軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鉱山視察(2)

袋に入れた岩を砕いている人、最初の分離を行う人、次の分離を行う人とこちらも仕事内容が分かれている。

分離作業だけで五回あるらしい。

建物の中には岩を砕く音と働く人達の話し声が響いてた。

鉱山内部の作業は男性の割合が多かったけれど、こちらは女性の割合のほうが多いようだ。

分離したものはまた別の人が受け取り、更にまた別の魔法でそれぞれ一定の重さの塊に成形して箱に納める。

建物の中には警備だろう人もいる。

警備の者達はこちらに気付き、管理官を見ると目礼した。

管理官もそれに小さく手を振り、中を覗いていた首を引っ込めた。

「ここで分離、成形されたものは品質に問題がないか、重さが均一かなどの検査を行った後にドランザーク産であることを証明する印をつけて流通します」

わたしとルルも首を引っ込めて、管理官と共に元来た道をゆっくりと戻る。

「沢山採れたら全部流通させるんですか?」

「いいえ、あまり大量に市場へ流れると値が下がってしまうので一日で売買出来る量はある程度決まりがあります。そうは言っても、上限以上に採れることはまずないですね。もし大量に採れてしまった場合は国が買い取り、市場に影響が出ないように調整しながら流通させます」

「なるほど」

足元に気を付けながら道を歩く。

元の場所に戻ると管理官が振り返った。

「あの草木の生えていない山が鉱物を分離した後の捨石で出来たものです」

示されたほうには砕いた岩くずの小山があった。

ああいうものは他にもあるらしいが、示されたその小山が今は一番新しいものらしい。

小山のそばには川が流れており、鉱山から水を運んだ人達がそこへ捨てていた。

鉱山と言ってもどんな風に人が働いているのか知らなかったので、こうして見ることで勉強にもなった。

「午前の見学は以上になります。昼食と休憩を挟んだ後に、午後は検査所と倉庫を見ていただく予定になっております」

管理官に促されて馬車へ戻った。

ルルの手を借りて馬車に乗る。

わたし達が乗ると馬車は、やはり来た道を戻る。

「検査所は領主の館の敷地内にあります」

管理官の言葉に、だから道を戻っているのか、と納得した。

鉱山から採れた鉱石などは全て領主の館で検査、保管、管理されるそうだ。

「それを前の管理官は悪用して鉱石を横流ししていたのですが、現在は教会の司祭様や鉱夫達の代表といった人々に検査所で立ち会ってもらい、採掘量を偽っていないと確認していただいています。ですので、陛下へお送りしている書類には必ず立会者、検査者、管理官、領主の署名があるのです」

「複数人でお互いに目を光らせているんですね」

「はい。ちなみに立ち会いを行う者達にもいくつか条件があります。たとえば、借金がない、過去に犯罪行為をしていない、親族以外で十人以上の推薦者がいるなど、少々厳しいですが信用に足る人間であることが重視されます」

……それはそうだよね。

問題のある人を立会人にしたら、周りを唆したり共犯になったりしてこっそり盗む可能性もある。

だから性格や生活態度なども調べられるのだろう。

その分、お給金は高いらしい。

そんな話を聞いているうちに領主の館へ帰ってきた。

屋敷へ入り、管理官と挨拶を交わして、ルルと共に自室へ戻る。

「奥様、入浴されますか?」

どうやら子爵夫人の計らいで帰宅後に入浴出来るようにしてもらえていたようだ。

……汚れてない気はするけど。

思わず自分の髪に触れて確かめてしまう。

「せっかくだし入ってきたら〜?」

「ルルは?」

「オレは体拭くだけでいいかなぁ。どうせ夜に入るしぃ」

と、いうことで軽く汗を流すことにした。

ヴィエラさんに手伝ってもらって入浴し、子爵夫妻と食事をするのに合った少し華やかなドレスに着替えて、お化粧を施して、髪も整えてもらう。

部屋に戻ると、ルルも体を拭いたのか服が違っていた。

貴族らしい装いなのに、椅子の背もたれを前に向けて跨るように座り、背もたれに両腕を乗せているのがルルらしい。

「おかえりぃ」

その状態でひらひらと片手を振る。

「ただいま。……あ」

ルルに近付き、その前髪を手で撫でつける。

「ルル、髪跳ねてるよ」

「あ〜、一応髪も布で拭ったからねぇ」

自分の頭に触れながらルルが立ち上がる。

鏡の前に立つと、ちょいちょいと手櫛で直している。

ヴィエラさんから髪用のブラシを借りて、鏡の前にいるルルを椅子に座らせた。

素直に椅子に腰掛けたルルの後ろに立ち、ルルの髪に手を伸ばす。

少なめにとってブラシで丁寧に梳る。

柔らかく淡い色合いのルルの髪はふわふわで少し癖っ毛だ。

髪を梳かせばルルが気持ち良さそうに目を細めており、わたしに身を委ねてくれている。

ルルがわたしの髪を梳かしたがる理由が分かる気がした。

髪を梳かし終えるとルルは手早く自分の髪を編んで、わたしとお揃いのリボンで結んだ。

「さぁて、そろそろ昼食の時間だねぇ」

ルルがそう言って振り返るのと、扉が叩かれるのはほぼ同時だった。

昼食の招きを受けて、子爵夫妻と管理官と食事を摂る。

海が近くにあるからか昼食は魚料理が主だった。

たまに質問されたルルが答えることはあったものの、基本的にはわたしが話をして、でも和やかに昼食の時間は過ぎていった。

その後、少し休憩を挟むことにした。

部屋に戻り、ソファーにルルと並んで座る。

ルルに寄りかかると抱き寄せた手で頭を撫でてくれた。

しばしそうして過ごし、それから午後の見学に向かった。

とは言っても領主の館の敷地内にあるため、食後の運動も兼ねてちょっと歩くには丁度良い。

迎えに来てくれた管理官の案内で検査所へ行く。

検査所は結構大きい建物で、荷馬車に載せられた箱が到着すると、箱を検査所へ運び入れる。中身は鉱山で採掘された鉱物である。

建物の中へ入るとまず第一に運び人と責任者、それから立会人と検査所の者で運ばれてきた鉱物の量の確認を行う。

鉱山から出荷された量と運び込まれた量に差異はないか、別の鉱物が運び込まれていないか。

それらの確認を終えてから検査が始まる。

第一に混じりものがないかどうか魔法での検査。

これで鉱物の純度を調べる。

たとえば誰かがこっそり金を、金を表面に塗った鉄塊などに入れ替える可能性もあるし、この検査で純度を調べておくことで証明書を発行しやすくなる。

第二に形と印に問題がないかの検査。

これは人の手や目によって一つ一つ検査される。

形が崩れていないか、印に問題はないか、三名の目を通り、問題がなければ次へ進む。

第三に重量の検査。

一つ一つの重さが均一であるかの確認だ。

これで軽過ぎたり重過ぎたりしたものは避け、検査所の別室で成形され直されてもう一度検査をやり直す。

最後に、全てを集め、持ち込まれた量と出荷する量に差異がないかを確認する。

ここまでやって、ようやく出荷出来るものとなるのだ。

「そして、こちらが検査を通ったものでございます」

運搬中の箱の一つに近寄り、中を見せてもらえた。

そこには輝く金の延べ棒がいくつか並んでいた。

思わず「うわあ……」と声が漏れてしまう。

金の延べ棒なんて初めて見た。

管理官が運搬していた人と話すと、運搬していた人が箱から金の延べ棒を一つ取り出した。

「どうぞ、触れてみてください」

「え、いいのですか?」

「はい」

差し出された金にそっと触れてみる。

冷たくて、硬くて、思ったよりも表面はツヤツヤしていた。

ルルも表面を少し撫でた後、持ってみても良いか訊いて、許可をもらって金をひょいと持った。

重さを確かめるように軽く上下に動かしている。

「ルル、わたしも持ってみたい」

そう言えば、ルルが金をわたしへ差し出した。

「重いですよ」

「うん」

ルルが左手をわたしの手に添えて、右手に持っていた金をわたしの手の上へ置いた。

金からルルの手が離れる。

途端にズシリと重みが両手に加わった。

「わっ!?」

ルルの手がすぐにわたしの両手を下から支え、落とさないように重みを受け止めてくれた。

「見た目よりずっと重い……」

管理官が頷いた。

「ええ、金は鉄よりも重いのです」

「そうなんですね」

ルルがわたしの手から金を受け取り、運搬していた人へ返す。

金の延べ棒は、元の世界のちょっと大きなテレビリモコンくらいの大きさだったけれど、見た目よりもずっと重く、やはり金属なのだなあと実感した。

……落とさなくて良かった……。

ルルに体を寄せて、こっそり「ありがとう、ルル」と言えば、ルルはにっこりと微笑んだ。

あの重い延べ棒を片手で軽々と持ち上げたルルも凄い。

延べ棒は箱へ戻され、汚さないためか布をかけ、木板でフタがされた。フタはしっかりと釘を打っていた。

最後に書類に日付けと立会人、検査人の名前が記される。

「管理官と領主の名は出荷する際に日付けと共に記入されます。こうすることで鉱山から採掘された時期や検査日、流通時期が分かるようになります」

ゴトゴトと箱が運ばれていく。

その後ろを管理官と共について行く。

検査所を出てすぐそばに倉庫があった。

検査所も倉庫も警備をしている者達がいる。

もちろん、倉庫には鍵と魔法もかけてあり、特定の人物が複数人いなければ開けられないようになっているようだ。

さすがに倉庫の中までは見なかったが、倉庫は外壁もかなりしっかりとしており、そこかしこに警備が目を光らせていた。

……でもこの壁、石造りなんだよね?

土属性魔法で砂や土に換えてしまえば簡単に中に入り込めてしまいそうだ。

だけど、さすがにそれくらいは分かっているだろう。

「倉庫に入っているものが盗まれることはないのでしょうか?」

わたしの問いに管理官が訳知り顔で頷いた。

「少なくとも前任者の頃から現在まで、盗まれた記録はございません」

「え、前任者って……」

管理官が苦笑を浮かべた。

「それについては屋敷に戻ってからお話ししましょう」

と、いうことで領主の館へ歩いて戻った。

前を歩く管理官の前任者と言えば、賄賂で管理官になり、鉱夫達に過労働を強いていた人物である。

その人物の頃から盗まれた記録がないというのは不思議な話だ。むしろ沢山盗まれていそうな気がするが。

屋敷に戻り、応接室の一つに通された。

子爵家のメイドが飲み物を用意すると部屋を出ていく。

ルルが出されたものを一口飲み、頷いて、わたしのものと交換する。飲み物はリンゴジュースだった。

「さて、先ほどのご質問についてですが」

ジュースを飲んでいると管理官が口を開いた。

「前任者は鉱山で採れた鉱物を私財のように扱い、横領していました。彼にとってはこの鉱山の鉱物は全て自身のもの。それが盗まれるということは、私財を盗まれるようなものだったのです」

前任者は鉱山を私物化していた。

それ故に鉱山で採掘された鉱物が他の者に盗まれることには人一倍敏感で、採掘量と検査所へ運び込まれた量に少しでも差異があると関わった者達を酷く罰したらしい。

鉱山や検査所が随分と警備が厳重なのは、その頃からであるそうだ。警備員は外だけでなく内の監視もやはり兼ねていた。

「あの倉庫、実は外観だけで中身は空なのです」

実際は倉庫に入ると更に地下へと続く扉があり、それにも鍵がかけられていて、地下倉庫へ繋がっているらしい。

しかも外側のこの倉庫の内部には魔封じが施されているために、中では魔法が使えず、頑丈な扉を開けるには物理的な方法しかない。

「開けるための鍵は複数必要で、人間の力だけで開けられたとしてもかなり大きな音が立つので警備している者達が気付きます」

……魔封じをそんな風に使うなんて面白いなあ。

魔封じは、その名の通り魔力が使えないようにする魔法である。本来は罪人などの手枷に刻まれており、魔法を使おうとしても体の内側に魔力を封じてしまうので体外に魔力を出すことが出来なくなる。

身体強化など体に作用する魔法も、実際は精霊に魔力を捧げなければ強化してもらえないため、そもそも精霊に魔力を捧げること自体が不可能になってしまうのだ。

それを空間に展開させたらどうなるか。

「そういえば罪人を入れる檻にも魔封じが施されたものがありますね」

思い出した様子でルルが言う。

「そうなの?」

「ええ、しかし魔封じは人の体に害があります。魔力を封じ続ければ、体の中で魔力が飽和してしまうので、長期間、たとえば数年から数十年単位の話ですが、魔封じをかけ続けていると体調を崩します」

……それだと長期間捕らえられている罪人は、段々と弱っていくってこと?

わたしの考えを読んだのかルルが微笑んだ。

「長期間捕らえる場合は魔封じではなく、魔力吸収の効果のある魔道具を使用します。その方が吸収した魔力を魔石に貯めて、魔力入りの魔石を作れるので効率的ですから」

それなら魔力入りの魔石も手に入るし、罪人は魔法が使えないので脅威も減る。封じるよりも確かに良いだろう。

「そのようなことがあるのですね。地下倉庫へ荷を運搬する者が時折体調を崩すのですが、もしかすると魔力過多になっているのかもしれませんね。その対策も考えるべきか……」

そう言った管理官は少し眉を顰めていた。

一日二日程度なら問題がなくても、毎日数時間、魔封じの中で過ごすのを数年と続けていれば、人によっては具合が悪くなることもあるかもしれない。

……でも、魔封じの檻なんて王城にもなかった気がするけどなあ。

不思議に思いながらルルを見上げれば、ニコッと良い笑顔を向けられた。

……後でこっそり訊いてみよう。