軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

SIDE:クローネ&グラーフ[後]

「申し訳ございません。どうやら予定に変更があったようでして」

ウォーレンの到着が遅れているという。正しくは到着しているのだが、今別の仕事を見て回っているらしく遅れているとのことだ。

そのため、グラーフたちは必要な手続きを終えてから30分程度待っている。

「とんでもない。急な依頼をしているのはこちらなのだからな」

「そうですね。お会いできる機会を頂いてるということでもありがたいことです」

「そう言っていただけると助かります。間も無くいらっしゃると思うのですが……」

「何か問題でも起きたのですかな?」

会話がないのも好ましく無いと考えたグラーフは、文官へと何かあったのかと尋ねることにした。

「ええとですね。……お伝えしても問題ありませんね。イシュタリカ王家の方、王族がご視察にいらしております。海結晶という我々としても重要な取引のことですから、その影響でいらしているようで」

「っそれはそれは……そんな中お時間を頂くこととなるわけだな」

グラーフはまさか王族が来ているとは考えもしなかった。

ウォーレンでさえ彼にとっては大きな話だったというのに、そこから王族と聞いては尚の事落ち着けなかった。

「おっと。そう話していたらもういらっしゃったようです」

そうしてグラーフは彼が見た方向を見る。

一人の初老の男性と、美しい金髪を靡かせる女性騎士が共に向かってきた。

大国イシュタリカのトップに近い人が相手と考えると、グラーフといえども緊張しないではいられない。

「お待たせして申し訳ありません。私は宰相を務めておりますウォーレン、ウォーレン・ラークと申します。アウグスト大公ですな?」

「お初にお目にかかる。私はグラーフ・アウグストと申す。つい先日息子に席を譲りましてな、今ではただの隠居の身」

「これは失礼。どうにもすぐには情報が届かぬ部分がありまして、長旅お疲れさまでした。こちらの方がグラーフ殿のお孫さんですか?」

自己紹介も簡単に、ウォーレンはそばにいたクローネを見て尋ねた。

「クローネ・アウグストと申します。この度は唐突な話を受け入れてくださってありがとうございます」

クローネも簡単に名乗った後、軽く礼をする。

祖父のグラーフ達が簡単なあいさつだったため、それに合わせた。

「いえいえ構いませんよ。いくつかお話させていただくことにはなりますが……おっと、クリス殿失礼した」

「クリスティーナ・ヴェルンシュタインでございます。近衛騎士団副団長を務めております。また第二王女、並びにご子息のアイン様の護衛も務めております」

最後にクリスが自己紹介をする。クローネから見ても、オリビアと並ぶと思ってしまうほどの綺麗な女性だった。その後オリビアとアインの護衛もするとの言葉を聞いて、若干の嫉妬をしてしまう。

そして近衛騎士団の副団長が、個人であるオリビア達を護衛しているという事実も驚きだ。

やはりそれほどの身分なのだろうとつくづく実感する。

「これはこれは。名高きイシュタリカの近衛騎士団の副団長殿であったか」

「お褒めに預かり光栄です。本日は護衛ということで私も付き添っております」

「さて挨拶も終わった事ですし、いくつか質問してもよろしいでしょうか?」

そしてウォーレンの顔つきが変わった。

大国イシュタリカの重鎮として、グラーフたちのことの人となりを調べなければいけなかった。

「承知した。よろしくお願いする」

「ではまずステータスカードの確認をさせてくださいませ。もちろん我々も提示いたします」

そう言われて、グラーフとクローネはカードを提示する。

ウォーレンとしても報告だけでなく、自分の目でも確かめたかった。

「はい結構でございます。それでは私たちのステータスも提示いたします」

続けてウォーレンとクリスがカードを提示する。

それを見るグラーフとクローネ。グラーフは驚きを顔に出さずに済んだものの、クローネはクリスのステータスをみて驚きを隠し切れなかった。その顔をウォーレンに見られる。

「はっはっは。クローネ嬢、クリス殿のステータスに驚いてしまいましたか?」

「不躾な真似をして申し訳ありません。大国イシュタリカの強さをこの目で見て、驚きを隠すことができませんでした」

「お恥ずかしい話です。とはいえお褒め頂き光栄ですクローネ様」

グラーフとクローネは、二人で同じことに驚いていた。クリスのステータスの高さが一番最初に目に付いたが、ジョブとスキルだ。ジョブが聖騎士でありスキルに聖剣術という初めて見るものが印象深かった。

ラウンドハート家にグリントが生まれた時、国中で話題になったほどのスキル。それをすでにジョブにまで昇華させており、聖剣術という見た目でもわかる強力なスキルを保持していること。

さすがはイシュタリカの近衛騎士団副団長だと考えていた。

「クリス殿は副団長なだけあって、ステータスは抜きんでておりますからな。さてとりあえず身分の照会は無事に終了です。次に質問をさせてくださいませ、長々としても申し訳ないので、単刀直入にお伺いしましょう。なぜイシュタリカを目指したのか、これをお聞かせ願いたい」

来たか、とグラーフは思った。

事前に匿って欲しいなどといった説明はしていたものの、直接説明をしていたわけでなかったため、こうなるだろうと予測していた。

「お答えしましょう」

それなりの緊張があるが、答えないわけにはいかない。

純粋にアインにクローネのことを守ってほしかったと言えばいいのか、それとも濁して言えばいいのか。考えはなかなか纏まらない。

「……クローネ。左腕をお見せしなさい」

まずは、アインから貰ったスタークリスタルを見せることにした。

イシュタリカでどの程度の価値があるのかわからないが、そうなればハイムでの価値を説明しよう。

「こちらでございます」

そうしてクローネは、自分の左腕に着けていたスタークリスタルのブレスレットをウォーレンに向ける。

「失礼します。……これが例の"花"ですかな?」

「はい。アイ……アイン様より頂戴した、私の何よりも大切なものです」

「ふむ。こればかりは私も聞いておりませんでした。まさかスタークリスタルが花のことだったとは。クリス殿は聞いていましたかな?」

「いえ聞いておりません。アイン様は自分で作った花を渡したとしか言ってませんでしたから」

「割り込んで申し訳ない。ここイシュタリカではスタークリスタルの価値はどの程度のものになるのだろうか?」

つい話に割り込んで、スタークリスタルについて質問してしまう。

グラーフは若干やってしまったと思ったものの、これからの会話にどう絡ませるかの問題もあったため、苦渋の決断だった。

「おそらくハイムと同等の価値はあります。なにせイシュタリカでもブルーファイアローズの解毒は、同じぐらい金銭が掛かりますので」

クリスが説明した。

グラーフとしてはそれを聞いて安心した。安物をプレゼントしたと言うよりは、高価なもののほうが印象は強いと考えていたのだ。

「クローネ嬢はアイン様の人柄に惹かれる部分があり、そんな中スタークリスタルを頂戴した。そして好意の感情を抱き、またアイン様に会いたいと思いイシュタリカを目指した。これは間違ってますかな?」

ウォーレンはグラーフたちの考えを見透かすかのように、先手を打った。

その内容も間違いではなかったため、素直に頷くしかない。

「えぇ間違いないですな」

「なるほど。それでは……ラウンドハートについて、お聞かせ願いたい」

グラーフは一番面倒な質問が来たと思った。

この答えを間違えてしまっては、受け入れをやめてしまうことも考えられる。

そう考えると緊張が増してくる。

「私がお答えしてもよろしいですか?」

そんな中クローネが口を開いた。正直静かにしていて欲しいとグラーフは思ったが、すでに答えてもよいかとクローネは言ってしまったのだから、この流れを止められなかった。

「えぇクローネ嬢がお答えくださっても構いません。いえクローネ嬢ならば質問を変えましょう。アイン様についてどう思われますか」

「ラウンドハートは武の名家。ハイムの軍においての重鎮の家系です。アイン様がお産まれになられた際、アイン様のスキルに失望されたと聞きました」

「……続けてください」

「その後、アイン様については多くの噂が錯綜しました。礼儀がない、弟に嫉妬している、ローガス将軍の失敗作など多くの言葉です」

聞いていなかった内容を耳にして、クリスは手を強く握り自制心を保とうとする。

「そんな中、我が家で開かれたパーティでアイン様と出会いました」

「参加できなかったアイン様とどうしてお知り合いに?」

「アイン様の第二王女殿下への素敵な配慮に心を打たれ、どんな方なのかと気になったのです。それで私はアイン様の案内を買って出ました」

うんうんと、少しずつ頷くウォーレンを見てクローネは説明を続ける。

その横では平常を保っているように見えたグラーフだが、内心では少しも落ち着けていなかった。

「そしてアウグスト邸の庭園を案内している中、アイン様の人となりを私は見ました。聞いていた噂とは真逆で、私へも気遣いをしてくださる素敵な方に見えたのです」

アインがされていた噂を聞いて、若干苛立っていたクリスだが。アインの人となりを褒められている現状少しだけ機嫌が元に戻っていた。

「……というのが、切っ掛け。そして建前のようなものです」

クローネの急な話題の変更にウォーレンは一瞬気を奪われた。

「正直に申し上げれば、初めてお会いした時の私の想いは、言わば一目惚れに近いものです。初対面で第二王女殿下の様な優しい表情で笑っていただいて、その後はアイン様の人となりを知り、徐々に好ましいと思う気持ちは増す一方でした。そして最後にスタークリスタルを頂戴した時から、あの方を考えない時はありませんでした」

ウォーレンはクローネのことを、肝の据わった子だと思った。

自分の事を目の前にして、素直に自分が思っていた事を語り、相手が不快に思わないよう話のバランスを考え、抑揚にも気を使い話を進めていた。

「……グラーフ殿。お孫さんはどうにも将来が楽しみなご令嬢のようですな」

「お恥ずかしながら、少々お転婆で困ることもございます」

「——頭が良い。肝も据わっている。そして容姿も良い。ふむなるほど……」

ウォーレンがつぶやくように何かを確認する、その内容は隣にいるクリスにしか聞こえなかった。

「話は分かりました。クローネ嬢がどう考えているかも」

「私の考えをご理解いただけたようで嬉しく思います」

「クローネ嬢。私としてはまだいくつかグラーフ殿にお伺いしたいことがございます。どうでしょう、桟橋にでも行って海を眺めてきては?ここ港町マグナの海は美しく見ているだけでも癒されますよ」

それを聞いてクローネもグラーフも、二人してその言葉の意図は理解できなかった。

だがクローネを外したい事情があることは理解できたため、素直にそれを了承する。

「それはありがたい。クローネ楽しんでくるといい。ウォーレン殿がこういうのだ、危ないこともないだろう」

「勿論です。海に落ちることがあればその音はクリス殿が必ず気が付きますし、どこを見ても今日は騎士達がおりますから防犯に関しても問題ございません」

それに魔物もこの港には現れませんと言われ、グラーフとしても安心できた。

なので素直にクローネを向かわせることとしたのだ。

「——っ!」

「クリス殿。後で聞きます」

桟橋にでも行ってくるといいとウォーレンが口にした後、何かを察したクリスがウォーレンへと驚いた顔を向けた。

後で話すと言ったウォーレンに納得したのかしてないのか、顔つきは不満そうだがそれ以上を言うことは無かった。

「さて、では大人の話をしましょうか」

もう一戦始まる。今度こそ後手に回らぬようにしようとグラーフは気を引き締めた。

「急に桟橋でも見てきたらどうかなんて、意味は分からないけど……」

どう考えてみても、なぜ自分を遠ざけたのかクローネは分からない。

とはいえこの海はとても美しく、見ているだけで癒されるというのは実感できた。

「こんなに綺麗な海。初めて」

しばらく船の上にいたからこそ、久々に自分の足で外を歩くのが嬉しかった。

ハイムは特別な都会だと思っていたクローネだが、この港町マグナに着いてその考えはすっかり変わっている。

「こんなにすごい国の姫を貰っておいてあんなことを仕出かすんだから。ただの馬鹿だったのよラウンドハートは。なんて……口には出せないけどね」

密約の内容を詳しく聞かされていないクローネは、そもそも何故オリビアがハイムに嫁に来たのかも理解できていなかった。

元々エウロからイシュタリカへと渡るのは、船をなんとか用意し冒険者を護衛に雇い渡る予定だった。

そんな時、エウロからイシュタリカの取引の件を聞き、船に乗せてもらえるとなったのは偶然だったのだ。

「……いい天気。風が気持ちいい」

桟橋を歩きながら、美しい海を眺め風を感じていた。

少し服が汚れるけどどこかに座ろうかと考えたクローネは、木箱を見つけそこで休憩しようと考えた。

そして彼の姿を見つけたのだ。

「ア、アイン……?」

見間違えるはずがない。オリビア譲りの綺麗な髪、顔つきは優しいものの少しだけ男らしさ出てきたようだった。体は大きく成長していたが、間違いなく会いたいと思っていたアインだ。

そのアインが昼寝をしていた。

「ふふ……そう。ウォーレン様ね」

クローネは自分を桟橋に行かせた理由を理解した。自分をアインの元へと行かせたのだと。

クリスが若干何か言いたそうにウォーレンを見ていた理由も理解できた。

まだクローネのことを警戒していたのだろう、それは当然だ。

だが今となってはそんな理由はどうでもいい。会いたかった彼のそばに行く。

「あら。腕に宝石なんかつけて」

クローネはアインの手を取って、その手にある紅い宝石を見てみた。

女性からのプレゼント?と考えると内心穏やかではないが、王族だし宝石ぐらいつけるかと納得することにした。

「全くもう。こんなところで昼寝して、頭痛いでしょう?」

周りから見ればふしだらだろうか?未婚の女性が膝を貸すなんて。それともやはり不敬で処罰されるだろうか?アインは王族だ。

こういったことを考えついたものの、彼がこの硬い場所で寝ているのが、どうにも不憫に思えたクローネは、考えた結果膝にアインの頭を乗せることにする。

「久しぶりの再会なのに貴方は寝ているなんて。ほらほらお寝坊さーん?」

指で軽くアインの頬をつつく。くすぐったいようで少し顔を動かすものの、アインが起きる気配は無かった。

「本当にいい御身分よアイン?……あら?そういえば王族なのだからいい御身分だったわ」

自己完結したクローネはアインの髪を少しだけ撫でながら、彼が起きるまで膝を貸すことにした。

「ウォーレン殿?全く……もう少し警戒するべきでは?」

「何も起きないよう大地の紅玉をお渡ししてあるのですよ。っとグラーフ殿の前で正直すぎましたな」

「いや王族なのだから当然でありましょうな。私としても文句があるわけがなく」

「ですがクリス殿?クローネ嬢があんなに傍に……っと、おやおやまさか膝までお貸しくださるとは」

丁度クローネがアインへと膝を貸したのを、ウォーレン達が居る場所から確認することができた。

「まさかあんなことまでしてくださるとは……。大地の紅玉も全く反応しません。だからこそ純粋な好意なのはわかるのですが」

「私なりにクローネ嬢のことを理解した結果傍に行かせたのです。微笑ましい光景じゃないですか、ねぇグラーフ殿」

「確かに微笑ましい。クローネのあのような姿を見られるとは」

ウォーレンにクリスとしても、今日は特別ということにした。

通常であれば王族のあのような姿は見せるわけにいかないが、アインはまだ顔を公表していなかったためだ。

「してウォーレン殿。まだ儂に聞くことがあるとか……」

「あぁそうでした。と言っても聞きたいのは一つです。後程他の者も交えて聞きたいこともありますが、私からはこれで最後です。これから先、グラーフ殿はハイムと縁を切る覚悟をする必要があるかもしれません。それをご理解いただけますか?」

ウォーレンの言葉は重かった。

祖国を捨てられるか?というものだからだ。

だがグラーフの心はエウロを出る前から決まっていた。

「祖国は確かに簡単には捨てられぬ大切な地。とはいえ儂は貴族失格なのだ、国や仕えていた王家ではなく家族……そして孫娘、クローネのことを一番に考えてしまった。そうなれば結果は一つですな」

「悪くない答えですな。それを聞けて私も嬉しく思いますぞグラーフ殿。ついでにもう一つ、お孫さんはもう一人いたはず、それにご子息様たちは?」

「クローネが急ぎ海を渡らねばならなかったのは、ハイム王家からの縁談の申し入れも影響ありましてな。それに一家全員でイシュタリカへ移動した事実があれば、ハイムがまたイシュタリカへと迷惑をかける可能性が出てくる」

その言葉を聞いて、ウォーレンは笑みを浮かべる。

「クローネ嬢の気持ちを考え、アイン様の御傍に連れて行く。そしてクローネ嬢を縁にハイムのアウグスト家を守ることもできる。まさに一石二鳥ですな」

「……恐れ入った。さすがはイシュタリカが宰相殿」

グラーフとしては、クローネの気持ちを尊重できるとともに、そのクローネがアインと仲よくしてくれれば万が一のことがあろうとも、イシュタリカとしてもアウグスト家を邪険に扱わないだろうと言う打算があった。

「我々としてはハイムに良い感情は持っていません。そんな中、ハイム王家第三王子ティグル殿がクローネ嬢に非公式ながら求婚をしたという事実。これは愉快なことになると思っておりました。特にそのことを考えながら、桟橋にいる二人を見ると特に……」

人の悪い笑顔を浮かべるウォーレン。その気持ちをよく理解できたグラーフは、全てお見通しだったことを知って少しばかり開き直ることにした。

「どうにも第三王子は生理的に好まないと、クローネは言ってましたからな」

「はっはっはっは!それはいい」

「なんとも愉快な話ですねウォーレン様」

ついにはクリスも共に笑みを浮かべる。

「これを伝え忘れてましたなグラーフ殿」

ウォーレンが今までの顔つきとは違った、優しい表情を浮かべる。

「ようこそイシュタリカへ。我々イシュタリカはグラーフ殿一行を歓迎いたします」