軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4話 もう頑張らない

何かあったんだな、とは思ったけど、私には関係無い、と素通りした。だけど丁度、玄関ホールに着いたところで、焦った様子のお義母様に見つかり声をかけられた。

「リネット! さっさとこっちに来て手伝いなさい!」

「……は?」

今日、家を追い出す娘に向かって、手伝えとは何事だろう。私はこの家と無関係になるんだし、関わらせないで欲しい。

「早くしなさい、このノロマ!」

ふざけんなよ、こいつ。とは思ったけど、反抗するのもしんどい。

「何をすればいいんですか?」

「お客様が来るから、その準備よ!」

「具体的には?」

「何をしたらいいか分からないから、手伝えって言ってるんでしょ!」

「屋敷の清掃に応接室や庭園のセッティング、お茶や茶菓子の準備、後は侍女や執事の配置とかがありますけど、どれですか?」

「全部よ!」

手伝うの定義とは? 全部したら、それは手伝いではなく、丸投げでは?

「嘘でしょ? 全て私に任せるんですか?」

「いいからやりなさい!」

「はいはい」

最近、家のことを私に任せっきりだったから、こうして困ることになるんですよ。

「ああ、どうしましょう。失敗は許されないわ!」

「……お義母様、そんなに大切なお客様なのでしたら、身なりも整えるのが普通だと思いますが」

余程焦っているのか、お義母様の格好は寝間着そのものだった。

「ああ、そうだわ! 急いでウルにも支度させないと! もっと早く言いなさいよ! 気が利かない子ね!」

頭、いかれてますね? 忠告しなきゃ良かった。

走って部屋に戻るお義母様。

あんなにお義母様が慌てるなんて、珍しい。それだけ大切なお客様なのね。

「リ、リネット様、我々はどうすれば」

「すぐに屋敷の埃一つ残さないよう、隅々まで清掃をして。お茶とお菓子は何が出せる? 必要なら、急いで買い出しに行かせて。庭園には庭師をやってお手入れと一番綺麗に咲いた花を持ってこさせて、応接室に飾るように伝えて。お茶を出す侍女は、この屋敷で一番腕の良いルマンネを、後の配置も決めるから、今日いるメイドを記した紙を持って来て」

「は、はい! かしこまりました!」

隣で困惑していた執事に向かい、指示を出す。

本当は来訪する人の好みとかに合わせて準備したりするんだけど、あちらも急に来るみたいだし、こんなものでしょ。そもそも誰が来るか教えてもらってないし、知らない。

「はぁ、これが最後の仕事か」

仕方が無いと諦め、私はメルランディア子爵家での最後の仕事をこなした。

◇◇◇

「はい、お終い!」

超特急で必要な指示を出し終え、終了! 後は適当に出来るでしょ。ってか、これ以上家を出るのが遅れたら、向こうに着くのが遅くなってしまう。

何で私が貴女達のために自分の時間を犠牲にしなきゃいけないのよ。まだ慌ただしく屋敷の中は動いているけど、形にはなったし、後は好きにしなさい。てか、これは本来、メルランディア子爵夫人であるお義母様の仕事だし、手伝うなら本当の娘だっていうウルにさせればいい。

あれ以降、一歩も部屋から出ないで自分達を着飾ることだけに時間をかけてるし、ほんと、イカれてる。

「さて、今度こそ行こう」

お見送りが無いのは想定したことなので、気にもならない。最後に長年住んだメルランディア子爵家を見渡すと、扉を開け、外に出た。

「お待たせしました」

「……わぁ! はい! すみません、寝てました!」

私の荷物を載せた馬車はもう到着していて、御者に声を掛けると、うたた寝をしていたのか、慌てたように起き上がった。

こちらが長い時間待たせてしまったんだから、気にしなくていいのに。

「大丈夫ですよ、出発して下さい」

声を掛けて馬車に乗り込む。

こんな風に追い出される覚えも、婚約者を奪われる覚えも無い。私は何も悪いことはしていない。なのに、妹に全て奪われたことが、悔しかった。

「ずっと……頑張ってきたんだけどな」

一人で何もしていないと、どうしても涙が出て来てしまう。

ここから長い時間、馬車に揺られることになるんだから、参考書の一つくらい持っておけば良かった。そうしたら、気が紛れたのに。

修道院では、誰の邪魔にもならないよう、息を殺して暮らそう。

勉強も許されないなら、全て捨てなくちゃ。どれだけ頑張っても、どうせ誰も私を見てくれない、信じてくれない、好きになってくれない。

もうクリフ様のために頑張る必要はないんだから――――

車輪が音を立てて動き出し、振動が体に伝わる。だけど、すぐにまた振動が止まり、馬車は停止した。

「? 何? どうかしたの?」

「すみません、リネット様。どうやらお客様が来たようで」

ああ、お義母様が言っていた大切なお客様の到着と被ってしまったのね。

「じゃあ、そのお客様がいなくなってからの出発でも大丈夫よ」

「はい、分かりました! ありがとうございます!」

結局、最後までお客様が誰かは分からなかった。今、外を見て馬車を見れば分かるかもしれないけど、自分には関係無いと思えば、興味も湧かなかった。このまま、お客様の正体も分からないまま立ち去る気でいたのに、いくら待っても馬車は動かなかった。