軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

久しぶりの再会

雪が降ってきたこともあり、帰りは二週間半ほどかかった。

王都もうっすらと雪が降っていて、さすがに寒い。

久しぶりに認識阻害のメガネをかけ、ルシール=ローズの姿で王城に入る。

騎士や他の調査員達も馬車から降りて荷物を運び出す。

お父様とルルと共にわたしは城内に入り、国王の政務室に向かった。

久しぶりに王城に入り、少し懐かしく思いながら歩いていたせいで、お父様の背中にぶつかってしまった。

振り返ったお父様が小さく笑って「大丈夫か?」と問いかけてくる。

「ご……も、申し訳ありません」

「いや、いい。この辺りは滅多に立ち入れる場所ではないから、気になるのも仕方がない」

今のわたしはルシール=ローズなので、お父様に気安く話しかけられない。

お父様も分かっているのか、そう言って、目の前の扉を叩いた。

扉の左右には騎士が立っている。

中から「入れ」と声がして、お父様が扉を開けた。

すぐに中から「しばらく誰も通すな」と声がして、騎士達が返事をした。

お父様が入り、わたし、ルルと入室した。ルルが後ろ手に扉を閉める。

室内の政務机にはお兄様が座っていて、そのそばにお義姉様がいた。

通信魔道具でたまに顔を合わせていたものの、直に会うのは久しぶりだった。

「まあ……」

お義姉様が目を丸くして、こちらに近づいてくる。

そして、わたしの手を取ると微笑んだ。

「お久しぶりですわ、リュシエンヌ様」

「お久しぶりです、お義姉様。よくわたしだと分かりましたね」

「ええ、お話は聞き及んでおりましたから」

ルルがわたしの顔からメガネを外した。

お義姉様が嬉しそうに目を細めてわたしを見る。

「お元気そうで何よりですわ」

「お義姉様もお元気そうで嬉しいです。アベリアちゃんの出産後も、すぐに社交界に復帰したと聞きましたが大丈夫でしたか?」

「わたくしは二度目でしたし、アベリアも小さめで生まれてくれたのでアルベリクの時よりずっと出産は早く終わりましたの──……」

と、お義姉様が話していると、お兄様のほうから「あーぅ」と声がした。

可愛らしい声に思わず顔を向ければ、お兄様が小さく笑った。

「リュシエンヌ達と顔を合わせるのは初めてだったな」

お兄様が優しく膝の上にいた子を抱えて立ち上がった。

書類の山で隠れていた姿が現れる。

「……可愛い〜……!!」

お兄様の腕の中にちょこんと女の子が座っていた。

綺麗な金髪に青い瞳をした、お人形さんみたいに可愛い子だった。

片手でお兄様の服を掴み、もう片手を口元に添えて、キョトンとした様子でこちらを見ている。顔立ちはどちらかといえば、お義姉様似のように感じられた。

お兄様がこちらに歩いてくると、女の子が恥ずかしがるようにお兄様に顔を寄せた。

「アベリア、妖精さん達にご挨拶できるか?」

お兄様が優しく腕の中に声をかけると、女の子──……アベリアちゃんが顔を上げて、こちらに小さく手を振った。

「おーち、よー……」

それにお義姉様が「『ご機嫌よう』と言っています」とこっそり教えてくれた。

わたしもニッコリ微笑んで、屈み、アベリアちゃんと目線を合わせる。

「ご機嫌よう、アベリアちゃん」

気恥ずかしいのかすぐにお兄様に頭を寄せて、顔を隠してしまった。

その仕草が可愛くてついニコニコ顔になる。

「よくできたな、アベリア」

「アベリアちゃんも二歳ですよね?」

「ああ、丁度二歳半だ」

お兄様がアベリアちゃんの頭を丁寧に、優しく撫でる。

可愛くて仕方がないという様子で、わたしも幸せな気持ちだ。

「なるほどねぇ。確かにルドヴィクは成長が速いかもなぁ」

ルルが言い、アベリアちゃんを見る。

お父様も「そうだろう?」と頷き、お義姉様が小首を傾げた。

「そうなのですか?」

「そぉそぉ、もう三歳くらいって言われても納得するくらい大きいよぉ」

これくらい、とルルが自分の足に手を当て、ルドヴィクの身長を示す。

「生まれた時はアルベリクとそれほど変わらないくらいだったが、アルベリクやアベリアに比べると大きい。……あの様子で成長するなら、ルフェーヴルくらいまで育つかもしれないな」

「通信魔道具でたまに顔を合わせるが、ルフェーヴルそっくりだぞ」

「まあ、それはリュシエンヌ様が喜ぶのも分かりますわね」

お父様とお兄様の言葉に、お義姉様がおかしそうに笑う。

……ルドは顔立ちも色彩もルルそっくりだから。

わたしとしては嬉しいけど、いまだにルルは『リュシー似の女の子も良かったのになぁ』と呟く時がある。ルドヴィクを嫌っているわけではないようだが、自分に似ているというところが微妙な心境らしい。

「もう少し大きくなって、転移魔法に耐えられるくらいになったら連れてきますね」

「はい、楽しみにしております。アルベリクもアベリアも、きっとルドヴィク様と仲良くできるでしょう。歳の近い従兄弟というのも良いものです」

「そういえば、アルベリク君は今日は一緒ではないんですね?」

「ええ、遊び疲れてお昼寝中ですわ」

アルベリク君は今は四歳だが、あと数ヶ月もすれば五歳になる。

結構言葉もしっかり話せるようになったそうだが、ルドヴィクが生まれた後はほとんど顔を合わせていなかった。

わたしの体調を考慮して転移魔法は控えていたし、通信魔道具で話せるのは夜が多く、その時間帯にはもうアルベリク君は休んでいる頃だ。

アルベリク君は黒髪に金色の瞳でお父様にそっくりの色彩である。

「最近は騎士の訓練を見るのが好きで、軽い木で作った剣を持って真似をしています」

「ふふ、ルドヴィクと一緒ですね。ルドヴィクも木剣がお気に入りなんです」

「まだ二歳なのに、もう木剣を?」

「小さいヤツだけどねぇ。腕力とか握力を鍛えるためってのとぉ、本人が欲しがったから、まあ、あげてもいいかなぁって思ってさぁ」

驚くお義姉様にルルが言う。

「ルドヴィクにはいずれオレの技術をぜぇ〜んぶ叩き込むから、今のうちから遊びとか玩具とかで体を鍛えたり体力つけたりさせておかないと困るんだよねぇ」

「お前、子供にも容赦ないな……自分の子が可愛くないのか?」

「オレはリュシー以外にかわいいって思ったことはないよぉ。でも、面白いしぃ、オレくらい強くなれるかもしれないからちょ〜っと期待はしてるかなぁ。鍛えたらイイ遊び相手になりそうなんだよぉ」

「……ルドヴィクに同情する」

お兄様が苦い顔でアベリアちゃんを抱え直す。

アベリアちゃんはいつの間にかぐっすり眠っていて、寝顔も可愛らしい。

「そういえばぁ、昔はよくアリスティードとも手合わせしたよねぇ。三年の時の対抗祭と剣武祭の時なんてオレに『稽古をつけてくれ』って言ってきたしぃ?」

「あれは自分で言ったが後悔した」

「でも、おかげで強くなれたでしょ〜? 戦闘ってのは実戦が一番イイんだよぉ」

まだ苦い顔のお兄様に、ルルが、あは、と笑った。

お義姉様が目を瞬かせて、お兄様を見る。

「そんなに厳しい訓練だったのですか?」

「ああ、毎日立ち上がれなくなるほどボコボコにされたし、何度も引きずられて部屋に放り込まれたこともあった。……王太子相手に訓練で殺気を向けてくる男なんて、こいつくらいのものだ」

少し遠い目をするお兄様に、お義姉様が困り顔をした。

「オレの技術をちゃっかり盗んでおいてよく言うよぉ」

「人聞きの悪いことを言うな。そもそも、覚えられたくなかったなら見せなければ良かっただろう?」

「だってさぁ、そのうち王サマになるっていうのにあんまり弱いんだもん。コレじゃあ簡単に暗殺されるって思ったから、急いで鍛えてやったんだよぉ」

「それについては感謝しているが……」

呆れ顔のお兄様だったが、ルルなりにきちんと理由があったと分かったからか、それ以上文句を言うことはなかった。その代わりに小さく溜め息を吐いていたが。

それから全員でソファーに座り、お父様が遺跡について説明した。

時々ルルも説明に加わり、お兄様もお義姉様も眉根を寄せたり驚いたりしていて、二人ともそれがまったく同じタイミングだったので夫婦になると似てくるのだろうか、と少しだけ思った。

報告を聞き終えたお兄様が「なるほど」と言った。

「二月前、謁見の間でイルフェニア聖教国の使節団と話をしている時に、突然光と花びらが降り注いできて大騒ぎになったが……やはり女神様の祝福だったか」

「その際に女神様が『ファイエット王家に祝福を』と、お言葉をかけてくださったのですわ」

……わあ、女神様、仕事が早い。

お兄様に祝福を授けるとおっしゃてくださったのは確かに二ヶ月ほど前の話だ。

つまり、最深部にわたし達が到着したあの時、すぐにお兄様に祝福を授けたということなのだろう。

「おかげで、聖教国の使節団との会談はとても良い雰囲気でできました」

「女神様が取り計らってくださったのだろう」

「はい、私もそう思います」

お兄様とお父様が、うんうん、と頷き合う。

しかし、お義姉様が心配そうにわたしを見た。

「リュシエンヌ様、物珍しいからといって近づいてはいけません。今回の遺跡はリュシエンヌ様を害するものではありませんでしたが、遺跡に限らず、人も物も、全てがそうというわけではございませんわ」

「はい……反省しています……」

ルルがいてくれたから遺跡の中に飛ばされても困らなかったし、不安になることもなかったけれど、一人だったら出られなかったかもしれない。

肩を落とすわたしの頭をルルが撫でる。

「まあまあ、いいじゃん。オレも一緒なら心配はないって〜」

「ニコルソン伯爵がリュシエンヌ様を守りきれない、などということがないのは分かっておりますわ。ですが、それとこれとは話が別ですもの」

「王妃サマはお堅いねぇ」

ルドヴィクを妊娠・出産した時に、ルルは何度もお義姉様のところに通って妊娠中のことや産後の話などを聞いていたそうで、以前よりも少し二人の態度が気安くなっている。

「ニコルソン伯爵もアリスティード様も、リュシエンヌ様を甘やかしてしまいますから」

「……それについては反論できないな」

お兄様が苦笑し、ルルが「妻を甘やかすのは夫の特権でしょぉ?」と返す。

お義姉様はルルの言葉に呆れたような、微笑ましいようなという顔で小さく息を吐いた。

「とりあえず、神器については一度能力について確認がしたい」

「そうだねぇ。女神サマがくれたものならリュシーに悪さはしないと思うけどぉ、どういうものか分かってないと保管するのも困るしぃ」

「それだが、そちらの屋敷で確認作業をさせてもらえないか? 城内ではどうしても人の目がある。人目を避けるなら、お前達の屋敷が確実だ」

確かに、わたし達の家なら周囲を木々や高い塀に囲まれているし、使用人もみんな口が堅いから誰かに漏らすこともないだろう。

ルルが少し小首を傾げ、すぐにお父様に顔を戻す。

「いいよぉ。オレもリュシーも疲れたしぃ、二、三日は休みたいから、そのあとってことでぇ。通信魔道具で適当な時に声かけて〜」

「ああ、分かった」

……そっか、神器の能力がどの程度か調べておく必要はあるんだ。

ゴーレムが教えてくれたのは、あくまで『どういう能力があるか』というもので、能力の範囲とか、どういうふうに使えるかとか、きちんと把握しておかないともし使うようなことがあった時に困るだろう。

うっかり能力を使いすぎて大惨事になる可能性もある。

「それじゃあ、オレ達はそろそろ帰ってもいーぃ?」

と、いつも通りなルルにお兄様が呆れた顔をした。

「もう帰るのか?」

「ルドヴィクが気になるからねぇ」

ルルの言葉にお兄様とお義姉様が目を瞬かせた。

「……お前でも子供のことは気になるんだな」

「なぁに、その言い方〜? アイツは好奇心旺盛で負けん気が強いしぃ、目を離すと危ないから気になるんだよぉ」

「使用人達がいるだろう?」

「この間、夜に帰ったら使用人の目を盗んで寝室から抜け出してぇ、毛布に包まって階段を転げ落ちるって遊びをしてたんだよねぇ。リュシーにすごぉく怒られて反省したみたいだけどぉ」

……ああ、あれね……。

こっそり転移魔法で夜に帰って、ルドヴィクを見に行ったのに寝室にいなくて、慌てて探したら階段で遊んでいたのだ。厚手の毛布二枚に包まって、そのまま階段を転がり落ちていて、心臓が止まるかと思った。

さすがのわたしもルドヴィクに怒鳴ってしまい、ルルも驚いていた。

その後、ルドヴィクはルルに毛布で簀巻き状態にされて寝室に戻された。

それ以降、夜に寝室を抜け出すことはなくなったようだ。

「さすが、ルフェーヴルの子だな」

「オレだってそんな遊びしたことないよぉ。どっちかっていうとぉ、リュシーに似たんじゃなぁい? 度胸があるっていうかぁ、物怖じしないっていうかぁ」

「ああ……」

なぜかお兄様とお父様がわたしを見る。

お義姉様まで納得した顔をするので、わたしは少しムッとしてしまった。

「わたしはそんな度胸試しはしません」

「それはそうだろうが……」

「ルフェーヴルと結婚しているからな」

「そうですわね」

お父様、お兄様、お義姉様が苦笑し、ルルを見て、わたしを見た。

……なんでそこでルルが出てくるの?

首を傾げていればルルに抱き寄せられる。

「暗殺者のオレはそれだけ怖いってことだよぉ」

わたしはキョトンとして、やや遅れて理解した。

……あ、そういうこと?

ルルは闇ギルドランク一位の暗殺者で、普通なら怖がられる存在なのだろう。

もしかしたら死神みたいに思われているのかもしれない。

そんな 暗殺者(ルル) と結婚しているから、度胸がある、ということか。

「ルルは怖くないのにね」

「リュシエンヌだから、そう言えるんだ」

お兄様が言いながら、腕の中のアベリアちゃんの背中を撫でる。

……最近のルルは結構優しくなったと思うんだけどなあ。

「それでイイんだよぉ。暗殺者は怖がられるほど仕事が増えるからねぇ」

「そうなんだ」

裏社会というのは、よく分からない世界である。