軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 娯楽性

そして、慈善院のシスターや手が器用な子どもたちまで巻き込んで、私たちは編みぐるみ量産体制に入った。

とは言っても、私はエドワードの件があるまで、延々それをやっていたから、何の苦もない事だった。

何が違うかと言うと、全員で一致団結して編みぐるみを楽しみながら作成していること。フォーセット男爵家に集まり、特別に応接室を使ってそれ用の部屋にして、皆で談笑しながら編みぐるみを作っていた。

仮に私がずっと一人で居たとしたなら、味わえなかった楽しみだった。

今思うと『令嬢ランキング』に参加して良かった。だって、そういう機会もなければ、私は努力することもなく、ただ私のことを愛してくれるエドワードの元で甘えるだけになってしまったかもしれない。

せっせと編みぐるみを作り、満杯になった箱を仕舞い、また空の箱を入れるという作業に追われていた。

華やかな山車に乗って、花と一緒に編みぐるみを投げる……それを持って帰ったならば、確かに子どもは喜ぶだろうし、家族だって喜んでくれる。

けれど、それだけでは……足りないような気がしていた。

「リゼル。可愛い編みぐるみが出来てるね」

「……エドワード!」

どうするべきかと考え込みつつ無心に編みぐるみを作っていた私の背後には、なんとエドワードがいた。

エドワードは以前と同じように頻繁にフォーセット男爵家に出入りしていて、編みぐるみ制作を冷やかしに来ることもままあった。

「やあ。こんにちは。頑張っているね……リゼル。どうしたの? ……なんだか、元気がないようだけど」

エドワードは周囲に居た人たちに挨拶を済ませて、視線を移した私がいつもと違う様子に気がついたようだった。

「エドワード……あの、編みぐるみのことなんだけど……」

「……うん?」

何を言い出すのかとエドワードは不思議そうに首を傾げていた。

「私はあれだけでは、足りないような気がするの……編みぐるみは確かに、子どもには喜んで貰えると思うわ。けれど、国民から票を取りに行くと思ったら……」

「ああ……そうだね。今ひとつ、決め手に欠けると?」

エドワードは何故か、楽しそうに頷いた。

「そうなの。編みぐるみで票を集められたら、それはそれで良いと思うんだけど……やっぱり、心許ないと思ってしまうわ。だって、ライバルは手強いもの」

そもそも『美貌』の審査としての国民投票なのだから、外見が良い方が良いに決まっているのだし……あまり自信のない私は、知恵を絞って票を取りに行かねばならないのだから。

「僕は提案するつもりだったんだけど、編みぐるみに、くじを仕込んでおくのはどう?」

「え……くじ……って、どういう事なの?」

私がエドワードの言葉を聞いて、そう聞き返せば彼は静かに頷いた。

「うん。例えば、ひとつふたつ特賞には、とても良いものを仕込んでおいて、最下位の参加賞には安価だけど喜ばれやすい飴を大量に用意するとかね。すべてに良いものを用意する必要は本来ないんだよ。もしかしたら、とても良いものが当たるかも知れないという期待感でわくわく出来るからね。娯楽性(ゲーム要素)も良いと思うよ」

昨年のアイリーン様の時のように、すべてに良いものを用意する必要性はないけれど、もしかしたら良いものが当たるかも知れないわくわくを提供しろと言うこと?

「確かに、そうね。ただ編みぐるみを山車から撒くよりも、その方が皆楽しいし、ゲーム感覚で楽しんでくれそうよね」

幼い頃から一緒に居たエドワードは、いつも私を助けてくれる。もし、困っているなと思えば駆けつけてくれて、何があったかと聞いてくれる。

今回のことだって、すぐに良い案が思いつきましたという顔をしているけれど、『美貌』の審査、国民投票で打ち勝つためにはどうしたら良いかと、私のために考えてくれていたはずだ。

……それって、エドワードが私の事が好きだから、出来るだけの事をしてくれているだけだった。

これまでは、近くに居過ぎて、当たり前過ぎて、気がつかなかった。エドワードは私のことを、裏切らずに、ずっと傍に居て好きで居てくれたと言うのに。

「うん。きっと……全力で頑張ったら、楽しいよ。リゼル……せっかくだから、楽しもうよ。せっかく参加したんだからさ」

「……そういえば、エドワード。レヴィンに聞いたのだけど」

「レヴィン殿下に? 何を?」

レヴィンと話したというのが気に食わなかったのか表情を険しくしたエドワードに、私はにっこり微笑んで頷いた。

「令嬢ランキングで求婚されたからと、誰もそれを断っていない訳ではないらしいわ。エドワード。断っても次の男性に求婚すれば良いだけだもの」

「え?」

アイリーン様の求婚を断ることに心苦しく思って居たらしいエドワードは、ぽかんとした表情になった。

「単に運営側が参加者集めのために、そう言っているだけなんですって……確かに私だって、あの話を間に受けて、王太子に求婚しようと思っていたくらいなのよ」

私がそう言えば、エドワードは何度か頷いた。

「そういうことか。リゼルは確かに、言っていたよね。僕もそれは驚いた。それまで、大人しかったリゼルが暴走したから」

「……けど、それってエドワードの事が好きでないと、しないと思うわ。エドワード」

私はそう言って彼を見上げると、エドワードは狼狽えたように後退った。

「うわ……リゼル。待ってよ……僕も心の準備が」

「心の準備って、何よ」

「ちょっと! リゼル。グレイグ様。そういう事は、二人きりの時にしてくれませんかね」

キャスティンの声が聞こえて、周囲に居る皆はいかにも居たたまれない顔をしていたので、私たち二人は目を合わせて微笑んだ。