軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

477 マーモント侯爵邸 (4)

「んっと……つまり、この国で一番強い人を決める大会?」

「いや、そうとも言えない。魔法は使用禁止というルールがあるからな。その時点でナオのようなタイプは全力が出せないだろう? それに出場者自体が限られる。父上だってまず出場はしないし、高ランクの冒険者の多くも同じだろうな。メリットがない」

優勝して得られるのは、名誉と賞金。

マーモント侯爵にそんなものは不要で、高ランクの冒険者もそれらを望むとは限らない。

実際に俺ですら、優勝のメリットよりも、デメリットの方が大きいと思うのだから。

――貴族になることが決まった今では、少し状況も違うだろうが。

「じゃあ、じゃあ、目立ちたがり屋の中で最強ってこと?」

「身も蓋もないが、その通りだな。優勝すれば貴族に名前を覚えてもらえるし、どこかに仕官するなら、優勝者というブランドには価値がある。つまりは、そういうことだな」

一応、武門の貴族が箔付けのために出場することもあるそうだが、それは少数派。

参加者の主体は、腕自慢の冒険者や働き口のない貴族の次男以降らしい。

「特別オークションと闘技大会、興味はあるが、少し先なのか……」

呟くように言ったトーヤだったが、リアが少し不満そうにトーヤを軽く睨む。

「おや? トーヤは私との結婚より、そっちの方が優先なのか?」

「ち、違うぞ!? もちろん、リアと結婚する方が優先に決まっている! だよなっ!?」

トーヤが慌てて俺に目配せするが――同意を求められても、ちょっと困る。

とはいえ、トーヤは親友。俺は苦笑しつつも頷く。

「そうだな、早くヴァルム・グレに戻った方が良いだろうな。俺も面倒の方が勝るし」

時期さえ合えば行ってみたいとは思うが、そのために王都に残った結果、有象無象を捌く必要が出てくるのなら話は別。ハッキリ言って、厄介な貴族の対応なんかしたくもない。

「というか、スライヴィーヤ伯爵への挨拶も憂鬱なんだけどな。俺にはちょっと荷が勝ちすぎる」

「そうなの? ネーナス子爵の時は、ナオもちゃんとできていたじゃない」

「ちゃんと……か? 何とか受け答えしていただけだが?」

あれを『ちゃんと』と言って良いものか。

ネーナス子爵が寛容だからこそ、許されていたように思うのだが……。

「そこまで気にしなくても良い。ナオたちが冒険者であることはスライヴィーヤ伯爵も知っている。貴族として完璧な挨拶をする方が、訝しがられると思うぞ?」

リアの若干呆れたような言葉に、俺は『ふむ』と頷く。

「そういうものか。なら、少しは気が楽になるな」

ま、相手は上級貴族。面会を申し込んだところで、すぐに会えるとは思えない。

その間にどんな挨拶をするか、ゆっくり考えれば良いよな?

――などと考えたのが悪かったのか。

「スライヴィーヤ伯爵から遣いが来た。今日、来てくれということだ」

翌日の朝食の席でリアから告げられたのは、そんな衝撃の事実だった。

「……は? え? もう? 連絡したのは昨日だよな?」

「うむ、あの話し合いの後だな。夜になって返答があったんだが、夜半にナオの部屋を訪ねるのもどうかと思って遠慮したのだ。……ハルカがいたら気まずいし?」

『気が利くだろう?』と、若干ドヤ顔のリアだが……そこは遠慮してほしくなかった!

そうすれば、少なくとも一晩は覚悟を決める時間が取れたのに!!

「えっと……、約束の時間はいつ? 午後かしら?」

ハルカが若干気まずそうに尋ねるが、リアは平然と答える。

「いや、午前中だな。朝食を終えたら、すぐに出た方が良いと思うぞ?」

「予想以上に忙しないな!?」

思わず声を上げた俺を見て、トーヤが笑みを漏らす。

「ふっ、ナオ、頑張れよ? オレも応援してやるから――気持ちだけで」

「まったく役に立たねぇ!」

「最近、オレばっか苦労してるからなぁ。いや~、メシが美味い!」

気楽に朝食を頬張りながら、ニヤニヤと楽しげなトーヤである。

「お前の苦労は自分で背負い込んだものだろうが」

まぁ、確かに? 侯爵家に婚約の挨拶に行くとか、面倒な兄弟から挑戦を受けるとか、トーヤの苦労を他人事として楽しんでいた面があることは否めないんだが。

幸か不幸か、俺の場合はそういう状況になることは起こりえないし。

――いや、不幸だな。互いの両親に結婚した姿を見せられないのだから。

「しゃーない。覚悟を決めるか。ちなみに服装はどうすれば良い? やっぱ、正装か?」

「それはさすがに大袈裟じゃない? ナオが正装だと、私もあのドレスよ?」

俺が持っている一張羅は、イリアス様に作ってもらった礼服。

あれを俺が着るなら、隣に立つハルカも同等の物にしないとバランスが悪いわけで。

「リア、正装じゃなくても大丈夫か? 礼儀的には」

「清潔感があれば問題ない。トーヤが父上と会った時を考えてみろ」

「あ~、そういえば……。よく考えたら、結構失礼だったんじゃないか?」

あの時の俺たちはちょっとした余所行き程度の服であり、決してフォーマルではなかった。

だが、改めて考えてみると、あの場面は侯爵家の当主との面会、且つ婚約の顔合わせである。

普通なら礼服で挑むべき状況だったのでは、とリアを窺えば、彼女は苦笑して小さく首を振る。

「冒険者ならあれで十分だ。しかし貴族となれば、もう少し気にした方が良いかもな」

「なるほど……。とはいえ、他は普段着ばかりだぞ?」

ハルカたちのおかげでそれなりに服は持っているのだが、布が高価なこの世界、半ば趣味として服を作っている彼女たちも、着る機会のない服までは作ったりしない。

訪問まで時間もないし、適当に見繕うしかないか、と思ったのだが――。

「ふっふっふっ」

怪しく笑うユキが、俺を意味ありげに見る。

「…………」

「ふっふっふっふっ」

「………………ま、今回は以前と同じで良いか」

スッと目を逸らし、そう言った俺に、ユキが縋り付いてきた。

「無視しないで!? かまってよ~。ユキちゃん、悲しくて泣いちゃうよ?」

「はいはい。で、どうしたんだ?」

ユキの頭をポンポンと撫でて改めて聞き返すと、ユキは身体を起こして――。

「ふっふっふっ」

「いや、そこからやり直すのかよ」

再び笑うユキに俺はジト目を向けるが、ユキはそんなこと関係ないとばかりに胸を張った。

「こんなこともあろうかと! スマートカジュアルぐらいの服も作っておいたよ!」

「そうなのか……?」

いくら何でも、ユキだけで作ったとは思えない。

俺がハルカとナツキに視線を向けると、二人は微笑んで頷く。

「マーモント侯爵家に挨拶に行った後でね。今後は使う機会も増えそうだし、もう少しきちんとした服が必要かと思って用意したの。私とナオの礼服やリアから訊いた話なんかを参考にね」

「ヴァルム・グレでは時間に余裕がありましたから。私たちの物も含めて作ってみました。あ、もちろん、トーヤくんとメアリちゃんたちの服もありますよ?」

「私たちの物も、ですか? 今でさえ、良い服を着ているのに……」

「ナツキお姉ちゃんたちが作ってくれる服は、とっても着心地が良いの!」

「ふふっ、ありがとう。でも二人が養子になれば、改まった席に赴く機会も増えると思います。『浮世は衣装七分』という言葉もありますし、相応の服は必要になりますからね」

メアリたちが普段着ている服も可愛くて良いと思うのだが、確かにフォーマルではない。

しかし、新品の服はかなりの値段がするこの世界、すぐに大きくなる子供に高価な服を用意できるのは裕福な商人や貴族ぐらいであり、それだけで着用者の立場が計れると言える。

そう考えると、冠婚葬祭に一着で対応できる学校の制服は、非常に優秀だったんだなぁ。

貧富の差なく用意でき、正式な式服として通用するのだから。

最近は制服のない学校もあるようだが、親からしたら逆に大変なんじゃないだろうか?

「ま、二人の服のお披露目はまた今度。今日はナオとハルカだよ! これ、着てみて!」

ワクワクを抑えきれない様子のユキが、俺に紙袋を差し出した。