軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第60話 セドリックいわく

「グロリア嬢……」

グロリアを呼んで何かを言おうとしたセドリックの額が、エイブラムの手によって床に打ち付けられた。

後頭部を上からグッと押さえつけた兄の手の下で、詰まった腹が苦しいのかじたばたと動く。

「導き手様の御高名を気安く呼ぶな! そしていいと言われるまで頭を上げるんじゃない!」

「いや、かまわない。目を見て話したいからな」

セドリックは力が緩んだ兄の手から頭を少しずらして、ゆっくりと顔を上げた。

その表情は以前よりも肉に埋もれていてわかりにくいが、安堵と媚びが見て取れた。

彼はグロリアを友人だと思っている。グロリアが一度も肯定していないことにも、かつてと今では状況が違うということにも気づいていない。

先が見えていて不安そうなのは、ソファから降りてセドリックと同じように床に膝をついてグロリアを見上げる彼の兄だ。

「それで、謝罪だったか?」

グロリアの言葉に、セドリックは激しくうなずいた。

首についた肉のせいであまり大きくは動かせないようだったが、必死な様子は伝わった。

「それは誰に対する、なんの謝罪だ」

「それは……聖地が暴徒どもに襲撃されたと聞きました。まずは聖地の管理がうまくできなかったことへの謝罪と、それからグロリア嬢――いえ、導き手様を不安にさせてしまったことへの謝罪です」

兄の怒りを思い出したのか、セドリックは慌ててグロリアの呼び名を言い直す。

「自分が風邪をこじらせて自宅療養さえしていなければ、こんなことにはならなかったはずです」

予想通りの返答に、グロリアは唇の端をつり上げた。

セドリックにはもしかしたら優しい笑みに見えたかもしれないが、エイブラムの顔色は紙のように真っ白だった。

「風邪……?」

ソファにゆっくり背を預け、導き手のローブをさばいて足を組む。

肘掛けに右肘をつき、大口を開けて笑いそうになる唇を指先で隠して首を傾げた。

「エイブラム、お前は弟に暴徒の発生と聖地襲撃の理由を教えなかったのか?」

「い、いいえ!」

「ではなぜ元凶たるお前の弟は、この期に及んで風邪などと言って保身に走るのだ。そういえばお前も殊勝な態度で謝罪しながら、初めは聖地侵奪のことを黙っていたな? このグロリアを謀るつもりだったのか」

「まさか!」

ぎょっとしたように目をむいたハトルストーン兄弟だが、兄はすぐさま頭を下げたのに対し、弟は唇の内側を噛んでからわずかに遅れて頭を下げた。

「――お前たちは、私の耳には泥でも詰まっていて、目は節穴だとでも思っていたのか?」

息を吐きだして笑いながら、グロリアは右手をパッと目の横で振ってみせる。

「私が……紫の導き手たるこのグロリア・フォン・コードウェルが、何も知らないとでも?」