軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第146話「異世界軍師の『最強陣形』を分析する」

「というわけで、まずは『三角コーン』に使えそうな陣形を考えてみよう」

工房に戻った俺は、メイベルと打ち合わせをしていた。

ライゼンガ将軍とエルテさんから、俺はふたつの依頼を受けた。

ひとつは『三角コーン』を有効活用するための陣形を見つけること。

もうひとつは、エルテさんの角を目立たなくするための方法だ。

俺は依頼をクリアするため、メイベルの意見を聞くことにした。

一緒にお茶を飲んで話してると、アイディアが浮かぶことがあるからね。

「陣形……つまり『三角コーン』を兵士のように並べて、その効果を高める。これがライゼンガ将軍から依頼されたことなんだけど──」

俺はお茶を飲みながら、メイベルに 訊(たず) ねる。

「メイベルは異世界勇者が使っていた陣形を知ってる?」

「……申し訳ありません。ほとんど知らないのです」

「やっぱりあの『自称軍師』の記録は、魔王領にもないのかな」

「そうですね。あの『自称軍師』が強力な魔術師だったことは記録に残っています。けれど陣形についての情報は……ほとんどないですね」

メイベルは申し訳なさそうに、そう言った。

「帝国の方には、あの軍師が伝えた陣形が残っているのですか?」

「『 鶴翼(かくよく) の陣』や『 魚鱗(ぎょりん) の陣』は、すでに解析されて、普通に使われてるよ。そこから派生した陣形もあるみたいだ」

「そうなんですね」

「でも、使い方が正しいかどうかは謎なんだよな……」

「『自称軍師』の勇者は、当時の魔王軍に先陣切って突っ込んできたそうですからね」

「それにつられて人間の兵士も陣形を崩して戦ってたからね。結局、なんであんな陣形にしたのか、当時の人たちにはわからなかったんだよな……」

『自称軍師』の異世界勇者は、この世界にいくつかの陣形を伝えてる。

その陣形は長い時間をかけて研究されて、実用化され、発展もしてる。

だけど、あの勇者があの陣形を好んだ理由は、今でも謎のままだ。

『自称軍師』が使えると言っていた、他の超強い陣形が、どんなものだったのかも。

さすがに『通販カタログ』には、戦術についての情報はないからね。

「そういえば、魔王領には『自称軍師」が送ってきた書状が残っているそうです」

不意に、メイベルがなにかを思い出したように、そう言った。

「あの勇者は戦闘前に、当時の魔王軍を挑発するような書状を送ってきていたのです。内容は……えっと」

「急がなくていいよ。ゆっくり思い出して」

「はい。えっと……確か『自分は「 鶴翼(かくよく) の陣」「 魚鱗(ぎょりん) の陣」の他にも、すごく強い「 石兵八陣(せきへいはちじん) 」「 八門金鎖(はちもんきんさ) の陣」「究極無敵陣」が使えるんだ。覚悟しろ』という文章でした」

『石兵八陣』は、名前だけは知ってる。

その他にも『八門金鎖の陣』『究極無敵陣』なんてのもあったのか。

さすが異世界勇者だ。すごいな……。

「そんな書状があったんだね」

「はい。写しが、魔王領の宝物庫にあるはずです」

「城に帰ったら読んでみたいな」

「でも……実際には、その『超強い陣形』は使われなかったようです」

メイベルはお茶を飲みながら、続ける。

「帝国には『石兵八陣』『八門金鎖の陣』『究極無敵陣』の記録はありますか?」

「ないなぁ。結局のところ、そういう陣形は使われなかったからね」

「『石兵八陣』『八門金鎖の陣』『究極無敵陣』は、謎のままなのですね……」

「もしかしたら、この世界の兵士には、使うのが難しい陣形だったのかもしれないね。あるいは、なにか発動条件があったのかもしれない」

……『石兵八陣』『八門金鎖の陣』『究極無敵陣』か。興味はあるな。

でも、『三角コーン』で、そういう陣形を敷くのは無理かな。

となると『鶴翼の陣』か『魚鱗の陣』を使うしかないか。こっちの世界に定着してる陣形だし、使い方もそれなりに解析されてるからね。

「『発動条件』で思い出しました。さきほどの書状には、続きがあったのです」

ふと、メイベルがつぶやいた。

「実は『自称軍師』は戦闘の直前にも、再び書状を送ってきたのです。『お前たちなど、我が「石兵八陣」「八門金鎖の陣」「究極無敵陣」の前では赤子も同然』って」

「警告……あるいは、降伏勧告だったのかな?」

「おそらく、そうだと思います」

ってことは『自称軍師』は、その超強い陣形を使おうとしていたんだろうか。

でも、実際には使わなかった……その理由はなんだろう?

「でも、書状には『だが! 今日は 興(きょう) が乗らぬ!』と、書かれていたそうです」

メイベルは言った。

「他にも『命拾いしたな。ここは方位が悪い』『星の位置が揃わぬ』と書いてあったらしいです。だから『自称軍師』は超強い陣形を使わなかったのだと、魔王領では語り継がれています」

「『興が乗らぬ』『方位が悪い』『星の位置が揃わぬ』……か」

「はい。そして結局『石兵八陣』も『八門金鎖の陣』も『究極無敵陣』も使われなかった……魔王領には、そういう記録が残っているのです」

「……そうだったんだね」

これは、帝国にはなかった記録だ。

さすがメイベルだ。頼りになるなぁ。

『自称軍師』は、強力な陣形を知っているけれど、実際には使わなかった。

その理由が気になっていたんだけど、メイベルのおかげで謎が解けた。

理由は『興が乗らぬ』『方位が悪い』『星の位置が揃わぬ』──だ。

つまり──

「勇者世界には『テンションを上げないと使えない陣形』と『方位を合わせないと使えない陣形』『星の位置をそろえないと使えない陣形』があったんだね。きっと条件がそろえば敵を圧倒できる、本当にすごい陣形だったに違いないよ」

「私も、トールさまと同意見です」

俺とメイベルはうなずいた。

かつて召喚された異世界勇者は、この世界を変えた。

その勇者の一人である『自称軍師』が使おうとした陣形なら、条件が厳しいのも当然だ。

彼らはおそろしく進んだ世界から来てるからね。

俺たちが知らない、すさまじい効果の陣形を使ったとしても不思議じゃないんだ。

となると『自称軍師』が先陣を切って突撃してきた理由もわかる。

彼は自分が戦う姿を見せることで、兵士たちのテンションを上げようとしたのかもしれない。

そうやって『興が乗ったら使える陣形』を使おうとしてたんじゃないだろうか。

『星の位置が揃わぬ』は──『メテオ』の魔術のように、星の力を使う陣形だろう。

兵士の一団を 隕石(いんせき) のようにぶつけるものかもしれない。

それなら、星の位置が重要なのも当たり前だ。

そんなすごい陣形を、この世界の兵士たちが敷けるわけないよな……。

陣形というのは、兵士が息を合わせて、初めて実現するものなんだから。

『自称軍師』は、超強い陣形が使えなくて悔しかったんだろうな。

だから、魔王軍に「本当は強い陣形が使える」と、通告してきたんだろう。

でも『 興(きょう) が乗ったら使える陣形』も『星の位置が揃ったら使える陣形』も、『三角コーン』には無理だ

『三角コーン』のテンションは上げられないし、メテオが関わる陣形は危険すぎる。

残ってるのは──

「あとは、『方位を利用する』陣形か……なるほど」

「あれ? トールさま?」

メイベルは不思議そうなに、じーっと俺の顔を見た。

「もしかしてトールさまは、すでにその陣形の手がかりをつかんでいらっしゃるのですか?」

「どうしてわかるの?」

「なんとなくです。私はトールさまのメイドで婚約者ですから……いつも、トールさまを見ています。トールさまの一部になって、トールさまのお考えがわかるようになったらいいなぁ、と思っているのです。そしたら、時々……お顔の表情から、トールさまがなにかを思いついたときに、わかるようになってきて……その、なんとなくですけど……」

「……そうなの?」

「……はい」

メイベルは照れたようにうつむいた。

……いや、俺もむちゃくちゃ照れるんだけど。

「……えっと。そ、それじゃ『方位を利用する陣形』の話をしようか」

「は、はい。そうですね」

「えっと……」

俺は深呼吸して、メイベルの方を見た。

それから、思いついたことを、話し始めた。

「メイベルは『健康増進ペンダント』を作ったときのことを覚えてる?」

「もちろんです。あのアイテムのおかげで、私はまた、アグニスさまとお友だちになれたのですから」

「『健康増進ペンダント』は魔力を変換することで 偏(かたよ) りをなくして、人を健康にするものだったよね。それには5つの 神獣(しんじゅう) が関わってた」

『健康増進ペンダント』には勇者世界の、特別な魔術理論が使われていた。

魔力の属性を『木・火・土・金・水』に分けるもので、五行と呼ばれていたらしい。

そして、あのペンダントは決まった5つの場所に、『 青竜(せいりゅう) 』『 朱雀(すざく) 』『 白虎(びゃっこ) 』『 玄武(げんぶ) 』『 麒麟(きりん) 』の神獣を配置することで、魔力を変換するものだった。

麒麟(きりん) を中央に配置して、他の4つを決められた場所に配置する。

それはつまり──

「あのペンダントは神獣の位置が……つまり『方位』が重要だってことだよ」

「な、なるほどです!」

メイベルは目を見開いた。

「確かに『健康増進ペンダント』の中心には『麒麟』というものがいて、その四方を取り囲むように4つの神獣が配置されています。つまりあのアイテムは神獣の位置──中心から見た方位が重要だということですね?」

「うん。だから『自称軍師』が使おうとした『方位が重要な陣形』には、『健康増進ペンダント』と同じ魔力理論が使われていた可能性があるんだ」

「そうだったんですね……」

「ということは『神獣型の三角コーン』を作って、正しい位置に配置すれば、『自称軍師』が考えていた最強陣形がどういうものだったのか、わかるかもしれない」

俺が考えた陣形は次の通り。

中央に『麒麟型の三角コーン』を配置して、東西南北の四方に4体の『神獣型三角コーン』を配置する。

4体の神獣で囲まれた中に、普通の『三角コーン』を並べる。

その後『三角コーン』がどう変化するかを調べる。

もちろん、これで『最強陣形』が再現できるわけじゃない。

でも『三角コーン』を強化することくらいはできると思う。魔力の流れが良くなるわけだからね。

「それぞれの神獣を、東西南北のどこに配置するかだけど……これは簡単だね」

「はい。この世界に来た異世界勇者たちは、地図の上を北にしていましたからね」

「だからこの世界の地図も、北を上にするようになったんだよね」

ペンダントにとっての『上』は、鎖が繋がっている部分だろう。

首にかけて、自然と上になるのが、北だ。

すると、北が『玄武』、東が『青竜』、西が『白虎』、南が『朱雀』で確定する。

「まぁ、これはただの仮説だからね。実際にやってみないと」

「どんな効果の陣形になるのでしょうね……」

「魔力の巡りがよくなって威圧効果が強化されるか……あるいは、魔力の流れに反応して『三角コーン』が動き出すか……かな?」

「……強力な陣形ですね」

「おそるべきは勇者世界の軍師だよね……」

まずは『神獣型の三角コーン』を作って、試してみよう。

作るのは難しくない。『三角コーン』を『玄武』『青竜』『白虎』『朱雀』『麒麟』型にして、五行属性を与えればいいだけだからね。『健康増進ペンダント』の応用だ。

それが完成したら、交易所が休みの日を選んで、陣を敷いてみよう。

『三角コーン』にどんな変化が現れるか、楽しみだな。

帝都から来る『例の箱の調査部隊』のこともある。

国境地帯のセキュリティは、強化しておいた方がいいからね。

「陣形はこれでいいとして、次はエルテさんの問題かな」

『三角コーン・神獣型』のコンセプトは決まった。

次はエルテさんの依頼について考えてみよう。

「さっきも話した通り、エルテさんは『 角(つの) を目立たなくする方法』を求めてるんだ」

「人間さんたちと仲良くするためですね?」

「うん。でも、角を隠すのは、嘘をつくようで嫌だから、角があるままで人と接したいって言ってた」

「真面目な方ですね……」

「そうだね」

エルテさんのそういうところは、素直に尊敬できる。

彼女のような人が交易所にいてくれれば安心だ。

ソフィア皇女とも国境地帯の人たちとも、うまくやってくれるだろう。

「というわけだから、ぜひ協力しよう」

「はい。トールさま」

「それで、具体的な方法だけど」

「角を隠す方法、ですよね」

「うん。これにはメイベルの耳を目立たなくするための研究を応用すればいいと思う」

「わかりました。私の耳を目立たなくするための研究を応用するのですね……って、あれ?」

メイベルが不思議そうな顔になる。

「あの……トールさま」

「どしたのメイベル」

「トールさまは、私の……エルフの耳を目立たなくする研究をされていたのですか?」

「うん。メイベルも『ノーザの町』に行きたそうにしてたから」

「そ、そうでしたっけ?」

「だって、俺とアグニスを見送るとき、さみしそうな顔してたし」

「……ト、トールさま。気づいていらしたのですか?」

「メイベルが俺を見てくれてるように、俺だってメイベルを見てるよ。当然だろ?」

「……え、えっと」

「でも、『ノーザの町』は人間ばっかりだからね。どうしてエルフのメイベルは目立っちゃうだろ。メイベルも気になるだろうし、俺もメイベルをじろじろ見られるのは嫌だし。だから、対策を考えていたんだ」

「あの、あのあの。トールさま……?」

「耳を隠せば、メイベルは普通の……じゃなかった、普通以上の人間の美少女にしか見えないし。もちろん、耳を出した状態でも、エルフの超絶美少女なことに代わりはないけどね。でも、エルテさんの依頼を聞いて、俺も考え直したんだ。メイベルのエルフ耳は、隠すよりも目立たないようにした方がいいって。メイベルの魅力のひとつでもあるし、俺もメイベルの色々な姿を見て……って、あれ?」

「……ト、トールさまぁ」

メイベルは顔を 覆(おお) って、テーブルにつっぷした。

あれ?

おかしいな。俺、なにか変なこと言ったっけ。

今、口にしたセリフを思い出してみると……うん。嘘は一言も言ってないな。

メイベルはかわいい。

でも、『ノーザの町』に連れて行くと目立つ。

俺も大事な婚約者をじろじろ見られたくない。

メイベルはかわいい。

「……どこもおかしくないな」

「そういうところですよぉ」

「どういうところ?」

「それについては今度、きっちりとお話をいたしましょう。トールさま!」

メイベルはほっぺたをふくらませて、そう言った。

「魔王城に行ったときがいいと思います。陛下と一緒に、一晩くらいかけて、じっくりきっちりと、お話をしたいのです」

「そうなの?」

「そうさせてください」

「……うん。わかった」

「で、では。この話はここまでにいたします」

エルフ耳のさきっぽまで真っ赤になったメイベルは、深呼吸。

それから気合いを入れるみたいに──軽く自分の頬を叩いた。

「申し訳ありません。話の腰を折ってしまいました。続きをお願いいたします」

「……えっと。それで、メイベルが『ノーザの町』を自由に歩くための方法を調べていたら、こんなものを見つけたんだ」

俺は『通販カタログ』をテーブルの上に置いた。

目的のページを開いて、メイベルに見せる。

そこに書かれていたのは──

──────────────────

『自然増量ヘアーピース』で、見せたいあなたに変わりましょう!

気になる部分を自然に増量。

『自然増量ヘアーピース』は、誰にも気づかれずに、気になる部分ををカバーします。

いくつになっても身だしなみは気になるもの。

でも、急に髪の量を増やしたり、髪色を変えてしまったら、まわりの人がおどろきますよね?

そんなとき、当社の『自然増量ヘアーピース』がお役に立ちます。

当社のヘアーピースは受注生産。

あなたの髪色、顔のかたちに合わせて、自然な感じで髪を増やします。

12段階で増やすため、本当に自然。

まわりに気づかれることなく、気になる部分を自然とカバーいたします。

ご希望の方は、ページの下にあるハガキを切り取って──

──────────────────

「これは……髪を増やすヘアーピース、ですよね?」

「そうだね。部分的なウィッグって感じかな」

「でも、トールさま、これは髪の毛に関わるもので、私の耳や、エルテさまの角にはあまり関係がないように思えるのですが……」

「メイベルが不思議に思うのはわかるよ。でも、重要なのは『自然に増やす』方なんだ」

「『自然に増やす』……ですか」

「そうだよ。例えばエルテさんの角を、目立たないほど小さくしたらどうなると思う? それを12段階で、少しずつ大きくしていったら」

エルテさんは人間と会うときに、角が目立つことを気にしていた。

だから、目立たなくする方法を求めていたんだ。

だから、まずは本物の角を、小さく見えるように 擬装(ぎそう) する。

それを月に1回くらいのペースで、12段階で増量していく。

最終的に本来の大きさにする。そうすると──

「交易所に来る人たちは、初めは気づかないくらい小さな角を目にすることになる。恐がることなく、エルテさんと接することができるはずだ。その状態でエルテさんと親しくなってもらう」

「は、はい」

「それから、徐々に角を大きくしていく」

「変化に気づかないくらい自然に、ですね?」

「そうだね。それはエルテさんが人々と、どれくらい親しくなったかで決めよう。親しさレベル1なら、角の大きさも1段階上げる感じで。最終的に親しさレベル12まで上がったら、元の大きさにするんだ。そうするとどうなると思う?」

「はい。人々は、十分に親しくなった状態で、エルテさまの角を見ることになります」

メイベルは目を輝かせた。

俺の言いたいことに気づいたみたいだ。

「つまり、国境地帯の人たちは先入観なしで、エルテさまがどういうお方かを知って、それから角に気づくことになるわけですね?」

「時間をかけて大きくなった角だ。その変化には気づかないかもしれない」

「つまり『気づかれることなく、気になる部分を自然とカバーいたします』ということですね」

「もしかしたら後になって『そういえばこの人、角があったっけ?』くらいの反応になるかもしれないね」

「まさに、自然な変化ですね……」

「勇者世界のアイテムってすごいよね」

俺とメイベルはうなずいた。

それからメイベルは、ふと、首をかしげて、

「でも、トールさま。勇者世界の人々は、この『自然増量ヘアーピース』を、どんな場面で使っていたのでしょうか? 超絶の力を持つ勇者たちなら、髪の量など気にしないと思うのですが」

「例外はあるよ」

「例外ですか?」

「ほら。勇者は覚醒すると、魔力で髪の毛が変わったり、逆立ったりするから」

「そうでした! 確かに、そういう勇者もいました」

「でも、いきなりパワーアップしたら、まわりがびっくりするだろ?」

「争いになるかもしれませんね。どうしてお前だけ、急に強くなったのか……って」

「このヘアーピースは、そういうトラブルを避けるためのものだと思う。 覚醒(かくせい) して色が変わった髪の上につけて変化を隠し、徐々に新しい髪の色に変えていくんだ」

勇者たちは強さにこだわっていた。

ということは、強さによる、見た目の変化にもこだわっているはず。

このヘアーピースは、その変化をゆるやかにするためのものなのだろう。

「このヘアーピースを使って、時間をかけて変化すれば、『ああ、あいつは長い時間、努力して強くなったんだなぁ。がんばり屋さんだなぁ』って、まわりの勇者も納得してくれるだろ?」

「そういうことだったんですね……」

「うん。これは、そういうアイテムだと思う」

つまり、このアイテムは自分の強さを目立たなくするためのものだ。

だったら、エルテさんにはちょうどいい。

魔族の角は、強い魔力の象徴だからね。それを小さく見せることで、弱く見せかけられる。

国境地帯の人たちを安心させることができるだろう。

「この『自然増量ヘアーピース』は、『抱きまくら』の応用で作れると思うよ」

『抱きまくら』は魔力を吸収した人の姿に変わることができる。

それをウィッグの形にして、エルテさんの魔力を常に吸収するようにすればいいな。そうすれば、時間制限なしで変形しつづけるはずだ。

角に『抱きまくら』でカバーをつけてもいいけど……それよりもウィッグで本来の角を隠して、その上に、小さめの角を作った方がいいかな。

そうやって角を目立たなくして、エルテさんが国境地帯の人と親しくなったら、次のヴァージョンと交換しよう。

「というわけで、順番に作って行こう」

「はい。トールさま!」

「まずはメイベル用の『自然増量ヘアーピース』から──」

「……あの」

「優先順位があるからね」

「で、でもでも」

「いや、だってライゼンガ将軍もエルテさんも『急がない』って言ってたし。だったら一番優先順位の高いものを作るのは当然じゃないか。俺もメイベルと一緒に『ノーザの町』で買い物とかしたいし」

「それはうれしいのですが……トールさま」

「うん」

「陛下のための『自然増量ヘアーピース』も作られた方がよいのではないでしょうか」

メイベルは言った。

拳を握りしめて、すごく真剣な表情で。

「それがあれば、陛下も自由に人間の町を歩けるのですよね? トールさまと一緒に」

「そうだけど。角というのは魔族の強さの象徴でもあるんだよね?」

「はい」

「だったら、ルキエさまの角を小さくするわけにはいかないんじゃ……」

俺が言うと、メイベルはいたずらっぽい顔で笑ってみせた。

それから、唇に指を当てて、ないしょ話をするみたいに──

「陛下にも、ただの魔族の女の子でいたい時もあると思います。たとえば『簡易倉庫』の中でお茶会をしているときや……例えば……これは仮の話ですが、トールさまとふたりで買い物に出かけられるときなどです」

「ルキエさまと買い物……って、楽しそうだけど、立場上無理では……」

「たとえばのお話です。そういうことができたらいいなぁ……って」

メイベルは夢を見るように、優しい表情で、

「そういうときは、強さはあまり必要ないものなのですよ」

「そうなのかなぁ」

「では、直接聞いてみたらいかがですか?」

えっへん、と胸を張って、メイベルは言った。

まぁ、ルキエ用の『自然増量ヘアーピース』を作るのは構わない。

ただ、好みの髪型とかもあるから、本人チェックの元で作らないと。

というわけで、俺は羽妖精にお願いして、魔王城に書状を届けてもらうことにした。

そうして翌日、戻ってきた書状には──

『作るがよい。デザインは、トールに任せる。

トールが、よ、余に一番似合う髪型を考え、ヘアーピースを作るのじゃ。

魔王城に戻ってきたときに 検分(けんぶん) するのじゃからな!』

──そんなことが書かれていた。

「……あのさ、メイベル」

「はい。トールさま」

「難易度が上がってるんだけど、どうしよう」

「がんばってくださいね。トールさま」

というわけで、俺はルキエとメイベル、それにエルテさん用の『自然増量ヘアーピース』を作ることになった。

正直、陣形用の『三角コーン』を作るよりプレッシャーが大きい。

メイベル用とエルテさん用は本人の希望を聞きながら作れるからまだいい。

でも、ルキエ用は、俺に一任されてる。

それであとでルキエがチェックするんだもんな。

似合うものが出来なかったらどうしよう……。

「大丈夫ですよ。トールさま」

作業中、お茶を持って来たメイベルが言った。

悩んでいる俺を安心させるような笑顔で、

「トールさまがお作りになられたものなら、陛下はきっとよろこんでくださいます」

「だといいけど」

「そうじゃなかった場合は、陛下と私が一緒に、じっくりとお話するだけで済むと思いますよ。一晩くらいかけて」

「そういうことをいい笑顔で言わないの」

そんな感じで、俺は『神獣型・三角コーン』と『自然増量ヘアーピース』の製作を続けるのだった。