軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

626.本当の出会い〜影虎side

月和といたはずの俺は、死者だけが訪れる事のできる輪廻の輪を眼前にして、月和との本当の出会いを思い出していた。

※※※※

「大丈夫ですか?」

そっと差し出された白い手には、ハンカチ。

ハンカチには白い彼岸花が刺繍されていた。

「……あー……ぅっぷ」

大丈夫ですと言いたかったけど、それどころじゃねえな、こりゃ。

……完っ全に、飲み過ぎだ。

学生の頃から長らく付き合って、そろそろ結婚しようと考えてた矢先の、彼女の浮気。

いや、前からちょっとずつ、怪しいなって思う事が増えてはいたんだよ。

そのせいで、しようと思ってたプロポーズを、ここ1年くらい先延ばしにしてた。

なんて不幸話を思い出して、吐き気と戦ってみてんだけど……駄目だ……吐く……。

思わずそのハンカチを奪うようにして、口元を覆う。

「そうだ」

不意に頭の上で、ガサゴソと鞄を漁るような音が聞こえた。

暫くすると、袋を手渡される。

「ここに吐いて。

ほら、いいから」

場所は駅を出た直後の階段。

そろそろ終電が出るから、俺達を慌てて素通りする人間が多い。

袋を握りしめて、それでもどっかで理性が働く。

いいって言われても、躊躇する。

だってこの袋は……。

「保冷バッグだから、すぐに液漏れなんてしないわ。

ここで床に吐き散らかすよりいいでしょう。

いいから、さっさと吐きなさい」

多分弁当入れとかに使ってんだろう。

何のキャラクターかさっぱりわからん……というか、キャラクターか、コレ?

何かのご当地キャラクターとかなら、まあわからなくもねえ奇怪な柄が刺繍された保冷バッグ。

それを俺の手からさっと奪い直して、顔にフィットされちまった。

そのままバシッと背中を軽くハタかれたら、もう止められない。

「ぅおえっ」

「そうそう、それでいいの。

ほら、全部吐いて。

我慢して、後から目も当てられない大惨事になるよりマシでしょう」

どこの世話焼きババアだと思うも、口調も背中をさする手つきは優しい。

正直、顔は全く見れてねえ。

声のかんじからすると、俺と同年代くらいか?

相手の事を確認してえ。

けどハンカチ握りしめて、袋にゲロっちまうのが止められねえ。

そんなに時間は経ってなかったと思うんだけど、どうなんだ?

所々、記憶が途切れてるような気もする。

スッキリしてきて、気が抜けたのもあったんだろう。

失恋、というか、長年付き合った恋人からの、最悪な裏切りが精神的にキツくて、連日寝てなかったのも悪かった。

「やべ……ねむい……」

「うおっ?!

トラ兄?!」

「あらあら、お知り合い?」

弟の声が聞こえて……どっか呑気な女の声がして……そっから……意識が……飛んだ。

で、起きたら玄関入ってすぐの廊下に転がってた。

布団が掛けられてあったから、弟がここまで運んでくれたんだろうな、とは理解した。

俺は筋肉質で比較的ガタイがデカくて重い。

対して弟は、見た目からしてインテリ系の体格だ。

玄関入った所まで運んでもらえただけで、有り難い。

「あー、あったま痛え」

とりあえず、布団を俺の布団に戻してから、人の気配がする台所まで行く。

思ってた通り、弟が朝飯の準備をしてくれてた。

「あんな性悪な元カノごときの浮気で、やけ酒なんてするからだよ」

弟よ、機嫌が悪いな。

兄ちゃんが悪かった。

「なあ、昨日、結局俺はどうなって家に帰ってきたんだ?」

「トラ兄……まさか覚えてないの?!

俺に電話したのは覚えてる?」

「あー、そこは覚えてる」

意識がやべえ、酒飲みすぎた、吐く、とか思いながら、飲み屋近くの電車に乗る前に、大学生の弟に電話した。

吐き気に堪えながら、何とか家の最寄り駅には辿り着いた。

で、改札口から出入り口の階段付近で蹲ったまでは、ハッキリ覚えてる。

誰か……女性に介抱されたような記憶はあるっちゃ、あった。

でも記憶はおぼろげ過ぎるし、頭がガンガンする。思い出すのも一苦労で、早々にギブアップだ。

「うわ、それ本当?

本当に覚えてるのそれだけ?」

「兄ちゃんだって、飲んでやさぐれたい時はあるんだ。

あ、そろそろ味噌汁できた?」

「もう!

ほら、シジミの味噌汁!

あんな元カノにやさぐれるなんて、次の彼女見つける前に、人を見る目を養ったら!」

「できの良い弟で、兄ちゃん嬉しいよ。

嫁に行かずに、このまま家にいてくれて良いからな」

なんて軽口を叩く俺達兄弟は、贔屓目に見ても仲が良いだろう。

ちなみに両親は既に他界。

5歳下の大学生の弟と、両親が残してくれたこの家で2人暮らしだ。

言葉からも解る通り、弟は元カノとはソリが合わなかった。

「ハイハイ。

それで、昨日の事だよね」

弟にあしらわれながら、シジミの身をちょいちょいたべながら、昨夜のやらかしが判明して……俺はとうとうテーブルに突っ伏してしまう。

もう絶対、やけ酒はしないでおこうと固く心に誓った。