軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

通信魔道具・改(2)

ノワイエ様は精神干渉系魔法が専門だと言っていたけれど、わたしの説明を真剣に聞いてくれて、疑問点もいくつか質問された。

「これは一方の魔力で成り立つものですか?」

「いえ、最初は通話をかけたほう、魔道具を起動させた側の魔力を使用しますが、相手が声に反応して魔力を流した時点で双方の魔力を消費するようになります」

通話をかけた側がまずは魔力を消費して、相手の魔道具を鳴らす。

そして、相手が通話を受けて、魔道具に魔力を流すことで双方が繋がり、会話が出来るようになる。

受ける側が魔力を流さなければ繋がらない。

「では、会話をしている間は常に魔力を消費するのですね」

「はい、終わりたい時は魔力を切れば終わります。一応、長く通話が出来ないように、こちらの魔法式には制限時間を設けてあります」

「複数用意すると、会話したい相手とは別の者が持つほうが鳴ってしまうのでは?」

「各魔道具に番号を割り振ります。魔道具を作製していただく際に懐中時計のような形にして、鳴らしたい相手の番号に針を合わせて起動させたらと考えています」

どうぞ、と片方の木のブロックをノワイエ様に渡す。

送受信人数五名、設定人数三名、制限時間十分の制約型タイプのほうだ。

もう一人の制限なしタイプは魔法士長様に渡した。

ノワイエ様も魔法式にジッと目を凝らして、しばらく解読していたけれど、納得したのか顔を上げた。

「とりあえず、今は一つずつしかないので番号は振ってありません。魔力を通せば、もう片方に繋がるようになっています」

「分かりました」

ノワイエ様が頷いた。

「では、試してみましょうか」

と魔法士長様が言うので、試すことにした。

魔法士長様とノワイエ様はそれぞれ試験場の端と端に移動し、わたしは魔法士長様のほうについて行く。

試験場の向こうでノワイエ様が大きく手を振った。

いつでも始めて良いという合図だ。

それにわたしも大きく手を振り返す。

試験を始めるという合図だ。

魔法士長様が手に持った木のブロックに魔力を流す。

ブロックに描いた魔法式が淡く光る。

ブロックから、ピコポ、ポポポポ、ポポンポン、とやや気の抜ける軽快な呼び出し音が鳴った。

「おや、不思議な音ですね」

お父様やお兄様に渡した映像と音声両方が使える魔道具は音が鳴らない代わりに、結構振動するタイプで、これはとりあえず音が鳴るようにしてある。

でも、ルルに渡すものは音が鳴らないほうが良さそうだ。

それほど大きな音ではないが、この世界にはない電子音の呼び出しはかなり違和感があった。

……うわあ、懐かしい……!

前世でよく使っていた無料通話アプリの呼び出し音はわたしにとっては懐かしいが、魔法士長様は聞き慣れない音に目を丸くしていた。

その音が三度鳴ったところで途切れた。

ややあって、魔法式から声がした。

【……リュカ=ノワイエです】

魔法士長様と顔を見合わせる。

「ルシール=ローズです、こちらはよく聞こえています」

「こちらもよく聞こえています。まるで、すぐ目の前で対面して話しているように鮮明に聞こえます」

魔法士長様が微笑んだ。

「成功のようですね」

既に映像と音声の通信魔道具を作っていたので、これも問題なく使えるだろうと分かっていた。

分かっていたけれど、それでも、やっぱり嬉しい。

「はい! あ、魔力の消費はいかがですか?」

【それなりに魔力は使用しますが、こうして離れていても相手と話せるという点を考えれば妥当なところだと思います。それなりに魔力量がある者なら、この程度であれば問題なく使用出来るかと】

魔道具越しのノワイエ様の返答に魔法士長様も頷く。

とりあえず、制限時間いっぱいまで試すということになり、通話をしたまま話す。

【この通話魔法はとても興味深いです。離れた状態でありながら、魔力を使用し、別々の二点を繋げるなんて。これは今後の魔法の発展に非常に貢献する魔法になるでしょう】

淡々とした、けれどもやや早口のノワイエ様の声に首を傾げた。

「そうなのですか?」

【ええ、そうです。たとえばこれを攻撃魔法へ転用すれば、戦争で優位に立てます。攻撃地点に隠密などを派遣し、攻撃用の魔法式を設置、離れたあとに遠隔で魔法式を操作出来れば──……】

ごほん、と魔法士長様が小さく咳払いをする。

「ノワイエ君、そういう話は彼女には……」

【あ……】

しまった、という風に声が途切れる。

遠隔で魔法を操作して展開させれば、敵地を正確に攻撃することが出来る。

恐らく、そう続くはずだったのだろう。

「話をしてくださって大丈夫です」

わたしはただ通話のことしか頭になかったが、他の魔法士達がこの魔法を見て、どう考え、何に繋げていくかはとても興味深い。

……ただ、戦争に使うっていうのは色々と思うところはあるけど……。

でも、いざ戦争で他国から攻め込まれた時には自国や民を守るために、使えるものは何だって使うだろう。

この通信魔法も当然だが連絡手段として使われるはずだ。

「むしろ、隠さずに教えていただきたいのです。この魔法を開発した者として、それを知る権利と責任がわたしにはあるでしょう」

知らないうちにこの魔法が関係して、別の魔法が生まれ、それが誰かを傷付けたり死なせたりするかもしれない。

戦争に使われるとしても、わたしの与り知らぬところで使用されるほうが嫌だ。

魔法士長様が顎髭を撫でる。

「それならば良いのですが……」

ふむ、と考えるように魔法士長様は一つ頷いた。

「そうですね、見習いとは言えど宮廷魔法士の一員ですから、そういった話も勉強になるでしょう」

それから制限時間が来るまで、ノワイエ様と魔法士長様と三人で、この通信魔法から派生する新たな魔法の使い方について話し合った。

もちろん、それらは国王であるお父様に報告されるだろう。

その中から実用性があると思われたものは、実際に研究、開発される。

ノワイエ様はこの魔法については口外しないと約束してくれたが、いずれ、この魔法も広まっていくと思う。

魔法式を隠し続けるのは無理だ。

そうなった時のためにも、この魔法の有用性と、発展系の魔法について考え、更にそれへの対策を講じるというのは重要なことだ。

その後、制限時間になり、魔法が解除されるとノワイエ様が戻ってきた。

「試験に付き合っていただき、ありがとうございます」

そう声をかけるとノワイエ様は首を振った。

「いえ、僕のほうこそ大変勉強になりました。また何か新しい魔法の試験を行う際には、是非、参加させてください」

「はい、その時はよろしくお願いいたします」

わたしは魔力がないから、試験を手伝ってくれる人がいるのはありがたいことだ。

それから、通信魔法で魔道具を製作してもらうために、発注書を書くことになったのだが、魔法式を作るよりも難しかった。

……魔道具ってこんなに細かく指定しないといけないんだ。

魔道具の点検の時よりも大変だった。

これまで魔道具製作に必要なことはルルが済ませてくれていたけれど、ルシール=ローズとして働く間は自分で書かなければいけない。

発注書を作成するだけで、気付けば午後の時間は過ぎてしまっていた。

* * * * *

最初は怪しい人物だと思った。

魔法士長様と共にいるけれど、ほんの僅かだが認識阻害系の魔法をかけていて、顔が分かるようで分からない。

ただ、年若い女性であることはすぐに理解出来た。

そして髪や瞳の色、魔法士長様の紹介から、彼女が最近、宮廷魔法士や騎士達の間で噂になっている宮廷魔法士見習いだと気付いた。

魔法士長様のお気に入りだとか、魔法式に精通しており、魔道具の点検がとても正確で早いだとか。

それらが事実であろうとなかろうと、リュカにはどうでも良かった。

仕草や動きから、彼女が貴族であることは窺えたし、平民のリュカからしたら、自分とは違う世界の人間である。

宮廷魔法士の間で爵位や地位などを口に出すことはなくても、貴族と平民とで、どうしても軋轢が出来てしまう。

リュカも、平民出身だからと貴族出身の魔法士達から、やや敬遠されているのを知っていた。

だが、仕事に差し障りがあるわけではないので今まで気にしたことはなかった。

手伝いを申し出たのは、魔法士長様の言葉だったから。

試験場に着くと、見習いの宮廷魔法士、ルシール=ローズというその女性が魔法士長様の紹介で挨拶をする。

綺麗なカーテシーに、やはり貴族の令嬢か、と思った。

けれどもリュカが名乗っても、彼女は特に反応を見せなかった。

貴族かと問うことも、平民かと問うこともなく、ただ、普通に自己紹介を受け入れていた。

しかも、その後もリュカへの態度は変わらなかった。

自分の編み出したという通信魔法について彼女は一生懸命説明し、こちらの疑問にも、かなり丁寧に答えてくれた。

試験中も、試験後も、態度はそのままだった。

むしろ、リュカを先輩宮廷魔法士として立ててくれているようだった。

通信魔法を見る限り、魔法に関する造詣は彼女のほうが深いだろうと感じられたし、魔法式を読み解いた時、その独特な考え方と魔法の組み立て方に感心した。

若いけれど、実力のある魔法士だ。

何故、彼女ほどの人物が見習いなのか。

「あなたほどの実力があれば、見習いなどではなく、正式な宮廷魔法士として働けるのではありませんか?」

と、思わず訊いたリュカに彼女は苦笑した。

「わたしは、実は魔力がほとんどないのです」

その言葉にハッとする。

確かに彼女から魔力は感じるが、押さえ込んでいるというよりかは、言われてみれば、魔石か何かに貯めた魔力のような小ささだった。

宮廷魔法士は魔法が使えることが前提だろう。

だから、魔力が少ない彼女は宮廷魔法士にはなれない?

しかし彼女はそれを気にした様子ではなかった。

「わたしは魔法が好きです。自分では使えなくても、魔法を編み出すのが好きです。その魔法が誰かの役に立つなら、とても嬉しいです。……それに、わたしは見習いのほうが気楽ですから、今のままでいいんです」

本心からそう言っているようだった。

魔道具を製作するために発注書が必要だから、と試験後は別れたものの、リュカは彼女のことが気になっていた。

……もっと話してみたい。

あの無駄のない美しい魔法式をどうやって考えたのか。

もう少し話して、彼女の考え方や魔法式の組み上げ方を知りたい。

それに通信魔法は上手く応用すれば、リュカが専門にしている精神に作用する魔法にも何かしらの進展が望めるかもしれない。

一人の魔法士としても興味深かった。

それから、気になった彼女について調べることにした。

どこで、どんな風に暮らして、どのように魔法を学べばあのような魔法式が作れるようになるのか知りたかった。

あれこれと周囲の魔法士に彼女について尋ねて回ったが、情報はほとんど得られなかった。

そもそも、彼女と関わりのある宮廷魔法士がおらず、それとなく魔法士長様に尋ねてみても、個人の経歴について教えてもらえるはずもない。

彼女は事情があって、毎日登城しているわけではないということくらいしか分からなかった。

「なあ、リュカ。お前最近、見習いの一人について調べ回ってるらしいな。噂になってるぞ?」

と、同じ平民出身の宮廷魔法士に声をかけられた。

「ああ、少し、気になって」

「ここではあんまり相手のことについて訊くのは良く思われないって分かってるだろ? お前だって出身についてコソコソ探られたら嫌じゃないか?」

「それは……」

つい言葉を濁してしまう。

「まあ、でも、俺も気になったからちょっと調べてみたんだけどさ、名前は確か、ルシール=ローズだっけ? その見習いについて、声かけた宮廷魔法士の大半が知ってるみたいだったぞ」

その言葉にリュカは驚いた。

「そうなのか? 訊いても誰も知らないと言っていたが……」

「これは俺の憶測だけど、多分、身分を明かせない立場の人間なんじゃないかと思う。普通は見習いって言うと自分の専門に近い研究してる先輩魔法士の下につくだろ? なのに魔法士長様の下につくってことは、よほど優秀なのか、何か事情があって他の宮廷魔法士には預けられないってことさ。みんな、知ってるけど口に出せない、みたいな感じだったし、貴族出身の魔法士達もそうだったことを考えると後者な感じがしないか?」

「なるほど」

確かに彼女は所作も美しく、貴族だとすぐに分かった。

高貴な生まれなのに魔力が少なく、そのまま名を出して宮廷魔法士になるには問題がある。

そして貴族出身者が口を噤むということは、事情を知っていても、自分達より身分が上か、権力のある家の者であるためそれを口に出せない可能性が高い。

そういった事情で魔法士長様の下についている。

それならば話の筋は通っている。

「これ以上、下手につつかないほうがいいんじゃないか?」

「調べるのはやめるつもりだ」

「そっか。と言うか、何で調べたりなんてしたんだ?」

問いかけられて、一瞬、言葉に詰まる。

「……その、自分より優れた魔法を編み出した者が、どういう風に生きてきたか知れば、才能の片鱗がどこからくるのか分かるかもしれないと思ったんだ」

目の前の宮廷魔法士が目を瞬かせた。

「それで見習いのことを調べようとしたのか?」

「ああ」

やや呆れた顔をされて、居心地が悪くなる。

リュカ自身も、さすがにコソコソと相手のことを探って回っていたのは良くないと分かっている。