軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と克服。

メイプルと二人でのダンジョン攻略を終えて、サリーはギルドホームのソファーに深く座って目を閉じ、険しい顔で何か考え事をしていた。

「どうかした?そんなに考え事をしてるのもちょっと珍しいね」

「カナデ?ああ、まあうん。ちょっとね……」

「また次の対人戦について考えてるのかな?ほら、新しいスキルも手に入ったみたいだし」

メイプルとサリーのこともそうだが、マイとユイに関しても新たな力を手に入れている。マイとユイは今日も元気にフィールドで八本の大槌を振り回して、別物になった戦闘を体に馴染ませるとともに討伐数を稼いでいる。

「ちなみにカナデの方はどう?」

「僕は魔導書を溜め込みながら、他のギルドのことを見てる感じだねー。サリーから聞いてた通り【thunder storm】の二人のテイムモンスターは分からなかったよ」

カナデの戦闘力は一回限りの魔導書を使うことによって変化する。それ以外のスキルには特殊なものはこれといってないため、レベル上げのために戦闘を繰り返すのには向いていない。そういうこともあって、カナデは自分から他のプレイヤーの観察に時間を割くようにしているのだ。

「そっか。分かったら対策も立てられるんだけどね」

「でも面白い人達だね。あれだけ派手ならどこにいるか分かりやすいから」

ベルベットとヒナタがいればその辺りには大量の雷が落ち、冷気が立ち込め、場合によっては物体が浮き上がっていたりするのだから、メイプルに負けず劣らず目立つ存在である。

「今度は【ラピッドファイア】の方を見に行こうかな」

「うん、何か分かったら助かる」

「まあ程々に期待しながら待っててみてよ」

ただ、こうして会話をしていてもどこか悩み事があるように見えるサリーにカナデはどうしたものかと少し考える。

「んー、何かあるならメイプルにでも相談してみたら?じゃあまたね」

カナデはそう言うとひらひらと手を振ってギルドホームから出て行く。

「メイプルに相談かあ……」

こうしてしばらく考えていたサリーは、意を決したようにガタッと立ち上がるのだった。

翌日、現実世界の放課後。理沙は帰り支度をすると目を閉じて大きく息を吐く。そんな理沙の元にぱたぱたと楓が近づいてくる。

「理沙帰ろー!」

「今日はちょっとゲームショップに寄って行こうかと思って」

「へー!また何か新しいゲーム出たの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

歯切れの悪い理沙を見て、楓は首を傾げる。

「よかったらさ……ついてきてくれない?」

「……?もちろんいいよ!」

いつものゲームを進めてくる理沙とは様子が違うのを見て、何か違和感を覚えつつも理沙の横を歩いて目的地へ向かう。

「何回か来てるし私も道順覚えたよ!」

「へぇ、じゃあたまに行って色々見てみると面白いかもね」

「あはは、何がいいとか分からないから見るだけになっちゃいそう」

「まあそれも一つの楽しみ方だし?」

パッケージはいわばそのゲームの顔であり、それを見て多少書かれた説明を読むだけで、面白そうだと思えるようにできている。適当に見て回って良さそうなものを手にとってするだけでも楽しいものなのだ。

と、こういうところもあって、いつもなら店に近づくほど早足になっていく理沙なのだが、今日はいつになく足取りが重い。

「理沙大丈夫?」

「え、うん……大丈夫」

そうは見えないと思いつつ、帰るかと聞いても大丈夫の一点張りなため、楓な心配しつつ二人でゲームショップへと入る。

「今日は何見にきたの?」

「うん、それは……」

理沙はゆっくりと歩いていくとある棚の前で立ち止まる。

「えっ!?」

楓は理沙の目線の先を見て驚く。そこに並んでいたのはパッケージやタイトルからも察せられる、分かりやすいホラーゲームだった。

「ほ、ほんとに?」

「うん。そ、そそそろそろ克服しようかなって」

最近でも戦力外になってしまったり、六層での探索が全くできなかったり、それ以外の層でもそういったモンスターが出る場所は、一切近づいていなかったりと弊害もあり、ついに克服に踏み切ったというわけである。

「やめといたほうがいいよ。寝られなくなっちゃうよ?」

「ゔっ……」

通常ゲームのホラーエリアとホラーゲームでは訳が違う。前者でボロボロになっている人間がやれるものかというと疑問符がつく。楓としても理沙のこういった決意は、これまでの長い付き合いの中で何度か見てきたが、結果は敗走に次ぐ敗走となっていた。

「どうしてもっていうなら止めないけど……んー、でも……」

七層攻略がつい先日のことなため、メイプルにも結果は何となく予想できていた。理沙はしばらく悩み、様々なことを考えた結果決断する。

「や、やる!今回はやるって決めたからね!」

「どれにするか決めてるの?」

楓がそう言うと理沙は一つのゲームを手に取る。

「ぶ、VR?ほ、本当に大丈夫?」

画面の中であれこれが起こるのと自分が中に入って恐怖体験をするのでは訳が違う。理沙は今回どうしてもやるという、ある種ハイになった状態なため、なんとなくいける気がしているが、楓から見るといつものそれである。それでも、やると言い切った以上、このハイテンションを終わらせるためには何か結果が出なければならないのだった。

「これは一応二人プレイもできるから……」

「えっ?あっ!?巻き込んだなぁ〜」

「も、ももちろん一人でクリアする気だよ?でも……まあ、ほら、ね?」

「もー、いいよ。最後までできるかなあ」

「『New World Online』のイベントの合間にね」

「うまく進むといいなあ。すごい怖いって書いてあるよ」

楓はホラーは特に苦手というわけではないため、理沙からパッケージを受け取ると裏面の説明などを読んでいく。

「じゃあ、買ってくるね……ふー……よし」

理沙はそう言い残して、一度心を落ち着けるとレジへと向かっていくのだった。

「じゃあ頑張って!」

「う、うん」

一応一人でクリアすると言い切ってしまったため、いきなり助けてくれとも言えない理沙はゲームの入った袋を持ってやるぞやるぞと意気込む。

「クリアしたら教えてね!」

「うん、とりあえず手をつけてみる」

流石にクリアとまではいかなくとも多少ストーリーを進めることはできる。二人プレイも可能にはなっているが、基本は一人プレイをメインとしている。

楓とはまた明日の学校で会うため、どこまで進んだかはその時に話せばいいだろう。

帰り道を歩き、二人はいつもの場所で別れてそれぞれの家へと向かっていく。そうして少しした所で理沙は手に持った袋をまじまじと見て不安そうな表情を見せる。

「できるできる……そろそろ克服するって決めたんだから……」

家に帰ったら始めるつもりで歩いているが、いつものようにすぐにゲームを始めるために帰路を急ぐことはなく、むしろ足取りは重いくらいなのだった。

「ただいまー」

理沙は自分の部屋へ戻ると、荷物を置いて制服から着替え、問題のホラーゲームを取り出し机の上に置く。

「とりあえず……ご飯食べてからかな」

クリアまでにそれなりに時間もかかるゲームのため、理沙は一旦手を出すのはやめておいて今日出された課題の方に手をつける。

「分かっちゃえばそんなに難しくないね」

集中してできさえすれば問題なく解けると、理沙はスイスイ課題をこなしていく。この集中力がなぜ発揮できているかは薄々感づいてはいるものの、気づかないふりをしながら時間を過ごす。

そうしてあれもやってこれもやってと手をつけるうちに、外はすっかり暗くなり、一階から夕食の準備が終わったことが告げられる。ちょうど課題も終わっていた理沙は、部屋から出ると一階へ降りていった。

夕食を済ませ、風呂にも入った理沙はまた部屋へと戻ってくる。いつもならここで何かしらゲームを始める訳だが、ゲームの準備を始めようとすると、そこには強烈な存在感を放つものが置かれている。

「……いや、やる……やるんだけど……」

そうは言うものの、手にとっては置きを繰り返して時間が過ぎる。

「ま、流石に夜やるのはちょっと……明日帰ってすぐにしようかな。うん」

理沙はそう結論づけると今日の所はやめておいて、別のゲームを始めるのだった。