軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

66話 色々と疲れました……

結局明日の第二王子と聖女をやり込める作戦は、エリアナを中心にする案で纏った。

ダリル殿下がアスティー辺境伯へ婿入りする事に話を持って行きたいが、王太子という立場を勝手に降りる事は出来ない。

ダリル殿下の立場を守りつつ、自然に王太子から位を降りる事が出来るように考えなければならない。

難題である……。

第二王子が王太子になる事だけは阻止しなければならないが、ダリル殿下と母親が同じ第三王子はまだ14歳。

帝王学を密かに施してはいるが、まだ時間も経験も足りない。

エルランドにフィーナ。

セドリックにダリル殿下の側近達。

セドリックは自国であれば好き勝手に案を考える事が出来るが、他国が絡むとなると無茶は出来ない。

「リリアーヌ様から直々にアルーン国へ婚約を打診されるのが一番だが……第二王子が断られたアスティ辺境伯へダリル殿下が婿入りとなると、王妃は必ず邪魔をするだろうしな」

セドリックの話が一番筋が通るのだが、第二王子を蹴っているので王妃も黙っていないだろう。

「あら?私なら陛下に直接意見を言えるわよ。王妃も私には逆らえない弱みがあるから、ダリル殿下の婿入りの話は全く心配しなくていいわよ」

リリアーヌが天幕の布をあげながらそう伝えた。

後ろからダリル殿下とキャシーが少し恥ずかしそうにテントの中に入ってきた。

「二人の婚約を認めたのはリリアーヌ・アスティ女辺境伯である私です。アルーン国も王妃の生家のルドル国も私に意見は出来ないから安心なさい」

にこりと微笑んではいるが、その表情は不穏な何かを感じさせる笑みにしか見えない。そんなリリアーヌを見て全員の頬が引き攣る。

「それよりエリアナ様はどちらに?」

リリアーヌはエリアナに用事があって探していたようだ。

テントの中をぐるりと見渡すがエリアナの姿がない。

「少しエリアナを怒らせてしまってだな……」

エルランドが右手を首の後ろにあて俯きながら言いにくそうに呟いた。

「それなら今は会わない方が良いわね。私の用件は全て終わってからでも構わないし。とりあえず、明日の殿下とキャシーの婚約の事は私に任せてください」

そう告げると、リリアーヌはダリル殿下とキャシーを置いてさっさと帰って行った。

エリアナを怒らせた理由をキャシーに問い詰められ、全てを伝えた。

キャシーは呆れた顔をしたまま全員がキャシーからの説教を受ける事になった。

怒りのままにテントから出て来たエリアナは、黒竜を抱えてテントへ帰って来ると黒竜のふわふわな毛に癒されながら、寝袋の中でごろごろしていた。

「今日は疲れたわね……」

黒竜の浄化をし、ダリル殿下とキャシーの婚約の許可を見届け、エルランドやフィーナそれにアードと話をしたり、絡まれたり……。

最終的にセドリックに浮気を疑われたり。精神的にエリアナは疲れてしまっていた。

エリアナは黒竜をギュッと抱き込み、うとうとと眠りに落ちていった。

【エリアナ。私を救ってくれて感謝する】

低い重低音の声が聞こえる。

意識を向けると、小さな黒竜が浮いていた。

【エリアナ?】

私は辺りをキョロキョロ見渡すが、何もない白い空間の中にいた。

【エリアナの意識の中に我はいる】

可愛らしい容姿の小さな黒竜から聞こえる、渋くて低い声……。

エリアナは両手を突き、ガクリと項垂れてしまった。

【どうしたのだ?】

「いえ、こちらの事情です。可愛い容姿なのに、渋いおじさんの声。ギャップ違いに落ち込んでいるだけですので」

(可愛い容姿なんだから、話し声も可愛いくあって欲しかったな……。泣き声だけ可愛いなんて……)

【魔力を放出し過ぎたから姿を小さくしているだけだ。いずれ元に戻す】

「省エネですか」

【その言葉は解らぬが、とりあえず礼を言う】

「黒竜は悪くないでしょう?」

【そうだが、ダンジョンで油断したのがそもそもの原因ではあるのだから、それは我の責任であるのでな】

エリアナはずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。

「ダンジョンからどうやって出たのですか?誰かに連れ出さたのですよね……相手は解りますか?」

黒竜にアスティ辺境領からこの森までの話を聞いた。

黒竜曰く。

ダンジョンの最下層に久々にリリアーヌ以外の冒険者が訪れた事が嬉しくて、戦いを長引かせるため力を抑えたまま戦っていた。

冒険者の一人に眠りの魔術をかけられ体の自由が利かなくなると、隙を突かれて足に魔道具をかけられてしまったらしい。

気が付いた時には、この森に置かれていたようだ。

黒竜は自分から魔力が漏れ続けている事に気が付き、森の奥でじっとする事を選んだ。少しでも被害が少なくなるように魔道具の術式に抵抗し続けていた。

魔力が減るほどに魔道具が強制的に働き無理矢理魔力を放出させる仕組みで、調度その時にエリアナが黒竜の意識に入って来たようだ。

【魔術は本来竜には効かぬ。たが、我らを従わせる魔術を使える者はいる。それは、竜人国の魔術師だ】

「竜人国が絡んでるって事よね」

【そうだが、竜人国は竜を崇める国であり我等に術をかけるなどあり得ぬ事だ。だが、我に向けた魔術は竜人国のもので間違いない】

「竜人国の中に裏切り者がいると言う事なの?」

【そうなる】

「黒竜はもう一度その冒険者を見たら解るかしら?」

【魔力を覚えている。許しはせぬ】

声は低くて、怒りの声はエリアナのお腹に響くほど。

でも、可愛い黒竜が言っても迫力に欠けている。

「探し出したいのなら、人間の世界にいた方が良いのよね。アスティー辺境伯家に迎えてもらうのはどうかしら?リリアーヌ様とは何度も戦っているし、面識あるでしょうから。私からもお願いしてみるわ」

エリアナの提案する話を黒竜はじっと聞いていた。

エリアナが話を終えると、黒竜はぷかぷかしながらエリアナの顔の前まで寄って来た。

【リリアーヌは好かぬ。エリアナ、お主が良い】

そう言うと、エリアナの胸にピタリと張り付いた。

【お主の魔力はとても魅力的で癒されるのだ】

黒竜は張り付いたまま、ホッと息を吐いていた。

(酷い仕打ちをされたのだもの。仕方ないのかしら。私は浄化に特化しているし、神様の加護もあるから黒竜は惹かれるのかもしれないわね)

黒竜を抱えなでなでする。

「解ったわ。でもテイムはしない。ただ側にいてね」

【我はそなたの守護竜となろう】

黒竜は光を放つと勝手に消えていた。

エリアナは辺りを見渡すも、黒竜の姿はなく真っ白な空間に一人残されていた。

エリアナがため息を吐いた瞬間、意識が浮上し何かに引き上げられた。

「エリアナ様?」

自分の名前を呼ばれエリアナはゆっくりと目を開ける。

心配そうな顔のキャシーがエリアナを覗き込んでいた。

いつの間にか眠っていたエリアナは、腕の中にバッと視線を向けた。

エリアナの腕の中で黒竜はスヤスヤ眠っていた。

黒竜がいた事に安堵し、キャシーへと顔を向けた?

「エリアナ様。大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。なんだか疲れてしまって……」

「エリアナ様が帰られた後にエルランド叔父様のテントに行きました。お話は全員から聞きましたわ。皆エリアナ様に頼り過ぎなのです!まぁー、私も殿下の事で頼ってしまいましたが……」

「キャシー様の事はリリアーヌ様が直ぐに許可されたので、全く負担にはなっていませんわ。気になさらないでください」

キャシーはバツが悪そうにしていたが、エリアナの言葉に少しだけ気持ちが軽くなった。

「明日の事をお伝えに来ました」

あれから私抜きで話し合いをした内容を教えてもらう。

明日の第二王子と聖女の出迎えはエルランドとフィーナがまず行い、スタンピードの鎮圧の報告をする。

黒竜の事も魔道具の事も全て報告する事になる。

第二王子は映像を扱えるスキル持ちを雇われており、アルーン国の王宮に繋ぐはずと予測している。

魔術が発動するとアードが感知できるので、行動を起こすのはそれからになる。

「エリアナ様はスタンピードの単独浄化を成し遂げらやれた功労者として、SSランクになります。

これは拒否して欲しくありません。高ランクを目指す冒険者達の夢を潰す事にならないように、功績をあげたならばそれに見合うものを受け取るのが高ランクの役目だと私は考えます」

キャシーの言う通り。

夢を追う冒険者のために……そう言われてしまえば、目立ちたくないからと考えるのは間違いでしかない。

「それに、エリアナ様がSSランクであれば余計に第二王子が食いつくらしいですよ?」

「………」

エリアナは餌にされ不愉快ではあるが、セドリックもいるし何とかするだろう。と、餌になる事を受け入れた。

「キャシー様は殿下と婚約して本当にいいの?」

話は変わるけれど、エリアナはどうしても聞きたかったのだ。

物語の人物である殿下に、あんなに怯えていたのに婚約を受け入れるなんて……。

「そうですね……最初は物語のヒロインである聖女を追いかけてまで転入する人ですし、攻略対象である殿下と関わる事が怖かったです。

でも、物語の裏話で本当は虐げられる王宮から逃げ出したかったとか、理由が別にあったのかもしれない。とか、色々考えたりしました。

殿下は優しく誠実であるのは近くにいれば解ります。物語ばかり見ていたら大事な事を見落とすとエリアナ様が以前仰られました。私は殿下の人柄を好ましくは思っています」

キャシーは話ながら段々と俯いていった。

言葉は前向きなのに動作は後ろ向き……。エリアナは何があったのか解らなかった。

キャシーは急に顔をあげると、エリアナの手をガシッと掴んできた。

身を引くエリアナを無視してキャシーが捲し立ててくる。

「今伝えた気持ちはこの世界のキャシーの思考からくる話なのです。

ですが、私は前世は作家であり引きこもりで恋人どころか好きな人なんていなかったの!貴族として考えると、真っ当な意見がすらすら言えます。ですが、前世を含めた「私」として考えると、婚約どころか男性を好きになる事が不安で仕方ないのですっ!!」

キャシーは泣きそうに恋について訴え始めた。

(いや!知りませんよ!)

明日はやる事が沢山あるのだからキャシーには早々に帰ってもらおう。

恋の話は厄介でしかない。

人に助言出来る程の恋愛経験はないエリアナは、キャシーの恋愛の悩みだけは全力で逃げる事に決めた。