作品タイトル不明
第61話 信仰心
「もしも……」
と、床に手を突き頭を下げた兄弟を見ながら、グロリアはふっと背筋から力を抜いた。
組んでいた足を戻して長いため息をついてみせると、兄弟のよく似た後頭部がそろって震える。
「お前たちが嘘偽りなく事実を語り謝罪をしたなら、紫の導き手として暴徒たちを説得しようと思っていたのだ」
一転して穏やかに話し始めたグロリアの言葉に、エイブラムがピクリと肩を揺らした。
彼は父親のハトルストーン伯爵では暴徒たちの説得はうまくいかないとわかっている。状況を鑑みれば、伯爵だけではなくこの国の教会関係者の誰であっても難航するはずだ。
それがもしも紫の導き手自らが仲裁するというのなら、聖地を元の持ち主へ返そうと思って奮闘している 暴(・) 徒(・) たちの説得は容易だろう。
襲撃が長引けば教会派閥の貴族は弱体化し、敵対関係にある貴族派を喜ばすことになる。導き手のグロリアを現場に引っ張り出せるなら派閥としてもハトルストーン家としても傷はつくが、浅くてすむ。
「だが兄は沈黙し、弟は噓をついた」
グロリアは首を振って続けた。
「暴徒が聖地を襲った原因は、セドリック、お前だと私は知っているぞ」
弁解しようと顔を上げそうになった弟の首を、兄が思いきり押さえつけた。セドリックの気管支から空気が潰れたような音が漏れる。
エイブラムのその手をグロリアは制し、セドリックに頭を上げるように言う。
「グ……導き手様、僕は……ただ……」
「ただ、なんだ」
床に膝と手をついて話すセドリックと、ソファに座って話を聞くグロリア。
二人の距離はそれほど離れていないはずなのに、彼は大声を出さなければグロリアに何も伝わらないとでもいうように声を張り上げた。
「ただ、信仰を集めただけです。そうだ、グロリア嬢だって、わかっているでしょう⁈」
「セドリック! お前……!」
直りきらない導き手への無礼にめまいを起こしそうになりながら弟を止めようとするエイブラムを視線ひとつで止めると、グロリアは顎先でセドリックに先を促す。
「身を飾ることは信仰の可視化に繋がる! それは神への信頼の証なのだと、他ならぬあなたが言ったことです! だから僕は金を集めた!」
前世とは比べ物にならないほど丸くなった顔が真っ赤に染まる。
むくんだまぶたの下にある白目が血走って、翡翠色の瞳が補色によって暗く沈んだ。
「暴徒が聖地を襲ったのが僕のせい? 言いがかりも 甚(はなは) だしい! 正直に言って、僕には何が悪いのかさっぱりわかりませんね。神の涙を手に入れられなかったのは、奴らに信仰が――金がなかったからです!」
僕のせいじゃない! と、獣のように吠え、唾を飛ばして言い募る。
「僕みたいに信仰を集める努力をしていないから金がないんだ! 信用がないんです、信仰が足りないんです! 自分に信仰心が足りないからって聖地を襲うような輩、破門にすればいい!」
セドリックの剣幕にたじろいだのはケイトだ。彼女のヒールの音だけがカツンと部屋に響いた。
グロリアは肩で息をするセドリックを無表情で見返した。
エイブラムは驚愕に目を見開いた顔を弟に向けたあと、何かを覚悟した表情で唇を噛んだ。