軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めてのお座り / 初めての離乳食

ルドヴィクが生まれて半年が経った。

相変わらずルドヴィクは絨毯の上を這い回っている。

体の筋肉がつき始めたのか、最初の頃より移動速度が上がった。

メルティさんとランドローさんとで交互に遊んでくれていて、小さなボールを転がし、それをルドヴィクが追いかける。積み木を投げる遊びは飽きたようだ。

相変わらず元気いっぱいで、起きている間はよく動き回る子だ。

「ルドはちょっと落ち着きがないのかなあ」

それはそれで少し心配だが……。

「体力があり余ってるだけじゃなぁい? 別にジッとしていられないってわけじゃなさそうだしぃ」

「そうなの?」

「夜は起きててもベッドの中でわりと静かにしてるよぉ」

完全に昼と夜との区別がつくようになったのか、ルドヴィクは夜に泣くことが減った。

昼間は元気に動いて、お昼寝をして、お乳もよく飲んで、夜はぐっすり眠っている。

だからわたしも最近は安心して眠れるようになったのだけれど、まだ夜に起きている時もあるらしい。

「もしかして今もルルが見てくれてる?」

「たまぁにね。でも大体はすぐに寝付くから大丈夫だよぉ」

「そっか」

床を這い回るルドヴィクを眺めていると「う!」と声を上げて頭を持ち上げる。

その動きを何度も繰り返すので、いつもと違う様子に全員が注目した。

突然、手足を地面につけて体を持ち上げた。

「えっ!?」

思わず驚いた声を上げてしまう。

けれど、力が足りないのかルドヴィクの足がすぐに曲がり、ストンとお尻が絨毯に落ちる。

ルドヴィクの手が離れて、上半身がしっかりと起こされた。

「へぇ〜、座ったねぇ」

ルルののんびりとした声にルドヴィクがキョトンとした顔をする。

でも、起き上がっている力がまだ弱いのか、頭が重いのか、後ろに転がった。

「おっと……」

ランドローさんが手を差し込んで、ルドヴィクの頭が床にぶつからないようにしてくれる。

試しにもう一度体を起こさせてみれば、やっぱり座っている。

本人も初めての体勢が楽しいのか、笑顔で手を叩く。

「う、ぅあ、あーぅ!」

今度はしっかり座った状態で、維持していた。

「ルド、すごーい! お座り上手だね〜!」

立ち上がり、ルドヴィクのそばまで行って膝をつく。

ルドヴィクは明るい声を上げて手をばたつかせた。

子供の成長はあっという間だというけれど、本当に、少し前にあれができた、これができたなんて話をしているうちに次々とできることが増えていく。

「ルド、お座りできて偉いね」

小さな手に触れるとしっかり握り返してくれる。

ふや、と顔いっぱいにルドヴィクが笑う。

抱き締めたくなるけれど、せっかく座っているルドを抱き上げるのは少し勿体ない。

ルルが魔法の詠唱を行うと、その手に紙を一枚持っていた。

「はい、写真魔法〜」

ヒラヒラと紙を揺らし、それが差し出される。

受け取ると、わたしとメルティさん、ティエリーさん、その真ん中に座るルドヴィクが写っていた。小さなルドヴィクのキョトンとした顔まで鮮明に分かる。

「記念写真? いいね、ルド可愛い〜」

「空間魔法に入れておくよぉ」

「うん、お願い」

ひらりと紙が空間魔法に入れられる。

ルルが自ら写真魔法を使うなんて珍しい。

……もしかして、ルルなりにルドを特別に思っているのかな?

我が子が初めて座った記念の写真を撮るくらいなのだから、関心はそれなりにあるのだろう。

ルドヴィクは体を捻るように横向きになり、また腹這いに戻ってしまった。

でも一度できたなら、今後はお座りもするようになっていくだろう。

立ち上がったルルがわたしの横に膝をついて、ルドヴィクの頭を撫でる。

「やっと座ったけどぉ、歩けるようになるのはいつかねぇ?」

「うーん、歩けるようになるのはもうしばらく先じゃないかな」

「ふぅん」

よしよしとルルがルドヴィクの頭をもう一度撫でて、ソファーに戻る。

その後、ルドヴィクは気が向くと座るようになった。

腹這いで動き回るけれど、たまに突然座るので、何度見てもちょっと驚く。

たまに手足で体を持ち上げた状態のまま固まっている時もあるので、心配になるが、本人はそれが楽しいらしい。いつも手足で体を持ち上げてから、腰を下ろして座る。

もしかしたら、まだ頭が重くて普通に上半身を起こすのは大変なのかもしれない。

ランドローさんがルドヴィクの謎の動きを見守ることが増えた。

闇ギルド経由で雇った人なので戦闘も行えるそうで、ルドヴィクがひっくり返りそうになったり、どこかにぶつかりそうになったりするとサッと助けてくれるのでありがたい。

あと、ルドヴィクはルルの足にくっつくことも増えた。

腹這いで絨毯の上を移動して、ルルの足にしがみつき、足の甲に座る。

それでルルが足を揺らすと楽しそうな声を上げるのだ。

……ルルはちょっと面倒くさそうだけど。

その遊びを発見してからは、そればかりやっている。

あまりにルドヴィクがルルの足にしがみついてくるので、ルルがたまに鬱陶しそうな表情をするが、ソファーに座ったままその状態で足を上げると筋トレになると気付いたようで、それ以降は何も言わなくなった。

お座りした状態でべたっと上半身を床につけて物を掴む時もあって赤ちゃんの体の柔らかさに驚いたり、体を持ち上げたまま床に頭をつけた状態で眠ってしまったり、新しい発見と笑いの毎日で楽しい。

子育ては大変だけど、わたしは助けてくれる人が沢山いるから余裕があるのだろう。

ルドヴィクを足に貼り付けたまま、ルルが棚に置かれた本を取りに向かう。

……なんだか、コアラみたい。

その様子がおかしくてわたしは笑ってしまった。

* * * * *

無事に半年が過ぎて、乳歯も前歯の上下がしっかり生え始めてきた。

「そろそろ、離乳食を始めましょう」

というメルティさんの言葉により、今日からルドヴィクの食事に離乳食が追加される。

まずはすごくふやかしたオートミールを、様子を見ながら上げるらしい。

赤ちゃん用の前にテーブルがついた椅子に座らせる。

これならルドヴィクが体勢を崩したとしても、椅子から落ちることはないだろう。

ルドヴィクの目の前に小皿を置いてみせる。

ルドヴィクが初めて見る小皿をまじまじと眺めている。

……えっと、まずはティースプーンくらいの量をあげるんだっけ。

小皿からオートミールを掬い、ルドヴィクの口元に持っていく。

ルドヴィクが顔を寄せて、クンクン、と匂いを嗅いだ。

好奇心旺盛な子なので、近づけられたものが何なのか気になるのだろう。

でも、口は開けない。食べ物とは分からないのだろう。

一旦スプーンを置いて、別のスプーンでオートミールを掬い、目の前で食べて見せる。

……うん、全然味がついてない。

美味しいかと言われたら、あまり美味しくないし、ほぼ水みたいなオートミールである。

スプーンを置き、ルドヴィク用のティースプーンを持ってもう一度口に寄せてやる。

「ルド、あーん」

あー、と口を開いてみせると、真似するようにルドヴィクが口を開けた。

スプーンの先端をちょっとだけ口に含ませて、食べさせてみる。

ルドヴィクを挟んだ反対側にルルがいて、リニアお母様、メルティさん、ランドローさん、ヴィエラさんと全員がこの子の『初めての食事』を見守っている。

口の中にオートミールが入ったのか、ルドヴィクが口をモグモグさせた。

「う……」

初めて、ルドヴィクが眉を寄せた。

あ、と思った瞬間、ルドヴィクが大きな声で泣き出した。

ルルがすぐに抱え上げてあやす。

でも、ルルの顔はおかしそうに笑っていた。

「あはっ、今の見た? すっごく嫌そうな顔だったねぇ」

どうやらこのすごく薄いオートミールはルドヴィクの口に合わなかったらしい。

それでも、最初はこれを食べさせていくしかない。

「ごめんね、ルド。あんまり美味しくないよね……」

「でも仕方ないじゃん? まだ味の強いものはダメなんでしょ〜?」

ルルが訊き、メルティさんが頷き返す。

「はい、通常の食事では赤ちゃんには塩気や脂などが強すぎるので」

「いいじゃん。最初に不味いものを食べさせておけば、あとは何食べても美味しく感じるよぉ」

ルルの前向きなのか、それともどうでもいいと思っているのかよく分からない言葉に、その後ろにいるリニアお母様とヴィエラさんが少し呆れた顔をしていた。

ルルの腕に抱かれて泣き止んだルドヴィクにスプーンを差し出す。

「ルド、もうちょっとだけ食べてみない?」

口元にスプーンを差し出すと、ルドヴィクが少し首を後ろに引いた。

やっぱりダメか、とスプーンを片付けようとした瞬間、小さな手に掴まれる。

「えっ?」

そして、ルドヴィクがスプーンにかぶりついた。

口が小さいのでスプーンを丸々含むことはしなかったけれど、それでも、スプーンの半分くらいの量を口に入れてモグモグしている。

明らかに嫌そうな顔をしているのだけが気にかかるが、しっかりと食べてくれた。

「ルドってもしかして天才なの? ちゃんと食べてくれてる……」

「単純に食い意地が張ってるだけじゃないのぉ?」

ルドがまたスプーンにかじりついて、薄いオートミールを食べる。

最初の一日、二日は様子を見ながら小さなスプーンで一杯分だけ。

そこから少しずつ量を増やし、問題なければニンジンなどの野菜も一種類ずつあげていく。

ただし、最初の一、二ヶ月は一日一回だけ。他は普段通り授乳で補う。

一日一回で様子を見つつ、食べることに慣れさせていくのだろう。

スプーンの中身がなくなると小皿にも手を伸ばした。

「うー」

と、ルドヴィクが唸り、手が届かないと分かるとまた泣き出した。

……普段はおしめや空腹以外では滅多に泣かないのに……。

手足をばたつかせ、今までにないほど大きな声で泣いている。

いつもとは違う、 癇癪(かんしゃく) を起こしたような様子に慌ててスプーンを置いて、ルルごとルドヴィクを抱き締めた。

「ごめんね……ごめんね、ルド、離乳食は嫌だったかな?」

「それなら手は伸ばさないんじゃなぁい? 逆にもっと食べたいのかもねぇ」

「ああ……ルド、ごめんね、最初はスプーン一杯からじゃないと、いきなり沢山食べたらルドの体がビックリしちゃうから……って言っても分からないよね……」

ルルがルドヴィクを軽く揺らして宥めてくれる。

「まずは一日一回だよぉ。食べるのに慣れたら増やしていくしぃ、色々食べられるようになるからぁ、それまではこれで我慢しなってぇ。耐えることにも慣れないと立派な暗殺者になれないよぉ?」

そんなことを言うルルに、わたし以外の全員が呆れた視線を向けた。

けれども、ルルが宥めてくれたからか次第にルドヴィクの泣き声が小さくなっていく。

それにホッとしていればルドヴィクを差し出された。

「心配しなくても、ホントに食い意地張ってるだけだと思うよぉ」

ルドヴィクを抱けば、かなり落ち着いたのか自分の指を口に入れている。

「そうなのかな……」

「初めて何かを食べたから興奮したんでしょ〜」

「……そっか」

あの嫌そうな顔は気にかかるけれど、自ら食べることはした。

つまり、食べること自体は嫌ではない……のだと思う。

腕の中のルドヴィクを見下ろし、微笑みかける。

「今日から少しずつ食べていくから、また明日も挑戦してみようね」

そう声をかけるとルドヴィクが、ふやぁ、と笑う。

何とか機嫌が直ったらしい。

「とりあえず、お乳あげたら〜? 初めて物を食べて、空腹を感じてるのかもしれないしぃ」

「うん」

ルルに促されて部屋を移動する。

さすがにランドローさんの前で授乳はできないので、リニアお母様もついて来てくれる。

寝室に移動して、服を寛げてルドヴィクを胸元に寄せれば、小さな口がすぐに吸いついてきた。

ちゅ、ちゅ、と一生懸命にお乳を吸っている。

……ルルが言ってること、本当なのかも?

初めてお乳以外の食べ物を口にして、味を感じて、空腹を感じたのかもしれない。

それなのに一口しか食べられなかったら確かにつらいだろう。

だが、お乳を拒絶しないことに安心した。

初めて食べ物を食べて、何かを口に入れるのを嫌がるようになるかもしれないと心配だったので、相変わらず食欲旺盛な姿に良かったと思う。

横に座ったルルがお乳を吸うルドヴィクを眺めた。

「子供だからってずるいよねぇ。オレだって飲ませてもらったことないのにさぁ」

ぐふっとリニアお母様が大きく咽せた。

……ルル、それはそうだよ。

リニアお母様の咽せた音に驚いたのかルドヴィクの口が止まっている。

「ルド、何でもないから飲んでいいよ」

頭を撫でれば安心した様子でまたお乳を吸い始める。

「ルルも吸ってみたいの……?」

「お乳に興味があるわけじゃなくてぇ、リュシーの初めてを奪われて面白くないかなぁ」

「……えっと、今度試してみる?」

何となく小声で訊くとルルがわたしの頬にキスをしてくる。

返事はなかったけれど、積極的な雰囲気は感じられた。

……なんだか子供が二人いるみたいだなあ。

苦笑しながらお乳を与えていると、しばらくしてルドヴィクが口を離した。

その満足そうな顔にルルが小さく笑う。

「ホント、分かりやすいよねぇ」

ルルの言葉に返事をするようにルドヴィクが小さくゲップをする。

離乳食チャレンジはこれから大変かもしれない。