作品タイトル不明
第24話 父親
「お母さんを助けて!」
子供らしい真っすぐな視線と声でそう言うと、アランは勢いよく頭を下げた。
「お母さんは今、牢屋にいて、ぜったい悪いことなんかしてないのに、つかまって、ぜ、ぜんぜん会えないんだ……っ」
紫色の瞳が瞬くたびに、大きな涙の粒がぼろぼろ床にこぼれ落ちていく。
思い入れのあるキャラクターの憐れを誘う様子に、グロリアの脳内でA子が目を潤ませる気配がした。
好意的に受け入れていた子供が助けを乞うて泣く姿を見続けるのが苦痛になったのか、侍女たちが見てわかるほど動揺し、眉を寄せている。
グロリアはそれを冷めた気分で見つめた。
アランが目の前の男を「お父さま」と呼んだのと同じく、グロリアだって「父上」と呼んだのだから、少女の父親が自分の〝お父さま〟と同じだとわかったはずだ。
けれど彼は今までずっとグロリアを無視している。
アランと話すように父に言ったグロリアを、アランは確かに見た。
そしてグロリアを視界に入れたその一瞬、鼻筋にぐっとしわが寄った。
その一瞬の表情で、グロリアのことを邪魔だと思っているのがよくわかった。
鼻をすするアランの様子に辺りが同情的な雰囲気に包まれたが、父は表情を変えなかった。
「だからなんだ」
迷惑そうな顔を隠しもせずに、腕を組んで続ける。
「お前の母親をどうして私が助けなければならんのだ」
父の口調のあまりの冷たさと、親としての責任感のない発言に、侍女たちと同様にA子も絶句した。
グロリアは微かに顎を引いて、細めた瞳を瞬かせる。
「お前の母親と私は何の関係もない」
「お父さまとお母さんは夫婦じゃないか!」
吠えるような子供の高い声に、父の不愉快そうな低い声が間髪入れずに答えた。
「どこぞの貴族を襲撃するような頭のおかしい女と夫婦? とんでもない!」
グロリアは〝犯罪者の更生と出所後の社会復帰〟を願って、関係者や憲兵たちにシンディが犯した罪の詳細を口止めした。
おかげで父は自分の愛人だった女が貴族を襲ったことは知っているが、どこの貴族をどういうふうに、なぜ襲ったのかは知らない。
同じように、アランも母がなぜ捕まっているのか知らないようだった。
そもそも父は犯罪者となった平民の元愛人になど毛ほどの興味もないから、わざわざ調べようとも思わなかったに違いない。
「お前のことも知らん。〝お父さま〟などと呼ぶな」
もともと叔父への反発から愛人契約を解消したところに、〝貴族襲撃〟という罪名だけを聞いてますますシンディへの気持ちもなくなったのだろう。
彼は煩わしいことが嫌いだし、己の身に降りかかる火の粉を徹底的に払いたがる。前世でもそうだった。だからグロリアは死んだ。
「なんで⁉ あんなに優しかったのに! ここにもいっぱい呼んでくれたし、この家の夫人よりお母さんのほうがいいっていつも言ってた! みんな夫人の子供より俺のほうが大事だって、いつかお父さまもこの家も俺のものになるって言ってくれた!」
お(・) 父(・) さ(・) ま(・) の冷たい視線が信じられないアランは、父親がいつも言っていたことを余すことなく吐き出した。
さすがに娘に聞かせる話ではないと父も思ったのだろう。サッとグロリアのほうに視線を走らせて怯んだ父に、アランは切々と訴えかける。
「お父さまも、その時がくるのが楽しみだって……これ、くれて! 次期当主になるために勉強がんばれって言ってくれたのわすれたの……?」