軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第161話「勇者世界の研究者に挑戦する」

──トール視点──

ここは『ノーザの町』の宿屋。

探索を終えて町に入ったあと、俺たちはソフィア皇女の手配で、宿を借りることになった。

箱の分析をするためだ。

エルテさんと、ライゼンガ領の兵士さんたちは、町の宿舎にいる。

兵士さんたちが人の町に入るのは初めてだから、年長者であるエルテさんが面倒を見る、ということにしたらしい。

そんなわけで、俺たちは一軒家を借りて、しっかりと休みを取った。

一夜明けて、俺とメイベルとアグニスは、リビングに集まっていた。

本当ならこれから、『例の箱』の分析をしなきゃいけないんだけど──

「箱の分析って、もう終わっちゃってるんだよなぁ……」

素材は『鑑定把握』スキルで確認した。

あの箱は主に鉄と、異世界の『コンクリート』という素材で作られていた。

『コンクリート』は──『通販カタログ』に情報が載っていたからわかる。

『コンクリート面をきれいにするブラシ』とかあったからね。

あの素材は、勇者世界の建物に使われているらしい。

この世界にも似たようなものがあるかもしれない。あとで調べてみよう。

箱のロック機構も理解した。

説明書に図解が載っていた。あれを参考にすれば、再現できると思う。

というわけで──

「とりあえずごはんにしようよ」

「そうですね」

「朝はしっかり食べて、体調を整えておくべきなので」

食材は、さっきドロシーさんが届けてくれた。

肉と卵、帝国北方で採れる野菜などだ。

ただ──

「野菜は、あまり新鮮ではありませんね」

「魔王領で採れるものの方が立派なので」

メイベルとアグニスは首をかしげてる。

このあたりは帝国の端だ。魔獣が多いせいで、開拓もそれほど進んでいない。

ぶっちゃけ、農作物に限れば、魔王領の方が豊かなんだ。

「魔王領はいろんな種族の人がいるからね。それに合わせて、いろんな食材が採れるようにしてるんだっけ」

「そうですね。種族ごとに畑や、採取するエリアが決まってるようです」

「魔王城の調理人さんも、種族ごとに献立を変えているくらいなので」

「食事は大事だからね……って、あれ?」

気づくと、メイベルとアグニスが、じーっとこっちを見てた。

まずい。この流れは──

「はい。食事は大切です。ですからトールさまも、この町にいる間はしっかり休んで、お食事を 摂(と) ってくださいね」

「規則正しい生活をして欲しいので」

「……わかりました」

俺がうなずくと、メイベルとアグニスは笑った。

ふたりには心配をかけてるからなぁ。

特にメイベルがいなかったら、俺はまともな生活を送れてなかったかもしれない。

「俺も料理を手伝うよ。食事の大切さを実感する意味も兼ねて」

「よろしいのですか?」

「今はルキエさまからの返事待ちだからね。手は空いてるんだ」

「わかりました。それで、トールさまはどんなお料理がお得意なのですか?」

「そうだなぁ。帝都にいたときは、パンをスープに浸して食べてたな」

「どんなスープでしたか?」

「市場で安い野菜を買って、それを煮詰めて──」

「……今日は栄養たっぷりなメニューにしますね」

メイベルはなにかを悟ったような表情で、うなずいた。

「では、サラダ作りを手伝っていただけますか?」

「いいよ。なにをすればいいかな?」

「 茹(ゆ) でたおイモがありますから、潰してください」

「ポテトサラダ用だね」

「はい。お願いしてもよろしいですか?」

「もちろん」

俺が応えると、メイベルはイモが入った木製の器を渡してくれる。

皮はむいてある。これを潰せばいいな。

「それじゃ、リビングのテーブルでやってるから、用事があったら呼んでね」

「お願いしますね」

「アグニスはスープを作りますので」

「よろしくね。アグニス」

俺はリビングに移動した。

目の前にはイモが入った木製の器。手にはイモを潰すための棒がある。

がんばろう。

「ところで、トールさま」

「どしたのメイベル」

「『異世界の武器の資料』は、まだソフィア皇女さまが持っていらっしゃるのですよね?」

「うん。ルキエさまの許可が出たら、『例の箱』と資料を交換することになってる」

「どんなすごい武器の資料なのか、気になりますね」

「なんたって『超高振動ブレード』だからね」

「『超高振動』……つまり、激しく揺れる剣、ということでしょうか」

「そうだと思うよ」

俺はうなずいた。

「おそらく、かなり強力なものだと思う。異世界には振動を利用したアイテムがあるからね。その集大成と言ってもいいんじゃないかな」

「『フットバス』もお湯を振動させて、身体を 癒(い) やすものでしたね」

「勇者世界はいち早く、振動が生み出す効果に気づいていたんだと思う」

「すごい世界ですね……」

「勇者の故郷だからね」

「ところで、トールさま」

「うん」

「さっきから、リビングのテーブルが小刻みに揺れているようなのですが……」

「ごめん。うるさかった?」

「いえいえ。でも……こちらからはトールさまの背中しか見えないのですが、手元で一体なにをなさっているのですか?」

「イモを潰してるよ」

「そうですよね。おイモを潰していらっしゃるのですよね」

「うん。高振動だから、すごくよく潰れる」

「そうですか。高振動ならよく潰れますよね──って、え、ええええええっ!?」

「『高振動ブレード』がもうできたので!? ト、トール・カナンさま。すごいので……びっくりしましたので!!」

「わぁっ。アグニスさま。興奮しないでください。今は『健康増進ペンダント』をオフにしてご自身の炎で料理を……わ、わわわ。アグニスさまの服が」

「だ、大丈夫なので! ワンピースは『地の 魔織布(ましょくふ) 』でできているので──」

大騒ぎになった。

「……びっくりしました」

「……まさかトール・カナンさまが『高振動アイテム』を作られているとは思わなかったので……」

「びっくりさせてごめん」

テーブルの上には、小さなハンマーがある。

木製で、先端には潰れたイモがくっついてる。

ちなみに、器に盛られた山盛りのイモは、みんなきれいに潰れてる。

潰し残しはひとつもない。みんなきめ細かく潰れて、ひとつの塊になっている。

念入りに潰したから、舌触りもいいはずだ。たぶん。

「このハンマーは実験用に作ったものだよ」

俺は木製のハンマーを、ふたりに差し出した。

「剣だと、どんな効果が出るかわからないからね。めちゃくちゃ切れ味がいいかもしれないだろ。例えば、なんでも切れる剣ができあがって、うっかり落としてしまったら……」

「床にめり込んでいくかもしれませんね」

「そのまま、地中へと沈んでいくかもしれないので……」

俺とメイベル、アグニスの顔が青ざめる。

なんでも切れる剣なら、そういうことも起こるかもしれない。

手を離れたが最後、地面に落ちて、地中へとどんどん潜っていって、最後には地の底にたどり着く。そんな可能性もあるんだ。

「だから安全性を考えて、まずは木製のハンマーで試してみたんだよ」

「『高振動ブレード』を作るときの参考にするためですね?」

「うん。資料が手に入ったら、すぐに作れるように」

アイテムを振動させることから始めようと思った。

その結果、試験的に作ったのが『振動ウッドハンマー』だ。

武器を振動させるとどんな効果があるか、確かめたかったんだ。

『振動ウッドハンマー』には『風の魔石』と『水の魔石』を組み込んである。

風はゆらぐもので、水は波を起こすものだからね。

それを圧縮してパワーアップさせて、高速で振動させるこはできたんだけど……武器としては、あまり効果はなかった。

鎧や盾に当てるとうるさいけど、それくらいだ。

今のところ、有益な効果は──

「とりあえず、調理道具としては優れているみたいだね」

「あっという間におイモを潰してしまいましたからね。先端に棒をくっつければ、卵をかき混ぜることもできそうです」

「肉を叩いてやわらかくすることもできそうなので」

「メモしておこう」

『振動ウッドハンマー』の効果。

(1)イモをすごいスピードで潰せる。

(2)卵を効率よくかき混ぜられる。

(3)肉を叩いてやわらかくできる。

「ありがとう。参考になったよ」

「あの……トールさま」

「うん」

「どうして今、アイテムの振動実験をされたのですか?」

「『高振動ブレード』が気になるからだよ」

「でも、明日には魔王陛下からの書状が来ますよね? そうすれば、異世界の武器の資料が手に入るはずです。それから実験をされてもよかったのでは……」

「…………それだと、なんとなく悔しいから」

俺は言った。

「俺も『通販カタログ』で異世界のアイテムに触れてる。多少は、あっちの世界のマジックアイテムに詳しくなってると思うんだ。だから、異世界の研究者に挑戦したくなったんだよ」

俺の目的は『勇者の世界を超えること』だ。

いつかは『通販カタログ』を超えるアイテムを作らなきゃいけない。

そのために、今回は『高振動ブレード』というヒントだけで、どれだけ異世界の研究者に近づけるか、試してみることにしたんだ。

『高振動』を取り入れたアイテムを作って、研究者の思考をトレースする。

それで完成したアイテムが『高振動ブレード』を超えるものなら、俺は、勇者世界に一歩、近づいたと言える……そんな気がするんだ。

「……すごいです。トールさま」

メイベルはきらきらした目で、俺を見ていた。

「トールさまは、いろいろなやり方で勇者世界に近づこうとなさっているのですね……心から尊敬いたします……」

「ありがとう。じゃあ、この『振動ウッドハンマー』は、メイベルにあげるよ」

「よ、よろしいのですか!?」

「料理に使えるみたいだからね。活用してくれたらうれしいな」

「は、はい! これでトールさまのごはんを作ってさしあげます!」

そう言ってメイベルは、ひだまりみたいな笑顔を見せてくれた。

「……じーっ」

ふと横を見ると、アグニスがじーっとこっちを見てた。

「アグニスも、トール・カナンさまを尊敬してますので! 実験のお手伝いも、しますので!」

「う、うん」

「だから『振動ウッドハンマー』を……あ、でも、アグニスだと、うっかり燃やしてしまうかもしれませんので……」

「それは気にしなくていいよ。作り直せばいいだけだから」

俺はアグニスに、予備の『振動ウッドハンマー』を渡した。

それと、念のため別のものも渡しておこう。

「アグニスにはこれもあげる。いざという時に使ってみてくれないかな?」

「これは……布製のベルトなの?」

「『低周波ベルト』だよ」

「『低周波ベルト』?」

「『通販カタログ』に『低周波治療器』というのがあったから、『振動』の参考にするために作ってみたんだ。波もある意味、振動みたいなものだから」

「どういうものなので?」

「魔力を注ぐと、すごく弱い『雷の魔術』を発生させるようになってる」

俺は『低周波ベルト』に魔力を注いだ。

ぴりり、と、小さな雷が発生した──はずだ。

かなり出力を弱くしているから、目には見えないけど。

「……これって、どういうものなの?」

「『低周波』というものを送り込んで、筋肉を動かすものらしいよ。そうやって『石のように固くなった』身体を、やわらかくするんだって」

「──ということは、これは……」

「石化解除用のアイテムだろうね」

コカトリスを初めとして、石化能力を持つ魔獣はたくさんいる。

石化のブレスや攻撃を受けると、身体は石と化してしまう。

魔術で回復した者に聞くと、石化の間は意識も途切れてしまうらしい。

石化を解除する力を持つ者もいるけれど、数は多くない。

解除の魔術は『身体の内部を目覚めさせる』ものらしい。

石と化した身体の内部に働きかけて、生命力を呼び覚ますそうだ。

おそらく『低周波治療器』は、それと同じ能力を持っている。

低周波で筋肉を動かすことで『身体の内部を目覚めさせる』

そうやって、石化能力を解除するんだろうな。

「まぁ、まだ生き物での実験はしてないから、効果はわからないけどね」

時間があるときに、魔獣で実験をしてみよう。

それまでは、ただの武器だ。

「でも、これでどうやって『ハード・クリーチャー』と戦うのでしょう?」

「これは出力を上げると、すごい雷の魔術が発動するようになってるよ。魔獣の身体に巻き付ければ、かなりの威力があるはずだ」

「すごいです! それなら『ハード・クリーチャー』も倒せますね!」

「うん。でも、それは『高振動ブレード』の戦い方とは違うと思うんだ……」

雷系の魔術を使うのに、わざわざ『高振動』と書いたりはしないだろう。

『低周波』はやっぱり、『高振動』とは関係ないんだろうか。

勇者世界のアイテムは奥が深いな。

「これは、防御用のアイテムだと思うので」

不意に、アグニスがつぶやいた。

「これを身体に巻き付けると、筋肉がぴくぴくするのですよね? だったら、魔獣の身体に巻き付けて、低周波を送り込めば……」

「魔獣の身体は、びくん、となって、攻撃ができなくなる?」

「アグニスはそう思うので」

一理あるな。

『魔獣ガルガロッサ』だって、皮膚の向こうには筋肉があった。

あいつの身体に『低周波ベルト』を巻き付けて起動すれば、奴の身体は、びくん、と 痙攣(けいれん) を始める。本人の意志に関係なく身体が動くわけだから、攻撃なんかできるわけがない。

「『低周波』を送り込まれた魔獣の身体は、きっとびくびくし続けるので。つまり、それは『魔獣の身体が振動』し続けるということなので……」

「『魔獣を高振動させる』武器ってことになるのか……」

「は、はい。でも、間違ってるかもしれないので……」

「ううん。十分参考になったよ」

相手を捕獲したい場合は『低周波』にして、動きを封じる。

相手を倒したい場合は出力を上げて、雷系の魔術を長時間送り込む。

そうして魔獣の身体を『振動』させるのが、『低周波ベルト』の役目なのかもしれない。

『振動ウッドハンマー』と『低周波ベルト』については、レポートを書いておくことにしよう。

ルキエやケルヴさんに見せれば、いい意見をもらえるかもしれない。

「──と、いうわけで、異世界の研究はここまでだね」

俺は、ぽん、と手を叩いた。

「邪魔してごめん。料理の続きをしよう」

「は、はい。トールさま」

「そ、そうでした。スープが途中だったので」

それから俺たちは、並んで料理を続けた。

サラダ用のイモは、すごくきめ細かく潰れていた。

さすが『振動ウッドハンマー』の効果だ。

「……そういえば、おイモはまだ残っていましたね」

ふと、メイベルがつぶやいた。

「ミルクもあります。せっかくなので、おイモのスープを作るのはどうでしょう。普通なら煮崩れするまで煮ますけど……潰してからスープに入れて、とろとろになるまで煮るのも美味しそうです」

「メイベルは『振動ウッドハンマー』を使いたいんだね?」

「わかりますか。トールさま」

「そりゃわかるよ。メイベルのことだから」

「……そうですか」

メイベルはちょっぴり照れた顔。

アグニスはさっそく火をおこして、追加のイモを煮はじめる。

ほどよく煮たところで、取り出して……って、あれ? 俺は手伝わなくていいの? 火傷すると危ないからですか。そうですか。

そうして、イモを器に移したら『振動ウッドハンマー』の出番だ。

カタカタカタカタカタカタカタ……。

『振動ウッドハンマー』が、キッチンのテーブルを揺らしていく。

それに合わせてメイベルの身体もかすかに揺れる。

「す、すごぉいぃでぇす。みるみるおイモが潰れていきますすすすす」

振動のせいで、メイベルの声は変な感じになってる。

アグニスはメイベルの後ろに回り、彼女の肩に手を乗せる。

振動がどんな感じなのか気になるみたいだ。

「あぁあぁあ、た、し、か、に。振ぃ動ぅのぉせぇいぃで変な声になるのででで」

「おぉもぉしぃろぉいぃですぅ」

「ウッドハンマーの柄を握る手から、少し力を抜くといいよ。ぎゅーっと握ってると、振動が直に伝わってくるから」

「いぃえぇ、こぉれぇはぁ、こぉれぇでぇ、面白いです」

「そぉうぅなぁのぉでぇ」

身体が揺れるたびに──ふたりの胸も小刻みに揺れてる。

気にしないようにしてるつもりだけど……時々、どうしても目が行ってしまう。

……とりあえず、俺はサラダの仕上げに集中しよう。うん。

そんな感じで、食事の用意は進んでいき──

「「「いただきます!」」」

しばらくして、料理は完成。

俺たちは遅い朝食を楽しんだ。

『振動ウッドハンマー』で作ったポテトサラダとスープは、すごく美味しかった。

魔王城に戻ったら、このハンマーを料理人さんに渡してみよう。

たぶん、よろこんでくれると思う。

「にゃーん」

「あれ? おはよう。ソレーユ」

「おはようございますなのよ」

ふと気づくと、足元に白猫モードのソレーユがいた。

声を掛けると、フードを外して羽妖精の姿になる。

『なりきりパジャマ』を、文字通りのパジャマとして使ってるみたいだ。

「ソレーユも一緒に食べる?」

「いただきますの」

ソレーユは宙を飛んで、水場に向かう。

そこで手と足を洗いながら、彼女は、

「そういえば、皆さまはこれからどうされますの?」

「俺はルキエさまからの連絡待ちかな。それまで『ノーザの町』を回ってみようかとも思ってるけど」

「よろしければ、ソレーユが案内いたしますのよ?」

そう言って、ソレーユは俺の膝の上に腰掛けた。

「ソレーユは何度もこの町に来ておりますの。案内役なら任せていただきたいのよ」

「そっか。じゃあ、お願いしようかな?」

「承知いたしましたのよ」

「メイベルとアグニスも一緒に行かない?」

「すいません。アグニスは兵舎の方に顔を出さなければいけないので」

アグニスは残念そうにつぶやいた。

彼女は、『火炎巨人』の 眷属部隊(けんぞくぶたい) の隊長でもある。

だから、部隊の様子を見に行かなければいけないらしい。

「あ、でもでも。お仕事が終わったら合流しますので」

「うん。わかった。じゃあ、メイベル」

「は、はい! わ、私は命をかけて、トールさまを護衛しま──」

「そこまで気負わなくていいからね」

俺としてはメイベルに、町歩きを楽しんで欲しい。

メイベルは魔王領をほとんど出たことがないからね。いい機会だと思うんだ。

『部分隠し用ヘアーピース』を使えば、人間のふりもできるから。

……俺もメイベルと一緒に、町を歩いてみたいし。

「それじゃ、一緒に町を歩いてみよう。人間の世界がどんなものか、俺が案内するから」

「お、お願いいたします。トールさま」

「うん」

俺はメイベルの手を取った。

こうして、俺とメイベル (と、白猫モードのソレーユ)は、『ノーザの町』を回ることにしたのだった。