作品タイトル不明
第十八話 ランキエール辺境伯の古い傷
アルノルトがなぜ子どもの療養に詳しいのか、私はしばらく聞かなかった。
彼は必要なことを必要なだけ話す人だ。過去を飾って同情を引くこともなければ、苦労を武器にすることもない。
けれど冬鈴館の準備が進むにつれ、彼の手際のよさは不自然に思えるほどだった。子どもの寝台の高さ、薬棚の鍵、暖炉の柵、熱い茶を置く位置。軍人というより、幼い子どもの事故を知っている人の動きだった。
ある夕方、温室の灯りを落とした後、私は彼に尋ねた。
「アルノルト様には、幼いご兄弟がいらしたのですか」
彼は少しだけ沈黙した。
「妹がいました」
過去形だった。
私は謝ろうとしたが、彼が先に続けた。
「十歳下の妹で、体が弱かった。北境の冬に向かない子でした。母は早くに亡くなり、父は領地と戦で忙しかった。屋敷の者は妹を大切にしているつもりでしたが、寒い部屋を寒いと言えない子どもでした」
「……お亡くなりに?」
「七歳の冬に。暖炉は燃えていました。毛布もありました。けれど、窓の隙間風と床の冷えに誰も気づかなかった」
私は手を握りしめた。
リュシーの未来だったかもしれない。
「妹は、最後まで迷惑をかけたくないと言っていたそうです」
アルノルトの声は静かだった。
「それを聞いてから、私は子どもの我慢を信用しなくなりました。大人が聞くべきです。寒いか、痛いか、怖いか。言えるまで待つのではなく、言いやすい場所を作るべきだ」
私は深く息を吸った。
「リュシーは、嫌だと言えました」
「あなたが言える場所を作ったからです」
「私も、昔は言えませんでした」
「今は?」
問われて、私は少し考えた。
「練習中です」
アルノルトは頷いた。
「では、私も練習します」
「何をですか」
「あなたに必要以上の責任を背負わせないことを」
私は思わず彼を見た。
彼は真面目な顔をしていた。
「あなたは放っておくと、冬鈴館の子ども全員を一人で温めようとするでしょう」
「そこまで無謀では」
「ありえます」
即答された。
私は反論しかけ、やめた。
ハンナにも同じことを言われたことがある。
「では、止めてください」
「止めます」
「強く言いすぎないでください」
「努力します」
そのやり取りが少しおかしくて、私は笑った。
アルノルトも、ほんのわずかに笑った。
温室の外では雪が降っている。けれど、硝子の内側には冬鈴草が白く咲いていた。
彼の古い傷を、私が癒やせるとは思わない。
けれど、同じ寒さを知る人が隣にいることは、心細さを少し減らした。