軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謁見2

「噂の治療師の女というのはそのほうか」

そう言ったのはロワール王子の横に偉そうに立つ、側近らしい男だった。なかなか見目麗しい……そしてなんとなく見覚えがあるということは、きっとあの人も攻略対象の一人だったのだろう。宰相の息子かなんかかな。

壇上の二人は私たちを見て、王子は多分私のベールにピクリと眉をひそめ、そしてヒメは一瞬驚愕の表情をしたあとそのままレックに目が釘付けになっていた。

あら、私なんて眼中にない感じ? 助かるう。

そしてわかりやすいね。うん、超絶イケメンにはついつい注目しちゃうよね。

っていやそんな呑気に観察している場合ではないのかもしれないけれど。

お前かと聞かれれば、はい私です。

とは素直に言えない事情がありますよ。

なのでその側近の問いにはオースティン神父が答えた。

「たしかにこの娘が治療師でございます。ですが、実は顔に大きな醜い傷がありまして、それを苦にしておりますゆえ素顔で人前に出るとパニックになるのでございます。普段は幻影の魔術で傷の無い顔に見せかけておりますが、この王宮ではそのような魔術が禁止されていると聞き今は素顔のままでございまして、パニックにならないように意識を薄める薬を飲んでおり話すことも出来ません。そのため父親の私が代弁することをお許しくださいませ」

打ち合わせ通りの設定である。

そのために私はベールを被ってこの王宮に入ってからは、極力おとなしく二人のなすがままを装っていた。

おかげで神父様がそれはそれは珍しいものを見るように私を見ることにも文句が言えず、ちょっと辛い。

「許可する」

そんな努力が功を奏したのか、少々胡散臭そうな顔をされたがなんとかお許しのお言葉をいただきましたー。よかった。

なにしろ私が話すと声でヒメに私の素性がバレる可能性があるから苦肉の策です。

とにかく私は一言もしゃべらずに、このまま何事もなくこの部屋を退出したい。

ええ必死です。必死ですとも。

私はここで聖女ヒメが治すと言い出さないことだけを天に祈っていた。なにしろ私だったらきっと言うと思ったから。だからそれはそれは警戒していたのだった。

だけどヒメはどうやらレックに注目していてそれどころではないらしい。助かる。まさかイケメンにこんな使い道があったとは。

続けて王子が言った。

「では私から手短に話そう。そなたたちに来てもらったのは他でもない。我が国が隣国ファーグロウと戦争中であることは知ってのとおりである。我が国は今は休戦しているが、きっと近い将来にファーグロウと国運をかけて戦うことになるだろう。そしてそのときに出るであろう大勢の負傷者たちを、この私の隣にいる『先読みの聖女』の発案で、国民に治療を施す活動『聖女の救済』を行うことになったのだ。今はそのための治療師を集めているところである。そこの治療師の娘もぜひその尊い聖女の活動に参加することを私は望んでいる」

とても栄誉なことだから、感謝せよ。

そんな思いが王子の顔や言葉からは滲み出ていた。

なるほど、「聖女」としての活動をそういう形で大々的にやるんですね。そして「聖女」の名声を高めると。もしやこれは国中の治療師を集めているのかな。

次にその『先読みの聖女』がにっこりと微笑むと、主にレックに向かって芝居がかった情感たっぷりの声で言ったのだった。

「わたくしはたくさんの人を救いたいのですわ。わたくし、傷ついた国民を見るのがもう胸が潰れるくらいに辛いのです。わたくしはこの国のか弱い国民達を救いたい。それには私だけではなく、大勢の治療師がいた方がより早く、よりたくさんの人々に治療が施せるのです。もちろんこの国の国民のために協力してくれますね? そこの娘、アニス」

え? はい? 私を名指し? 話しているときはてっきりレックの方を熱く見つめていたからレックに言っているのかと思っていたけれど、最後の一言で私の方を見てびっくりしたよ?

しかしそこでオースティン神父が口を開いた。

「恐れ多くも申し上げます。実はこの娘は顔の傷のために人と接することに障害がございます。そのため私たちはひっそりと辺境で暮らしておりました。そのような尊い活動といえども残念ですが、この娘には難しいと存じます」

そう。私は身バレがそれはそれは怖いので、レックの行ってみたいという希望のためにギリギリまでは芝居をするけれど、でも何の話であっても断って最後は逃げるという約束を彼らと交わしていたのだった。

だからたとえどんなに素晴らしいおいしい話があったとしてもお断りなのだ。

しかしヒメも引き下がらなかった。

「しかしわたくしは聖女。そこにいる娘の治療師としての能力が高いことは一目見ればすぐにわかります。その能力をわたくしが、そなたたち三人だけではとうていなしえないくらいに有効に使いましょう。ロワール殿下とわたくしとともにこの尊い活動に参加すれば、そなたたちにも大きな栄誉と尊敬がもたらされるでしょう。これはそなたたちにとって大きなチャンスなのですよ。ようくお考えなさい」

壇上から言い聞かせるように言う「聖女」ヒメ。心なしかさらに輝きを増しているよ……。

そしてそれを聞いて「おおーー! さすが聖女! 下々の者たちにまでなんとお優しい」と口々に言いながら一斉に尊敬の眼差しをヒメに向ける家臣たち。

さらに同じようにうっとりと「聖女」を見つめる王子。

ああ……どこかで見たわね、この空気……。

いわゆる主人公様の見せ場だ。主人公様スゴーイ、やさしーい、っていうあの流れだよ。

しかしその主人公たる「聖女」はそこで得意満面かと思いきや、なぜかギラギラとした、さも肉食獣が獲物を見つけたかのような目つきでひたすらにレックを見つめていたのだった。

なんか凄い気迫だけど、どうしたんだ、あまりのイケメンで目が離せない?

でも中身は少々残念なんだけどね? まあ知らないよね。

それにしてもこの話、ちょっと恩着せがましくないですかね。私たちを彼女が「使う」のか。それとも王族ともなるとそういう考えも普通なのかな? ちょっと権力者の思考回路は、自分がそういう立場になったことがないからわからないな。