軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化とお天気2。

地面を覆う水と立ち並ぶ氷の柱。夜の闇の中、集まったプレイヤー達。辺りを警戒しつつ、目指すは敵陣営だ。

「近くには……誰もいないな」

「流石にここまでは来てないだろう。ちょっとリスクが高すぎる」

「まあ、俺達はそのリスクの高い行動をしにいくわけだが」

彼らが狙っているのは敵陣地に忍び込んでの奇襲攻撃だ。故に気付かれないよう警戒しつつ、フィールドを移動しているのだ。

「再確認しておくぞ。囲まれるようなことになる前にきっちり退却。ただ、やると決めたら一瞬で落としきれるようにオールインだ」

「オーケー」

「大丈夫だ」

集中力を研ぎ澄ませて、士気も高まる中。ぽつりぽつりと、空から雫が降ってきて足元の水たまりに波紋を広げる。

「雨か」

「おー、降るんだな。知らなかった」

「らしいっちゃらしいな」

水と自然に溢れた国。あちこちに小川が流れ、水が使われた地形が豊富なこのエリアは雨が降ってきても、そう不自然なものではなかった。

油断。と言うには酷なその納得は、不幸にも、降ってきているものが実際は何なのかを認識するのを妨げた。

パリン。闇の中に高い音が静かに響く。

「ん……?」

不審に思って戦闘を行くプレイヤーが振り返る。

最後尾。一人足りない。

「おい、どこ行った?」

「し、死んだ……?いや……」

全員が警戒していたのだ。何かが飛んできたのなら気づけるはずだ。

ざわつく中、パリンと音を立てて目の前で一人が消滅した。

「……っ!」

「て、撤退だ!」

得体のしれない何かによる、原理も不明、発生元も不明の攻撃が行われていることだけは分かった今、とにかくここを離れなければならない。

「走れ!走れ!」

「訳わかんねえ!どっからだ!?」

パリン、パリン。振り返らずに走る中、誰かが消えていく音がする。

敵プレイヤーかどうかも分からないため、迎撃することもできず。ただ逃げに徹して雨の中を走っていく。

彼らは優秀で、メイプル対策も当然万全だった。麻痺と毒を無効化し、耐性を下げるスキルがあっても対応できるようアイテムも準備した。

だが、その【毒無効】。ただ毒を与えるだけの【アシッドレイン】の効果を受けなくなったことは、攻撃されているという事実を曖昧にした。

静かに降る死の雨。その真実には気づけない。メイプルが毒を使うことを知っていても、いつの間にかそれが即死効果を持つものに変容していることはまだ知られていないままなのだから。

そうして雨を降らせるメイプル達。天上に居座る迷惑極まりない雨雲は、一帯に毒を撒き終えてゆっくりと離れていく。

「なーんか地味だったねー。メイプルが出るって言うからもーっと派手なのを期待してたけどなー」

「ごめんね?」

「あはは、別にー。楽に倒せるならそれに越したことはないしー。でも、本当に倒せてるんだよねー?」

「まあ、それは神のみぞ知るって所かな?」

「目の前で見てないもんね……」

実際は成果があるものの、ノーツの【ソナー】も再使用まで時間がかかるため、状況は正確に把握できていないのだ。

「ならメイプルがいることはバレちゃうだろうけど、一回どこかもうちょっと強烈にやる?その後は即撤退で」

「いいねー。やっぱり目に見えた成果欲しいしー」

「じゃあどこにしよう?」

「フィールドに出た時に一時拠点にしそうな場所をメモしておいたから、そこでフレデリカに索敵してもらおう」

そこならプレイヤーがいる可能性が高く、被害も期待できるだろう。

そうして三人が向かったのは周りの地面に薄く氷が張っているエリアだ。

上を歩くと音が鳴って敵の接近を告げるため、休息を取るにはちょうどいい。

「ノーツ【ソナー】!……おー、本当にいるねー」

「運がいいな。他にも休めるような所はあるから」

「じゃあメイプルやっちゃってー」

「うん!まず準備からだね!」

そう言うとメイプルは【救いの手】を装備し、二枚の盾を足場にしてそこに乗る。

「【全武装展開】!」

「フレデリカ。数と範囲、強化できる?」

「勿論。まー、やるのはノーツだけど!」

「オッケー、じゃあメイプルに掴まるよ」

二人して糸でメイプルに固定されたことで、帰り方を理解し、フレデリカは渋い顔をする。

「この移動おかしいってー……」

メイプルはシロップを指輪に戻すと下に片手を向けた。

「いくよ!」

「んー……はいはーい!ノーツ!」

腹を括ったフレデリカはメイプルにきっちりしがみついてノーツに指示を出す。

「【毒竜】!」

「ノーツ【伝書鳩】!【ボリュームアップ】【輪唱】【増幅】!」

ノーツがメイプルにバフを届けると、放たれた毒竜はその首を倍に増やして、さらに巨大になって広範囲を毒に沈める。

雨というにはあまりに強烈なそれは、まるで突然滝壺に叩き落とされたかのように、一瞬にしてプレイヤーを飲み込み押し流していく。

その広範囲の毒沼が人を生きて帰すことはないだろう。なにせメイプルの毒は特別製なのだ。

素早く準備を済ませ攻撃したため、【ソナー】の効果も残っており、フレデリカには減っていくプレイヤーが確認できていた。

「おー……毒耐性なかったのかなー?」

「じゃあ帰るよ!」

「うわー、そうだった……!」

「【身捧ぐ慈愛】!」

メイプルは自爆により発生する爆炎から二人を守って一気に自陣方向へと吹き飛んでいく。

高度は十分。墜落しつつもかなりの飛距離を稼ぐことができるだろう。

「着地はー!?」

「そんなのある訳ないでしょ!どこかの地面にそのままっ!」

「やっぱりこれ移動手段にしてるのおかしいよー!」

ギャーギャーと喚くフレデリカの声が空に響く。それでも、この高さでは敵に聞こえることもない。

時を同じくして、遠くの敵陣から見えた流星。空を横切る光が、爆発して炎上し、高速で墜落するメイプルだとは誰も気づかないだろう。

であれば追撃もしようがない。毒沼はメイプルのいた証拠にはなるだろうが、その時には既にメイプルは町の中だ。

こうして確かな爪痕を残して、三人は町へ向かって落ちていくのだった。