軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

SIDE:クローネ&グラーフ[前]

「皆様。たった今大陸イシュタルの近海へと入りました」

エウロを出発した海結晶を運ぶ第一便。

その船の中にはグラーフら、アウグスト家の人間たちが同乗しイシュタリカを目指していた。

イシュタリカの予定よりも多く採掘された海結晶を、船一杯に積み入れ順調に海を進む。

「耳にしてましたが、船だと言うのに本当に速いんですね」

「儂も昔、往路のみ乗ったことがある。とはいえ、その頃よりも随分速度があがっているようだ」

「えぇ。グラーフ様が過去乗船されたのは、世代で言いますと3世代前でございます。その頃の船と比べますと安定性も速度も、基本性能は全て上昇しておりますよ」

グラーフたちに案内をしているのはイシュタリカの文官で、宰相ウォーレンの直属の部下にあたる。

貴族用の宿泊部屋にはサロンが設置されており、そこで集まって茶を飲みながら説明を受けていた。

「道理で違いを感じたわけだ。だがこの数十年で3世代も進化するとは、やはりその技術力には恐れ入る」

「数多くの技術者たちが日夜研究しております。彼らのおかげでできた成果でございます」

「そうなんですね。イシュタリカのお方、アイン……いえ、アイン様たちがイシュタリカへと渡った船は、また別の船となるのでしょうか?」

イシュタリカの人間を相手に、アインを呼び捨てにしては印象が悪くなると考えたクローネは、咄嗟に様をつけることでそれを回避した。

「第二王女殿下がお帰りになった際には別の船がハイムへと参りました。プリンセスオリビアと言う姫様専用の船でございます。大きさもこの船よりかは多少大きくなりますが、設備や性能に関して申し上げれば比べ物になりません」

「一目見てみたいわ。ね、お爺様」

「この船を凌駕していると聞いては、確かに気になるな」

「定期的に運行のお披露目がされますので、是非その機会にでもお楽しみいただければと思います」

「なるほど、それはよいことを聞きました」

その運行のお披露目には、イシュタリカ王シルヴァードの専用船ホワイトキングも姿を現す。

大きさや装備そしてその性能は、イシュタリカ国民といえども驚きを隠すことはできない。

「プリンセスオリビアは速度も違うのですか?」

クローネが尋ねる。

「勿論でございます。この船は積載量が多いと言う理由もございますが、それを差し引いても3割ほどは速度が速くなります」

「まさに王家専用船ということだな。どうりで第二王女殿下達が帰国なさった際、迎えが早かったのだな」

文官はそれを聞いて、ニコリと優しく微笑んだ。すると一度咳ばらいをして口を開き直す。

「……さて、ではこれからの流れについてご説明致します。よろしいでしょうか?」

「頼む」

「えぇお願い致します」

この文官が案内に来ていたのは、イシュタリカについてからの流れも説明する予定だったからだ。

いくつかの細かい確認作業などがあるため、港に着いてからもしばらく船の中にいる必要があった。

「まずは身分を確認するためにグラーフ様、そしてクローネ様お二人のステータスカードを確認させていただきます。その後書類を確認頂きまして、サインをして頂きます。内容としては禁止事項やお約束事でございます」

ハイムの大貴族である彼らを迎え入れるため、イシュタリカとしても何かあった時の責任やイシュタリカでの行動についてなど、いくつか確認してもらう必要があった。

「その後、我々も受けることとなる病原菌などの検査を行います。これは事故を防ぐためのこととなります」

「勿論従うつもりだ」

従わなければ悪感情を与えてしまう。それはこれからのことを考えれば意味がないことで、クローネにも不利な事となってしまう。

「感謝致します。そして最後になりますが、私の上司と少々お話をして頂きます」

「承知した。どういった方になるのだろうか?」

「宰相を務めておりますウォーレンが参ります。最終的な口頭での質問をいくつかされると思いますので、それにお答えいただければと」

ウォーレンが足を運ぶことをグラーフは知らなかった。そのため少しの困惑があった。

グラーフの中ではイシュタリカにとってアウグスト家など、辺境の一貴族に過ぎないだろうと考えていたのだ。

そんな辺境の貴族へとわざわざ重鎮である宰相が足を運ぶとは。

「まさかウォーレン殿がいらっしゃるとは」

「別の手段でのイシュタリカ入りでしたら、また事情は変わっていたかと思われますが……今回の場合、姫様とアイン様のお名前が出てのことです。そのため宰相が足を運ぶこととなりました」

「……アイン様は、お元気にしていらっしゃいますか?」

クローネはしばらく連絡も取っていない、どういった状況にあるのかわからないアインについてのことを聞いた。

「アイン様は精力的に武の訓練や、王族として必要な勉学に励んでおります。姫様とも仲睦まじく、楽しそうに過ごしていらっしゃいますよ」

「そう、ですか。ありがとうございました。それを聞いて安心致しましたわ」

答えを聞いて、クローネは笑みを浮かべ礼を言う。

「実は儂はアイン様と直接話をする機会は持てなかったのだ。だから人となりを聞けるのはありがたいことだ」

「では少しアイン様についてお話致しましょう。城内でも評判はとてもようございます。先ほども言ったとおりですが、何よりも努力を惜しむ方ではありませんし、礼儀正しく頭の良いお方です」

「——良かった。変わってないのね、貴方は」

クローネが小さな声で呟いた声は、皆には聞こえていない。

彼女はアインが変わっていないことが何よりも嬉しかった。

「ただ……その、なんと申しましょうか。少しやんちゃな部分はございます。第一王女ととても仲がよろしいのですが、二人でいろいろと企むことや、謎の実験をして小さな騒ぎになることはあります」

クローネが知らなかったアインのことを聞いて、そういうところもあったのねと頷く。

「アイン様が来てからというもの、城内も賑やかでよいことですよ。第二王女殿下もお戻りになって、陛下や妃殿下もお喜びですから」

「……申し訳ないとしか、言えぬな」

ハイムで起こったことで、イシュタリカへと不愉快な思いをさせてきたのは事実だ。

そのことをハイムの大貴族、アウグスト家の者として詫び無いわけにはいかない。

「……様々な事、色々な事情、そして納得できなくとも納得しなければならないことがいくつも起きていました。それをすべて水に流すことはできるはずがありません。ですが前に進む努力をすることは、悪いことではないでしょう。私が今口にできることはこれだけです」

あくまでも冷静に、決して態度を表に出すことなく、イシュタリカの文官はこう口にした。

「イシュタリカに着きましたら、是非まずは港町の風景をお楽しみください。イシュタリカでも有数の港町であり、巨大な都市でございます。多くの新鮮な魚を見ることもできましょう。皆さま楽しめると思いますよ」

「この数十年でどれほど町が変わったのか、楽しみにさせてもらうとしよう」

「私は初めてです。港町の風景を目に焼き付けると致しますわ」

「さて。では私はそろそろお暇すると致します。アルフレッド殿にいくつかの概要をまとめた書類をお渡しします。アルフレッド殿、ご確認いただいてもよろしいですか?」

「承りました」

アルフレッドが返事をし、文官がいくつかの書類を手渡す。

イシュタリカについての事や、いくつかの重要事項が記載されているのだろう。

到着するまでに、事前に確認しておけということだ。

手渡した後、文官は静かに退室していく。

「クローネ。覚悟だけはしておいて欲しい。アイン様は今や大国イシュタリカの王族、簡単に会える人間ではないことを」

「承知してます。でも会えるのを期待するぐらいは……いいですよね?」

数時間が経ち、海結晶を運ぶ船は無事に港町マグナへと到着した。

クローネ達が部屋からみる光景は、まさに圧巻。

ハイムの港町ラウンドハートと比べものにならない規模の広さに、並び建つ家々の美しさ。

泳ぐ魚の姿までよく見えるコバルトブルーの海。そして多くの桟橋やそこに停泊する様々な船。

グラーフとしても過去、ここ港町マグナへと足を運んだことはあったものの、数十年たち更に繁栄していたマグナには衝撃を覚える。

「開いた口が塞がらないとは、こういうことを言うのでしょうねお爺様。こんな町が世界にあるだなんて」

「儂が昔みた光景とも大分変わっている。儂としても同じような気持ちだクローネ」

「……グラーフ様と昔ご一緒したときも考えたことではありますが、今ではその気持ちは更に強くなりました。イシュタリカという国の強さは、ハイムの想像以上です」

アルフレッドが言うことはまさに真理。それほどまでに文化や規模、技術の面で大差をつけられていると町を見るだけで理解してしまったのだ。

「町を歩くだけでも楽しそうです」

「違いないな。いつかここでゆっくりと買い物をしたいものだ」

船の動力が完全に停止したようで、港へと船が固定された。

船が止まった大きな桟橋の近くには、積み荷を降ろすための人員や、細かな確認作業を行うための文官などが数多く待機している。

船から見える小高い場所には、水列車が止まっていた。

「お爺様?あの上に停まっている物は一体」

クローネは列車に関しての知識がなかったため、グラーフへとあれは何かと尋ねた。

「あれは水列車という、イシュタリカでの主な移動手段だ。あれにのって大陸の多くの場所へと移動できるのだ」

「それは便利ですね。その水列車も速度は速いのですか?」

「駿馬であろうとも勝負にはならん。それほどまでの速度を維持して移動し続ける」

「そ、そんな乗り物がイシュタリカには……っ」

ハイムでの移動は、基本的には馬車だった。そのため水列車という、ハイムからしてみればオーバーテクノロジーな代物を見てしまえば、理解が追い付かなかった。

「ですがそんな乗り物では、料金も高いのでは」

「そんなことはない。距離にもよるが、一般的な平民の食事代を出せば足りるほどの金額であるぞ」

「……平民まで利用できるとは。さすがイシュタリカといった所なんでしょうね」

まだ船から降りていないと言うのに、クローネはいくつもの新発見に期待が膨らみ続けていた。

自分もその水列車に乗れるだろうか?どんな乗り物だろうかと考えるとわくわくしていた。

「失礼致しますグラーフ様、クローネ様。到着致しましたのでお降りするための支度をして頂ければと思います」

「あぁ承知した」

「少し前に説明させていただきました、いくつかして頂くことがございます。その作業が終了次第船を降りて頂きまして、宰相と面談をして頂きますね」

「ウォーレン殿か」

遠くハイムに居たグラーフ。そんな彼でも、ウォーレンがどんな人間なのかと考えると緊張が走った。

イシュタリカという大国の文官達のトップであり、王シルヴァードの側近の一人。

その彼から異議を立てられてしまえば、イシュタリカへの受け入れが無かったことにもなりかねない。

そう考えると額に汗が浮かぶのも止められなかった。

「はい。また積み荷を降ろす作業もございますので少々うるさくなるかと存じます。申し訳ないのですがご了承いただければと」

「無論だ。連れてきてくれたことに感謝しているのだからな」

「私もですわ。ありがとうございます」

礼を述べた二人を見て、滅相もございませんと言い笑顔を浮かべた文官。

「皆さまがお持ちになっていたものですが、まとめて我々で降ろさせていただきます。後ほどゆっくりできる場所でお渡ししますね」

グラーフたちが持ち込んだものは生活に必要な物ばかりだ。

数人の護衛と給仕たちの持ち物や、グラーフたちの持ち物を加えるとそれなりの量になっていたため、イシュタリカの好意で積み荷を置く場所へと箱詰めして保管していた。

「重ねて感謝する。箱詰めしてもらったため、ここに持ち込んだものは多くない。もう儂らも出られるので案内を頼みたい」

「承知致しました。それではお連れ致しますね」

特に準備することは無かったため、案内されるまま宿泊していた部屋を出る。

説明されていた通り、道を進むにつれてだんだんと喧騒が大きくなる。

暫く厄介になった船に感謝しながら、グラーフは手続きに向かった。