軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 歪んだ妹たち(2)

「どうか、妹を救ってください」

そう言ってまた「妹案件」を持ち込んできたのは、若い貴族の男だった。

「妹のシャルロットが、私たちの幼馴染である伯爵令息の『病弱な幼馴染』を演じていて…彼にはもう婚約者がいるというのに…」

伯爵令息が婚約してからというもの、ことあるごとに「胸が苦しい」「めまいがする」などと騒いで同情心を誘い、見舞いを強請るようになったのだという。

男爵家の当主である彼は、妹が幼馴染とその婚約者の予定を台無しにするたびに頭を下げ、妹には「嘘は身を滅ぼす」と注意を与えてきた。

「けれどシャルロットは聞かなくて。先方に謝って許してもらうのも、限界で」

そりゃそうだ。

謝られるほうからしたら、「本気で改善する気もないのに謝るな」と言いたくはなる。

「このままでは家全体の信頼が地に落ちます」

信頼を築くのは難しくても、失うのは簡単だ。

「このまま詐病を続けると、あの子が当たり前だと思っているすべてが…我が家のすべてが、崩れかねません」

「ですね。行きましょうか」

私は彼に案内された屋敷で、呼びかけに振り向いた妹に術をかけた。兄にも複数人オプション付きで。

ヒューバート様は、幼いころから私を愛してる。

なのに家の都合で、別のご令嬢と無理やり婚約させられた。

だから私は彼を婚約者から解放してあげるために、病気のふりをした。

でも「ふり」じゃ改善しなかったから、わざと毒草を食べて熱を出したり、下剤を飲んでお腹を下したりするようになった。

もうこれは詐病じゃない。本当に体調は悪いのだから。

結局自作自演がお兄様に見つかって、ひどく叱られ、「ヒューバート様と婚約者のソフィア様に謝れ」って、ヒューバート様の屋敷に連れてこられた。

だけど、大丈夫。

私は身を削ってまでヒューバート様を救おうとしているのだから、報われて然るべきだもの。

ヒューバート様はきっと私を守ってくれる。

そして私たちは二人で幸せに――なるはずだったのに。

ヒューバート様は「もう私に関わらないでくれ」と言い放った。

「どうしてそんなことをおっしゃるの?私を愛しているのに…」

「ソフィアの前で、やめてくれ!何をどう勘違いしたのかわからないが、君を愛してなどいない」

「そんなの嘘ですわ…!小さいころ私にハンカチを貸してくれたり、誕生日には花をくれたりしたではないですか!」

ヒューバート様はふうっと息を吐いて、首を振った。

「それは幼馴染としての付き合いにすぎないよ、シャルロット。私はソフィアと出会ったときから、彼女一筋だ」

「違う…!ヒューバート様はソフィア様に騙されているのです!目をお覚ましになって!」

私はお兄様を振り切って、「ヒューバート様をたぶらかすのも、いい加減になさってくださいまし!」と叫びながらソフィア様に掴みかかる。

ソフィア様は「きゃあ」と倒れて頭を打った。

「ソフィア!大丈夫か…っ!」

大丈夫に決まってる。

ソフィア様はヒューバート様の気を引こうと、わざと倒れたに違いないもの。

「女狐!嘘つき!ヒューバート様から離れなさいよっ」

「シャルロット、やめろ!」

お兄様は私を羽交い絞めにした。

「ヒューバート様は私のものよ…っ!」

「シャルロット、黙りなさい!」

どうして。私は本当のことを言っているのに。

「ローレンス!ソフィアに何かあったら、君もただではおかないからな…!」

「本当に申し訳ありません!妹は修道院に送り、一生外に出しませんから、どうか…!」

私はそうやって、あっという間に修道院に送られた。

何も悪くないのに。

冷たい石壁に囲まれた寒い部屋で、見たことも聞いたこともなかった「二段ベッド」で眠る日々。

「違う…こんなの間違ってる…!ヒューバート様は私への愛を思い出して、いつか絶対迎えに来てくれるはず…!」

毎日毎日窓の外を見つめて、彼が迎えに来てくれるのを待った。

しかし、一年が経ち、十年が経ち、二十年が経っても…誰も来なかった。

「こんなの、間違ってる…」

最期に頭に浮かんだのは、その言葉だった。

「こんなの、間違ってる…」

彼女はまだそう呟きながら、目を開けた。

「シャルロット、見ただろう?お前の悲惨な未来を!このままではお前はああなってしまうんだ。だからどうか、もう馬鹿なことはやめておくれ」

けれど妹は首を振った。そして確信に満ちた笑顔を浮かべる。

「お兄様、大丈夫よ。今見た未来は魔導士が作った偽物。お兄様は騙されているのよ。だってこんなの間違っているもの」

「いえ、私の未来シミュレーションはですね…」

「黙りなさい、詐欺師!人のいいお兄様は騙せても、私は騙せないわ!真実の愛のもとでは、どんな偽りもその姿を現すのだから」

意味がわからない。

妄想のなかに生きていて、現実を都合よく捻じ曲げてしまう彼女とは、まともに会話できる気がしない。

依頼人を見ると、彼は泣いていた。

「妹は…もう手遅れなのか…?」

「…少なくとも、私の力の及ぶところではないようです」

兄はしばらく床を見つめていたが、やがて、血が出るほど強く拳を握りしめた。

「シャルロット、聖マグダレナ修道院へ行きなさい。あそこは、問題を起こした令嬢の更生に定評がある」

「お兄様、何をおかしなことをおっしゃるの。私は問題など起こしておりませんわ」

「いいや、もう散々起こしている」

その度に注意してきた。

変わってくれると信じて。

でももう、彼女は変われない。

もし本当に高位貴族の令嬢に掴みかかって頭を打つような怪我をさせたら、この家の将来が危ぶまれる。

――だから、彼は決断した。

「我が家と我が家に連なる多くの人間たちを守るためには、お前を切り捨てないと」

「お兄様、騙されないでくださいませ!」

未来の前倒しで、修道院に入れられる妹。

私は兄に「妹さんの未来は変わりませんでしたが、あなたとこの家の未来は変えられると思いますよ」とだけ声をかける。

救おうとした妹を結局切り捨てるしかなかったこの兄にとって、慰めになるかはわからないけれど。

店に戻ってくると、先日の依頼人である巨匠…絵画教室の先生が座って待っていた。

「またご依頼ですか?」

「いや、一緒にディナーをどうかと思ってね」

「…なんで?」

「弟子がごっそりいなくなって、暇で暇で死にそうなんじゃ。生徒になってくれとはもう言わんから、食事くらい付き合ってくれんか」

「いいけど、なんで私?」

「友達いないんですか」という私の質問に、巨匠は「芸術家とは孤独なもんじゃ!」となぜか威張る。

まあいいか。

今日はちょっと後味の悪い仕事だったから、誰かと一緒に食事するのも、きっと悪くない。

「奢ってくれるんですよね?」

「何を言うとる。凄腕の商売人が、仕事もない老人にたかるつもりか」

「ええ!?そっちが誘ったのに…」