作品タイトル不明
139 ドゥラの家
次の日。日課の早朝訓練を済ませた後、俺はミルトの研究室に向かう。
ちなみにサリアとルンルンは託児所だ。
最優先の調査対象は枢機卿のコアである。
そして、獣の眷族、テイネブリスの尻尾の死骸も調べなければならない。
人から魔人へ、魔人から獣の眷族への変化の術理も解明したい。
調査しながら、俺はミルトに言う。
「テイネブリス教団の肉体改造技術はかなり高いな」
「えぇ、悔しいですが、我らよりずっと上ですね」
「とはいえ、真似しようとは思わないがな」
「それは、もちろんそうですね」
そういって、ミルトは笑った。
俺たちが肉体改造技術を解析するのは対策のためだ。
自分たちの体を変えるためではない。
「昔から、テイネブリス教団の技術は高かったのか?」
「いえ……。ここ最近、急に向上しましたね」
「……なにがあったんだ?」
「わかりません」
もしかしたら、技術部門を統括している優秀な奴がいるのかもしれない。
「とりあえずは、ディオンの情報収集の結果待ちだな」
会話しながら解析を進めていく。
「それにしても、ミルトの腕前は随分と上がったな」
「そ、そうですか? まあ百年経ちましたからね」
「それでも凄いよ」
「あ、あっありがとうござ……います」
ミルトがボロボロと涙をこぼし始めた。
「ど、どうした?」
「いえ、すみません。つい」
ミルトは、百年の間にとても苦労したのだろう。
俺はそっとミルトを抱きしめて、頭を撫でる。
昔。それも百十年以上前。
よく泣いていたミルトをこうやっていたものだ。
それを思い出して感傷に浸っていると、
「師匠いるかい?」
レジーナが、ノックもせずに入ってきて、固まった。
「あ、ごめん」
「待て待て」
レジーナが気まずそうに立ち去ろうとするので、俺は止めた。
そして、俺はミルトから離れて、レジーナのもとに行って尋ねる。
「何か用があったんだろう?」
「ああ、そうなんだけど、急ぎでもないしー」
レジーナは弟分ミルトが泣いていたから気を使っているのだろう。
だが、もうミルトは泣き止んでいるし、特に気を使わなくてもいい状態だ。
「いいから言ってみなさい」
「ディオンが、ドゥラの家に来て欲しいって」
「小屋は完成したの?」
「うん、あと、ルーちゃんもいっしょに来て欲しいって」
「わかった。向かおう」
「あとミルトも来て」
「……ん? わかった」
ちょうどキリのいいところでもあったこともあり、すぐに向かうことにした。
レジーナがドゥラの家まで案内してくれた。
部屋の外なので、誰の目があるかわからない。
だから俺はミルトの弟子に見えるよう、ミルトの荷物を持って後ろを歩いていく。
しばらく歩いて、ドゥラの家のまえに到着する。
新築されたドゥラの家は学生寮に極めて近かった。
いや、学生寮に近いというよりも、俺の部屋に近いと言った方が正確だろう。
俺の部屋の窓から飛び出せば、すぐそこに家がある状態だ。
ドゥラはルーベウムに仕えるために来たのだ。
だから、ルーベウムの住み家、つまり俺の部屋に近いのは当然かもしれない。
「それにしても、大きいですね」
「……気付かなかったのか?」
ミルトが師匠っぽい口調で尋ねてくる。
「工事していたのは知っていましたが……」
ドゥラの家を建てているとは知らなかった。
「おっきいね。きゅる」
ルーベウムは、ドゥラお手製の抱っこ紐の中にはいっている。
快適なのか、最近は移動するときは常に抱っこ紐の中だ。
「体の大きな竜の住む家だからね」
十数頭ものワイバーンたちの宿舎に比べたら小さい。
だが、人の住む家と比べたらかなり大きい。
ドゥラの頭から尻尾の先までの体長は十メートルを超え、体高は四メートルある。
そんなドゥラがのびのび過ごせる大きさの家だ。
一片百メートル四方、高さは二メートルほどの直方体だ。
半地下になっているようだ。
恐らく学生寮の日あたりを考慮したのだろう。
「いいデザインだね!」
「そうか? シンプルすぎて味気ないと思うが……」
そんなことをレジーナとミルトが話している。
急いで作ったので、デザインを凝れなかったのだろう。
「私はこういうデザインは好きですね」
「だろー? ウィルもそう思うかい? いいよねー」
上機嫌のレジーナが、ドゥラの家の巨大な扉に手をかけた。
それとほぼ同時に、扉が向こうから開かれる。
「GRR。ヨウコソ、オイデクダサイマシタ」
「きゅるー。ドゥラ、おはよう」
「オハヨウゴザイマス。ササ、タチバナシモナンデスカラ……」
ドゥラが家の中にはいるように促してくれた。
外で話すのは目立つのでありがたい。
俺はミルトについていく形で中へと入る。
シロやフルフルも大人しくついてきた。
俺たち全員が中に入ると、扉が締められる。
「師匠。お待ちしてました」
ドゥラの家の中には、すでにディオンとゼノビアが待機していた。