軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第90話 あーーーーー!!

無事お手洗いが済ませた後もライル達との宴は続き、気がつくと夜になっていた。

エリーナの家のシェフが腕を振るった絶品の夕食もご馳走になってしまった。

すっかり月が煌めく時間になってしまった頃、屋敷の広いバルコニーでユフィは一休みをしていた。

月明かりと、部屋から漏れ出る光がユフィを照らしている。

「こんなに喋ったの、久しぶりかも……」

なんだかヒリヒリする喉を摩りながらユフィは苦笑する。

基本一人の生活をしているため、一日に喋れる文字数はとっくにオーバーしていた。

バルコニーを隔てて部屋からは、ライルやエリーナたちの笑声が聞こえてくる。

ボードゲームを用いた食後の一戦が随分と盛り上がっているようだった。

「ふふっ……」

友達と遊び、笑い合うという空間に自分も混じっていたという事実に、ユフィは思わず笑みを溢した。

「隣、良いか?」

気がつくと、ジャックがバルコニーにやってきていた。

「あ、どうぞどうぞっ」

「うす」

隣にジャックが立つと、ユフィの背筋がピンと伸びる。

もう付き合いは1ヶ月以上になるが、ジャックの圧のあるオーラには未だに慣れそうにない。

「たまにはこういう日もあって良いよな」

「私は人生で初めての日でした」

「……なんか、わりい」

「いえいえ!!」

ぶんぶんと頭を振るユフィに、ジャックが尋ねる。

「楽しかったか?」

ユフィは目を細めて、言葉を落とす。

「はい、とても楽しかったです。友達の家で皆と遊ぶなんて初めてで、楽しくて……なんだか、夢を見てるんじゃないかってくらい、楽しくて、楽しくて、本当に楽しかったです」

「語彙力どこいった?」

「ううう……ごめんなさい、私のボキャブラリーが乏しいばかりに……」

もしユフィが小説家だったら、今日一日が如何に楽しい日だったかを本一冊に出来るだろう。

それほどまでに、『友達の家で遊ぶ』というイベントは天に昇るほど至福のひとときであった。

今日一日の余韻に浸ってぽやーっとするユフィに、ジャックが真面目なトーンで言葉を口にする。

「ありがとよ」

「……?」

何に対してのお礼かわからず、首を傾げるユフィにジャックは続ける。

「攻撃魔法の練習に付き合ってくれて、感謝してる。おかげで」

「そんな、私は何も……」

「諦めない心」

ユフィの言葉を遮って、ジャックは言う。

「俺も相当諦めの悪いタチな自覚はあるが、やっぱ心のどこかで『無理なんじゃないか』と弱気になっていた部分があってな」

ユフィを真っ直ぐ見て、ジャックは言う。

「そんな俺の弱気な部分に、ユフィが喝を入れてくれた。何年も心血を注いだのに上達しないという絶望的な状況でも、諦めず努力をし続けて見事に光明を掴み取った……そんなお前の姿勢のお陰で、俺も頑張ろうと思ったんだ」

ここまで言って気恥ずかしくなったのか、ジャックはふいっと視線を逸らして小さく「だから、ありがとうな」と呟く。

「……助けになったのでしたら、何よりです」

ユフィも思わず顔を伏せた。

今、顔を見られてはいけない。

意識的でないにしろ、自分の行動が誰かの助けになっていた。

その事実に、口元がによによでへでへになってだらしない表情になっているだろうから。

そんな中、ジャックがふと尋ねてくる。

「回復魔法の調子はどうだ?」

「カイフクマホウ……?」

表情を戻して振り向き、初めて耳にした言葉みたいに言う。

「いや、エリーナと練習するって言ってただろ。どうなったんだ?」

そこまで言って、ユフィはハッとする。

そしてダバーッと汗を吹き出した。

「回復魔法……五月祭……演舞会……」

今日はなぜ皆と遊ぶことになったのか、その経緯を辿る。

ライルとジャック、エドワードが合流したのはたまたまだ。

元はと言えば、今日はエリーナと二人きりのはずだった。

「あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

ライルたちと遊ぶのが楽しくて……いや、おそらく迫り来る審判の日から全力逃避したくて、今日の主題をすぽーんと頭から抜けていた。

「回復魔法の練習忘れてたーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

ユフィの絶叫が、バルコニーに響き渡った。