軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

595.行方不明〜ラルフside

「家出なんて迷惑なのよ。

それも学園祭まで残り1週間だなんていう、この忙しい時期に。

シャローナってば、本当に出来が悪すぎるわ」

「確かに忙しいけど、チェリア嬢の妹でしょう?

心配にならないの?」

学園祭まで1週間?

シャローナ?

チェリア嬢に、妹?

四方を取り囲まれた、狭く、暗い空間の中で目を開けた俺は、少女らしき二人の会話に、つい耳を澄ませてしまう。

馴染みのある学園祭という言葉と、知っている名前が登場したな?

確か俺はミハイルと一緒に、船の上に突然現れた少年の放った光に包まれたはず。

10才の王女と子兎だった俺が地下牢にいた時、これまた突然現れた老人が放った光と全く同じものだ。

元の時代に戻った?

いや、それはないか。

元の時代の学園祭なら、既に開催されている。

王女が生きている時代の、ロベニア国に戻った?

いや、それもない。

流民達と共に船に乗った時には、あの年の学園祭は開催されたと耳にした。

だとするなら、翌年だ。

状況を整理すれば、そうとしか思えない。

そうだ、王女が亡くなる年の学園祭だ。

ならば今の話からして、王女はまだ生きている!

「ふん、いい気味よ。

私を差し置いて、ロブール先生と親密な関係になったのよ?

それだけじゃないわ。

エビアス殿下の側室にと申し込まれて……調子に乗りすぎよ」

「まあ。

そんな事、私に話して良いの?」

「構わないわ。

どうせその内、知られるもの。

お父様は側室の話が気に入らないから、シャローナが家出したと言っていたの。

けど、もしかするとロブール先生の所で匿われているんじゃない」

「あら、どうしてそう思うの?」

「だって、いくら側室でもシャローナには荷が重いでしょう?

それにシャローナの本命は、ロブール先生に違いないわ。

あの子はいつも、私の欲しい物を奪っていくのよ。

私がロブール先生の事を愛しているって知っているから、嫌がらせしているんだわ。

大体、ベルジャンヌ王女も悪いのよ。

ロブール先生の婚約者として、あの方の心を掴んでおかないから、シャローナなんかに現を抜かされるのよ」

随分と偏った見解だな。

少女の1人は、間違いなくシャローナの姉、ミルローザだ。

ロブール先生とは、恐らくソビエッシュ=ロブールの事……多分、そうだろう。

卒業して、教師として学園に残ったという事……多分、そうだろう。

それにしても、シャローナとソビエッシュが親密?

その上、シャローナがエビアスの側室だと?

俺の時代には運命の恋人達として、広く認知されているロブール前当主夫妻だ。

この時代で親密な噂があっても不思議ではない。

それはともかくエビアスの側室という話は、初耳だ。

これまでに王女と接した中で、王女の中にソビエッシュへの信頼が存在している事は感じられた。

しかし王女から婚約者への、恋心らしき感情は全く窺えなかった。

俺の時代に伝わる、王女が嫉妬に狂った云々という話。

あれはデマだな。

悪魔だって呼び出していないに違いない。

そもそも悪魔を呼び出さずとも、王女なら自前の魔法でシャローナを瞬殺できる。

それに俺は王女の中に、俺がよく知るラビアンジェ=ロブール公女の怪しい息吹を感じている。

子兎となって王女と初めて会った時にはもう、王女が公女ではないのかと思うくらい、王女の中に公女を感じていた。

その後1度別れるも、2度目に人の姿で会った時。

犬の姿でい続けるレジルスに、ノーネーミングセンス的なポチという名前を付けていたり、ポチの腹に熱い視線を送ったりする所なんか丸々、公女だ。

恐らく俺の知る公女は、少なくとも公女の意識は、王女の中に在る。

公女と出会ってから、まだ2年も経っていない。

しかし同じチームメイトとして、チームリーダーとして接する中で、身分は関係なく公女の人柄に触れてきた。

公女を馬鹿にする周囲の人間に見せる顔とは違う、恐らく素に近い顔を、公女は俺に見せてくれていたと信じている。

そして公女の芯の部分にある優しさを、ベルジャンヌ王女からも感じる。

だから王女が、他者を嫉妬で傷つけそうとするなど、それも殺そうとするなど、絶対にない。

王女と公女。

この2人には、何かの関係があるのだろうか?

そのあたりは正直、全くわからない。

『助けたくば、見つけよ』

初めて光に包まれた時に聞こえた、中性的な声。

あの時、公女は国王と共に一目でわかるような、高度な魔法を展開していた。

魔力が少ないだとか、大した魔法が使えないだとか言われる公女。

だがチームとして接する中で、少なくとも魔法について深い造詣がある。

そう察せられる場面は幾度となくあった。

それに公女が腕に抱いた獣達。

その中には聖獣キャスケットもいた。

瞳を見れば公女が契約している聖獣が、少なくとも2体はいたのだと今ならわかる。

『見逃さないようにな。

奥さんも、あの聖獣の想いも正しく理解して、見つけ出してくれよ。

でないとお前らも死ぬから』

これは子兎だった俺を、次の時代に飛ばした老人の発言。

『んじゃ、これが最後のチャンスな』

これは俺のなかでは、ついさっき聞いたばかりの少年の発言。

俺にはきっと、荷が重い。

情報が足りな過ぎる。

ミハイルとレジルスなら、もっと他にも得られる情報はあるだろう。

どうにかして、この時代にいるはずの2人……1人と1匹かもしれないが、彼らと合流して情報を共有しなければ。

今の俺ができるのは、公女を見つける事だけだ。

もしこの時代の王女の中に公女が居なくとも、公女が公女らしく在りさえしてくれれば、見逃さずに見つけられる。

これだけは確信している。

__バンッ。

そう考えていた時、乱暴にドアが開く音がした。

「いつだ」

「「ロ、ロブール先生?!」」

ドアを開けたのは、ソビエッシュか?

ミルローザ達の慌てた声がかぶる。

「シャローナはいつ行方不明になった?」

「わ、我が家の事ですから……」

「ミルローザ=チェリア。

君は誤解している。

とにかく、シャローナがいつから行方不明なのか話しなさい」

「誤解?

誤解って……じゃあシャローナとは、単なる噂なんですね!」

「ミルローザ=チェリア。

言いなさい」

「あ……え、あの……3日前に……あっ、公子?!

お待ちになって!

妹の事は私が対応しますわ!」

「わ、私もご一緒しましてよ!」

慌てた様子で、3つの足音が遠ざかって行った。