軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

偽王女の捕縛(2)

偽リュシエンヌが顔を歪めた。

まるで親の仇でも見つけたかのような表情だった。

「何故、王太子がここに……!?」

「王女が子供を誘拐しているかもしれないと伝えてくれた忠臣達がいてな。王家が動くのは当然のことだろう?」

「くそっ!」

偽者とはいえ、リュシエンヌの姿で悪態を吐くのはやめてほしいとルフェーヴルは感じつつ、まだ残っている男達の相手をする。

外に繋がる扉が開き、荒くれ者達が入って来る。

「王女様、何があったんですかい!?」

どうやらこちらは本物の荒くれ者達らしい。

恐らく、闇ギルドの下っ端か傭兵崩れか。何にせよ、この者達も犯人として捕縛する必要がある。

偽リュシエンヌと対峙していたアリスティードが声を張り上げた。

「私はファイエット王国王太子、アリスティード=ロア・ファイエット! 我らに剣を向けるのは、逆賊となること同義である! 王家に刃を向ける覚悟のある者のみ剣を構えるがいい!!」

その言葉に荒くれ者達が戸惑った様子で顔を見合わせる。

偽のリュシエンヌが言い返すように口を開いた。

「これは偽者よ! こんな場所に王太子がわざわざ来るはずがないわ! わたくしを捕まえるために、王太子の姿を偽っているだけよ!!」

続けて偽リュシエンヌが言う。

「この者達を殺しなさい! 手柄を立てた者には望むだけ金貨を与えるわ!!」

それに荒くれ者達の目の色が変わる。

金のためならどのようなことでもする者達らしい。

アリスティードがその様子を見て、表情を消す。

「……そうか」

そして、アリスティードが偽リュシエンヌに改めて剣を向ける。

「この場にいる者達は皆、逆賊とみなす」

ルフェーヴルはニィ、と口角を引き上げた。

「承知しました」

「かしこまりました」

ルフェーヴルと司祭の言葉が重なる。

ルフェーヴルは地を蹴り、目の前にいた荒くれ者の一人に横薙ぎに蹴りを見舞った。

身体強化と風魔法で威力の乗った蹴りにより、大柄な荒くれ者の体が吹き飛び、ボールのように地面を数回跳ねる。

動かなくなったが死んではいないはずだ。

骨は数本くらい折れているだろうが。

「なっ!?」

「っ、全員で囲め!!」

荒くれ者達が慌ててルフェーヴルを囲おうとするが、ぶわりと背後から吹いた風が男達を押し戻す。

司祭が魔法で強風を起こしたようだ。

ルフェーヴルは駆け出し、拳を握り、それを近くの男の顔面に叩き込む。よろけた男が後ろにいた男と共に地面に倒れた。

その間にもう片手のナイフで別の男の太ももを切りつけ、脇から突き出された剣を一歩下がって避ける。

その剣をナイフで弾き、体勢の崩れた男の懐へ入ると腹に拳を沈める。かはっ、と男の口から空気の漏れる音がして、ずるりと膝をついた。

先ほどルフェーヴルが殴った男と共に倒れた男が何とか上の者を退かして立ち上がろうとしていたので、ルフェーヴルはその顎を迷わず蹴り飛ばす。

爪先から顎の砕ける感触があった。

司祭は魔法で何人かの男達の足を氷漬けにして、そこに魔法を放っている。

多少の火傷や打撲などはあるだろうけれど、誰も死んではいないようだ。

アリスティードと偽リュシエンヌも戦っていた。

……リュシーは魔法も剣も使えないからねぇ。

魔法を使い、剣を振る姿を見れば、それが偽者であることは簡単に分かる。

偽リュシエンヌのほうが劣勢なようだ。

すぐに決着がつくだろう。

倉庫の外から大勢の人間の気配を感じる。

重そうな足音が複数近づき、開きっぱなしの扉から近衛騎士とメルヴィス伯爵が入って来た。

一瞬、それに偽リュシエンヌの意識が逸れた。

その瞬間をアリスティードは見逃さなかった。

「はぁあああっ!!」

アリスティードの剣が偽リュシエンヌのナイフを弾き飛ばす。

その流れでアリスティードの剣が、偽リュシエンヌに振られ、細い肩を切り裂いた。

「ああ……っ!?」

偽リュシエンヌが斬られた肩を押さえて膝をつく。

警戒しつつもアリスティードは近衛騎士達に指示を出す。

「ここにいる者達を捕縛せよ!」

「はっ」と騎士達が返事をし、動けなくなっている荒くれ者達を縄で縛っていく。

アリスティードがルフェーヴルに顎で示すので、ルフェーヴルは座り込む偽リュシエンヌに近づいた。

偽リュシエンヌの腕を掴み、後ろへ回す。

逃げようと暴れるものの、身体強化のかかったルフェーヴルの腕力に勝てる者などそうはいない。

近づいて来た近衛に声をかけ、魔力封じの手枷を受け取り、それを後ろ手にはめた。

偽のリュシエンヌがアリスティードを睨み、しかし、すぐに悲しげな表情をする。

「お兄様、何故このような酷いことをするの?」

「私はお前の兄ではないが……それをお前が言うのか。子供達を攫い、他国に奴隷として売り払っていたお前が」

アリスティードが唸るように言った。

その表情には怒りが滲んでいる。

「民は王家のものよ。そしてわたしは王女。わたしのものをわたしが好きにして何が悪いのかしら。どうせ平民なんて一人や二人いなくなっても誰も困らないし、放っておいても勝手に増えるわ。王族であるわたしのために役に立てるなら本望でしょう?」

ニヤ、と下卑た笑みを浮かべる偽リュシエンヌの言葉が倉庫によく響いた。

近衛も、黒騎士も、メルヴィス伯爵も動きを止めた。

アリスティードがギリッと拳を握りしめる。

だが、その拳が偽リュシエンヌに向かうよりも先に、ルフェーヴルは偽リュシエンヌの口元を覆うように掌でわし摑みにしていた。

「あの子に似た姿でそれ以上、汚い言葉を喋るなよ」

本物のリュシエンヌは民を大事にしている。

本物のリュシエンヌはそんな身勝手なことは言わない。

「死ぬよりつらい目に遭わせてやろうか?」

偽リュシエンヌの顔を掴む手に力を込めつつルフェーヴルが顔を寄せて覗き込めば、偽リュシエンヌの表情が驚愕に染まり、目を見開く。

遠目では似ていると感じた琥珀の瞳だが、近くで見ると、本物のリュシエンヌの美しい琥珀の瞳とは違い、不透明にくすんだ紛い物だった。

静かになったので手を離すと、偽リュシエンヌが呟く。

「ルフェーヴル=ニコルソンが、なんで……?」

名前を呼ばれてルフェーヴルは笑みを浮かべた。

「おや、私のことを知っているのですか?」

けれども、偽リュシエンヌは押し黙ってしまう。

ルフェーヴルは気にせず、偽リュシエンヌから離れてアリスティードに近寄った。

「他の者達を殺していないな?」

問われ、ルフェーヴルは頷いた。

「麻痺毒は使用していますが、全て生きていますよ。まあ、骨が何本か折れている者もいるかもしれませんが」

捕縛された荒くれ者達に目を向ければ、近衛や黒騎士の中で治癒魔法を使える者達が治療をしている。

完全には治さないとは思うが、動けないままだと移動させるのに困るからだろう。

アリスティードは「そうか」とだけ返してくる。

逆賊と断じたからか情けをかけるのはやめたようだ。

「この者も連れて行け」

「はっ!」

「目を離さないように。それから、これは王女ではない。何を言われても、哀れそうに見えても、王族の名を騙り、王太子に刃を向けた逆賊だ。丁重に扱う必要はない」

「承知いたしました。皆にもそのように伝えます」

「ああ」

近衛騎士が一礼し、偽のリュシエンヌを立たせた。

他の近衛騎士も荒くれ者を一箇所にまとめ、ルフェーヴルが近衛騎士と共に偽リュシエンヌと荒くれ者達を王城へ転移させる。

そうしているとアリスティードが檻に近づいた。

そばを通りかかった近衛の一人に声をかける。

「檻の鍵は見つかったか?」

「申し訳ありません。全員の所持品を確認したのですが、まだ発見出来ておらず──……」

檻を見たルフェーヴルは声をかけた。

「これなら開けられます」

「本当か?」

アリスティードと近衛騎士が振り返り、ルフェーヴルを見る。

「ええ、こういうものの扱いは慣れておりますので」

詠唱して闇魔法の蔦を出し、檻の鍵穴に差し込んで中で変形させる。

蔦が鍵の形になったら、あとは回すだけだ。

「……それで開くのか……」

思わずといった様子で呟くアリスティードに、ルフェーヴルは小さく笑った。

「コツは要りますが、慣れると簡単ですよ」

アリスティードが檻の扉を開け、膝をついて中を見た。

銀髪の少年と幼い少女が身を寄せ合っている。

「もう大丈夫だ」

しかし、アリスティードが手を差し出すと二人の子供がビクリと体を竦ませる。

少年がジッとアリスティードを見ながら言った。

「あんたが王太子なら、さっきの王女の兄ちゃんだろ? おれ達を売るつもりか?」

「そんなことはしない。私は君達を助けに来たんだ。……だが、すぐに助けなかったことは謝罪する」

アリスティードが子供達に頭を下げた。

「怖い思いをさせて、すまなかった」

それから、アリスティードはルフェーヴルに他の檻も開けるよう指示を出した。

ルフェーヴルが檻を開けて回っている間、アリスティードが子供達に説明をする。

誘拐犯が偽の王女であったこと。

それを捕まえるためにアリスティード達が動いていたこと。

確実に捕まえるには取引相手のふりをして近づき、誘拐犯が本当に子供達を攫っているか確認する必要があったこと。

「すぐに檻から出さなかったのは、もしかしたら他にも隠れている者がいるかもしれないと思ったんだ。君達を人質にしたり、盾にしたりして逃げようとする者がいたら、私達は戦えなくなってしまうから」

アリスティードはそう言うが、もしも子供が人質に取られたとしてもアリスティードも近衛も剣を手離すことはないだろう。

だからこそ、そのような事態に陥ることは避けたかったのだ。

幼い少女のほうは理解出来ていない様子だったが、少年は話を聞いて、考えるように数秒黙った。

少年がまっすぐにアリスティードを見つめる。

「……帰りたい」

「君達を必ず、元いた場所に返すと約束しよう。もし元の場所に帰りたくないのであれば、こちらで孤児院を紹介することも出来る」

「本当に?」

「ああ、女神様と王太子の名に誓ってもいい」

アリスティードの真剣な表情に、少年がグッと唇を噛み締め、俯く。座り込む少年の膝にぽたぽたと大粒の水滴が落ちた。

幼い少女が少年に手を伸ばす。

「お兄ちゃん……? どこかいたい? だいじょーぶ……?」

小さな手に、少年が自身の手を重ね、それから少女を抱き締めた。

「ああ……っ、大丈夫だ。……ケイト、父さんと母さんのところに帰れるからな……」

アリスティードの言葉に安心したのだろう。

恐らく妹だろう少女を抱き寄せ、少年は声を押し殺して泣いていた。

そんな兄妹の姿にアリスティードも唇を引き結ぶ。

「君達が無事で良かった。……攫われた他の子供達も、出来る限り取り戻し、帰れるようにする」

少年が泣きながら何度も頷く。

「檻の中は寒いだろう? さあ、出ておいで」

アリスティードに促され、少年と少女が檻から出て来る。

その小さな肩にアリスティードが優しく触れた。

「色々とやらなければいけないことがあってすぐには帰してやれないが、それまで私が責任を持って君達を保護する。温かい食事とベッド、ゆっくり安心して休める場所も用意してある」

少年がまた頷いた。

アリスティードが近衛騎士に子供達の護衛と、城で手厚く保護するよう指示を出す。

「騎士も君達を守ってくれる。彼らについて行くといい。……よく休んで、よく食べて、帰った時に両親に元気な姿を見せてあげないとな」

アリスティードの手がそっと少年の頭を撫でた。

少年が袖で涙を拭うと顔を上げた。

「王太子様、助けてくれてありがとうございますっ」

少し震えていたが、はっきりとした声で少年が言う。

それにアリスティードは優しく微笑んだ。

「民を守るのは王族の務めだ。君達が穏やかに、平和に、そして幸せに暮らせるよう、これからも私達は力を尽くそう」

その後、ルフェーヴルはまた子供達と数名の近衛騎士を転移魔法で王城に送った。

黒騎士の一人が近づいて来る。

「敷地内に残党の気配はありません。予定通り、全て捕縛出来たものと考えてよろしいかと」

「では、我々も撤収しよう。……メルヴィス伯爵、犯人達の処罰については明日、改めて皆を集めて行うこととする」

「かしこまりました」

この時間から貴族達を呼ぶことは出来ない。

あとは尋問を行う必要もあるが、それは貴族達がいる時にしたほうが二度手間にならずに済む。

魔法を使う前に、ルフェーヴルは魔力回復薬を飲んだ。

そうして残っていた近衛と黒騎士、アリスティード、司祭、伯爵、使った馬車と馬をルフェーヴルは自身と共に城へ転移させる。

……リュシーに会いたいなぁ。

だが、もうリュシエンヌは眠っている頃だろう。

「伯爵もよくやってくれた。今夜はゆっくり休むといい」

アリスティードに声をかけられたメルヴィス伯爵が礼を執る。

結局、偽リュシエンヌを捕まえたものの、本物のリュシエンヌとすぐに再会することは叶わなかった。

* * * * *