軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勝敗とは。

翌朝、アインは近くの湖に足を運んでいた。

共にやってきたカインと言えば、既に傍を離れてリビングアーマーに向けて剣を抜いていた。

あっという間の戦いは、アインにいくつかの驚きを与える。

(……大丈夫、カインさんの動きは今の俺にもしっかり見える)

確認できたのは僥倖だった。

加えて、もう一つは「アレ絶対にマルコだよね」ということ。

ただ、この時代のマルコは現代に比べてカインと力量の差が大きいらしく、あっさりと、全く抵抗する間もなく制圧されている。

付け加えるならば、マルコが口を開く隙もなかった。

カインは姿を見つけてから、何も聞かずに剣を抜いて襲い掛かったからだ。

「ッ……ァ……カハッ……」

「答えろ。どうしてここで暴れて……くそっ、気を失ってるじゃないか」

カインに掴まれたマルコの鎧には、筋が弱弱しく点滅していた。

明らかにやり過ぎなのだ。

「父上……加減しないから。てか、急に襲い掛かるのはどうかと」

「馬鹿を言うな、マール。粗暴者に加減するなんて、怒ったシルビアを前に剣を放り投げると一緒だぞ」

「それ、母上に教えてもいいですか?」

「……とりあえず、コイツは牢屋にぶち込むとする」

告げ口されたら困るのだろう。

あっという間に顔を反らされる。

「牢屋に入れるんですか?」

「ああ。起きたら話を聞けばいいからな。その後のことは知らんが、シルビアたちに任せる」

きっとマルコは大丈夫だ。

彼が忠義に生きることは歴史が証明している。

アインは口は出さず、見守ることに決めた。

「運ぶのは大変そうですね。兵士を呼んだ方が」

「いいや、引きずっていけば問題ない」

見ている側からすれば問題しかない。

「……俺も手伝うんで、担いで帰りましょうよ」

「はぁ……マールがそう言うのなら仕方ない。これぐらいの慈悲はあってしかるべきか」

しかし、この時代のマルコと旧王都の関係を知れる機会だと思ったのに、拍子抜けだ。

起きたら何があったのか、何をしていたのか聞いておきたい。

結局、マルコのことはカインが軽々と持ち上げ、肩に乗せて歩き出す。魔王城までの道のりで目を覚ますことはなくて、何も聞きだすことは出来なかった。

◇ ◇ ◇ ◇

日が暮れた後、マルクの自室――――だという部屋にて、窓枠に背を預けてアインが立つ。

「根が出せる?」

そういえば。

初代国王マルクはドライアドであったと、以前、シルビアから聞いたことがある。アインが思うシルビアはこの世界に居るシルビアではないが、細かいことは棚上げしよう。

足元から出て来た根を眺め、アインは少し安堵した。

あとはマルコのこと、この話に尽きる。

いったい彼は湖の近くに住み着いて、何をしようとしていたのだろう。

疑問は尽きなかった。

――――トン、トン。

「はいー?」

誰だろう、アインの声を聞き扉が開く。

扉の隙間から覗く腰より下まで伸ばされた銀髪と、薄幸そうな少女の姿。

「私」

「えっと……アーシェさん?」

「さん? むぅ……急に他人行儀だって、お姉ちゃんが言ってた通り」

普段は何て呼んでたのかなんて、記録があったはずもない。

苦笑したアインは頬を掻いて茶を濁した。

「ちゃんと姉上って呼ぶ。はい、もう一回」

「分かった。姉上」

「ん。許した」

「えっと、ありがと?」

あと、敬語も使わないように決めた。

「マールは何してたの」

(そう呼んでたんだ)

「ねぇ、どうして無視するの……」

「ごめんごめん、少しぼーっとしてた。俺は別に、ただ外を見てただけだよ。姉上は?」

「私は……」

ぼーっとしていたのはどっちのほうだ、とモノローグが流れそうな表情をアーシェが見せた。

一瞬、瞳から光を失い、虚空を眺める。

ふとした瞬間に元に戻るが、どことなく、別人だったような違和感があった。

「たぶん、あの赤髪の人と一緒に居たと思う」

「ッ――――どうして多分なの?」

「あんま覚えてない。でも、きっと眠いから。最近は住民が増えてて私も疲れてるの」

アインは強く心を痛め、目を伏せた。

間もなくライルとの勝負の内容を察して、歯軋りを鳴らす。

これは試練なのかもしれない。

目の前で、仲が深まったアーシェが害されていくのを見つづけて、最後にはアイン自身の手でアーシェを切るのだと。

何て性格が悪い勝負なのだと苛立ちを募らせ、ここには居ないライルに憎悪を抱いた。

そうしていると、アーシェがアインの下に近寄った。

トトトッ……足取りは軽快だが歩幅は狭く、見ていて微笑ましい。

彼女はアインの近くに来るを彼の顔を見上げて、目を細める。

「……眠い」

声と同時に頭をアインの胸元に押し付けた。

アインが気が付くと寝息を立てている。寝つきの良さに驚かされて、先ほどまでの暗い感情が鳴りを潜めた。

――――どうすればいい。

今後の事ではなく、現状について。

部屋にやってくるや否や身体を預けて眠りについたアーシェは、依然として器用なバランスを保ち寝息を立てている。

あんぐりと口を開けたアインが戸惑うのは、ごく自然なことだった。

「姉上ー? 寝るにしてもベッドの上の方がいいんじゃないですか?」

「…………すぅ」

「うわぁ、完全に眠っちゃってるよ」

アーシェの部屋は何処だろう。外に出て、使用人にでも尋ねればいいか。

そう思ったアインが彼女の背中に手を回そうと、一度、肩に触れた刹那のことだ。

「え!?」

使い慣れた生まれながらのスキルが、勝手に発動した。

ガラスが割れるような音が部屋中に鳴り響き、アーシェの身体を一度、大きく大きく揺らす。

ふわっと、銀髪が大きな翼のように広がったのだ。すると間もなく、髪の毛が収まると同時にアーシェが大きく目を見開く。

「……マール、私のこと連れ込んだ?」

「は、はい!?」

「夕食の後から記憶がない。私はどうしてマールの部屋に居るの? つまりマールが私に薬をもって――――」

「勘違いにも程があると思うんだけど、どう?」

「……だって、マールはラビオラが好き。あの子だって私と同じで平べったいよ?」

「その後半部分だけど、本人には絶対に言わない方がいいよ」

体格の関連で連れ込んだと思われたとは不覚だ。

いや、それよりも夕食の後から記憶がないだって? この事が気になって仕方ない。

しかしアインは分かっていた。

何が起こって、どうしてアーシェの様子が変わったのかを。

(毒素分解が発動した……?)

ここでもその力を使えることも驚きだが、それ以上に、既に影響を受け出していたアーシェが元通りになったことの方が、驚きだ。

「そういえばさ」

「うん?」

「姉上はさっきまで、赤髪の人と居たって話してたけど」

「……うぇっ」

アーシェが渋い顔をした。

「意味わかんない。あいつ何考えてるか分からないから苦手」

「だとしても、言ってましたけどね」

「知らない。言ってない。マールのばーか、嫌い!」

最後にべー! と舌を出して彼女は立ち去る。

いや、急すぎる。話の流れが急すぎて少し追い付かなかったが、一つだけわかった。

(歴史が――――変わる?)

間違いない。アーシェに掛かっていた魅了の効果が切れたのだから。

ではこれからどうなるのか、これは分からない。そもそも、毒素分解を使えることも分かってなかったし、何をどうしようかも考えたことがない。

しかし、ふとした気づきにアインはハッとした。

暴食の世界樹の力を使えるかおもむろに試し、失敗したことで確信に至る。

許されたのは毒素分解と、ドライアドとしての力だけ。

これに加えて、もしかすると勇者の力も使えるかもしれないが――――用意された舞台で何をさせたいのか、一つ思い浮かんだ。

アインは窓を開け、城下町に目を向けた。

現代のイシュタリカとかけ離れた光景ながら、賑わいはその生い立ちを窺わせる。

(俺にこのイシュタリカを別の結末に導けって。そういうことなのか?)

腰に携えていた短剣に手を伸ばし、少し抜いて輝きを見た。

これで赤狐の長……この時代のシャノンを切ればいい、これで済む話にしか思えない。

けど、果たしてこれが正解なのか分からなかった。

(これなら簡単な勝負すぎる。俺が圧倒的に有利じゃないか)

技のキレは失っていないと予想が付く。

体格的な弱みはあるが、シャノン本人の戦闘力は決して高くない。だから、いつでも倒せる。

でも、少しだけ様子を見ていたい。

自分に何を求められているのか、これから何をするべきか見極めたかったのだ。