作品タイトル不明
仕事依頼(2)
ルルが復帰の挨拶回りから帰って来た。
それと同時に、どうやら復帰最初の仕事も受けたそうだ。
寝室で私服に着替えたルルが教えてくれた。
「今回の依頼はぁ、ファイエット国王、つまり 義父上(ちちうえ) の暗殺──……」
「えっ!?」
「を、依頼したヤツの暗殺だよぉ」
思わず声を上げたわたしをルルが笑いながら抱き締める。
二人でそのままソファーへ移動した。
……お、お父様の暗殺依頼じゃなくて良かった……。
驚きすぎて、ドキドキと心臓が大きく鳴っている。
「リュシー、ビックリしすぎだよぉ」
わたしを抱き寄せているルルにも、この心臓の鼓動が伝わっているのだろう。
宥めるように、よしよしと頭を撫でられる。
「さすがにオレだって 義父上(ちちうえ) を殺そうとは思わないよぉ」
と、ルルが言うので安心した。
ルルがお父様やお兄様を傷付けることはないだろうけれど、でも、ルルなのでどう動くか分からないところもある。
……わたしのお父様とお兄様だから、かな?
義理の家族だから手を出さない、なんてタイプではないだろう。
そうだとしても、とりあえず、お父様の暗殺依頼を受けないでくれたことにホッとした。
「それで、どうしてお父様の暗殺依頼を出した人を暗殺することになったの?」
「 義父上(ちちうえ) が『三倍出すから 殺(け) してこい』って〜。まぁ、国王の命を狙うようなヤツだからぁ、逆に 殺(け) されても文句言えないよねぇ」
「なるほど」
お父様は優しいけれど、優柔不断な人ではない。
自分の命が狙われたと知れば当然、反撃する。
けれども、ルルに依頼したところにちょっとだけお父様の腹黒い部分を感じた。
自分が国王暗殺依頼を出した暗殺者に殺されるなんて、依頼した側は夢にも思わないだろう。
「お父様って結構、狙われてるの?」
ルルの口振りから、お父様が狙われるのはさほど珍しくないという感じがした。
「うん、オレは関わってないけどぉ、やっぱり国王サマってなるとそれなりに命を狙われてるみたいよぉ」
「そうなんだ……」
いつもわたしの前では穏やかで優しいお父様。
危ないことがあったとしても、きっと、心配させないためにわたしには言わないだろう。
それが嬉しい半面、寂しかった。
「大丈夫だよぉ。 義父上(ちちうえ) もアリスティードも影が沢山ついてるしぃ、騎士達もいるしぃ、どっちも強いから自分の身くらい自分で守れるよぉ」
ルルの言葉に、うん、と頷く。
国王と王太子なのだから護衛も多くついている。
影達も、二人を守ってくれている。
だからわたしが心配する必要なんてないのだと分かっていても不安になってしまうのは、二人と物理的に距離があるからだろうか。
……宮で暮らしていた時はこんな不安、なかったのになぁ。
ルルがわたしのこめかみにキスをする。
「あの二人にも、女神の加護の影響が出てるから、そんな簡単には死なないってぇ」
言われた言葉にまた、うん、と返しかけて考える。
……そういえば前にもそんな話をしたような……?
「お父様とお兄様への影響ってそんなにあったっけ?」
ルルが女神の祝福を受けたのは知っている。
わたしの十六歳の誕生日、婚姻が正式に成った日の夜にわたし達はひっそりと女神様から祝福してもらった。
その時にルルの魔力と身体能力が向上したのは知っているし、お父様やお兄様もそれらが上がっているだろうという話もチラッと聞いた。
確かに二人ともわたしに近いから、加護の影響を受けて、ルルほどではなくても何かしらあるだろうとは思っていたが。
「あの二人はリュシーと家族になってから、色々恩恵は受けてると思うよぉ。 義父上(ちちうえ) は知らないけどぉ、アリスティードは苦手な属性はあっても一応全属性使えるようになったらしいしぃ」
「……ルルはいつ知ったの?」
「学院の対抗祭前かなぁ。アリスティードを鍛えてた時にもしかしてって思ってステータスを再確認させたら、実は全属性に親和性が出ててさぁ、アレ絶対リュシーの女神の加護の影響だよぉ。だから対抗祭でそれまで使えなかった闇魔法をアリスティードが使えたんだぁ」
ルルはなんてことないみたいに言っているが、その内容にわたしがどれほど驚くか絶対に分かっているはずだ。
……そんな前から知ってたの!?
思わずルルを見上げたわたしの唇にルルがキスをした。
「ルル、誤魔化さないで」
ルルは緩く笑みを浮かべたままわたしを見る。
そうして、軽く肩を竦めた。
「オレが知ったのは本当にその時だったよぉ。それから気になって 義父上(ちちうえ) とアリスティードに訊いたけど、正直、どこからどこまでがそうなのか分からないっていうのが現状かなぁ」
ルルの話によると、お父様とお兄様は魔力量の増加と身体能力向上の他にも色々と恩恵を受けているだろうということだった。
お兄様が全属性に親和性を得たように、お父様も全属性持ちになっている可能性もあるし、ルルが二人に訊いたところ、疲れ難くなったとか五感が鋭くなったという話もあるそうだ。
「たとえば 義父上(ちちうえ) が国王になってから十三年経つけどぉ、潰れる寸前だった国をココまで持ち直したのは本当に 義父上(ちちうえ) 達だけの力だったのか、とかねぇ」
「それはお父様が改革を行なったからじゃないの?」
「 義父上(ちちうえ) が王になってから数年は豊作続き。しかもその後、飢饉は一度も起きていないしぃ、流行り病もないしぃ、この国に攻め込もうとしていた国のほうが逆に飢饉で苦しんだらしいよぉ。オレはそういうの全部、加護の影響じゃないかって思ってるかなぁ。ほら、大司祭が加護持ちは国に豊穣をもたらすって言ってたじゃん?」
洗礼を受けた日、確かに大司祭様はそう説明してくれた。
周囲の人々にも幸運を、国には豊穣をもたらす。
「まぁ、ともかくあの二人は加護の影響があって、そう簡単には死なないから安心しなよぉ」
若干面倒臭くなったのか、ルルがそう締め括る。
……女神様の加護ってすごいんだなあ……。
わたしが気付かないだけで、もしかしたらかなり広範囲まで加護の影響が出ているのかもしれない。
でも、お父様とお兄様が強くなることには大賛成だ。
現国王、そして次期国王が健在なのは良いことだし、二人の治世が長く続いてくれるのは嬉しいことだ。
「で、話は戻るけどぉ、今回の依頼は『ファイエット国王暗殺の依頼人の暗殺』ってことでぇ、ちょ〜っと隣のヴェデバルド王国まで足を伸ばすことになるよぉ」
かなり脱線してしまった話題が軌道修正される。
「暗殺対象がヴェデバルドにいるから?」
「そぉそぉ」
隣国ヴェデバルドとファイエット王国の仲はあまり良くない。
旧ヴェリエ王国時代と言うか、昔から、小競り合いの絶えない間柄なのである。
それでも近年はそういった小競り合いも起こっていない。
確か、学院の歴史の授業で習った内容によると、ヴェデバルド王国はこの国でクーデターが起こる少し前に飢饉に陥り、それから数年、飢饉から抜け出せずにいたらしい。
「あ、攻め込もうとした国ってヴェデバルド?」
「うん、そうらしいよぉ。飢饉が起こってそれどころじゃなくなっちゃったんだろうねぇ」
「で、慌てて飢饉に対応してる間にこの国でクーデターが起こって、お父様が王になって、気付いたら攻め込む機会を逃しちゃったって感じ?」
「多分ね〜」
……それは確かに、女神の加護を疑いたくなりそうなくらいタイミングの良い飢饉である。
「でもヴェデバルドはまだこの国の領土を諦めてないと思うんだよねぇ」
わたしをギュッと抱き締めながらルルが言う。
今回ルルが暗殺しに行く相手は元はこの国の侯爵で旧王家派の貴族だったらしい。
クーデターの時に財産を持って他国へ逃げた。
その後、数年は周辺国を渡り歩いていたようだが、現在はヴェデバルトに落ち着いているのだとか。
「暗殺依頼してきた元侯爵家は、前国王の側妃の実家だったみたいだよぉ」
「えっと、確か、側妃は他国に情報を流していたんだっけ? ……もしかしてその他国って言うのは……」
「ヴェデバルドだねぇ」
偶然、情報を売っていた国に落ち着いたとは思えない。
むしろ、そういう繋がりがあったからこそ、ヴェデバルドに留まっているのではないだろうか。
しかもヴェデバルドはこの国との仲は良くない。
もし身柄の引き渡しを迫られても、友好国ではないから、引き渡すのを拒否することも出来る。
「 義父上(ちちうえ) の予想では、今回の国王暗殺の依頼にヴェデバルドも一枚噛んでるんじゃないかって〜。主に金銭的な支援とかねぇ」
クーデター時に脱出してから十三年も経っているのだ。
もし当時、持てるだけの財産を全て持って逃げ出したとしても、現在まで生活出来るほどあるかどうか。
切り詰めたなら何とかなるかもしれないが。
ルルに国王の暗殺なんて依頼する金銭的余裕はないはずだ。
……その金銭面をヴェデバルドが補っているとしたら?
つまり、その元侯爵だけでなく、ヴェデバルドもお父様を殺そうとしている、もしくはその機会を狙っているわけだ。
「今回ソイツを殺したとしてもヴェデバルドは何もしないだろうけどねぇ。国王暗殺が上手くいけば重畳、失敗しても爪の先が切られた程度にしか感じないんだろうし〜」
「どうせ、他国の落ちぶれ貴族だから?」
「そぉそぉ、自国の貴族じゃない、無関係なヤツだからぁ、失敗して何かあっても『 自分達(ヴェデバルド) は無関係です〜』って顔してればいいだけだからねぇ」
……なんか、なんだろう。
「嫌な国だね」
わたしの言葉にルルが笑った。
「だから 義父上(ちちうえ) が王になってからも友好関係が築けてないんじゃなぁい?」
「そっか、そうなのかも」
表立って争っていないだけで、お父様もヴェデバルドに良い感情は抱いてないのだろう。
そして、友好関係になる利点もさほどないのだろう。
ヴェデバルドはファイエット王国とそれほど大きく接していないこともあって、無理に国交を密にする必要もない。
……だけどファイエット王国からヴェデバルドに食糧援助をしたこともあったはずだけど……?
考えれば考えるほどモヤモヤした気分になる国だ。
「じゃあ、依頼が終わるまでルルに会えなくなっちゃうの……?」
隣国まで行くのなら、日数もそれなりにかかる。
ギュッとルルに抱き着くとルルが小さく笑った。
「ちゃぁんと毎日帰ってくるよぉ」
昼間は流れの傭兵としてヴェデバルドへ向かう。
そうして、夜になったら宿に泊まったふりをして、転移魔法で屋敷に帰ってくる。
夜は屋敷で過ごし、翌朝、宿へ転移する。
そこからまたヴェデバルドへ向かうそうだ。
「良かった。仕事って分かってるけど、ルルに会えないのはつらいから、帰ってきてくれるのはすごく嬉しい」
「オレもリュシーに会えないのは嫌だからねぇ」
ちなみに、変装して行くらしい。
準備があるから出立は明後日にするようだ。
「どんな変装するの?」
そう訊くとルルが笑みを深めた。
「リュシーはどういう姿を見ていたい〜?」
逆に訊き返されて考える。
クーデターの時、ルルは全く別人に変装していた。
魔法のある世界だと変装の幅はかなり広そうだ。
あれ以降、ルルが姿を変えたところを見たことはないが……。
「変装だから普段のルルとは違うほうがいいよね?」
「そうだねぇ」
改めてルルを見る。
少し癖のある柔らかな茶髪に、一見すると整った顔立ちは優しそうで、灰色の瞳が綺麗だ。全体的に色素が薄く感じる。
……ルルと正反対って言うと……。
「お父様やお兄様みたいな黒髪、とか?」
「目の色は〜?」
「うーん、紫が似合いそう!」
思いつきで言うわたしの頭をルルが撫でる。
「じゃあ黒髪に紫の目にしよっかぁ。あえて印象に残る姿のほうがいいしねぇ」
「印象に残っていいの?」
「普段のオレと違う姿で印象に残れば、オレまで辿り着けないでしょぉ? そのほうが面白そうだしねぇ」
……黒髪に紫の目のルル。
想像してみて、ちょっとドキリとした。
……これはこれでカッコイイのでは!?
「明後日、楽しみにしててねぇ?」
ルルの言葉につい大きく頷いた。
いつもと違うルルが見られるのが楽しみだ。
「黒髪のルルも、きっとカッコイイと思う」