軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

424 リザルト (1)

「無事に依頼も終わり、予想以上の利益を得ることができました! みんな、お疲れ様!」

「「「かんぱ~い!」」」

シャリアの音頭で俺たちはカツンとジョッキをぶつけ、ごっごっご、と飲み干した。

ここはヴァルム・グレにある一軒の酒場。

今日は依頼の無事完了を祝う打ち上げである。

坑道の調査を終えて結果を報告した俺たちは、すぐにコンブラーダを発ち、ヴァルム・グレへと戻ってきていた。

やや慌ただしかったが、それでも帰還を急いだのは、偏に面倒事を避けたかったから。

元々の依頼に関してはしっかりと完遂しているので、そこに文句を付けられることはないだろうが、 つ(・) い(・) で(・) に(・) ロック・ワームの掘った穴を埋めてくれとか、遺体の回収をしてくれとか依頼されても厄介である。

十分な報酬が提示されるなら考えても良いが、既に坑道の安全は確認済みで、それらの仕事は冒険者でなくてもできるもの。

町長は俺の冒険者ランクを知っているので、ランク相応の報酬を払えば割に合わないことを理解していると思うが、そもそも相応の報酬を提示するかどうかも不明。

もちろん、その場合には断ることになるわけだが、変にごねられても煩わしいので、俺たちは全員一致で町を離れる選択をしたのだった。

「ぷはぁぁぁ~! 仕事の後の一杯は美味しい!」

晴れがましい笑顔でドンとジョッキをテーブルに叩きつけ、オヤジっぽいこと言っているシャリアだが、飲んでいるのはノンアルコールである。

「ふふふふ、すっごく、お酒が美味しいです~」

「くはぁぁ! 冒険者になって、こんなに儲かったのは初めてにゃ! お姉さん、もう一杯にゃ!」

空になったジョッキを掲げるタニアも、やっぱりノンアルコール。

俺や、俺たちの影響を受けたメアリとミーティアもノンアルコールなので、実のところ、このメンバーの中で定番のエールを飲んでいるのは、素敵な笑顔のアーニャのみである。

「タニアお姉ちゃん、凄く嬉しそうなの」

「仕方ないのにゃ~。こんなに稼げるなんて、冒険者になって初めてな~のにゃ~♪ にゃははは!」

もう一度言うが、タニアが飲んでいるのはノンアルコールである。

だがタニアが――いや、シャリアとアーニャも含めて、ややどこかのネジが飛んでしまったようになっているのには、もちろん理由がある。

それは今回の依頼で得られた報酬。

まず、依頼の報酬が八万レア。

次にゴブリンたちの魔石が一万七〇〇レア。

拾ってきた冒険者の装備品などの売却額が、およそ六万レア。

ただし、一部の剣はシャリアたちが持つ物よりも良かったので、それらに関しては売却せずにシャリアたちにタダで譲ることにした。

金に困っているわけでもないので、ルーキーに対するそのぐらいのサポートはしても良いだろうと、ちょっぴりベテラン風を吹かせたりしてみた。

ゴブリンたちとロック・ワームの討伐報酬は五万レア。

これはもうちょっと多く請求できたのだが、コンブラーダの町も大変そうだし、その時の俺たちは心が広くなっていたので、値引きに応じたのだ。

そして最後に、ロック・ワームの売却額。

心が広くなっていた理由がこれである。

その額、なんと四二万レア。

冒険者ギルドの査定額に町長が若干の色を付けて買い上げたので、ルーキーであるシャリアたちはもちろん、それなりに稼いでいる俺としても結構大きい収入だ。

だが、シャリアたちが浮かれているのは、その金額に加えて、幸運に恵まれたことも関係している。

そもそもロック・ワームは、素材として考えるならその皮ぐらいにしか価値がない。

いくら大きくても――いや、ある意味大きいからこそ、そこまで高くは売れず、皮だけの価値をいうなら、数万レアというところである。

しかし、ここで関係してくるのが、ロック・ワームの生態。

大量の岩を食べるロック・ワームは、岩に含まれる一部の成分をその体内に蓄積することがある。

その成分は個体によって様々で、運が良ければ貴金属が蓄えられているが、最悪では無価値のナニカしか得られない。

つまり、ロック・ワームで稼げるかは、九割方は運である。

ごくまれにミスリルが取れたりするらしいが、そんなのは宝くじに当たるようなもの。一〇万レアを超える金属が抽出できれば、かなり良い方らしい。

なので、三〇万レア以上の金属が得られた今回の俺たちは、かなりの大当たり。

俺の恩恵【ラッキー!】が仕事をしてくれたのかもしれない。

どうせならミスリルが得られたら最高だが、微妙に中途半端なあたりがアドヴァストリス様らしい気もする。

それでも、今回の仕事で得られた報酬は、一人当たり一〇万レアを超える。

ルーキーであるシャリアたちは当然として、俺たちとしても一月足らずの仕事としては、悪くない。

特に今回はパーティーメンバーの一部しか参加していないため、共通費として徴収されることもなく、すべて自分のお財布直行なので、お小遣いが大幅アップ、である。

……いや、お小遣いと言うにはちょっと額が大きいか。

ミーティアなんて、喩えるならば小学生のお財布に一〇〇万円の札束が突っ込まれているようなもの。

漫画なんかに出てくる、テンプレな金持ちなお坊ちゃまかっ! ってなもんである。

まぁ、メアリも含め、無駄遣いする様子もなく貯蓄しているようなので、心配はしていないのだが。

苦労して生活していた過去があるからだろうな、やっぱり。

貧乏していた人が急にお金を持つと、逆にお金の使い方が解らなくなり、散財してしまうこともあるらしいが、幸いなことにメアリたちはそうではなかったようだ。

トーヤにも見習って欲しいところである。

ヤツの今の所持金は、たぶん、ミーティア以下だ。

「ちなみに、シャリアさんたちは普段、どれぐらい稼いでいるんですか?」

「過去最高は三人合わせて一日に一万レア、稼いだことがあるかな。でも普段は、五千レアいけばかなり良いって感じなんだよ」

一人あたり二千足らずか。

俺たちが最初に定宿にした微睡みの熊の場合、三人一部屋、朝夕の食事にお湯なんかを付けたりすると、一泊がおよそ八〇〇レア。

そのぐらいの稼ぎだと、もう少しランクの低い宿にしないとかなり厳しい。

だが今回は、正味一月足らずで三人合わせて三〇万レア。

月の半分以上は仕事をしない冒険者も多いことを考えれば、三人にとっては過去最高を大幅に超える稼ぎが毎日続いたようなものである。

「だから、私たちからすると、今回のお仕事は大当たりなんですよ~。うふふふ~」

「だよね! 良い依頼を選んだボク、エライ!」

「まったくにゃ。よくやったにゃ。褒めてやるにゃ!」

「はっはっは、もっと言って! 褒め称えて!」

シャリアが気分良さそうに胸を張るが、そんな彼女を見たタニアは少し考えて、首を振った。

「――前言撤回にゃ。やっぱり、ダメにゃ。ダメダメにゃ!」

「あっれぇ!? なんで!」

あっさりと翻された言葉に、シャリアが愕然と目を見開く。

「よく考えたら、シャリアの手柄は、ナオたちを引き入れたことだけにゃ。依頼の方は最悪にゃ。ナオたちがいなかったら、死んでたにゃ」

「うっ!」

「更に言うと、依頼の増額交渉をしたのもナオさんですし、報酬の大半はロック・ワームの売却益です。九割はナオさんたちのおかげだよねぇ~」

「否定できない……」

アーニャの追い打ちをうけ、シャリアが項垂れた。

そんなシャリアを見て、アーニャは優しく微笑み、「まぁ」と言葉を続ける。

「生きて帰ってきているので、失敗とは言えませんけど~。――今更ですがナオさん、私たちもロック・ワームの売却益、貰って良かったんですか~? ナオさん一人で斃したのに」

「当然だ。貢献度を云々し始めたら、パーティーなんて組んでいられないからな」

「おぉ、さすが高ランク! 太っ腹!」

「まぁな。褒め称えても良いぞ?」

俺がニヤリと笑うと、シャリアは『たはは』と苦笑する。

「けど、ま、依頼の選定はもうちょっと気を付けた方が良いかもな。ゴブリンと言われたのに、行ってみたら上位種、なんてことは時々あるらしいから」

「気を付けるよ……。ゴブリン・キャプテンとか、ボクが戦ったら、瞬殺される未来しか見えない」

「やっぱり、こういうタイプの依頼は、難しいのにゃ」

「依頼者が詳細な調査をしてくれるはずもないからな」

「できる力があれば、依頼を出す必要もないですよね」

「そういうことだな」

依頼を請けた冒険者が未帰還となれば、依頼内容も更新されるのだろうが、その冒険者に自分がならないとは限らない。

かなり吟味して請けなければ、討伐依頼はなかなかに危険性が高いのだ。

「ミーティアたちも、気を付けるんだぞ?」

たまに孤児院の子供たちと依頼を請けたりしているようなので、一応とばかりに注意してみれば、ミーティアはふふんっと得意げな表情を浮かべた。

「大丈夫なの。美味しい依頼には落とし穴があるの。ミーは知ってるの」

「私たち、基本的には町の中の依頼か、採取依頼ぐらいしか請けませんから……」

そもそも孤児院の子たちとの技量差も大きいため、ミーティアたちからすればかなり余裕のある依頼になっているらしい。

ならば安心と俺は胸を撫で下ろすが、シャリアは眉尻を下げて情けなさそうな表情になった。

「うぅ、ミーティアでもできているのに、ボクってヤツは……」

「仕方ないですよ~。少しでも報酬が良い依頼をやらないと、暮らしていけませんから~」

「私たちは、依頼料を気にしなくても、ナオさんたちのおかげで生活には困りませんから」

「だよね、ボク、そんなに間違ってないよね?」

「そうだな。生き残っているんだから、間違いとは言い切れないな」

もっとも、間違ったときには死んでいるわけだが。

そんな意味合いを言外に感じたのか、アーニャとメアリのフォローで少し顔を上げていたシャリアは、再度肩を落とす。

「あぅ……。ねぇ、ナオ。何かアドバイスしてくれないかな? 先輩として」

「先輩として……そう言われると、何か良いことを言ってやりたいところだが……」

俺たちの場合、ある面ではスタート時点で恵まれていたから、偉そうなことも言いづらい。

それでも敢えて言うなら……。

「常に自分を高める努力をすることだろうな」

「えっと、道場に通うとか? 月謝がかなりの負担なんだけど……」

「この町だと、それが一般的なのか? それで強くなれるなら、惜しむべきじゃないとは思うが、そうじゃなくても鍛えることはできるだろ?」

「ミーたちは、毎朝訓練を続けてるの。シャリアたちもすると良いと思うの」

俺たちの場合、訓練をする場所に困ることもあったが、この町の冒険者ギルドには訓練場が併設されていて、冒険者であれば利用することができる。

それに加え、町の規模に比例して、ギルドで読める本だってラファンとは比べものにならない。

少なくともそういった環境面では、俺たちよりも恵まれていると言える。

「例えば今回のように仕事で儲かった場合も、無駄遣いせずに自分に投資するとかな。お前たちは大丈夫だと思うが、金がなくなるまで仕事を休み、昼間っから酒浸りとかは最悪だ」

馬鹿みたいな話だが、そういう冒険者も少なくなかったりするのだから、結構シャレにならない。

元の世界でも、統計調査で貯蓄額がゼロの人がそれなりの割合でいたが、こちらではセーフティーネットがない分、更に刹那的。

ただでさえ不安定な仕事なのに、お金と時間を無駄に浪費するとか、端から生きて引退するつもりがないとしか思えない。

そんな余裕をかますのは、引退しても生活できるぐらいの蓄えを作ってからだろう。

俺たちだって家を手に入れるまでは、必需品以外にはほとんどお金を使わなかったというのに。

「そんな備えをしていても、想定以上の敵が出てくればあっさりと死にかねない。話は戻るが、仕事を選ぶのが一番重要だろうな。良い依頼がなければ、請けないのも選択肢の一つだぞ?」

「でも、生活費はやっぱり必要だし……」

「依頼以外にも稼ぐ方法はあるだろ? 俺たちに関して言えば、猪には助けられたな。食用肉は結構儲かる」

「あー、獣狩りかぁ」

初期に俺たちの装備を調えてくれたタスク・ボアーをお薦めしてみたのだが、シャリアたちは揃って微妙な表情になった。