軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と炎雷。

こうしてイベントの後半戦が始まる中、メイプルはというと七層の静かな丘で日向ぼっこをしてくつろいでいた。確かにイベントに新展開が来たとはいえ、人を大量に集めなければならない都合上、レイドボスの出現する時間は決まっており、それまでは自由な時間があるのである。人によってはその時間を使って、今までと同様に限定モンスターからドロップする素材集めに励んでいる。しかし、イズ曰くもう必要な分は集まったとのことで、多いに越したことはないが、メイプル達が無理に討伐に向かう必要はなくなったのだ。

「のんびりできるのはいいよねー。時間加速のイベントは皆で頑張れるけど忙しいし……ねー、シロップ」

メイプルは呼び出したシロップの頭をちょんちょんとつつく。今回は全プレイヤーでの共闘なのもあり、メイプルにとって今までで一番マイペースに遊べるイベントとなっていた。

次の巨大ボスが出る時間は既に知らされており、場所も特段行くのが難しいところではないため、馬のないメイプルでもシロップに乗って事前に飛んでいけば問題なくたどり着けるだろう。

あとは大盾らしくマイとユイの二人を守れば問題ない。やることが明確ならメイプルも安心である。

そうしてくつろいでいたメイプルだったが、真上に何かがやってきたようで大きな影が光を遮る。

メイプルが一体何かと上を向くと、影を作っていた存在は少し位置をずらして地面まで降りてきた。

「やっほーメイプル。どう?イベントは順調?」

「ミィ!」

ミィはイグニスから飛び降りると、メイプルの隣に座り込む。

「うん!順調だよ。今はレイドボス?それが出るまではのんびりって感じ」

「限定モンスターを倒すミッションはもう最後まで終わったしね。その感じだと素材も集まってるんだ?」

「うん!えへへ、でも集めたのはほとんどギルドの皆なんだけどね。あ、でもモンスターハウスは私も頑張った!」

サリーやカスミがサクサクと倒して稼いだ分が多いのは事実である。ただ、人数が集まる時はベルベットから教えてもらったモンスターハウスを利用した素材集めでメイプルも活躍していた。大量のモンスターに囲まれても問題ないと言えるのはメイプル特有の現象である。

「私達のギルドも結構上手く集められたかな。私はちょっと相性が悪かったけど、あれくらいならね」

「おおー、流石ミィ!」

今回出てきたモンスターは水に関するようなものばかりであり、炎で戦うミィにとっては相性の悪い敵である。ただ、それでも成長してミィの火力も高くなっており、雑魚モンスターなら相性が悪くとも焼き尽くせるのだ。

「うん、でも今回のイベントは八層に向けてって感じらしいしさー……そうなると八層は厳しそうなんだよね」

「確かにそうかも。水に関連してそうだもんね」

「今のイベントモンスターがどのくらい参考になるか分からないけど、レイドボスまでそっち系ってなるといよいよかなー」

「水だと私も大変だなあ……ほら、泳げないし。泳げるようにもならなそうだし」

「それだと、水中戦とかは基本ダメなんだ?じゃあメイプルと戦う時は水の中でやるのがいいのか……」

そうなるとミィも戦いにくいため本末転倒ではあるが、うまく引きずり込めればメイプルがやりにくいのも事実である。

「あっでも一応爆発して泳ぐことはできるよ!」

「…………??それって泳ぐっていうのかな……」

陸海空、全てにおいて爆発して移動能力を担保しているのがメイプルである。改めて考えてみると奇妙だと思うミィだが、メイプルの自爆による加速が実戦級なのは身をもって知っている。

「せめてダメージくらい受けてくれたらさー」

「ふふふ、守りは固いよー!」

自爆がただの移動手段として機能してしまっているのはメイプルの防御力あってこそである。ミィも同じようなことはできるが、HPを保っていないと危険なうえ、ダメージの都合上連発も難しい。

「私はイグニスがいるから良かったけど、メイプルの自爆くらいの機動力はないと今回みたいな大きなボスは回り込んだりできないし」

だからこそ、極振りに行くプレイヤーは少なく、成功するのが難しいのだ。移動力や耐久力、攻撃力など問題はいくつもある。

「私もシロップのお陰でいい感じに上から攻撃できるし、マイとユイを【身捧ぐ慈愛】で守ってあげたら二人はすごいんだよ!」

「ギルドメンバーから聞いてるよ。大槌八本だっけ?本気でレイドボスを殴り倒せるんじゃない?」

「巨大イカと戦った時は行けそうだったよ!」

「うわ、やばいなあ……ギルドの大盾使いの人には注意するよう言っておかないと」

レイドボスを正攻法で叩き潰すことができる超火力に人間が耐えられるわけがない。場合によっては構えた盾ごと木っ端微塵にされるだろう。

そうしてミィはしばらくメイプルと話をする。メイプルがくつろいでいるように、ミィもまた何か急がなければならないことがないのである。次のレイドボスにはミィも参加することに決めているため、【楓の木】の面々とは現地集合し、今回は二人で向かうことにした。距離がそれなりにあるため、イグニスに乗っていけるなら妙な方法で空を飛ぶシロップより早くたどり着くことができるのだ。

それまでの時間をどう過ごそうかと二人話しているところに、見知った顔が通りかかる。どうやら向こうもメイプルとミィに気づいたようで、小さく手を振るとそのまま近づいてきた。

「メイプルさん!それにミィさんも」

「あ、ベルベット!」

今日はおしとやかなモードのようで、ベルベットはいつもの挑戦的で活発な表情でなく、落ち着いた穏やかな表情をしている。それを見てミィは一つ咳払いをしてから反応する。

「んんっ……直接会ったことはないと記憶しているが?」

「そうですね。でも、有名ですから」

「互いにな。こちらも噂は聞いている」

両方の事情を知っているメイプルは、切り替わった二人の様子を見て何とも言えない表情で見守る。

「ベルベットは今日は一人なんだね」

「ヒナタは用事があるみたいで……いつもなら私も合わせるんですけれど、イベントで新しく解禁されたレイドボスを見てみたかったんです」

落ち着いた様子でそう話しているが、内心は『強そう!面白そう!戦いたい!』ということなのだろうとメイプルは察した。実際よく見てみると話をしている時のベルベットは興奮が隠しきれておらず、楽しそうにしている時の笑みが浮かんでいる。

「でもここからだと結構離れてるよ?」

馬を連れているとはいえ、出現予定地点までここからは結構な距離がある。ベルベットの様子からして参加できないようなことがないよう近くで待機する気はないのかとメイプルは首を傾げる。

「ふふっ、まだ時間はありますから。その前にギルドメンバーから報告があった面白いものを見に行こうと思ったんです」

「面白いもの?この辺に何かあったかな……」

メイプルは今までの探索を思い返してみたものの、特別面白いと言えるようなものは思いつかない。

「ミィは何か思いつく?」

「いや、これだと言えるようなものは記憶にない」

「そうなんですか。なら、よければ一緒に行くのはどうっ、ですか?」

ボロを出したのを笑顔で誤魔化しながら、ベルベットはそう提案した。メイプルから聞いていたミィはその様子を見て、自分はどうして引き返せなくなってしまったのかと一瞬遠い目をする。

「私は特に予定はない。レイドボスに間に合うのなら同行しよう」

「ミィも知らないみたいだし、どんなのか気になる!」

「じゃあ決まりですね!もちろんレイドボスには間に合わせます!私も参加したいっすからね!」

「「あっ」」

「あっ……ふふ、参加したいですからね?」

「…………」

もう一度いい笑顔を見せるベルベットに、もしかしたらあったかもしれない自分の別の未来を感じて、ミィはどこか羨ましそうにその様子を見つめる。ともあれベルベットの言う面白いものを見に行くことに決めたメイプルとミィはベルベットのナビゲートに従って目的地に向かうのだった。