軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 仲直り

「……キャスティン!」

「リゼル? あら。なんだか……久しぶりね」

名前を呼んで振り返ったキャスティンは、私の顔を見て挨拶はしたものの、居心地悪そうな表情になった。

あの時、私は彼女に気遣いの出来ていない言葉を掛けてしまったし、こういう態度を取られても仕方はないと思いつつも、何の屈託もない対応を知っているだけに切ない思いだった。

謝る……勇気を、出さなければ。許して貰えるかはわからないけれど、私がいけなかったのだから。

私はとある夜会にキャスティンが来ると先んじて聞いていたので、彼女にとある頼み事をしに来た。

エドワードは私と長い付き合いがあり好みを熟知したキャスティンの協力は不可欠だと言っていたし、仲直りする良い 機会(チャンス) だとも言っていた。

エドワードって凄い。私が思いも付かないような手を思いついた上に、喧嘩した友人との仲直りの機会も与えてくれるのだもの。

「あの、実は困っていることがあって……キャスティンがもし良ければ、手伝って欲しいことがあるの」

「え? まあ……リゼル。何があったの?」

キャスティンは私に頼み事があると聞いて、もしかしたら、喧嘩しているのに何をと言わんばかりの嫌悪感のある表情になるかもしれないと恐れていた。

けれど、彼女は本当に不思議そうになっただけだ。

休日は慈善院での手伝いに行くことを好むような優しいキャスティンは、気分を害してしまった出来事があったとしても、許しをくれる余地がある人だった。

ああ……良かった。そういう人だったわ。

「今度『令嬢ランキング』で、国民投票で争うのだけど……私は山車に乗って花と一緒に、編みぐるみを撒こうと思うの」

「編みぐるみを……? どういう事なの?」

キャスティンは私からの協力の要請に、とても驚いたようだった。私だってエドワードからこの案を聞いた時に、驚いたから彼女の言いたいことはわかる。

「それで、私は可愛い編みぐるみを造ることに、これまでの人生を捧げてきたと言っても過言ではない……だから、編みぐるみを賄賂代わりに使おうと思うの」

「編みぐるみを賄賂に……? 確かにリゼルの作る編みぐるみはとっても可愛いけれど、それが賄賂になるのかしら」

キャスティンはとても不思議そうだ。

私が小さくて可愛らしい編みぐるみの作り方は極めたと言っても過言ではない事を、一番に知っているのは彼女だった。

「国民の多くは子どもが家族に居る人か、もしくは子どもが多いでしょう? だから、持って帰れば家族は喜ぶはず。喜ぶ顔は十分な賄賂になるって……エドワードの提案なの」

自分で思いついた訳ではないと私が恥ずかしそうに言うと、キャスティンは小さく吹き出して微笑んだ。

「まあ! そうなのね。子どもの笑顔が賄賂だなんて、とっても良い名案だと思うわ。もちろん、手伝うわ。あの、リゼル……この前に嫌な態度を取ってしまって、ごめんなさい」

キャスティンが先に謝ってくれて、私は驚いてしまった。

……だって、私が彼女に謝るつもりだったのに!

「いいえ! 私が悪かったの。急に外見が変わってしまった友人を見れば、誰だって戸惑ってしまうはずよ。それなのに、あんな言い方……私が、いけなかったの。キャスティンはいつも味方で居てくれたのに……本当にごめんなさい」

視力を魔法屋で治して眼鏡を外せば良いと、とても良い提案してくれたのも彼女だった。そんなキャスティンが私に対し嫌味を言うわけがないのに、褒められ慣れていなくて、有頂天になってしまっていた。

「ふふふ。リゼル。短期間だったけれど、本当に変わったのね。是非、協力させて! それに、そもそも私は可愛い編みぐるみの作り方は、リゼルから教わったもの」

「ありがとう……キャスティン。凄く嬉しい」

キャスティンとのわだかまりが消えて、私はすごく嬉しかった。彼女は私の唯一の友人と呼べる人で、そんな大事な人を不用意な一言だけで失ってしまうところだった。

エドワードって凄い……ここまで、考えてくれるもの。

「けれど、リゼル。私も協力するけれど、山車で撒くことを考えれば、数が足りるのかしら? だって、祝祭はもうすぐよ」

私の家にも延々造り続けていた編みぐるみが大量にあるけれど、それでも足りないかもしれない。

「慈善院のシスターにも協力を仰ごうと思うの。行く度に誰かに作り方を教えているし、子どもたちにも上手に作れる子も居るのよ」

編みぐるみは原価が毛糸だけだし、簡単に作れるから良い内職になるのだ。私とキャスティン、それにシスターや手芸の上手な子どもで大量生産するしかない。

「それは良い考えだと思うわ。店に出して誰かに売るよりも、男爵家で買い取った方がお金になるものね……あら」

仲直りした私とキャスティンが相談していたら、近くに顔を知った貴族令嬢がやって来て扇を開いた。

「あらあら。フォーセット男爵令嬢ではなくて?」

そこに居たのは、第二王子レヴィンの事が好きなシャーリー様だった。私もレヴィン狙いだと完全に勘違いして敵視しているようで、視線が鋭い。

「……シャーリー様。良い夜ですね。お会い出来て嬉しいです」

彼女より身分の低い私が軽くカーテシーをすると、シャーリー様は軽く鼻を鳴らして言った。

「……知性は努力でどうにかなっても、美貌は生まれた頃から順位が決まっているものね……ああ。これって、別にフォーセット男爵令嬢のことではなくてよ。変に誤解なさらないで」

「ええ。大丈夫です。誤解なんてしませんわ」

わかりやすい嫌味に私は微笑んで流し、シャーリー様は嫌な表情を見せつつも振り返って去って行ってしまった。

「まあ……リゼル。凄いわ。大人になったわね」

嫌味に動揺することなく礼儀正しく言葉を返した私に、キャスティンは感心してくれたようだった。

「キャスティンも……エドワードも、私のことをどれだけ子どもだと思っているの? けれど、シャーリー様は本当に美しいもの……ああ言いたくなるのも、わかるわ」

社交界の華アイリーン様とはいかないものの、シャーリー様も目立つ存在でとても美しい。確かに、美しいけれどアイリーン様とは違い、気の強い性格が災いしてか、同性にはあまり慕われていないようだ。

ただ美しいだけでは……人の心捕らえるには、足りないのかもしれない。