軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第184話「リアナ皇女とメイベル、準備する」

──数日前、帝都のリアナ皇女は──

「国境地帯へ行く前に、入念な準備をいたしましょう」

ここはドルガリア帝国、帝都。

宮廷の一室で、リアナ皇女は部下に指示を出していた。

「ソフィア姉さまや魔王領の者たちを 驚(おどろ) かせるわけにはいきません。兵の数は最小限に、馬車や衣服も、簡素なものにしてください」

「それでよろしいのですか。殿下」

「はい。ただし、失礼にならない程度に」

リアナは 凜(りん) とした表情で、告げる。

決意に満ちたその姿に、メイドや兵士たちがため息をつく。

彼女はまさに、帝国民が理想とする『聖剣の姫君』そのものだった。

リアナの望みは、ソフィアとトールのもとで素直な自分をさらけ出すことなのだけれど。

「ディアス兄さまはおっしゃいました。間もなく魔王領へ使者を送ると」

リアナは続ける。

「私がそれに同行することは、すでに内定しております」

「──おお」

「──『聖剣の姫君』が使者に同行されるとは」

「──それほど重要な使命ということか」

部下たちがざわめく。

それを抑えるように、リアナは手を振る。

静かになった部下たちに向けて、リアナは、

「使者の 随行員(ずいこういん) である私は、きちんとしていなければいけません」

きっぱりと、宣言した。

「姉さまたち──いえ、国境地帯にいるお方や、魔王領にいるお方に恥ずかしくないようにしなければいけないのです! 同行する者は服をバリッと──いえ、ちゃんと整えるように。メイドたちは、私の身支度をサクサク手伝うように。わかりましたか!?」

「「「承知いたしました。殿下!!」」」

部下たちが一斉に唱和する。

そうしてリアナ皇女は、ソフィアとトールに会うための準備を始めるのだった。

──素材採取に向かったメイベルたちは──

『「迷いの森」を抜けるには、きちんとしないと駄目なんだよー』

森の中で『ご先祖さま』は言った。

『そのためには、きちんと動物になりきる必要があるのさ。だからメイベルくんは、ここで服をすべて脱いだ方がいい。その後、素肌の上から、動物に化けられるパジャマを着れば、森を抜けられると思うよ』

「え、えええええええっ!?」

メイベルは思わず声を上げた。

エルフの村を出てから数日後、メイベルたちは『迷いの森』の試練の場所にたどり着いていた。

『動物になりきると通れる場所』だ。

素材を手に入れるためには、まずここを突破しなければいけない。

そう考えたメイベルは『間違いなく通れる方法を教えてください』と『ご先祖さま』にお願いした。

その答えが『一度、服をすべて脱ぐこと』だったのだ。

『ご先祖さま』は説明を続ける。

──かつて『精神感応素材』を手に入れたエルフが、ここを通過したこと。

──そのエルフは道に迷いすぎたせいで、服が破れて、裸同然の姿だったこと。

──さらに理性を失って、動物のようになっていたこと。

──そうやって『迷いの森』を通過していたこと。

『だから、ここを通過するなら、パジャマの下は何も着ない方がいいのさ』

『ご先祖さま』は言った。

『だって動物は服を着ないだろう?』

「そ、そうですけど」

『姿かたちは「なりきりパジャマ」でごまかせる。でも、ここはドラゴンが作った結界だからね。君たちの本質も、少しは見抜いてしまうんだよ。だから──』

「パジャマの下は裸でなければいけないということですか」

『幸い、ここにいるのは全員女の子だ。気にする必要はないさ』

「……はい」

メイベルはうなずいた。

金色狼のカロティアさんは女の子。

護衛の 羽妖精(ピクシー) たちも、全員女の子だ。

みんなの前で服を脱いでも問題ないはずなのだけど──

「「「「 錬金術師(れんきんじゅつし) さまのためにーっ!」」」」

すぱーんっ!

メイベルがそんなことを考えている間に、羽妖精たちが服を脱ぎ捨てていた。

一瞬だった。迷いなんて、一切なかった。

勢いに任せてそうしたあと、羽妖精たちはていねいに服をたたみ始める。

彼女たちの服はトールが与えた『 魔織布(ましょくふ) の服』だ。雑に扱うことはできないのだろう。

たたんだ服を手に、羽妖精たちはメイベルのところにやってくる。

メイベルは服を受け取って、『超小型簡易倉庫』に収める。

その間に羽妖精たちは、猫型の『なりきりパジャマ』に着替えていく。

迷いなく準備を進める羽妖精たちに、メイベルは──

(私はトールさまの第一の部下です。ためらっているわけにはいきません!)

それに、メイベルはトールの婚約者でもある。

正確には婚約者のひとりではあるけれど、トールを想う気持ちは誰にも負けない。

たぶん──魔王ルキエにも。

まぁ、 羽妖精(ピクシー) たちは、勇者がこの世界に来る前は裸で暮らしていたから、友だちの前で服を脱ぐことに抵抗はないのだろうけれど、それはそれ。

これは、メイベルの覚悟とプライドの問題なのだ。

(それに、トールさまがここにいらしたら、私は迷わなかったはずです)

それは断言できる。

逆にメイベルがトールを急かしたかもしれない。

お互い背中合わせで服を脱いで……トールの服をメイベルが預かって、たたんで、お互いの体温が残る服を一緒に『超小型簡易倉庫』に収めて。

そのときうっかりトールの、意外とたくましい背中が見えたりして、

その後は、お互い素肌に『なりきりパジャマ』を着ただけの姿で、並んで歩いて──

ぼっ。

メイベルの顔が真っ赤になった。

「変なことを考えてしまいました。私には立場と使命があるのに……」

「よくわからないけど、気にすることないんじゃない?」

金色狼の『ご先祖さま』は首をかしげた。

「亜人も人間も、動物みたいに、心のままに生きればいいんだよー」

「それは森を抜けてから考えます」

「がんばって。わたくしは君の味方だよ!」

「……うぅ」

なんだか、顔が熱くなる。

それどころか、身体まで。

(……そういえば羽妖精さんのルネさんが、不思議なことを言っていました)

メイベルは以前、羽妖精の森で聞いた言葉を思い出す。

確か、こんなセリフだったはずだ。

『ソレーユはすでに、錬金術師さまが作られたお風呂に入り、錬金術師さまが作られた服をまとっております。つまり、生まれたままの身体を、錬金術師さまに抱きしめられているのも同じです』

──と。

(私もトールさまのお風呂に入って、トールさまのパジャマを着ています。ということは……)

ふるふるふるふるっ。

あわててメイベルは 頭(かぶり) を振る。

すでに身体は熱くなり、パジャマの下に汗が浮かんでいる。

これ以上、トールさまのことを考えるのは危険──そう判断して、メイベルは服を脱ぎ始める。

『なりきりパジャマ』を足元に落として、下着姿に。

それから『ご先祖さま』の指示通りの姿になり、再び『なりきりパジャマ』を身につける。

(……私は動物です。動物になって、この森を抜けるのです)

そうして『ドラゴンの骨』を見つけて、トールの元に持ち帰るのだ。

(メイベル・リフレイン。トールさまの助手として、きちんと仕事をこなします!)

「わんわんっ!」

「うん。わぅわぅわん。だよ!」

「「にゃんにゃんにゃーんー!!」」

「「行ってらっしゃいです──っ!!」」

先頭を進むのは金色狼の『ご先祖さま』

その後ろに銀色の犬になったメイベルと、猫になった羽妖精ふたりが続く。

残るふたりの羽妖精は、荷物係だ。

彼女たちの役目は『チェーンロック』で固定された『超小型簡易倉庫』を守ること。

だったら『なりきりパジャマ』を着る必要はないのでは? と、 訊(たず) ねると『『覚悟の問題なのですー』』という答えが返ってきた。そういうことらしい。

(待っていてください。トールさま。私、がんばりますから!)

「わぅわぅ────ん!」

森に、メイベルの遠吠えが響き渡る。

そうしてメイベルは『ご先祖さま』や羽妖精と共に、『迷いの森』の最奥へと向かうのだった。