軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 ゆふぃ、まほうをつかう

「だ、大丈夫ですか……?」

ここにいるはずのない女子生徒、ユフィがひょっこり現れて、ライルは驚愕する。

『グル……』

フレイム・ケルベロスも、突然現れた第三者の存在に炎を引っ込める。

(なぜ、ユフィがここに……!?)

ライルは両目を極限まで見開いた。

ユフィ・アビシャス。

同じクラスの同級生。

入学式の前日に二、三言話したくらいの関係性だ。

見たところ、彼女は一人だった。

近くに他のメンバーがいるのか、迷子か。

どちらにせよ、女であるユフィには攻撃の手立てがない。

この場においては守られるべき存在だ。

そのはずなのに。

「ちょっと、怪我してるじゃないですか!」

ライルの肩の負傷を見て、ユフィがたたたっと駆け寄ってくる。

まるでフレイム・ケルベロスなど眼中にないかのような振る舞いに、ライルは呆気に取られた。

一方のフレイム・ケルベロスは、自分の存在を無視しているのかのような振る舞いに憤ったのか、ユフィに向けてファイア・ブレスを放たんと炎を灯した。

「来るな! マリナ・バースト!(水蓮爆圧)」

上級水魔法、マリナ・バースト。

大量の水を瞬時に創造しその水圧で対象を攻撃する、今年の新入生の中で唯一の上級魔法を発動できるライルだからこそ発動できる魔法だった。

その刹那、フレイム・ケルベロスの頭のひとつからファイア・ブレスが放たれる。

ブレスはライルの放ったマリナ・バーストに直撃し爆散した。

しかしすかさず、フレイム・ケルベロスは二撃目のブレスを放つ。

(マリナ・バーストは間に合わない……!!)

咄嗟に、ライルはユフィに向かって走る。

「ウォーター・ボール(水球)!」

ライルが放った下級の水魔法によってブレスは威力を落とす。

しかし、僅かに威力の上回った炎が二人を撫でた。

「ユフィ!」

「きゃっ……」

間一髪のところで、ライルはユフィに抱きつき炎に背を向けた。

「ぐあああああああぁぁぁぁっ!!」

「ライル様!」

フレイム・ケルベロスが放った炎は、ライルの制服を執拗に燃やす。

「くそっ!!」

ライルは詠唱を省き、自分の背中に水を発現させた。

じゅわあああっと音を立てて炎が鎮火する。

代わりに、焼け焦げて無くなった制服の下から、ライルの火傷した素肌が現れた。

「ライル様! ああっ……私のせいで……」

おろおろと涙目のユフィ。

「は、早く回復魔法を……」

そう言って突き出した手を、ライルが振り払う。

「僕のことはいいから、逃げて……」

鬼気迫った表情で呻くライルに、ユフィは「でも……」と呟く。

その間にも、フレイム・ケルベロスは追撃せんと口に炎を灯していた。

三つの頭全てから放つ特大のファイヤ・ブレスが、すぐにでも放たれようとしている。

(ダメだ……!!)

このままだと二人とも死んでしまう。

(せめてユフィだけでも!)

「ウォーター……うっ……」

水魔法を使ってユフィを飛ばそうとするも、身体からガクンと力が抜け落ちる感覚。

(魔力切れ……こんな時に!)

何度かウォーター・ボールを放ち、立て続けに上級魔法マリナ・バーストを発動したためライルの魔力は枯渇状態だった。

それは、攻撃も防御も不可能となったことを意味していた。

そんな絶望的な状況を嘲笑うかのように、フレイム・ケルベロスがブレスを放つ。

二人の人間なんぞ簡単に炭にしてしまうほど大きな灼熱の業火が迫ってくる。

(ああ、くそ……)

「こんなところで……」

(僕の人生は終わってしまうのか……)

何も為すことなく、何者にもなれず、たった一人の女の子すら守ることもできず。

何故こんなことになったのかわからぬまま、死ぬのか。

深淵に引き摺り込まれるような焦燥が胸に広がって、死がリアルな感触を伴ってきたその時。

「ウォーター・シールド(水壁)」

信じられないことが起きた。

ユフィの声が響いたかと思えば、青く透き通った壁が突如としてライルの前に姿を現し、輝く水滴が無数に舞い散る。

まるでダイヤモンドが降り注ぐような美しい光景だ。

その水壁は、ライルの出力の何倍、否、何十倍もの量の水で出来ていた。

この辺り一体を覆い尽くすほどの水量で、その存在感は圧倒的。

次の瞬間、水壁は動き出す。

一つの生命体のように、ファイヤ・ブレスに向かって膨らみ包み込んだ。

ジュッと腑抜けた音が響き、ケルベロスのファイヤ・ブレスが無効化される。

まるでマッチの火を湖に落とすかのような呆気なさだ。

ユフィがサッと手を払うと、水壁は瞬時に消えて何事も無かったように静寂を取り戻した。

思わず、ライルはあたりを見渡す。

男性教師の応援が来たのかと思ったがその気配はない。

もちろん、ライルは魔力が枯渇している上に、そもそもこんな超上級魔法は習得していない。

ということは、さっきの魔法は必然的にユフィの所業になるわけで。

「…………………………は?」

女であるはずのユフィが、今まで目にしたことのない超上級魔法を放ったことに対して一文字だけ絞り出すのにやっとなライルであった。