軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【番外編】ユゼフの休日−4(終)

「お前から誘うなんて珍しいな」

「たまにはいいだろ」

道ならぬ恋を応援するつもりで、ユリウスは仕事終わりのユゼフをバルに誘った。ユリウスは水、ユゼフは酒を注文する。

「それよりおっさん、俺には言ってくれてもいいんじゃないか」

運ばれてきた杯を手にしてユリウスは切り出した。

「なにがだ?」

「最近の変化だよ。わかってるんだぜ。早く帰ったり、急に休んだり」

ユゼフは驚いた顔をした。

「バレてたのか」

意外とすんなり認めたことにユリウスはほっとした。いくつか料理が運ばれたあと、冗談めいて付け足した。

「水くさいじゃないか」

「すまん、でも言い出しにくくて」

「そういうものか」

それで相手はどんな人なんだ? ユリウスがそう言おうとしたら、ユゼフはため息と共に呟いた。

「もう俺も腰を痛める年になっちまったんだなあって思っちまってな」

「ん?」

「港にいる時間が少なくなってみんなには悪いと思ってる」

「待て待て待て待て。なんの話だ?」

「最近の変化だろ? 腰が痛いから港にいなくて」

ユリウスは思わず叫んだ。

「腰が痛い?!」

ユゼフは慌てたように辺りを見回す。

「大きい声で言うな! 格好悪いだろ!」

「腰が痛かったのか?」

「アドリアンの爺さんの木を運ぶときにな、ちょっとぐきっといっちまってな」

「だから最近早く帰ってたのか?」

「おう」

「休みを休むのも? 朝がギリギリになるのも?」

「横になるとマシだったんだ」

「この間急に休んだのは?」

「なんだ? なんでも知ってるな」

「俺、家に行ったけど留守だったんだ」

「あれお前だったのか。動けないくらい痛かったから、近所の子供に湿布を買いに行ってもらってたんだ」

「重症じゃないか!」

「いや、なんだかんだ日にち薬でな、もうだいぶ楽になった」

「年寄りなんだから無理すんなよ」

「アドリアンの爺さんを見るように俺を見るな」

「一緒だろ」

「うるせ」

ユゼフの言葉に嘘はなく、ユリウスは気負っていた自分が馬鹿らしく思えた。目の前の皿の肉に齧り付きながら言う。

「次、そんなことあれば」

「ん?」

「俺が手伝ってやるよ。腰は繰り返すぞ」

「脅すなよ」

「脅しじゃない。騎士団でもそんな奴らは多かったんだぜ」

「わかったよ、次はお前にも手伝ってもらう」

諦めたように頷くユゼフに念のため聞く。

「ところで、ほんとに婚約者持ちの貴族令嬢と恋とかしてないよな」

「ぶっ!」

ユゼフは飲んでいた酒を吹き出した。ユリウスは眉をしかめる。

「汚ねえな」

「お前が変なこと聞くからだろう。なんだよそれ」

「してるのか?」

「するかよ!」

「してもいいんだ。そんときは祝福するから言えよ」

「だからなんだよ? 何の話だ?」

「なんでもない」

ユリウスは一人で笑った。

「水で酔うとは珍しい奴だな」

ユゼフが悔しそうに言い返す。それを見ていたユリウスは、不意に胸がいっぱいになった。

——アレキサンデルもヤツェクもナタリアも関係ない。

「なんだよ? 黙り込んで」

「なんでもねえよ。おっさん、飲もうぜ」

ユゼフにアドリアン、ハンナにアントニ、港で働く皆や王都で働く皆。貴族の時には知り合うこともなかった人たち。

その人たちがこんなふうにいつまでも笑っていられるなら。

「お前下戸だろ?」

そのために自分ができることがあるなら、なんでもしたい。せずにはいられない。

「おっさん、乾杯しようぜ」

ユリウスは杯を持ち上げて、ユゼフに言う。

「わかったよ、何にだ?」

「この国の平和に」

ユゼフはちょっと意外そうな顔をしたが、黙って杯を上げた。ユリウスはそれに思い切り自分の杯をぶつけた。

「乾杯!」

ユリウスがリシャルドに承諾の返事を送ったのはその翌日だった。