軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第152話「魔王領・『ノーザの町』合同部隊、行動を開始する」

──トール視点──

ルキエに『例の箱』を持ち去った者の情報を伝えてから、数日後──

俺の工房に、ルキエから書状が届いた。

内容は、次の通りだ。

──────────────────

『例の箱』を持ち去った者を見つけ出すため、捜索チームを作ることとなった。

メンバーは6名。

魔王領と『ノーザの町』より、3名ずつが参加することとなる。

文官エルテ、錬金術師トール、エルフのメイベルは、魔王領側のメンバーとして参加せよ。

『ノーザの町』側は、ソフィア皇女と、レディ・オマワリサン部隊の者たちが参加するとの回答が来ておる。

重要な件ゆえ、皇女自身で状況を確認したいらしい。

チームを少数にしたのは、極秘に捜索を行うためじゃ。

参加メンバーは旅人を装い、北東にある『ザイガンの町』へ潜入し、調査を行ってもらうこととなる

また、護衛部隊が距離をおき、後詰めとしてついていく。

護衛部隊との連絡は、 羽妖精(ピクシー) を介して行うがよい。

これはトールと、アグニスの間で行うのがよいじゃろう。

なお、くれぐれも無理はせぬようにな。

箱など、『メテオモドキ』で破壊してしまっても構わぬのだ。

大事なのは物ではなく、人じゃ。それを忘れぬように。

──────────────────

──以上だ。

「さすがルキエさま。的確な判断だな」

俺はテーブルに書状を広げて、メイベルやアグニスと一緒に読んでいた。

「やっぱり重要なのは物じゃなくて人だよね」

「そうですね。陛下の方針は『人材を活かして国を富ませる』ですから」

「となると、俺は人命を守るためのアイテムを作る必要があるな。うん」

なにを作ろっかなー。

汎用性(はんようせい) のあるアイテムがいいかなー。

最近は 徹夜(てつや) をしてないからな。

数日くらい、時間すべてを作業に使ってもいいよね。

出発までにはまだ日があるから……がんばればマジックアイテムが5個くらいは作れるはずで──

「トールさま。人命を守るには、今までお作りになられたアイテムで十分だと思いますよ?」

不意に、メイベルが言った。

彼女は胸元のペンダントに触れながら、困ったような顔をしてる

「アグニスも護衛として、いつでも駆けつけますので」

メイベルの隣では、アグニスが拳を握りしめてる。

「それに、捜索チームが人命をないがしろにすることはありません。魔王陛下も『例の箱』など破壊してもかまわないとおっしゃっていますから」

「トール・カナンさまが無理をされることはないので」

じーっと俺を見つめながら、心配そうにつぶやくメイエルとアグニス。

「あのさ、ふたりとも」

「「はい」」

「俺が 徹夜(てつや) でアイテム作りをすると決めつけてない?」

「「しないのですか?」」

「それはさておき、今回の相手は得体が知れないね」

俺は話を 逸(そ) らすことにした。

「まずは帝国の調査部隊がいる。あいつらはかなりの手練れだ。ソフィア皇女の宿舎と、交易所にも侵入してるくらいなんだから」

「そ、そうですね」

「 隠密行動(おんみつこうどう) が得意な部隊なので」

「『MAXすべすべ化粧水プレミアム』と『五行防衛陣 威嚇(いかく) ・飛び出し型』で対処できたけど、次も同じ手が通じるとは限らない」

帝国の調査部隊は、たぶん、別働隊がいる。

理由は──ソフィア皇女の宿舎に入り込んだ連中が彼女のことを『不要姫』と呼んだからだ。

『不要姫』とは皇位継承権を持たないソフィア皇女への 蔑称(べっしょう) だ。

けれど、帝国民はそんな言葉は使わない。不敬にあたるからだ。

でも、普段からソフィア皇女のことを『不要姫』と呼ぶ人間が側にいたなら、それが移って、思わず口に出すこともあるだろう。

たとえば皇帝一族──ソフィア皇女の兄弟姉妹とか。

だから、帝国の調査部隊には別働隊がいて、それを皇子か皇女が率いている可能性がある。

ソフィア皇女と魔王ルキエは、そんな推測をしたんだ。

「他にも『例の箱』を持ち去った連中の問題もあるからね。あいつらについては、ほとんど情報がないんだから」

俺としては、そっちの方が危険だと思ってる。

あいつらは帝国兵たちを出し抜いて、『例の箱』を持ち去った。

あれが計画的なものだとすると、連中の中には策士がいる。

警戒しておくに越したことはないんだ。

「そんなわけで、俺は24時間体制──じゃなかった、できるだけがんばって、5つくらいアイテムを作ろうと思ってたんだけど……」

でも、メイベルとアグニスを心配させるわけにはいかないか。

ルキエからも『 徹夜(てつや) 禁止令』を受けてるからね。

『夜とは暗いものです。無数の灯りで部屋を昼間のように明るくすれば、厳密な意味では夜じゃなくなります。その中で作業をすれば徹夜とは言わないのです』──と、書状で言い訳したら、魔王城に連行されそうになったからなぁ。

あれは危険だった。魔王ルキエの本気を感じたんだ。

「作業時間は減らすよ。安全のためのアイテムは、ひとつかふたつにしておこうと思う」

「はい。私も全力でトールさまをサポートいたします」

「護衛部隊は『レーザーポインター』を装備していくので。トールさまの敵は、超長距離から狙撃してみせますので」

「頼りにしてるよ。ふたりとも」

一番いいのは、敵と出くわさないことだ。

そのためのアイテムを作っておきたい。

「帝国部隊は強力な隠密スキルを持っている。となると、奴らは仲間の位置を把握するために『気配察知』スキルも持っているはずだ。だから、あいつらに見つからない工夫をしておきたいんだ」

俺はメイベルとアグニスの前に、通販カタログを広げた。

「そこで、こっちも隠密行動ができるようなアイテムを探してみたんだ」

「そんなものがあるのですか?」

「うん。ちょっと応用が必要だけどね」

さすがは勇者世界だ。俺の考えるようなものは、すでに実現している。

その理論は利用すれば、役に立つアイテムができそうなんだ。

「それがこの『ノイズキャンセリング・ヘッドフォン』だよ」

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「雑音を消す技術ですか!?」

「勇者の世界は、こんなものまで開発していたので……」

「俺もおどろいてるよ」

このヘッドフォンは『ヘッドフォン内にあるシステムで、外からのノイズを打ち消している』らしい。

しかも、 兜(かぶと) よりもはるかに小さいアイテムの中で。

本当におそろしいな。勇者世界の技術は。

「トールさま。これはどんな用途に使うものなのでしょうか?」

「自分が 雑音(ノイズ) だと思うものをカットしてくれるわけだから……たぶん、集団戦をするときに使ってたんじゃないかな?」

「集団戦のときに、ですか?」

「はい! わかりましたので!」

アグニスが手を挙げた。

「集団戦では、指揮官の指示が重要になるの。でも、足音やまわりの声、魔獣の雄叫びが、指揮官の指示をかき消してしまうことがあるので……」

「まさか……そのための『ノイズキャンセリング』ですか?」

メイベルが、はっとした顔になる。

「ノイズ……つまり、指揮官の指示を的確に聞くために、不要な音をすべてカットしてしまうと……」

「メイベルの言う通りだと思う。説明文には『あなたの邪魔をするノイズをカットしてくれます』って書いてあるから」

戦場はノイズであふれている。

足音や、 鎧(よろい) がぶつかる音、剣の打ち合う音、敵の叫び声──様々だ。

ノイズが邪魔で、指揮官の声が聞こえないのもよくある。

だから指揮官は指示を出すために 太鼓(たいこ) や 鐘(かね) を鳴らしたりするわけだから。

でも、ノイズをすべて打ち消すことができたら、戦闘のやり方はがらりと変わる。

兵士たちは指揮官の声だけを、クリアに聞き取ることができる。

指揮官は兵士たちに、細かい指示を伝えられる。

仲間同士の連携だって、はるかにやりやすくなるはずだ。

『前進』『退却』を告げる太鼓や鐘もいらなくなる。

指揮官は、めまぐるしく変化する戦場の状況に合わせて、部隊ごとに──下手をすれば兵士ひとりひとりに指示を下すことができるからだ。

戦場の状況を正確に伝えて、兵士たちを落ち着かせることも可能だろう。

それは大きなアドバンテージになるはずだ。

「勇者世界では『ノイズキャンセリング』が使えるかどうかが、戦況を左右していたのかもしれないね」

「……あり得る話ですね」

「……戦闘民族の勇者たちは、聴覚までもいじっていたので……」

魔王領の兵士すべてに『ノイズキャンセリング・ヘッドフォン』を与えることができたら、たぶん、この世界の戦争のかたちが変わるだろう。

作ってみたいと思うけど──

「まったく同じものを作るのは難しいかもしれないな」

「ト、トールさまでも難しいのですか!?」

「『ノイズキャンセリング・ヘッドフォン』は、一部の音だけを消してるわけだからね。この小さなアイテムの中に、それだけの機能を押し込めるのは難しいよ」

少なくとも、今回の調査には間に合わないだろう。

それに──

「今回必要なのは『隠密行動』のためのアイテムだからね」

「あ、そうでした」

「必要なのは安全のためのアイテムなので」

「うん。だから、今回作るのは外の音を消すアイテムじゃなくて、 内側の音を消す(・・・・・・・) アイテムにするつもりだ」

それなら小型化する必要はないからね。

無理せず、期限内に作れると思う。

「そこでメイベルとアグニスに相談なんだけど……ソフィア皇女の服のサイズって知ってる?」

「あ、はい……それはアグニスさまが」

「わかるので。前にお泊まりしたときにうかがっているので!」

「詳しく教えて。それから、ライゼンガ領の服職人さんを紹介してもらえるかな。それと──」

俺はメイベルとアグニスに、 隠密用(おんみつよう) マジックアイテムについて話したのだった。

──数日後『ノーザの町』近くの森で (ソフィア皇女視点)──

「そろそろ魔王領の皆さまとの合流時間ですね」

「はい。先方も目立たぬように、旅人の服を着てくるはずですわ」

「そうですか。私もこのような服を着たのは初めてですが……なかなか動きやすいですね」

ソフィア皇女は楽しそうに、上着の 裾(すろ) を揺らしてみせた。

彼女が着ているのはフードのついた、ごくごく当たり前の旅人の服だ。

薄い草色で、砂ぼこり避けのマントもついている。

ソフィアがこんな服を着るのは初めてだった。

(トール・カナンさまはこの姿を見て、どんな感想をくださるでしょうか)

今回は、トールも同じような服を着てくる可能性もある。

そうすると『おそろいの服を着た』ということになるのだろう。

仲良しの証明だ。

メイベルや、魔王領の文官エルテも同じような服を着てくるはず。

ソフィアが似た服を着ていれば、トールに、魔王領の少女たちと同じような身近さを感じてもらえるかもしれない。それはとてもいいことだ。

「ソフィア殿下。隊列についてご提案したいのですが」

「はい。ドロシーさま」

「打ち合わせ通り、わたくしが先頭に立つということでよろしいのですか?」

「問題ございません。ドロシーさまをリーダーに、同じ村の者たちが旅に出たという設定ですから」

「ただ、そうなると殿下がわたくしの後ろを歩くことになってしまいます。目が届きにくくなりますので、護衛には不向きかと。やはりわたくしは 殿(しんがり) にいた方がよろしいのでは……」

「それでは魔王領の方々が落ち着かないのではないでしょうか」

ソフィア皇女は優しい声で答えた。

「ドロシーさまは大公カロンさまの教えを受けた、優秀な剣士です。そのお力については、魔王領の皆さまもご存じのはず。ドロシーさまが後方にいたら、『見張っているのか』『我々を信頼していないのか』──と、彼らの気分を害してしまうかもしれません」

「それはわかります。ですが、殿下の身の安全を考えると……」

「魔王領の方々は信頼できます。それに、危険を恐れるのならば、調査に名乗りを上げたりはいたしませんよ」

たしなめるように、ソフィア皇女は告げる。

「『例の箱』の件は、帝国の失態でもあります。帝国の皇女である私が責任を取るのは当然のことです。危険を恐れたりしません」

「わかりました。ソフィア殿下」

ドロシーは姿勢を正し、答える。

「殿下がそこまでお考えなら、なにも申しませんわ」

「では隊列は、ドロシーさまと、魔王領の文官エルテさまを先頭に。その後ろに私とトール・カナンさま。後列にレディ・オマワリサン部隊のミサナさまと、メイベルさま……と、なるように、魔王領の方々に提案してください。それでしたら、私はドロシーさまとミサナさまに挟まれることになります」

「それなら安心ですわね」

「承知いたしました。殿下」

ドロシーと、ミサナと呼ばれた女性兵士がうなずく。

ソフィアは背中で、ぐっ、と、拳を握りしめる。

彼女にとって、満足できる配置になったからだ。

あとは、トールたちが来るのを待つだけ。

自分とおそろいの服を着たトールは、どんなに素敵だろう。

そんなことを思いながら、ソフィアが待っていると──

「──ソフィア殿下。ルネの魔力が近づいているのよ」

腰に提げたバッグの中で、羽妖精のソレーユがつぶやいた。

ソレーユはソフィアの護衛のために、この捜索チームに同行している。

でも、人目に付きたくないということで、バッグの中に隠れているのだった。

「…… 羽妖精(ピクシー) のルネさまがいらっしゃるということは、トール・カナンさまも?」

ソフィアは思わず、周囲を見回した。

見つけた。

木々の向こうに、旅人の服を着た者たちが立っていた。

距離は、勇者世界の単位で10数メートル。かなり近い。

「え? ええええっ!? い、いつの間に!?」

ドロシーもトールたちに気づいて、目を丸くしている。

彼女は『気配察知』スキルに長けている。

帝国の調査部隊がソフィアの宿舎に侵入したとき、最初に気づいたのもドロシーだ。その彼女が、トールたちの気配に気づかなかったのだ。

(ふふっ。また、トール・カナンさまにおどろかされてしまいました)

ソフィアは幸せそうな笑みを浮かべた。

トールと会うたびに、自分の世界が広がって行くような気がする。

びっくりして、ときめいて、わくわくして──

──そんなふうに自分が変わっていくのが、すごくうれしいのだった。

「失礼いたします。『ノーザの町』の方々でしょうか」

フードをかぶった女性が、ドロシーに問いかける。

鋭い目。 秀(ひい) でた額。

彼女が交易所の管理を担当している、魔王領文官のエルテだろう。

「交易所の管理を任されております、エルテ・ローダリオンと申します」

「お待ちしておりました。『レディ・オマワリサン部隊』の隊長、ドロシー・リースタンです」

「ご丁寧にありがとうございます。」

「エルテさまは、かなりの隠密スキルをお持ちのようですね」

ドロシーが問いかける。

ソフィアと、部下のミサナをかばう位置に立っているのは、彼女たちの隠密スキルを警戒しているからだろう。

「気配と足音に気づきませんでした。不覚です。皇女殿下の護衛であるわたくしが、皆さまがここまで接近するまで気づかないなんて……」

「非礼をお詫びいたします」

魔王領の文官エルテはフードを外し、申し訳なさそうに頭を下げる。

「気配がしなかったのは、錬金術師さまの『隠密アイテム』によるものです」

文官エルテは言った。

「錬金術師さまは『隠密アイテム』は、『ノーザの町』の方々にも使っていただきたいと考えていらっしゃいます。それにはアイテムの効果を実際に体験していただいた方がいい……という判断により、このようなことになりました」

「では、わたくしたちが気づくまで、森の外で待機されていたのは?」

「隠密状態で近づくのは失礼かと思いまして」

「そのような事情であれば、仕方がないですわね」

ドロシーはため息をついた。

「魔王領の錬金術師さまのなさることですもの。やむを得ませんわ」

「錬金術師さまのすることですからねぇ」

そろって肩をすくめる、ドロシーと文官エルテ。

それを見ていたソフィアは、思わず笑みがこぼれそうになる。

ソフィアの宿舎に侵入者があったことは、羽妖精経由でトールにも伝えている。

同時期に、交易所にも同じ部隊が侵入していたそうだ。

今回の調査にも、帝国兵が介入してくることは十分に考えられる。

隠密行動を得意とする彼らへの対策として、トールは『隠密アイテム』を作ったのだろう。

「そのアイテムについて、お話をうかがってもよろしいですか?」

ソフィアは一歩、前に出た。

ドロシーの横に立ち、正面にいるトールと向き合う。

トールは、いたずらを見つけられた子どものような顔をしている。

フードの陰に隠れている羽妖精のルネも、同じような表情だ。

ふたりの笑顔を好ましく思いながら、ソフィア皇女は問いかける。

「錬金術師トール・カナンさまは、今回の調査のためのアイテムを作られたのですね? そして、私どもにもその効果がわかるように、こうして実演してくださったのでしょうか?」

「ソフィア殿下のおっしゃる通りです」

「そのアイテムの効果が、気配を消すものであった、と?」

「はい。帝国の調査部隊も、『例の箱』を探しているそうですから」

真面目な口調で告げるトール。

「その者たちを出し抜くためにも、より強力な隠密スキルが必要だと考えたのです」

「理にかなっておりますね」

「ご理解いただき、幸いです」

「それで……トール・カナンさまがお作りになった『隠密アイテム』とは、一体どのようなものなのでしょうか?」

「 長衣(コート) です」

そう言ってトールは、コードのフードを目深に下ろした。

それから彼はなにか話し始めたようだったが──

「……声が、聞こえませんね」

この距離だ。いくら小声で話していても、少しくらいは聞こえるはず。

けれど、ソフィアにトールの声は届かない。呼吸音も聞こえない。

彼はコートの内側で服を叩いてみせる。その音も届かない。

「まさか……そのコートの能力は……」

「はい。このコートには、勇者世界のノイズを消す機能が付与してあるんです」

トールはフードを外してから、答えた。

「これが隠密行動用のアイテム『ノイズキャンセリング・コート』です」

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『ノイズキャンセリング・コート』

(属性:水水・風風風・闇) (レア度:★★★★★★★★★★★★★★☆)

強力な風属性により、軽やかな着心地と、 雑音消去(ノイズキャンセリング) 能力を持つ。

強力な水属性により、滑らかに変化して、あらゆる音を吸収する。

闇属性により、魔力を注ぐと黒く変化し、闇に溶け込むことができる。

異世界の『ノイズキャンセリングヘッドフォン』を参考に製作されたコート。

フードを下ろして魔力を注ぐと、『ノイズキャンセリング効果』が発動する。

・ノイズキャンセリング効果

『風の魔石』が溶け込んだ布地が、コートの内側の空気の振動を打ち消す。

顔の前に特殊なフィールドを作り出し、声が外に漏れないようにする。

また、 嗅覚(きゅうかく) が鋭い者への対策として、においを封じ込める能力も付与されている。

『水の魔石』が溶け込んだ布地が自由に変形し、コート内部の振動を吸収する。

布の表面はなめらかで、草や木に触れても音を立てることはない。

以上の効果により、このコートを起動している間は、呼吸音や音声、動きによって生まれる音を消すことができる。

こっそり行動したいときは、とても便利。夜の行動におすすめ。

オプションとして『ノイズキャンセリング・ソール』がある。

靴底に貼り付ける柔らかい布で、衝撃を吸収する効果がある。

そのため、使うと足音を完全に消してくれる。

(フリーサイズです。サイズが合わない場合は、ハサミで切って調整してください)

『ノイズキャンセリング・コート』はリバーシブルでも使用可能。

物理破壊耐性:★★★ (強力な衝撃吸収能力を持つ。弓矢くらいなら受け止めてしまう)

耐用年数:2年。

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『ノイズキャンセリング・コート』は人数分用意されていた。

それを渡されたソフィアたちは、木陰で着替えることにした。

ドロシーは「まずはわたくしが試してから」と言っていたが、気づくとソフィアは着替えをはじめていた。上着を脱いで、コートに着替えるだけだ。簡単だった。本当は、木陰に隠れる必要さえもない。

そうして、着替えを終えたソフィアは──

「すばらしい着心地です。まったく重さを感じません。なんてすごい……」

感動のあまり、そんなことをつぶやいていた。

「ソフィア殿下。すごくうれしそうなのよ」

ソレーユはソフィアの肩に乗って、楽しそうに笑っている。

「少し実験してみましょう」

「了解なのよ」

ソフィアはコートに魔力を注ぐ。

空気の流れが変わったのを確認してから、大切な人の名前をつぶやいてみる。

小声で、それから、はっきりとした声で。

けれど──

「すごいの。こんなに近くにいるのに、お声が聞こえないのよ」

ソレーユは目を丸くしている。

照れていないところを見ると、本当に聞こえなかったようだ。

このコートをくれたとき、トールは「……勇者世界には追いついていません。本当の『ノイズキャンセリング』とは、自分の外の雑音を消すものなんです。これはそれを裏返しただけで……」と言っていた。なんだかくやしそうだった。

(トール・カナンさまは本当に、勇者以上のものを目指してらっしゃるのですね)

思わず尊敬してしまう。

これだけすごいアイテムを作りながら、彼はまだ満足していないなんて。

(……私があの方の力になれればいいのですが)

胸に手を当てて、そんなことを思ってしまうソフィアだった。

「本当にしゃべっているのですか? ミサナ。本当に?」

「────! ────!!」

ふと横を見ると、ドロシーとミサナが、コートの効果を確かめていた。

ミサナが必死に声を出して、ドロシーがそれを聞いている状態だ。

ドロシーは信じられないものを見るような顔で、

「……『気配察知』スキルがおかしくなったのでしょうか。この距離で、声が聞こえないなんて」

ドロシーは耳を澄ませている。

けれど、部下の声は聞こえないようだ。

「……これは、おそるべきコートです。これがあれば……帝都の宮廷に侵入することもできるかもしれません」

『ノイズキャンセリング・コート』は内部の音を消してくれるけれど、外からの音は普通に聞こえる。

こちらの気配を 遮断(しゃだん) して、他者の気配を探ることができる。『気配察知』が得意なドロシーにとっては最適なアイテムだ。

「私は、トール・カナンさまとおそろいの服を着られただけで……うれしいのですけれど」

『ノイズキャンセリング』されたフードの中で、ソフィアは素直な言葉を口にする。

視線の先でトールが、満足そうにうなずいてる。

もちろん、ソフィアの声は聞こえていないはずだ。たぶん。

トールが着ているのも、ソフィアと同じく枯れ草色のコートだ。

こっそり手を振ると、トールも手を振り返してくれる。

おそろいの服を着て手を振り合っていると、距離が縮まったようでうれしくなる。

(けれど……うかれてはいられません)

今回の目的は、『例の箱』を持ち去った者の居場所を突き止めることにある。

そのために魔王ルキエは『合同で捜索チームを作りたい』と提案してくれたのだのだから。

本当なら、魔王領単独で調査をしてもよかったはずだ。

それでも魔王がソフィアに連絡をくれたのは、『ノーザの町』との友好のためだろう。

魔王ルキエ・エヴァーガルドは人材を活かす方針だと聞いている。

その人材とは国内だけでなく、友好関係にある者すべてが含まれるのかもしれない。

(人を活かし、国を富ます……魔王ルキエ・エヴァーガルドは立派に国を動かしていらっしゃいます。私の兄弟姉妹に、あの方に匹敵する方はいるのでしょうか……?)

ソフィアは、ほとんど顔を合わせたことのない兄弟姉妹のことを思い出す。

次代の皇帝として、魔王ルキエに匹敵する能力の持ち主は……長兄のディアスくらいだろうか。それも優秀な宰相・大臣がサポートにつけばの話だ。

国を動かす能力も、支配者としての器も、ディアスは魔王に遠く及ばない。

兄弟姉妹の中で最も器が大きいのは、妹のリアナだろう。

彼女にはなんでも受け入れる素直さがある。

大公カロンの元でじっくりと学べば……十数年後には、国を治める能力が身についているかもしれない。

姉として、リアナの成長を祈るばかりだ。

リアナのためにも、国境地帯は平穏であって欲しい。

いつかソフィアがこの地を離れても、大丈夫なように。

(そのために、私は力を尽くしましょう)

だからこそソフィアは、今回の捜索チームに名乗りを上げたのだ。

国境地帯の平和のため。『ノーザの町』を預かる領主としての責任を果たすため。

多少の苦労や我慢は、受け入れるつもりだ。

(受け入れる……つもりなのですが……)

ふと見ると、トールとメイベルが話をしている。

コートのフードをくっつけて、息が触れ合いそうなくらいの距離で。

即座に理解する。

この『ノイズキャンセリング・コート』を起動した状態では会話ができない。

だが、お互いにフードをくっつければ、声を伝えることができるのだろう。

ふたりの距離は、すごく近い。

見ていると、ドキドキする。

トールとメイベルの鼻……あるいは唇が触れてしまいそうにも見える。

いつもあんな感じなのだろうか。

(では、私もこのコートの使い方を、トール・カナンさまに教えてもらうことにいたしましょう)

例えば、コートを起動した状態で、話をする方法などを。

そのとき、うっかり身体が傾いてしまうこともあるだろう。

元々ソフィアは病弱だ。今はすっかり元気になったけれど、たまにつまづくこともあるだろう。

トールと顔を近づけたときに、偶然、そういうことが起きてもおかしくはない。

「ソフィア殿下、なにを考えていらっしゃるの?」

フードの中で、ふと、ソレーユがつぶやいた。

ソフィアは優しい笑みを浮かべながら、

「調査の成功について、考えていました」

「ソフィア殿下は、真面目な人なのよ」

「そうですね。私は今回の調査が、『ノーザの町』と魔王領にとっての成功と、私にとっての成功となるように、全力を尽くすことを考えております」

「それで殿下はいい笑顔なの?」

「はい。新たなことに挑戦できることが、楽しくてならないのです」

やがて、全員が『ノイズキャンセリング・コート』を試し終えて、その機能を理解する。

その後は簡単な打ち合わせだ。

さっきソフィアが決めた隊列の通り、ソフィアはトールの隣へ。

離れた場所にいる護衛部隊の位置も確認する。

街道を挟んだ森の中に、アイザック・オマワリサン・ミューラが率いる『ノーザの町』の部隊と、アグニスが率いる魔王領の部隊がいる。

彼らは距離をおいてついてきて、ソフィアたち調査チームを守ってくれる。

「それでは、出発いたしましょう」

ドロシーが声をあげる。

「 僭越(せんえつ) ながら、このドロシーが部隊のリーダーを勤めさせていただきますわ」

「よろしくお願いします。ドロシーさま」

文官エルテがその隣でうなずく。

「目的地は交易所の北東にある『イーアラの町』です。その町を訪ね『例の箱』を持ち去った者の手がかりを探すこととなります。ドロシーさまの『気配察知』と、ソフィア殿下のお知恵に期待しております」

「そうですわね。あとは──」

「はい。切り札となる方は──」

ドロシーと、文官エルテがトールを見た。

トールは腰に提げた『超小型簡易倉庫』に触れている。

あの小さな箱に大量のアイテムが入ることをソフィアは知っている。

ドロシーも、魔王領の文官エルテも、なにが飛び出すのか気になっているのだろう。

それはソフィアも同じだ。

トールが作り出すものがなんであれ、受け入れる。

その結果も、すべて。

そんな覚悟は、もう決まっているのだった。

「がんばりましょうね。トールさま」

ふと後ろを見ると、エルフのメイベルがうなずいている。

トールを信頼しきっているその表情に、ソフィアは親近感を覚えてしまう。

不思議だった。

トールのまわりにいる人たちを、ソフィアは好きになってしまっている。

友だちになったアグニスも、今も側にいてくれる羽妖精のソレーユも。

「私もがんばります。見ていてくださいませ。トール・カナンさま」

『できるだけ近くで』──そんな言葉を、口に出さずにつぶやく。

今はそれでいい。

トールがうなずいてくれただけで、十分だ。

さぁ、調査を始めよう。

帝国と、謎の連中を引きつける『例の箱』──その正体を見極めるために。

「では、作戦を開始いたしましょう」

そうしてドロシーの合図により、ソフィアたちは作戦を開始したのだった。