作品タイトル不明
67話 聖女様は女の武器を使うのがお上手
エリアナは熟睡したおかげで、早くに目が覚めた。
腕の中には黒竜が眠り、エリアナを抱き込むように背中にピタリとセドリックが張り付いている。
セドリックの寝顔を眺めながら昨日セドリックがエリアナに伝えた言葉を思い出す。
「リアを誰にも渡さない。王族であろうと奪わせない」
昨日のセドリックの言葉を思い出すだけで胸が温かくなる。
昨日は眠りに就くまで慌ただしい一日だった。
恋を教えて欲しいと縋り付くキャシーを無理矢理追い返すと、入れ替わるようにセドリックがテントに帰って来た。
エリアナはしょんぼり落ち込むセドリックの姿を見て、笑いを堪えるのが大変だった
エリアナもセドリックの嫉妬深さを気にしてはいない。ただ、タイミングが悪かっただけだった。
エリアナはセドリックより先に謝罪をする。セドリックは半分泣きそうな顔で謝罪をしてくれた。
「リアに嫌われたら生きていけない」
ポツリと呟いたセドリックはエリアナをギュッと抱きしめた。
セドリックには黒竜との会話を伝え、竜人国の者が関与しているけれど国は関わっていない。
そう黒竜が判断している事も伝えた。
そして黒竜がエリアナの守護竜となるらしい事も伝えた。
セドリックは、
「リアならばあり得る話ですからね」
と、驚く事もなくすんなり受け入れてくれた。
セドリックと二人で夕食をとり、二人でエルランド達の待つテントへと向かう。
テントの中には既に全員が集まっていた。
時間が惜しいと、エルランドは早々に話を切り出した。
この場にいるのは、エルランド、フィーナ、アード。
ダリル殿下と側近四人にキャシー。
なぜかリリアーヌも同席していた。
「スタンピードの鎮圧を単独で成し遂げたエリアナをSSランクに昇格する。これはエリアナを含め異議を唱える事は出来ない。エリアナ、受けるな?」
エリアナを真っ直ぐに見つめるエルランドの視線を逸らすことは出来なかった。
「謹んでお受け致します」
丁寧に頭を下げると、エルランドは書類箱から小さな箱を出した。
エルランドはその箱からSランクのピンを出すと、エリアナの胸に付けられているピンの横につけた。
「よし!」
エルランドがいつものようにエリアナの頭をクシャリと撫でるとニヤリと笑った。
「こき使われるからな。覚悟しろ」
クックッと笑い、エルランドは自分の席に戻った。
キャシーはエリアナの胸元に並ぶSSランクの証のピンを眺めていた。
「エリアナ様って凄いわね……」
キャシーのポツリと漏らした呟きに、セドリックが答えた。
「リアは人より沢山努力をしています。凄くて当然です。剣術、魔法、魔術は勿論ですが勉学もマナーも全て完璧。それはリアが領地のためにと頑張った証ですから」
さらりと告げるセドリックにエリアナは顔を赤らめ俯き、エルランドは両腕を組み頷いていた。
「エリアナちゃんが凄いのは解ったわ。先に明日の話をしても?」
フィーナが話を元に戻そうとエルランドに声をかけた。
「ああ、そうだな。明日は出迎えは私とフィーナ、それにダリル殿下と側近達で行う。アードは私とフィーナの側で冒険者がスキルを発動したら教えてくれ。
それまでスタンピードで黒竜を浄化した話は避けよう。明日、駐屯地にいる者全員にスタンピードについて他言しないように指示を出す。義姉上は全て話がすんだらアルーン国と好きに対峙してください。
いいですね!最後に!ですからね!」
エルランドは何度もリリアーヌにくぎを刺す。
リリアーヌは鬱陶しそうに頷いていた。
「エリアナちゃんはタイミングを見て、第二王子と聖女の前に出てもらうわ。それまでセドリック様とキャシー様の後ろに隠れていて」
フィーナがエリアナにそう告げながら、エリアナの頭を撫でようとするが、セドリックに手を叩かれていた。
フィーナは「残念」と、苦笑いを浮かべている。
ギルドマスターに対する態度ではないが、セドリックがエリアナを溺愛し執着しているのを知っているのとフィーナの懐の深さで許された。
エルランドとフィーナはダリル殿下達に明日の動きの細かい指示を出し最終確認をしている。
「エリアナは顔を出したら好きにしていい。フィーナが言うには聖女は必ずエリアナに絡むらしいからな。エリアナはSSランクだ。誰に何を言っても不敬にはならない」
「え?私には細かい指示はないのですか?」
エリアナがキョトンとしていると。
「お前は自由に対応した方が強いだろう。エリアナ、お前の正義はいつも正しい。それに人を守る事がうまい。お前はその場その場を好きに動け」
(褒められたのよね?)
「あ!それとセドリック様の側から絶対に離れないでね。第二王子殿下は必ずエリアナちゃんを手に入れるために動くはずだから。SSランクと言っても王族に手を出して良い訳では無いから。王妃が第二王子がエリアナちゃんを気に入った事に気付いたら厄介だし」
「絶対に離しません。リアを誰にも触れさせないし、渡さない。手を出すやつは殺す」
セドリックはエリアナをギュッと抱き込み、堂々と宣言した。
「王族を殺すのは無しだ」
エルランドがセドリックを窘めた。
「明日はタイミングを見て魔石の浄化も頼む。明日は朝から忙しくなる。ゆっくり休んでくれ」
エルランドの言葉で解散となり、各々テントへと帰って行った。
セドリックはテントに帰るとエリアナの背中に抱きつき離れなかったのだった。
第二王子の出迎えは駐屯地に残る全ての者に伝えられた。
ほぼほぼ、うんざりな顔をしているので嫌われているのがわかる。
エリアナはセドリックの手により身支度を整えられている。
はっきり言って冒険者が着る衣装ではない。
体のラインがはっきりわかる衣装でチャイナドレスに似ている。左右に深いスリットが入っていてとてもじゃないが人前に出れる気がしない。
戦闘には向いてはいるドレスだけれども。
「あの……セド……「リア!なんて美しいのでしょう」……」
「この衣装っ「さあ。皆のところに向かいますよ」…………」
エリアナは心の中でチッと舌打ちをするが、マーティーに容姿を貸してほしいと言われているので、目一杯着飾るしかなかった。
エリアナの衣装に注目が集める中、駐屯地の広場に来ると豪奢な馬車と騎士団に冒険者たちが入ってきていた。
「おはようございます。リリアーヌ様、キャシー様。一行はもう着いたのですね」
「おはようございます。そうですね、気の早いことで……すね」
リリアーヌはエリアナに視線を向け目を見開いた後、直ぐに目元を緩ませた。
「エリアナ様、とても素敵ですね。チャイナドレスですか?」
「本当に素敵です。似合っています。スタイル良くて羨ましいです」
そんな話をしていると、馬車がエルランドとフィーナが立つ前に止まった。
馬車の扉が開くと、一人の青年が降り立った。
(あれが第二王子殿下かしら……)
エリアナはセドリックの背後からこっそり覗いている。
青年が馬車に手を伸ばす。手を添えられ降りてくる女性が聖女……。
(聖女よね?)
馬車から降りた女性の衣装に先ず目が釘付けになる。
「第二王子殿下、聖女様……」
エルランドが出迎えの挨拶をするが、エリアナの意識は聖女に向いていた。
確かにこの世界の聖職者は白地の衣装を着てはいるが……。
聖女の衣装は前世のウエディングドレスのような、メルヘンなドレスというか……。
見てるこっちが恥ずかしくなるほどフリフリでプリンセスな衣装だった。
所作も普通。顔立ちは……言いたくない。
魔力量は少なく見える。
なぜこの女性が聖女なのか……。
エリアナがじっと観察すると理由がわかった。
男心をくすぐる所作をふんだんに使っていた。
頼りなさげな怯えた表情で俯くと、第二王子が心配そうに声を掛ける。すると安心して顔を綻ばせる。
そして視線の使い方が上手い。
安心した事、貴方を頼りにしています。
と言いたげに第二王子の衣装の裾を相手が解るように小さく摘む。
頼られればそれに応えたくなる。
聖女が自分を頼る事で自尊心を擽る。
なぜエリアナがそんなに女の武器の使い方に詳しいのか。
それは同じバイトの恋愛好きな同級生の女の子に似ていたから。女っぽくないエリアナに女の武器を教えてくれたから知識として残っていた。
真剣に聖女を観察していると、聖女の側に若く美しい女性の神官が膝を突きサルヴァを差し出す。
サルヴァには聖女の扇子が置かれていた。
女性神官は頭上の上に掲げ聖女が手にするのを静かに待っていた。
だが、聖女は一向に手を出さず放置している。
第二王子も気にする事なく神官を放置していた。
「聖女様?扇子がいらないようでしたら下げられては?神官が邪魔ですが」
フィーナが聖女に対して神官を下げろと口にした。
「あら?気が付きませんでしたわ」
神官の手は長く手をあげていたため、震えていた。サルヴァも小さく揺れている。
それを利用し、聖女は態と扇子を取り損なうように指をずらした。
扇子が地に落ちた瞬間
「この者に罰を」
男性神官が扇子を拾いあげると、聖女はその扇子を奪い取り女性神官の頬を打った。
「この扇子は第二王子殿下から頂いたものです。落とすなど、不敬です。第二王子殿下の側にいる私への嫌がらせでしょうか」
扇子をギュッと握りしめ、悲しそうに振る舞う聖女……。
第二王子殿下が騎士へと手を振り、女性神官を下がらせるよう指示を出した。
騎士は女性神官を引きずりながら下がらせた。
その様子にエリアナが動こうとしたが、リリアーヌに腕を掴まれ動きを止められた。
「まだ駄目よ。我慢なさい」
リリアーヌはエリアナに視線を向けず、掴んだ手を離さないままそう伝えた。
(あれは聖女が態と落としたのに)
「聖女は美しい者を虐めるのよ。自分の容姿より優れた者は排除する。愚かな聖女よ」
リリアーヌは知っていた。
聖女の性根の悪さを。
第二王子を調べた時に側に侍る聖女や令嬢を調べ上げたのだから、知っていて当然。
「アスティー辺境伯家はアルーン国と恒久的に平和条約を結んでいるでしょう。
アルーン国と我が国が上手くやっていけるように両国の王族は力を注いでいる。
スヴァルト王国の前陛下との協定をアルーン国の現陛下もきちんと守って下さっている。
私はアルーン国と我が国に亀裂を入れようとする輩を許す訳にはいかない。
亀裂が入り戦争となれば被害を被るのは罪もないか弱き民なのよ。
今回、第二王子と聖女を徹底的に潰すつもり。針の筵の生活を過ごさせ、精神的に追い込む算段なのよ。そして、王妃の生家のルドル小国も潰すわ」
リリアーヌはエリアナに顔を向け、真剣な眼差しで自身の腹の中を見せた。
リリアーヌ曰く。
ルドル小国はここ数年、良い噂が聞かれない。噂では共に建国した獣人を排除し、完全なる人国にしようと画策している。
迫害された獣人達はルドル小国の血筋である王妃が嫁いでいるためアルーン国への亡命が出来ず、国を飛び越えスヴァルト王国に亡命していた。アスティー辺境伯や周辺の貴族領に匿われている。
「だから私がスタンピードの討伐に参加したのよ?黒竜の責任もあるけれども、ルドル小国をぶっ潰すために来たのだから。あの女性神官はルーベンが助けます。大丈夫ですから、エリアナ様は聖女だけと対峙して下さい。他事は私とルーベンが対処します」
「聖女を徹底的にやって良いのですか?」
エリアナの言葉に、やっておしまい!と言わんばかりにリリアーヌが強く頷いた。
エリアナは聖女の女性神官への対応を思い出し、腹の中はイライラが増していた。
エリアナはリリアーヌに手を伸ばしリリアーヌはその手を力強く握りしめる。
キャシーは二人を見てガクリと首を垂れた。
(エリアナ様は怒るとお母様と同じ脳筋になるのね……)
エリアナは聖女へと視線を向け、徹底的にやる事に決めた。
リリアーヌとエリアナに敵認定された聖女だが、第二王子の隣からダリル殿下にチラチラと熱い視線を向ける。
あからさまに好意の視線を向けているが、半歩後ろに控えた聖女のダリル殿下への視線は第二王子からは確認出来ない。
キャシーはそんな秋波を送る聖女に苛々が募ってきた。
「お母様!エリアナ様!聖女を徹底的にやっつけてくださいまし!」
小さな声だけれど、はっきりと力強く伝えて来たキャシーにエリアナもリリアーヌも驚いていた。
「畏まりました。その依頼、SSランクのエリアナがお受けします」
エリアナはアスティ辺境伯令嬢のキャシーから依頼を受けたと応えた。
「依頼報酬は前世で書きかけた冒険者の物語を、エリアナ様のためだけに書き下ろしますわ」
前世キャシーの冒険物語のファンであったエリアナは満足気に頷いた。
この強強な女性三人から敵視され、無事に済むはずはない。
話が聞こえていたセドリックと、近くにいたダリル殿下の側近は聖女に対し。
(((ご愁傷さま)))
と、心の中で囁いた。