作品タイトル不明
10話
アップルパイを新商品として店頭に置いてから 一月(ひとつき) が経ちました。
今では毎日の様に、売り切れの日が続いています。
ご主人も労働時間を延長しながら、数を増やして焼いてくださっていますが、全く追いつかない状況です。
嬉しい悲鳴ではありますが、女将さんの側に居る時間が削られてしまうのは、少しお辛いことかもしれません。
しかしそう思いながらも、この盛況振りを誰よりも喜んでいるのは女将さん自身だというのですから、それはそれで良しとしましょう。
女将さんが出産してから、 二月(ふたつき) が経ちました。
そろそろ体調も戻り、お店の方へも少しずつ出られる様になって来ました。
私は最初の約束通り、他の仕事を探そうと、女将さんが顔を出した時にそのことを告げました。ですが、女将さんはご主人とも相談してくださっていたようで、このまま私にお店を手伝って欲しいと仰ってくださいました。
アップルパイのおかげで人を雇う余裕もできたし、今の忙しさでは、とてもご主人と二人だけでは無理だと言われました。
今は出来るだけ子供達の側に居てあげたいので、お店のピーク時だけ女将さんが顔を出せればいい、と言ってくださったのです。
私はそれが本心からのものであると感じたので、お言葉に甘えて、お店に留まる事にしたのでした。
私の生活は、朝起きてから仕事へ行き、夕方にはお買い物をして、別宅に戻り、休みの日には初めてこちらに来た時に入った食堂へ顔を出す、という繰り返しの毎日になっていました。
それは私にとって、最高に充実した日々に感じられたのです。
なぜなら、大好きなお料理の研究がお店の新商品の手助けとなったり、大勢の方々から感謝の言葉をいただいたりと、すべてにやりがいを感じられたのですから。
そして、今までこれほど私のことを必要としてくださる方がいたでしょうか? 私はとにかく、それが一番嬉しく思えました。
こうして私はそんな毎日を送りながら、気づけばこちらにお世話になって半年が過ぎていました。
今ではこのお店は、領地でもかなりの有名店になっていたのです。