軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

食事事情について

寮母は私達が食べる様子を、にこやかに見守っている。

しかしながら、ユリウスの細さに気付いたからか、一言物申す。

「あなた、とても細いから、たくさん食べないと」

ユリウスはなんとも複雑そうな表情を浮かべる。

「食事は何を取っているの? 新鮮冷結血漿(フリージング・ブルート) ? それとも 血漿薬(ブルート・メディカメント) ?」

初めて耳にする言葉の羅列だった。

アインホルン聖国の貴族が好む食事なのだろうか。

「いいや、どちらも好まない」

「だったら 生き血(フリッシェス・ブルート) 一択なのかしら?」

「そのようなもの、穢らわしい!! 口にするのもおぞましい!!」

ユリウスがこれまで聞いたこともない大きな声を出したので、驚いてしまう。

「あなた、 菜食主義(ヴェゲタリッシャー) だったのね」

寮母の問いかけに対し、ユリウスは微かに頷いた。

あまり聞かれたくないことなのか、ユリウスは毛を逆立てた猫みたいに思ってしまう。

「無遠慮に聞いてしまってごめんなさいね。でも、大丈夫よ。過去にもそういう生徒がいたから」

寮母はここに務めてから二十五年くらいだという。

その中でも数名、ユリウスと同じように月寮の食事が合わない 優等生(シュトレーバー) がいたそうだ。

「だったら大変だったわね。食事はどうしていたの?」

「個人的に取引している商店の店主に頼んで、保存食を送ってもらっていた」

「そうだったのね」

ここで寮母に相談を持ちかける。ユリウスの朝食と夕食を、どうにかここで用意してもらえないかと。

食材だけでもいい、と訴える。

ユリウスが人混みが苦手で、できれば別室で個人的に食べられるようにしてほしい、という要望も出してみる。

「わかったわ。朝食と夕食をここの管理室で食べることができるよう、申請してみるから」

「ありがとうございます!」

許可が下りるまでしばらくかかる可能性があるようだ。

「明日から断食だから、そのあとくらいになったら結果が出ているはずよ」

寮母はユリウスに、これまでよく頑張ったと声をかける。

「 血漿(ブルート) を主食とする環境の中で、それが食べられないというのは大変だったと思うわ」

「どうして、そこまで理解できる?」

「私も同じだからよ」

なんでも寮母も上流貴族に生まれたものの、皆が当たり前のように口にする〝ブルート〟と呼ばれるものを体が拒絶していたらしい。

成長するにつれて、摂取量が多くなるらしく、成人を迎えた頃には通常の食事を食べないようになるのだとか。

「このままではいけない、死んでしまう。命の危機を感じて、生家を逃げてきたのよ」

寮母はとてつもない苦労人だったようだ。

同じ境遇のユリウスの気持ちは大いに理解できるという。

「安心して。誰にも話さないから」

先ほどのスープは寮母が手作りしたものらしい。

太陽寮に住み込みで働いているらしく、管理部屋の奥が私室になっているようだ。

「断食期間中は私の手料理でも食べにきていいからね」

「何から何まで感謝しかない」

「いいのよ。生徒達のお世話をするのが、私の仕事だから」

頼りになる協力者ができて本当によかった。

ただ、彼らが主食とする〝ブルート〟はいったいなんなのか。

気になったものの、これ以上踏み込んではならない、と自制心が働く。

きっと余所の国の者が知っていい情報ではないのだろう。

知っているような顔をしておくだけに止めておいた。

まあ、何はともあれ、ユリウスの食事問題はなんとかなりそうで、ホッと胸を撫で下ろす。

寮母に感謝し、ユリウスと別れると、部屋に戻ったのだった。

パウウルとフィン、ヘィン、ホィンは驚いた表情で私を迎えてくれた。

「ああ、アルヴィ、よかった!」

皆に心配をかけてしまったようだ。

フィンにどこに行っていたのかと聞かれ、図書室に閉じ込められていたことを打ち明ける。

ホィンはまっ青な顔をして話を聞いていた。

「学校に閉じ込められるって、怖すぎる……!」

何か事情があって帰ってきていないのだろうとフィンが判断し、対策を取っていたようだ。

「夕食の点呼は、ヘィンがアルヴィの真似したら、なんとか誤魔化せた」

「ああ、感謝します!」

食事のさい、きちんと来ているか点呼で確認するのだが、ヘィンが私の振りをしてくれたようだ。今日の点呼係はブラザー・マテオだったという。

担任に対してそのような対応ができるなんて、ヘィンは大物だと思ってしまった。

パウウルは私が食事抜きになったことを心配していた。

「俺の秘蔵のチョコレートをあげようか?」

「いえ、大丈夫です。寮母さんに夕食を分けてもらいましたから」

「そうだったんだ! よかった!」

余ったビスケットを貰ってきたので、感謝の印として配る。

皆、瞳をキラキラ輝かせながら受け取っていた。

ヘィンには私の分まで多めにあげる。

「明日から断食期間に入るから助かる!」

「ヘィン、本当に助かりました」

「いいってことよ!」

その後、奉仕活動をして入浴し、祈りの時間を過ごす。

今日はいろいろと大変な一日だった。

明日こそは平和でありますように。

そう祈りながら、意識を手放したのだった。

翌日――エリザベータがセシリアからの手紙を運んできてくれた。

『まったく、こんなに頻繁に手紙のやりとりをして、鳩遣いが荒いですわ!』

「ごめんなさい」

セシリアからの返信を受け取る。

夫候補を数名挙げてみたのだが、その中でもヨハンが気になるようだ。

予想通り、ユリウスには興味がないらしい。そんな手紙の追伸に、思いがけない要望が書かれてある。

それは、ヨハンの似顔絵が欲しいというもの。

私には絵心なんて欠片もないのに……。

女王陛下の言うことは絶対。従うほかないのだろう。

頑張って描いてみるしかない。

手紙は昨日のうちに書いておいた。ヨハンの追加情報と、それから彼が飲んでいるとあれる赤い錠剤をエリザベータに運んでもらう。

『手紙の一枚を運ぶだけでも大変ですのに……!』

「ごめんなさい」

水浴び用の水を桶に確保しておいたのだ。

それを献上すると、『仕方がありませんわね!』と言って水浴びしたあと、引き受けてくれた。

今度は好物のひまわりの種でも用意しておかなくては。

赤い錠剤と手紙をエリザベータに託し、見送ったのだった。