軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 幸せの象徴

アランは両手で大切に持っていた物を、父親に向かってそっと差し出した。

「おれ、これをお父さまがくれた時のことよく覚えてるよ! もうすぐ夫人がいなくなるから、ようやくおれを跡取りとしてどうどうと呼べるって。みんなの期待にこたえられるように勉強がんばれって……楽しみだって!」

重そうに差し出したのは真鍮でできたペーパーウェイトだった。

四つ葉のクローバーとその花で作る花冠の形を模した、真鍮の文鎮。九つの子供が両手で持てるくらいのサイズだ。

幸運の四葉のクローバー。

派手好きな父にしては素朴な贈り物は、小さな手のひらの上でまるで幸せの象徴のように光沢を放っている。

「夫人によく似た娘より、おれのほうがかわいいって、家族で幸せになろうって……だから、これを、くれたんじゃなかったの……?」

アランが放った言葉の中身は、正妻の子供として受け止めるにはなかなかに辛辣だった。

母がいよいよ危ないという時に、父は愛人と過ごしていて、しかもその死を待ち望むかのような発言を愛人との子供に言っていた。グロリアを邪魔に思い、アランを次期コードウェル公爵にしようとしていた。

二回目の人生を生きるグロリアは今さらそれを悲しいとも思わないし、不服と思って怒りもしない。けれど何度経験してもそのたび父を軽蔑するだろう。

一生懸命腕を伸ばして、手のひらに乗せた真鍮の花冠を父に見せるアラン。

父を見上げる潤んだ紫の瞳も、興奮に赤くなった耳たぶも、花冠を乗せる手の形も、父にそっくりだ。

重さと必死さで震える小さな手を無視して、顔をこわばらせた父はグロリアを見た。

視線に気づいたグロリアは、正直な話、父がなぜ今さら〝ばれてしまった〟と焦るのかが全くわからない。

精神と肉体の年齢が一致していた十歳の前世でも、父が結婚直後から母を裏切り愛人を囲っていたことなど、アランがこの家に現れて自己紹介した時から察していた。

コードウェル公爵家の次期当主の座をアランに譲れと言われた時には、 十(とお) なりに理不尽だと怒りもした。

王太子の婚約者になった後、ではせめて亡くなった母の代わりに奥向きの主人となって公爵家を支えようとしたのだ。

けれど平民と貴族という階級差から愛人とその子供にとってふさわしい扱いをすれば、すぐさま父に怒られ、後妻となった愛人に女主人の権限を渡すことになった。

そんな扱いを受けて、ああ父はこのコードウェル家の何も……グロリアがそれを欲しているかどうかは別として、父親としての愛情さえ、グロリアに持たせる気はないのだと気づかないほうがおかしい。

公爵家の嫡女として当然持っていて然るべきもの全てを取り上げられたのだ。当時の自分の怒りは相当なものだった。

それを今さらアランから父の言動を知らされたところで、〝それが何か?〟と首を傾げる以外に反応できない。

そんなグロリアの態度をどう思ったのか、父は娘に向けていた後ろめたい顔をぐっと引きしめてアランに視線を戻した。

父の目が自分に戻ったことを喜んで表情をほころばせたアランは、口を開いた父の言葉にその表情を凍りつかせた。

「俺がお前たちと家族になりたがった、だと? 貴族相手にとんでもない嘘をつく」

固まる子供に、父は容赦なく続ける。

「確かにお前の母親は愛人ではあったが、金で男に囲われるような身持ちの悪い女の子供が俺の息子? どこで拾ってきた種かわからんものを認知などするわけがない」

そんな物も知らん。と、父は子供が差し出した両手のひらに乗った四葉の花冠を見て吐き捨てた。

「さっさと追い出せ。犯罪者の子供を二度と敷地内に入れるな」

アランと同じ表情で固まる執事と護衛騎士にそう言って、父はやれやれとため息をつきながら振り返って椅子を確認した。

それは座るためのごく自然な動作で、隙をみせたというほどのものではない。

だがしかし、それは確かに父にとって致命的な隙だった。