軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■5.聖女に手料理を出してやった

ヴァルディは魔王城の敷地内にある自宅へシェリネを連れ帰り、魔動式冷蔵庫にあった適当な食材で手際よく料理を作り始めた。

決して台所を覗くなよとシェリネに言い含めておき、炎を自在に操り次々と料理を完成させていく。

「お待たせ。遠慮なく食え」

大人しく居間で待機していたシェリネは、食卓にずらりと並べられた料理を見るや「いただきます!」と喜色満面で頬張り始めた。華奢な見た目に反し旺盛な食欲の持ち主らしく、次々と料理を平らげていく。

「美味しい」「神」「焼き加減が神」「もはや出店できる」「むしろ出資する」「繊細な火加減が神の御業」「見張り番の前職は料理長ですかヴァルディさん」「総じて神」等々、シェリネからの惜しみない賛辞にヴァルディは鼻が高い。

「いやまあこれくらい普通だし。家庭科で5を取った俺には造作もないし。っていうか王国の『聖女様』なら、普段からもっといいものを食ってんじゃねえのか?」

ヴァルディが素朴な疑問を呈すと、シェリネはしょんぼりと眉を下げ、ふるふると首を横に振った。

「いえ、聖女は清貧を体現しないといけないとかで、基本的に質素な食事なんです。主に草です。人間に必要な栄養は満点・味は好意的に評価して零点という、労働のためだけの悲しき草が主食です。味の付いた飲み物ですら、式典など外部の人がいる席でしか出てきません。クソ神官ど……神殿の上層部の方々は別ですけど。信者の皆さんにあんなにたくさん寄付させて、神殿の内装も清貧の真逆えっ嘘このお肉すごく美味しい」

神殿の話をする際、速やかにシェリネの目が死にかけたが、口にした肉料理に一瞬で心を奪われたらしく、あっという間に瞳を輝かせた。

そのことに非常に気分を良くしたヴァルディは、いそいそと肉を切り分けてシェリネの皿に追加する。味変用の別添えソースも掛けてやる。他人の食事を見るのがこんなに楽しいとは知らなかった。

やがて、食卓の皿は全て空になった。

「肉欲に溺れるって、こういうことなんですね……」

口元にソースを付けたまま大変幸せそうに微笑むシェリネ。肉料理のレパートリー増やそう、とヴァルディは密かに誓った。

「おいシェリネ。食後のお茶飲むか?」

「えっ、おもてなしの神……?」

ヴァルディは薬草茶を蒸らしている間に、シェリネに色々と聞き出すことにした。自分が思い描いていた「聖女様」と、あまりにも違う彼女をもっと知るために。

「なあシェリネ、聖女にはすごい力があるってのは本当なのか?」

「はい。癒やしの力があるのは本当です。神殿が癒やしの許可を出すのは寄付をした信者のみなので、誰でも隔てなく癒やせるわけではないのですが……」

「ふーん。お前がお前の力を使うのに、いちいち神殿の許可がいるのか?」

「はい。神殿が定めた聖歌を歌うことで、聖女の力を行使できることになっていて。でも本当は聖歌じゃなくても、心を込めて歌えばどんな歌でも力を宿せます」

「ふーん。聖女って生まれた時から聖女なのか? どうやって決めるんだ?」

「えーと……」

ヴァルディが次々と投げかける質問に、シェリネは素直に答えていった。

シェリネは身寄りのない子どもだったこと。

聖女の適性があったので神殿に引き取られたこと。

修行を積んで聖女になったこと。

聖女は神殿から自由に出られないこと。

歌で癒しの奇跡は起こせても、神の声を聞く力などないこと。

神殿が聖女に求める最も重要な役割は、傷ついた人々を癒やすことではなく、神殿の「看板」であること。

ヴァルディは彼女の話を聞くうちに、フロギア王国の名声輝かしき「聖女様」とは、信仰と金銭を集める道具としてゴリゴリに搾取される存在だったことを理解した。

それでもシェリネは「聖女であること」を大切に思っているらしいのが、ヴァルディにはよく分からないのだけれど、彼女が大切に思っていることは大切にしたいと思ったし、ちゃんと約束通りお風呂に入れてあげようとも思ったし、なぜ自分が彼女に対しそう思うのかは、やはりよく分からなかった。

「ん。お茶できた。熱いから気を付けろよ」

「はい! あちゅっ」

「熱いっつっただろうが」

「す、すみません。食後にお茶が出る現実に興奮してしまって」

ちびちびとカップに口を付け「お洒落な香りするー……美味しいー……」と瞑目するシェリネ。薬草茶のレパートリー増やそう、とヴァルディは密かに誓った。

「ふう。ごちそうさまでした!」

食後のお茶もしっかり飲み干したシェリネは、ヴァルディに深々と頭を下げた。

「満腹になったか?」

「はい! お味も量も最高でした!」

シェリネに至福の表情で賛美を返され、ヴァルディは満足した気持ちになる。

が、満腹の余韻で恍惚としていたシェリネは、ふいに「……あれ?」と我に返った様子になり、キョロキョロと辺りを見回し始めた。

泣かせる宣言付きで捕虜にされたはずの自分が、なぜか調度品の揃った居心地のいい部屋に通されている(豪華食事付き)という謎を、今更ながら認識したようだ。