作品タイトル不明
防御特化と六層エリア。
無事また一つエリアをクリアしたメイプル達だったが続く攻略先は六層エリア。
さて攻略に乗り出そうとそう決めたその日、サリーは渋い顔をしてギルドホームのソファーにもたれかかっていた。
「サリーどうする?」
「んんー、ああー……」
答えになっていない声で呻くばかりのサリーの決断をゆっくりと待っていると、クロムとマイとユイの三人がギルドホームへやってきた。
「お疲れメイプル、五層エリアは無事終わったみたいだな」
「はいっ!しっかりばっちり一発クリアです!」
「情報なしでですよね?」
「やっぱり……すごいです」
「対応できる範囲の広さが効いてるな。で、どうだ?サリーは来るのか?」
「……い、い」
「どうする?」
「行きます……!」
「ほ、本当に?大丈夫?」
「大丈夫ではない……けど、今回ばかりはメイプルと最後まで攻略したい」
苦手なことも込みで最後まで遊び尽くす。サリーはそう決めてメイプルの方を見る。と、一大決心をした風だが、やることはあくまでホラーエリアに出向くだけなのだが。
「分かった!じゃあ絶対守ってあげる!口の中で行く?」
「うん」
「りょーかい!」
「っし、まとまったみたいだな。なーに『魔王の魔力』まではもうあとひと頑張りってとこだ。そんなに長くはならない」
「マイとユイもよろしくね!」
「「はいっ!」」
「メイプルがいれば二人ももっとやりやすくなる。頼りにしてるぞ」
「任せてください!」
こうして五人は次なる攻略先である六層エリアに向かって転移していった。
薄暗い六層エリアの町。あちこちに墓場があり、空には人魂が浮かび、時折誰もいない場所で声がする。ここもまた四層エリアと同じように、他のエリアから隔離されることでその独特の雰囲気を維持していた。
そして、当然その雰囲気はサリーに対してよく効くのである。
「【暴虐】!」
「よろしく……必要なら呼んで……必要なら」
サリーは目を閉じたままがぱっと開いたメイプルの口の中へと入っていく。
【暴虐】状態のメイプルの口の中はあらゆる攻撃を物理的に遮断する超高性能なシェルターだ。それも、意思疎通ができ足も生えていて勝手に動いてくれもする優れものである。
「準備完了です!」
「行き先はこっちで指示する。走っていってくれ」
「はーい!」
メイプルはクロム達三人を背中に乗せると、目的地に向けてフィールドを走り出した。
しばらくフィールドを走り抜けてクロムの指示があったところでメイプルは停止する。
薄暗いフィールドのあちこちで不気味な青い炎がゆらめいており、点在する墓場は真下からモンスターが湧いてくる目印でもある。
空にも半透明の亡霊が無数に飛び回っており、サリーがやっていけるような環境でないのは間違いない。
「今回はここのモンスターを狩るところからだな。で、一定時間で規定の数を倒せれば求めているボスに繋がる」
「分かりました!」
「俺とメイプルの【挑発】で引き寄せる。あとはマイとユイ……可能ならサリーもか?ともかく一網打尽にして貰えばいい」
「了解です!」
「よし、なら二手に分かれてモンスターを引っ張ってくるぞ」
「はいっ!」
クロムとメイプルは互いに逆方向へと走ると、それぞれ【挑発】によってモンスターを引き寄せる。
空からは亡霊が寄ってきて、地面からは死体が這い出してくる。辺りに揺らめく青い炎は顔を形取って炎を強めながら飛んできた。
「マイ、ユイ!」
「お願いっ!」
クロムとメイプルが再集合するその場所にいるのは燃え盛る八本の大槌を構えたマイとユイだ。
二人は【救いの手】によって空中に大槌を浮かべるとメイプルとクロムが引き連れてきたモンスターの群れに対して一気に振り抜いた。
「「やああっ!」」
純粋かつ不可避の暴力。燃え盛る鉄塊は触れたものをその瞬間に蒸発させ、振り回す度に目に映る敵を滅殺する。
メイプルのスキル全てを使っての全力攻撃よりも遥かにローコストでクールタイムも気にする必要がない。それでいてそれ以上の火力を叩き出し、手数もサリーに劣らない。
ダメージを受ければ即死かつ、機動力もないという弱点さえ無視できる環境があればこれほど強いアタッカーは他に存在しない。
メイプルとクロムが何も攻撃をせずとも、集まったモンスターは全て跡形もなく消え去った。
「やっぱり頼りになるね!」
「任せてください……!」
「こんなモンスターには負けませんっ」
「よしよし、これで無事第一段階はクリアだな。これを見てくれ」
そう言ったクロムの方に三人が向き直ると、クロムの目の前で青白い炎がゆらゆらと浮かんでいるのが目に入る。
それは倒し損ねたモンスターなどではないようで、メイプルは一体何なのかと目のない顔をずいっと寄せる。
「以前にもあったんですよ。これがボスまでの道を示してくれるんです!」
「モンスターは寄ってきちゃいますけど……メイプルさんがいれば倒しながら進むのも簡単です」
「なるほどなるほど」
「そういうわけだ。早速起動するぞ」
クロムが軽くその炎に触れると青白い炎は点々と地面に道標を作り、五人の向かうべき先を示してくれる。
「また乗せてもらうぞ。細かい案内は続けるから任せてくれ」
「はいっ!」
「「よろしくお願いします!」」
「……」
三人を背に、一人を口の中に。メイプルは点々と続く道標を追って、マイとユイの力も借りながらモンスターを蹴散らして移動を続けるのだった。
そうしてメイプル達が辿り着いたのは地面に大きく口を開けた穴だった。底の見えない遥か下からは呻き声や嘆き声が絶えず聞こえてきており、モンスターが溢れかえっていることが見えずとも分かる。
「飛行機械でゆっくり降りたっていいんだが……今回はその必要もないだろ?」
「任せてくださいっ【身捧ぐ慈愛】!」
化物の背から似合わない天使の羽がにゅっと伸びて、落下のダメージを引き受ける準備を整える。今回はクロムが先の内容をリサーチ済みで、穴に飛び込むことにリスクがないことは事前に分かっているのだ。
メイプルは三人をしっかりと掴まらせると、そのまま大穴へと跳躍する。
ほんの少しの自由落下。その後大きな音を立てて着地したメイプルは真下にいた敵を踏み潰して撃破した。
「残りは……」
「任せてくださいっ!」
マイとユイは慣れた手つきで大槌を振り回し、群がってこようとするモンスターを全て叩き落としてそのまま消滅させる。
ほんの数秒で待ち構えていたモンスターは全滅し、穴の底に静寂が訪れた。
大穴の底には横穴がぽっかりと口を開けており、【暴虐】のままでも入っていける大きさである。
「サリーを連れてくる場合だと【暴虐】のままってのが都合いいだろ?だから、そのサイズでも入っていけるダンジョンのクエストは後に回した」
「ありがとうございます!」
クロムの気遣いは上手くいき、サリーを口に含んだまま奥へと侵入できた。
「サリーは戦う予定はあるのか?」
「事前に決めたタイミングがあったら……もしかすると?」
基本的にサリーは何もできないししない。ただ、持っているスキルが封印されているわけではないため、やろうと思えば攻撃も防御もできるのだ。
もっとも、マイとユイがいてクロムとメイプルの大盾二枚構成であるなら、攻撃も防御も十分事足りているのだが。
「俺達で出番を作ることがないようにしてやらないとな」
「「はいっ!」」
「頑張りましょう!」
メイプルの【身捧ぐ慈愛】に守られる範囲内を維持しながら、先の見えない暗闇に目を凝らす。
「道は前にしか続いてないが、ゴーストは壁から湧いてくる」
「じゃあ注意しておかないと!」
「いや……その必要はないはずだ」
「……?」
不思議そうなメイプルだったが、クロムがなぜそう言ったのかはすぐに分かった。
壁から現れた半透明の亡霊。ずるりと上半身を出したところを燃え盛る鉄塊が叩き潰した。
あ、モグラ叩きだ。メイプルはそう感じながらマイとユイの攻撃を見守る。
「な?六層エリアの攻略中もこんな感じだったんだ。今回はメイプルもいるからな。気をつけないといけない攻撃なんてあるかどうか……」
「「安心して任せてください!」」
「うんっ、任せる!」
絶対。そう言いきれる事象などそう多くはないが、時にこの三人に絶対はある。メイプルの防御は越えられず、マイとユイの攻撃は受けられない。
その上で万一の場合にのみ備え、最速で反応できるよう待機しているクロムがいる。
全く動けないサリーを連れてなお、どこまでも余裕のある進軍は続くのだった。
鏖殺、滅殺。生まれた瞬間に消えていくモンスター達がどんなバフデバフのスキルを持っていても関係がない。発動するより早く倒してしまえば、厄介も何もないのだ。
「はやーい!もうボスまで着いちゃった!」
一度も足を止めることなく歩きながらに全てのモンスターを撃破したことで、メイプルとサリーの二人で探索を進めていた五層エリアとは比べものにならない速度で攻略は進む。
一旦敵の行動を確認して安全か確かめてみるという手順を踏む必要がないことは、攻略を桁違いにスムーズに変えていた。
念の為に構えていたクロムも、メイプルの【身捧ぐ慈愛】もほとんどなくても構わない程、マイとユイの大槌の使い方は上手くなっていた。
「さてと、流石二人って感じだが……ボス戦はいくつか注意しないといけない所がある」
「「「はいっ!」」」
マイとユイの大槌一閃で消滅していた雑魚モンスターとは違い、ここのボスは一度に一定以上のダメージを受けない。バフデバフの質も上がってきたプレイヤーに対するボスの一手、三人としてもこのギミックは今回が初体験ではないため、特に驚くこともなくその事実を受け入れる。
「じゃあ、残りも一つ一つ説明していくぞ」
クロムが今回のボスを相手にする際の注意点をレクチャーし準備を整える。攻撃力上昇のバフは最早過剰であるためかける必要すらない。
「……サリー?」
クロムの話を聞いていると、口の中をコンコンと叩く感覚。サリーから何か言いたいことがあるようで、メイプルは外が見えないようにしつつほんの少しだけ口を開けてサリーに話をさせる。
「なるほど……オーケー。やれるんならそれは頼もう」
「はい」
「頑張って!」
「うん……適任だし、ね」
サリーはそれだけ言うとまたメイプルの口の奥へと戻っていく。
そうして一通り説明を終えて、メイプルを中心にボス部屋の中へと入っていく。淀んだ空気の中、地面にはいくつもの人骨が転がっており、メイプルが生み出すような毒の沼が点在している。
メイプルが毒竜との戦いを想起する中、前方の地面が隆起しボスが姿を現す。
奇しくもそれもまた竜だった。
といってもただの竜ではなく、肉一つ付いていない骨の竜。骨の窪みだけが残る目、そして肋骨の向こう、心臓があったであろう場所に青白い炎がゆらゆらと怪しく光っている。
全身を地面から引き摺り出すとボスは咆哮した。声帯がないにもかかわらず高く不快な音を立てて空気を揺らすその声は、物言わぬ死体であった周囲の人骨に命を吹き込む。
同じ青白い炎をその身に宿しながら、何体もの骸骨はゆっくりと起き上がり、そしてその瞬間に粉砕される。
「先手必勝!」
「何もさせないように……!」
骸骨は時間経過で何度でも起き上がってくる上、動きこそ遅いものの即死効果のある炎を放ってくる油断ならない相手だ。
マイとユイは文字通り手数も十分。浮かべた大槌のうちいくつかを骸骨の継続的な撃破のために使用し、残りの大槌を構えてメイプル達と足並みを揃えて前進する。
そんな中で一歩前に飛び出したのがクロムだった。じりじりと距離を詰める三人より先行し、【身捧ぐ慈愛】の範囲からも外れてボスへと真っ直ぐに走ったクロムは、当然誰よりも早くボスの攻撃射程内に入ることとなる。
骨だけの竜の口に青い光、骸骨やその身を動かしているものと同じ不気味な輝きを放つ炎が溢れ、一気に吐き出される。
それは唯一射程内だったクロムを襲いHPバーを削るものの、そこはクロムもトップクラスの大盾使い、撃破されることなくその場に立ち続ける。そもそも、メイプルの庇護下から抜けてまで攻撃を受ける理由は初めからこのブレスを自分一人で引き受ける予定だったためだ。
攻撃を受けることを前提としていたが故に、倒されないという確信を持ってからこの作戦を実行している。つまるところこの被弾も生存も想定内のことなのである。ブレスは連発こそしてこないが、強烈なステータスダウンのデバフをかける。
メイプルが受けた時、ボスの攻撃でダメージが通るようになってしまうかどうか。メイプルの防御力が唯一無二であるため、事前に検証する方法はない。クロムが一人で攻撃を誘ったのは安全に三人を接近させるためだった。
「今のうちに頼む!」
「「「はいっ!」」」
一仕事終えたクロムを追い抜いて、メイプルが素早くマイとユイを輸送する。
一気にボスとの距離が詰まる中、ボスは耳障りな咆哮を上げて、メイプル達を食い止めるため地中から自他を分かつようにさらに骸骨を呼び出し、稼いだ時間で地面に潜っていこうとする。
「サリー!」
メイプルは骸骨の即死攻撃に怯まずしっかりと一歩踏み込んで、たった一度だけと事前に決めた相棒の名を呼ぶ。
「【鉄砲水】【水竜】【ウェーブライド】……!」
メイプルの呼びかけに応じてサリーがスキルを連打する。サリー程正確ではないものの、メイプルもまたサリーのスキルの射程を把握しており、射程内に入った所でガパッと開いた口からは大量の水が噴き出し、さながらブレスのように骸骨達を押し流してマイとユイの道を切り開いた。
放たれた【鉄砲水】は地面に隠れようとしたボスを真下から突き上げて地上に放り出す。一瞬の隙があれば数十秒与えられたメイプル以上のダメージが出せる。それが純粋な暴力の具現たるマイとユイの強さだ。
「「【決戦仕様】【ダブルストライク】!」」
一撃当たりのダメージが一定値で抑えられる。ただ、それはあくまで通常の枠を超えたプレイヤーを何とか枠内に止めようとするだけのもの。バフを盛りに盛った奥義での一撃必殺を許さないためのそれは、ただの通常攻撃が奥義の二人がインファイトに持ち込んだ時に止めきれるようなものではなかった。
「おー、やっぱ頼もしい……ま、まあケアはし得ってやつだろ」
念の為とボスの情報を調べておいたクロムは、あまりにもな理不尽の押し付けによる蹂躙を見ていらない心配だったかと思いつつ、サリーがあの調子である今、万が一をケアするのは自分の役目だとボスの儚い消滅を眺めるのだった。