作品タイトル不明
第十四話 リュシーの四歳の招待状
リュシーの誕生日は、雪がやわらかく降る朝にやってきた。
「らいげつ」だと思っていたら、あっという間だった。三歳のリュシーは、その日の朝から四歳になった。
前夜、リュシーは眠る前に何度も確認した。
「おきたら、よんしゃい?」
「ええ」
「ねたら、よんしゃい?」
「そうよ」
「おかあさまも、よんしゃい?」
「お母さまは、もう少し上ね」
「もうすこし?」
「かなり」
リュシーは納得したような、していないような顔で眠った。
朝になると、マーサが小さな丸いパンを焼いてくれた。卵とミルクを使った柔らかいパンで、表面には蜂蜜を薄く塗ってある。ハンナは古いリボンを縫い直し、布兎の首に結んだ。
「おたんじょうび」
リュシーは照れくさそうに言った。
「おめでとう、リュシー」
私は娘を抱きしめた。
四歳。
前世の物語では、リュシーはこの誕生日を迎えられなかった。
冷えた北翼の客間で熱を出し、母がリリアの看病をしている間に、ひとりで命を落とした。
今、私の腕の中にいる娘は、少し薄い背中をしているけれど、温かい。蜂蜜パンの匂いに鼻を動かし、早く食べたいのを我慢している。
それだけで、私は泣きそうになった。
「おかあさま?」
「何でもないわ」
「かなしい?」
「嬉しいの」
「うれしい、なみだ?」
「そう」
リュシーは小さな手で私の頬に触れた。
「ふいてあげる」
その手が温かくて、私は今度こそ少し泣いた。
誕生日会は小さなものだった。兄セドリック、マーサ夫妻、ハンナ、ミレーヌ書記官、医師、そしてアルノルト。派手な飾りはないが、温室には冬鈴草と布の小旗を飾った。
リュシーは最初こそ緊張していたが、アルノルトが木彫りの小鳥を贈ると、目を輝かせた。
「とり」
「北境の森にいる鳥です。寒い冬でも枝にとまっています」
「つよい?」
「強いです」
リュシーは大事そうに木鳥を抱えた。
その午後、侯爵家から贈り物が届いた。
箱の中には、高価な銀の髪飾りが入っていた。子どもには重く、普段使いもできない。添えられたカードには、ギルベルトの字でこう書かれていた。
『四歳の誕生日を祝う。父より』
リュシーは髪飾りを見つめた。
「きれい」
「そうね」
「おもい?」
「少し重いかもしれないわ」
「リュシー、これ、つける?」
「つけたいなら」
リュシーは考え込んだ。
それから、木鳥を抱きしめた。
「こっちがいい」
「そう」
「おとうさま、リュシー、なにすきか、しらない?」
私はすぐには答えられなかった。
ギルベルトは悪意で髪飾りを選んだわけではないだろう。貴族の娘には宝飾品を贈るものだと考えたのかもしれない。
だが、リュシーが何を好きか知らない。
布兎、冬鈴草、柔らかいパン、小さな木の鳥。そういうものを知らない。
「これから知ろうとしてくださるかもしれないわ」
「これから?」
「ええ」
「でも、リュシー、さむいの、いや」
「それは、ずっと嫌と言っていいのよ」
リュシーは頷き、髪飾りの箱を閉じた。
その夜、私はギルベルトへ礼状を書いた。
『贈り物は受け取りました。リュシーは本日、無事に四歳を迎えました。体調は安定しております。髪飾りは保管いたします』
それから迷い、もう一文加えた。
『現在、リュシーは木彫りの鳥と冬鈴草を気に入っております』
知らせる義務はない。
けれど、父親であるなら、知っておいた方がいい。
その機会を与えることと、夫として許すことは別だった。