネは尋ねる。

「私が彼とオリビア様の案内をします。いいわね?」

「お…お嬢様っ」

「クローネ、お前が案内をするだと?」

大公たちにとっては想定もしていなかった事態に驚きを隠し切れない。

他人に興味を抱かなかったこの孫娘が?と考えたが、そこで大公はクローネがオリビアに憧れていたことを思い出す。

「そうまでオリビア殿と話に参りたいか」

「えぇそうです。問題がありますか?」

あくまでも強気でいるクローネ。

ここでも孫娘に甘い大公の弱さが出る、そのせいで駄目とはいえないのだ。

「ねぇ貴方?」

「は、はいっ!」

クローネはアイン達のことを報告に来た受付兼護衛を務めていた騎士に尋ねる。

「長くお待たせしては申し訳がありません。急ぎオリビア様たちの許へ行き伝えなさい。

庭園の観覧を許可、案内を一人つけると。さぁ行きなさい」

騎士が顔色を窺うかのようにアルフレッドと大公のほうを見る。

アルフレッドはすでに大公に任せているようで特に表情を変えず、大公はすでに諦めたような表情で好きにしてよい、と。

「で、ではお伝えしてきます!」

「急いでね」

「ホストなのだぞ我が家は、それだというのに」

「私は最初から嫌だと言ってますもの、それにパーティに出ると毎回毎回、美しいですねとか綺麗な髪ですねだとか…。私を娼婦かなにかかと思ってるみたいにわらわらくるんだから。気持ち悪くてしょうがないわ」

「まあクローネのいう気持ちはわかるのだが、それでも」

「…オリビア様に無礼を働いたのは、責任を正せば我が家ですよお爺様。それなのに使用人を一人案内に寄越して庭園を見せる。恥を重ねるのも考え物ではないかしら?」

「はっはっは、大公…クローネ様は日に日にお強くなられますな」

アルフレッドの言葉に顔を苦々しいものへと変える大公、何一つ否定が出来ない事実に頭をかかえるしかないのだ。

「言うなアルフレッド、分かっておる…ケガはしないようにするのだぞクローネ」

「えぇもちろん、ありがとうお爺様。大好きよ」

その言葉を聞いて大公は緩んだ顔つきになった。

心の中ではもうなんでもいいや…と考えていた。

「…大公?」

「なんだアルフレッド…」

「いえ。坊ちゃん?」

「す、済まぬ!だがわかってくれ」

「坊ちゃんの考えることはわかってますがな、まぁこればかりはよいでしょう。老後の楽しみを奪うほど非道ではありませんからな」

「やれやれ。有能な者ばかりで幸せだこの私は」

ウキウキしながらオリビア殿たちの許へ向かうクローネ、その姿を見ていたらこれでよかったのだと。

大公はそう納得してしまう。

自分の孫バカに頭を悩ますも、それを辞められる気はしなかった。

この夜、パーティが終わりスタークリスタルを孫娘から見せつけられ、家族皆で驚いたと同時に。

『アイン…』と惚れた女の顔をしているクローネを見て、大公は何とも言えない感情になった。

が、話はそれだけで終わることがなく…だらしない顔をしたクローネを横に、緊急の連絡が入る。

「緊急にて失礼しますっ!…ラウンドハート家第一婦人オリビア様…ご当主のローガス様に離縁を申し入れた模様!返事を待たずに実家へと帰国しているようです!」

アルフレッドはその時思った、ラウンドハート家の周辺が荒れる…そんなのはよく分かっていた。

だがもっと大きい衝撃は、恐らく我がアウグスト大公家にて起こるだろうと。

なぜなら初恋をしてしまった我らが美姫クローネ様がいるからだ、行動力あり頭もよい…なにか仕出かさないか。

そのことだけが心配になった。

「…お爺様?それってもしかしてアインもこの国から…?ど、どこに行くのよアインとオリビア様は!!」

事が大きくなるのは早いだろう、確信をした。

クローネ様もだが、オリビア様のご実家がある国は…。