軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話 リリア、もう一度部屋に入る

リリア・オルセーヌが冬鈴館へ来た日、リュシーにはあらかじめ話した。

「昔、お母さまたちを困らせた人が来ます」

「リリアさま?」

娘は名前を覚えていた。

私は頷いた。

「会わなくていい。会いたければ、ハンナかお母さまと一緒に短く会える」

「なんでくる?」

「今、別の子どもたちの部屋が奪われそうになっているから、知っていることを話しに来るの」

「いいひと?」

その問いに、私はすぐには答えなかった。

「良いことをしようとしている人。昔したことは、良くなかった人」

リュシーはその説明を受け取ったようだった。

「じゃあ、リュシー、あとで、みる」

リリアは、以前よりずっと質素な服で現れた。

薄い灰色の修道療養院の外套。髪は短くまとめ、顔色は悪いが、以前のような儚さを飾る仕草はなかった。

玄関で、彼女は深く頭を下げた。

「ノエリア様。お招きいただき、ありがとうございます」

「証言の場を用意しただけです」

「はい」

応接室には、マリア第一王女の書記官、ミレーヌ、アルノルトが同席した。

リリアは宣誓書を読み上げた。

王立療養院から修道療養院へ移された子どもたちの話。

標準毛布の不具合。

面会制限による食事拒否。

相談員が子どもに「他の子のため」と言って協力を求めた例。

彼女の声は途中で震えたが、止まらなかった。

「私は、他人の部屋を欲しがったことがあります」

最後に、リリアは自分の過去を語った。

「寒かった。苦しかった。誰かに助けてほしかった。その時、私は自分が助かるなら、誰の部屋なのかを考えませんでした。ギルベルト様が用意してくださると思い、ノエリア様とリュシー様が失うものを見ないふりをしました」

彼女は膝の上で手を握った。

「王立療養院で出会った子が言いました。『ここしかないなら我慢する』と。私は、その言葉を聞いた時、自分が昔、同じように誰かへ我慢を求めていたのだと分かりました」

私は黙って聞いていた。

怒りが消えたわけではない。

だが、彼女の言葉が今必要なことも分かった。

「証言は受け取ります」

「ありがとうございます」

「ただし、リュシーへの謝罪を、この場で求めることはできません」

「分かっています。謝る権利も、許される権利も、私から求めるものではありません」

その返事は、以前のリリアからは出なかっただろう。

面会の後、リュシーが廊下の端からリリアを見た。

会うと自分で決めたらしい。ハンナがそばにいる。

リリアはすぐに膝をついた。距離は十分にある。

「リュシー様。お久しぶりです」

リュシーは私の袖を握っている。

「リュシー、いま、へや、ある」

「はい」

「リリアさま、もう、とらない?」

リリアの顔が歪んだ。

「取りません。誰の部屋も、欲しいと言いません」

「さむいときは?」

「自分の寒さを言います。でも、誰かの部屋を奪わない方法を探します」

リュシーは少し考えた。

「じゃあ、マーサのスープ、のむ?」

私も、ハンナも、リリアも、同時にリュシーを見た。

娘は真剣だった。

「さむいなら、スープ」

リリアの目に涙が浮かんだ。

「……いただいても、よろしいのでしょうか」

リュシーは私を見た。

判断を丸投げする目ではない。確認する目だ。

「リュシーが同じ部屋にいたいかどうかで決めていい。別室で出すこともできる」

「べつのへや」

「分かった」

マーサはリリアに、別室で温かいスープを出した。

許しではない。

でも、凍らせない。

それが今のリュシーの答えだった。

帰り際、リリアは私に封筒を渡した。

「修道療養院で作った布です。冬鈴館で使っていただけるとは思っていません。ただ、北境の子どもたちへ送ってください。私の名は出さなくて構いません」

「用途はこちらで決めます」

「はい」

封筒の中には、薄くて軽い白い保温布が入っていた。

派手ではない。だが、縫い目は丁寧だった。

リリアの訪問は、冬鈴館に小さなざわめきを残した。

過去の加害者が証言者になることを、誰もすぐには飲み込めない。私も同じだ。

それでも、私は証拠台帳に彼女の宣誓書を綴じた。

過去を消すためではなく、同じ過ちを別の部屋で繰り返さないために。

リリアが帰った後、リュシーはしばらく廊下の木札を見ていた。

「おかあさま」

「なあに」

「リリアさま、スープ、のんだ?」

「飲んだわ」

「へや、とらない?」

「取らないと言っていた」

「いったら、ほんと?」

私はすぐには答えなかった。

「言っただけでは、まだ途中ね。これからも取らないことを続けて、本当になっていく」

リュシーはその答えを考えていた。

「おとうさまと、いっしょ?」

「少し似ているわ」

「れんしゅう?」

「ええ。練習」

娘は頷いた。

子どもは大人を簡単には許さない。

でも、練習している姿を見ている。

それは大人にとって、優しさではなく責任だ。

リリアに出したスープの器は、冬鈴館の子どもたちが使うものとは別にした。

罰ではない。境界線だ。

マーサは何も言わず、別室に同じ温度のスープを運んだ。冷たくもしない。特別に飾りもしない。

リリアはその配慮に気づいたのだろう。器を返す時、深く頭を下げた。

「この距離を、守ります」

私は頷いた。

温かさには、距離が必要な時もある。